記事では、脳卒中患者さんの歩行障害に対するエルゴメーターについて、システマティックレビュー論文をもとに大局的に見た時の効果を検証します。
最初に本記事のまとめです。
- エルゴメーターは歩行が自立していない患者さんも利用できる
- エルゴメーターは歩行能力の向上に貢献する
- 歩行障害へのリハビリの選択肢として提案したい
エルゴメーターは幅広く利用できる
エルゴメーターはペダルを漕ぐことによって身体能力の維持・向上をはかる器具です。
歩行練習と同じく有酸素運動を行える一方、座位でも実施できるというのが大きな特徴です。
そのため、歩行が自立していない患者さんであっても使用することができます。
また、最近はグリップを握っていれば脈拍を知らせてくれる機器もあり、リスク管理・運動強度の管理を行う上でも有用です。
有酸素運動は運動強度によって期待できる効果が変わってきます。
※基本的に脳卒中後の歩行障害の改善を目指すなら低強度よりも高強度が望ましいという記事
脳卒中後の歩行障害に対する高強度トレーニングの効果#1【選べるなら低強度<高強度】
臨床で経験がある方もいらっしゃると思いますが(筆者もです)、歩いていたけど脈拍を測定してみたら目標心拍数に到達していなかったということがあります。
平地歩行や手すりを掴まないトレッドミルトレーニングでは、歩きながら脈拍を測定するのは難しいですよね。
エルゴメーターであればグリップを握っていれば機器が脈拍を測定してくれたり、あるいはセラピストも実測しやすいので、歩行練習と比べると運動強度の管理を行いやすいのではないかと思います。
エルゴメーターは歩行能力の向上に貢献する
Veldema Jら(2020)のシステマティックレビューによると、脳卒中患者さんの歩行障害に対するエルゴメーターは、何もしない場合と比べると歩行能力(歩行速度、6分間歩行試験、Timed up and go test、左右非対称性の成績)の向上に有益であることが報告されています。
【vs 何もしない/歩行能力(Six Minute Walk Test, Timed Up&Go, Ten Meter Walk Test, gait speed, gait symmetry)】
Veldema J, 2020
Cohen’s d=0.94; 95% CI 0.31 to 1.57
何もしない場合と比べているので、エルゴメーター自体が歩行能力を向上させる効果があると考えられます。
また、バランス能力の向上に有益であることも報告されています。
【vs 何もしない/バランス能力と姿勢制御(Postural Assessment Scale for Stroke Patients, Berg Balance Scale)】
Veldema J, 2020
Cohen’s d=1.16; 95% CI 0.35 to 1.97
注意点
このシステマティックレビューでは取り込まれた研究が「前向き研究」とされており、様々な研究が取り込まれています。また、上記のメタアナリシスの結果も異質性が高いです。
歩行障害へのリハビリの選択肢として提案したい
歩行障害へのリハビリ方法として第一選択になるのはやはり「歩行練習」だと思います。
最近は平地歩行練習(機器などを使わず床の上を歩く)だけでなくトレッドミルトレーニング、免荷式トレッドミルトレーニング、ロボットアシスト歩行練習など様々な選択肢が生まれています。
実生活で歩行の獲得、歩行能力の向上を目指すためにはやはり歩行練習は欠かせないと思いますが、選択肢のひとつとしてエルゴメーターを提案しても良いのではないかと思います。
なお、エルゴメーターはスポーツショップやネットショップで安価で購入することができますが、個人的にはサドルの座面が大きめのリハビリ用エルゴメーターを推奨したいです。
上述の通り歩行が自立していない患者さんにも利用していただくことを考えた場合、スポーツ用の座面が小さい機器よりもリハビリ用の座面が大きい機器の方が患者さんもセラピストも安心できるのではないでしょうか。
いずれにせよ、歩行能力の向上に貢献してくれるエルゴメーターなので、有効に使いたいですね!
参考文献
Veldema J, Jansen P. Ergometer Training in Stroke Rehabilitation: Systematic Review and Meta-analysis. Arch Phys Med Rehabil. 2020 Apr;101(4):674-689.