この記事では脳卒中患者さんへのホームエクササイズについて概要を掴んでいただくことを目的に、2本のシステマティックレビューの情報をまとめました。

ホームエクササイズは何を改善させるのか?上肢機能を改善させるためにはどのようなホームエクササイズを指導すべきなのか?現状のシステマティックレビューから言える、著者の結論を出しています。

脳卒中患者に対するホームエクササイズのシステマティックレビュー①

Vloothuis JDら(2016)は、脳卒中患者に対し介護者が対象者へ行う “介護者介在運動 (Caregiver Mediated Exercise: CME)” が日常生活動作(Activity of Daily Living: ADL)や手段的日常生活動作(Instrumental Activities of Daily Living: IADL)、介護負担感、その他運動パフォーマンスなどに与える影響を調べました。

介護者介在運動とは、その名の通り介護者が患者さんに行う運動です。セラピストから介護者へ教育を行い、介護者が自宅や病室で患者さんと一緒に運動を行います。

このシステマティックレビューでは9件の研究が取り込まれ、本記事で取り扱うアウトカムにおけるメタ解析に取り込まれたのは5件の研究でした。

5件の研究の特徴は下記の通りです。

【対象者】
病期: 亜急性期から慢性期
【介入群】
方法: 自宅でのCI療法(2件)、療法士が個別に作成したホームエクササイズ(2件)、FAMEプログラム(1件)
時間: 35分〜2時間
頻度: 週2〜7回
期間: 4〜12週間
【対照群】
方法: 外来リハビリ(4件)、日常生活の維持(1件)

結果は次の通りでした。

①ホームエクササイズの方が有益なアウトカム
 バランス(Berg Balance Scale: BBS)
 Stroke Impact Sale (以下、SIS)の移動項目
 SISの主観的な脳卒中からの回復項目 など
②ホームエクササイズと外来リハビリ or 通常ケアでおよそ同等の効果を示したアウトカム
 日常生活動作(ADL)
 歩行能力(歩行速度や持久性)
 上肢・下肢の運動機能 など

つまり、ホームエクササイズ(自主トレーニング)は外来リハビリ or 通常ケア(日常生活の維持など)とおよそ同等以上の効果があるということが言えます。

脳卒中患者さんに対するホームエクササイズのシステマティックレビュー②

Coupar Fら(2012)は脳卒中患者に対する上肢機能回復を目的とした
ホームエクササイズが、ADLやIADL、上肢の運動パフォーマンス、上肢の運動機能などに与える影響を調べました。

※ここでの上肢運動パフォーマンスというのは、Action Research Arm Test (ARAT)やBox and Block Test (BBT)などで評価される上肢の複合的な運動、上肢運動機能というのは、Fugl-Meyer Assessment (FMA)などで評価される上肢の各関節の単純な運動を指します。

取り込まれた研究は合計4件で、その研究の特徴は下記の通りです。

【対象者】
病期:回復期2件、慢性期2件
年齢;65〜70歳
介入前FMAUE:36.4〜49.4点
【介入】
方法:筋力、バランス、持久力を改善し、影響を受けた四肢の使用を促進するように設計された運動プログラム(2件)、バーチャルリアリティ (2件)
時間:1時間〜1.5時間
頻度:週5〜7回(記載されていないものもある)
期間:4週間〜14週間

なお、メタ解析に取り込まれた研究は3件でしたが、3件のうち2件が理学療法士・作業療法士が指導するホームエクササイズ(介入群)と医師による通常ケア(対照群)を比較しています。

結果として、ADL、IADL、上肢の運動パフォーマンスなどは、ホームエクササイズと通常ケアとでおよそ同等の効果であると結論付けています。

脳卒中患者に対するホームエクササイズのシステマティックレビューまとめ

以上の研究から2つのことがわかります。

①上肢運動パフォーマンスやADLに対してのホームエクササイズは通常ケアなどと比べて有益ではない(言い換えればリハビリをしていない場合に比べて際立った効果を得られない)
②家族などに手伝ってもらうホームエクササイズは外来リハビリなどとおよそ同等以上の効果がある

ADLや上肢運動パフォーマンスについて相反する結果になっている理由は、単純に各研究で取り込まれたランダム化比較試験が違うためだと思われます。

システマティックレビューからはこのような情報を得ることができますが、エビデンスを臨床応用するためにはランダム化比較試験などの研究を読むことも大事です!

別の記事でランダム化比較試験の紹介もしていますので、是非ご覧ください!

参考文献

1) Coupar F, Pollock A, Legg LA, Sackley C, van Vliet P. Home-based therapy programmes for upper limb functional recovery following stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2012 May 16;(5):CD006755.

2) Vloothuis JD, Mulder M, Veerbeek JM, Konijnenbelt M, Visser-Meily JM, Ket JC, Kwakkel G, van Wegen EE. Caregiver-mediated exercises for improving outcomes after stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2016 Dec 21;12:CD011058.