本記事ではシステマティックレビューの論文をもとに、脳卒中後の歩行障害に対する短下肢装具の大局的な効果について記載しています。

最初に本記事のまとめです。

● 短下肢装具は下腿〜足部にかけて装着し麻痺側の足関節を制動する
● 短下肢装具によってステップ長・ストライド長は大きくなるものの、歩行速度・歩行自立度・TUG成績などを改善させるとは言えない
● 何を目的に短下肢装具を作製するのか明確にし、患者さんに伝えたい

短下肢装具とは

短下肢装具とは、下腿〜足部にかけて装着する下肢装具で、足関節の動きを制限することで歩行を手伝うものです。

おそらく回復期リハビリテーション病院に勤務されている理学療法士の方は作製に携わったことがあるのではないでしょうか。

シューホン型、スパイラル型、ゲイトソリューションデザインなど様々な種類があります。

本記事では「短下肢装具」全体の効果について検証・執筆します。

短下肢装具の歩行障害への効果

歩行障害を構成する要素はいくつもありますが、本記事では「歩行速度」「歩容」「自立度」について記載します。

短下肢装具の歩行速度への影響

歩行速度への効果については意見が割れています。

Tyson SFら(2013)のシステマティックレビューでは、短下肢装具は治療をしない場合・通常通りのケアをする場合と比べると歩行速度を向上させるという報告をしています。

一方、2020年に出版されたShahabi Sらのシステマティックレビューでは、歩行速度を向上させるとは言えない、としています。

意見が割れたのは、各システマティックレビューで取り込まれた研究の違いがあるためです。

Tyson SFら(2013)のシステマティックレビューは1970年〜2004年に公表された13件の研究データをもとにしています。

Shahabi Sら(2020)のシステマティックレビューは2011年〜2018年に公表された14件の研究データをもとにしています。

システマティックレビューはランダム化比較試験などの研究論文を体系的・網羅的に集めて、そこから特定の方法(今回で言えば短下肢装具の装具療法)の効果などを推察します。

つまり、もとになるデータが異なれば、導き出される解釈も異なります。

個人的には、検索式や英語バイアス・出版バイアスの観点から、Shahabi Sら(2020)のシステマティックレビューの結果を基本的に信用した方が良いと思っています。

したがって、本記事における短下肢装具の歩行速度への影響は「あるとは言えない」としておきます。

なお、Timed Up and Go test(以下、TUG)の成績はTyson SFら(2013)、Shahabi Sら(2020)の報告ともに効果があるとは言えない、と報告されています。

TUGは椅子から立つ、まっすぐ歩く、方向転換する、まっすぐ歩く、椅子に座る、という動作から構成されている複合動作の速度を測定する検査です。

短い距離の検査ではありますが、複合動作の速度を向上させるとは言えない結果になっています。

短下肢装具のステップ長・ストライド長への影響

歩容についてはステップ長やストライド長、左右非対称などを用いて評価されることが多いです。

Tyson SFら(2013)のシステマティックレビューでは、短下肢装具は治療をしない場合・通常通りのケアをする場合と比べるとステップ長やストライド長を向上させるという報告をしています。

いわゆる正常歩行に近づくためには非麻痺側と同じくらい麻痺側を大きく前に出せたほうがよいでしょうから、この点についてはポジティブに捉えられるかと思います。

短下肢装具の歩行自立度への影響

最後に歩行の自立度です。

Tyson SFら(2013)のシステマティックレビューでは、短下肢装具は治療をしない場合・通常通りのケアをする場合と比べると歩行の自立度(Functional Ambulation Categoriesの成績)を向上させるとは言えないという報告をしています。

歩行の自立度に影響する要因は多岐に渡るので、短下肢装具を装着するだけでは難しいのでしょう。

まとめると、次の通りになります。

①短下肢装具は何もしない場合や通常のケアなどと比べて、歩行速度を向上させるとは言えない
②短下肢装具は何もしない場合や通常のケアなどと比べて、ステップ長やストライド長を向上させる
③短下肢装具は何もしない場合や通常のケアなどと比べて、歩行の自立度を向上させるとは言えない

何を目的に短下肢装具を作成、装着するか?

私が回復期リハビリテーション病院で働いていた時は、退院する患者さんには基本的に短下肢装具の作製を行なっていました。

でも、振り返ってみると短下肢装具の効果や短下肢装具によって何を改善させたいのかという点についてよく考えられていなかったと反省しています。

そして、患者さんからは「装具はつけたくない」と言われることも多かったなと思います。

患者さんからすると、装具ありの歩きに慣れてしまうと、装具なしでは歩けなくなってしまうのではないかという不安があるのでしょう。

そう考えると、患者さんの不安を解き、何を目的に装具を作製するのか、という点を明確にし、作製するか否かの意思決定を進めた方が良さそうです。

まとめが重複しますが、「短下肢装具全体の歩行障害への効果」として大局的に見るとステップ長やストライド長にはよい影響を与えそうですが歩行速度や歩行自立度には影響を与えなさそうです。

ただし短下肢装具には様々な種類があり、また患者さんの歩行障害も多岐に渡るため、ひとりひとり短下肢装具を装着する前後で何がどれくらい改善するのかという評価を行い、「○○を目的に、短下肢装具を作製した方がいいですよ」とお伝えできるようになれるとよいのではないでしょうか。

参考文献

  1. Tyson SF, Kent RM. Effects of an ankle-foot orthosis on balance and walking
    after stroke: a systematic review and pooled meta-analysis. Arch Phys Med
    Rehabil. 2013 Jul;94(7):1377-85.
  2. Shahabi S, Shabaninejad H, Kamali M, Jalali M, Ahmadi Teymourlouy A. The effects of ankle-foot orthoses on walking speed in patients with stroke: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Clin Rehabil. 2020 Feb;34(2):145-159.