課題指向型訓練は上肢・手だけではなく、下肢・歩行のリハビリテーションとしても有用です!

下肢・歩行への課題指向型訓練も、上肢・手への課題指向型訓練と同様に、【課題指向型訓練のみ】と【課題指向型訓練+α】に分かれます。

この記事では、脳卒中患者に対する下肢の課題指向型訓練が下肢・歩行へ及ぼす影響について4件の研究を紹介し、最後に現時点での効果について結論を述べたいと思います。

下肢・歩行の課題指向型訓練+αの効果は、次の記事で紹介します。

急性期の脳卒中患者に対する下肢の課題指向型訓練のエビデンス

de Sousa DGら(2019)は発症から 18 (10〜34) 日、年齢69 (16)歳の脳卒中患者に対する課題指向型訓練の効果を報告しました。

この研究の取り込み基準は、立ち上がることができない人、とされていました。

課題指向型訓練の内容は下記の通りです。

①筋力、持久力、バランス、協調のエクササイズ
②座る、座る、立つ、立つ、歩くという課題指向型訓練

課題指向型訓練は60分、1日2回、週5回、2週間行われました。

結果として、立ち上がり動作能力、下肢の伸展筋力などが向上しました。

急性期なのでアウトカムが改善するのは当たり前でして、この研究の論点はもう一群の課題指向型訓練+Sit to Stand訓練と比べてどちらが有益かという点でした。

そちらについては、課題指向型訓練+Sit to Stand訓練の方が立ち上がり動作における臨床家の印象、下肢伸展筋力が統計的に有意に大きく変化していました。

回復期の脳卒中患者に対する下肢の課題指向型訓練のエビデンス

Knox Mら(2018)は発症から10 (8) 週、年齢51 (15) 歳の回復期の脳卒中患者に対する課題指向型訓練の効果を検証しました。

課題指向型訓練を行なう前の歩行速度は0.44 (0.28)m/秒、Berg Balance Scale(以下、BBS)は40.0 (11.8)点、Timed up and go test(以下、TUG)は33.9 (31.1)秒でした。

Berg Balance Scale: BBS
バランス能力を14項目の課題を通して評価します。それぞれの項目について0〜4の5段階で評価し、0点〜56点で点数を付けます。56点が満点(最も状態が良い)です。

Timed up and go test: TUG
椅子に座った状態から立ち上がり、3m歩いてから方向転換し、また椅子に座るという動作に掛かる時間を測定し、歩行能力、バランス能力、転倒のリスクなどを評価する検査です。

課題指向型訓練は下記の点に焦点を当て、行われました。

①筋力を強化する
②バランスを強化する
③立位の課題パフォーマンスを改善させる
④歩行の課題パフォーマンスを改善させる
⑤歩行持久力を向上させる

なお、この研究での課題指向型訓練はホームエクササイズとして行われたため、セラピストが介護者が再現できるよう指導し、実際は介護者が被験者を指導しています。

結果として、6分間歩行試験、快適歩行速度、最速歩行速度、バランス(BBS、TUG)の全てのアウトカムで向上を示しました。

この研究では課題指向型訓練グループ以外に2つグループ(筋力増強運動グループ、患者教育グループ)が設定されているのですが、それらのグループもそれぞれ介入の前後で向上を示していました。

回復期なので当たり前と言えば当たり前です。

論点は課題指向型訓練が他のグループよりも大きい向上を示したか否かなのですが、課題指向型訓練は他の2グループと比べて、全てのアウトカムで大きな変化を示していました。

すなわち、回復期の脳卒中患者へホームエクササイズを通して6分間歩行試験、快適歩行速度、最速歩行速度、バランス(BBS、TUG)といったアウトカムを向上させたいのであれば、筋力増強運動を指導したり患者教育を行なうより、課題指向型訓練を指導した方が良い結果に繋がることが想像できます。

慢性期の脳卒中患者に対する下肢の課題指向型訓練のエビデンス

Cha HGら(2016)は、発症から16.40 (2.31)ヶ月、年齢58.60 (4.08) 歳の慢性期の脳卒中患者に対する課題指向型訓練の効果を報告しました。

課題指向型訓練を行なう前のBBSは32.60 (2.72)点、TUGは26.30 (2.96)秒でした。

課題指向型訓練は下記の要素を含んでいました。

①さまざまな方向へのステップ
② 障害物のステップ
③ 前後のウォーキング
④前腕治療ボールの到達
⑤影響を受けた脚の体重負荷トレーニング
⑥両脚姿勢での運動
⑦タンデムパターンでの歩行トレーニング
⑧座位から立位の課題

課題指向型訓練は30分、1日2回、週5回、4週間行われました。

結果として、バランス(BBS、TUG、Balance index、Dynamic limits of stability)が向上しました。

BBSはMCIDを、TUGはMDCを超えるほどの変化を示しています。

また、この研究では課題指向型訓練グループ以外に、課題指向型訓練+鏡を用いたフィードバックを行なうグループがありました。

そちらのグループも介入の前後で大幅な変化を示しており、群間の比較では、課題指向型訓練+鏡を用いたフィードバック群の方がそれぞれのアウトカムで大きな変化を示したことが報告されました。

Wang RYら(2012)は、発症から2.00 ± 1.23 (0.80-4.50) 年、年齢62.98 ± 10.88 (40.80-80.80) 歳の慢性期の脳卒中患者に対する課題指向型訓練の効果を報告しました。

この研究では、介入群にrTMS+課題指向型訓練、対照群に偽rTMS+課題指向型訓練が設定されています。

この記事では、対照群のデータを参考に、課題指向型訓練の効果を推測します。

対照群の課題指向型訓練を行なう前のFMALEは18.17 (6.52)点、歩行速度は0.59m/秒でした。

課題指向型訓練は下記のように行われました。

①偽rTMS 10分
②課題指向型訓練 30分

下記の6つの用意された課題(workstation)の中で難易度調整
1)リーチ動作
2) 立ち上がり動作
3) 段差昇降
4) かかと上げ・下げ
5) TUG課題
6) 対称的な歩容を目指す歩行練習

上記のプログラムは合計40分、週5回、2週間(平日10日連続)行われました。

結果として、下肢の運動機能(FMALE)は3点ほど向上しましたが、この研究ではグループ内の介入前後の統計的な解析がなされていません。

歩行速度、ケイデンス、ステップ長、左右対称性などのアウトカムもとっていますが、それぞれ微量の変化であり、統計解析もないので、変化したと言い難いです。

ただ、群間の比較は統計解析を用いて行われており、この研究で介入群に設定されたrTMS+課題指向型訓練グループは、偽rTMS+課題指向型訓練よりもそれぞれのアウトカムにおいて有益であることが示唆されています。

脳卒中患者に対する下肢の課題指向型訓練のエビデンスまとめ

以上の結果をまとめます。

①発症から 18 (10〜34) 日、年齢69 (16)歳、立ち上がることができない急性期の脳卒中患者に対する課題指向型訓練(60分、1日2回、週5回、2週間)は、立ち上がり動作能力、下肢の伸展筋力などの向上に寄与するが、Sit to Stand訓練を加えた場合の方が大きく変化する(de Sousa DG, 2019)

②発症から10 (8) 週、年齢51 (15) 歳、歩行速度 0.44 (0.28)m/秒、BBS 40.0 (11.8)点、TUG 33.9 (31.1)秒の回復期の脳卒中患者に対する課題指向型訓練は6分間歩行試験、快適歩行速度、最速歩行速度、バランス(BBS、TUG)の向上に寄与する。また、筋力増強運動や患者教育を行なう場合と比べると大きな変化をもたらす(Knox M, 2018)

③発症から16.40 (2.31)ヶ月、年齢58.60 (4.08) 歳、BBS 32.60 (2.72)点、TUG 26.30 (2.96)秒の慢性期の脳卒中患者に対する課題指向型訓練は、バランス(BBS、TUG、Balance index、Dynamic limits of stability)の向上に寄与するが、鏡を併用した場合ほど大きな変化を示さない(Cha HG, 2016)

④発症から2.00 ± 1.23 (0.80-4.50) 年、年齢62.98 ± 10.88 (40.80-80.80) 歳の慢性期の脳卒中患者に対する偽rTMS+課題指向型訓練(合計40分、週5回、2週間)は下肢の運動機能(FMALE)の向上に寄与するが、rTMS+課題指向型訓練と比べると有益であるとは言えない(Wang RY, 2012)

課題指向型訓練の歩行への効果

Knox Mら(2018)の研究は、回復期の人たちが対象になっており自然回復の影響があると思われるので、この考察では除いて考えます。

慢性期の脳卒中患者を対象にし、下肢・歩行の課題指向型訓練が歩行へ与える影響を検討した研究は1件(Wang RY, 2012)でしたが、この研究はグループ内の統計解析がなされておらず、変化の量も微量であることから、効果があるとは言えません。

現時点では、課題指向型訓練のみで歩行の能力が向上するとは言い難い状況です。

課題指向型訓練のバランスへの効果

Knox Mら(2018)の研究は、回復期の人たちが対象になっており自然回復の影響があると思われるので、この考察では除いて考えます。

慢性期の脳卒中患者を対象にし、下肢・歩行の課題指向型訓練がバランス能力へ与える影響を検討した研究は1件(Cha HG, 2016)でした。

彼らの研究では、バランス能力が向上したことを報告しており、現時点では課題指向型訓練はバランス向上へ有益であると言えるでしょう。

課題指向型訓練の下肢の運動機能への効果

de Sousa DGら(2019)の研究は筋力の向上について報告していますが、急性期の人たちが対象になっており自然回復の影響があると思われるので、この考察でも除いて考えます。

慢性期の脳卒中患者を対象にし、下肢・歩行の課題指向型訓練が下肢の運動機能へ与える影響を報告した研究は1件(Wang RY, 2012)でした。

彼らの研究では、3点ではありますがFMALEが向上したことを報告しており、現時点では課題指向型訓練は下肢の運動機能へ有益であると言えるでしょう。

課題指向型訓練 vs 課題指向型訓練+α

この比較では病期による影響が少ないので、今回取り込んだ4件の研究を合わせて考えます。

課題指向型訓練の歩行への効果(vs 課題指向型訓練+α)

対象となる研究は2件(Knox M 2018, Wang RY 2012)ありました。

Knox Mら(2018)の研究はホームエクササイズとしての課題指向型訓練と、ホームエクササイズとしての筋力増強運動、また患者への教育とを比較しています。

この研究では、課題指向型訓練の優位性が報告されました。

一方、Wang RYら(2012)の研究は、偽rTMS+課題指向型訓練と、rTMS+課題指向型訓練とを比較しています。

この研究では、rTMS+課題指向型訓練の優位性が報告されました。

これらのことから、現時点では課題指向型訓練は歩行能力の向上を目指す場合において、筋力増強運動や患者への教育よりは有益であるものの、rTMS+課題指向型訓練と比べると有益であるとは言えません。

課題指向型訓練のバランスへの効果(vs 課題指向型訓練+α)

対象となる研究は2件(Knox M 2018, Cha HG 2016)ありました。

Knox Mら(2018)の研究はホームエクササイズとしての課題指向型訓練と、ホームエクササイズとしての筋力増強運動、また患者への教育とを比較しています。

この研究では、課題指向型訓練の優位性が報告されました。

Cha HGら(2016)の研究は課題指向型訓練と課題指向型訓練+鏡を用いた視覚的フィードバックとを比較しています。

この研究では、課題指向型訓練+鏡を用いたフィードバックの優位性が報告されました。

これらのことから、現時点では課題指向型訓練はバランス能力向上を目指す場合において、筋力増強運動や患者への教育よりは有益であるものの、課題指向型訓練+鏡を用いたフィードバックと比べると有益であるとは言えません。

課題指向型訓練の下肢の運動機能への効果(vs 課題指向型訓練+α)

対象となる研究は2件(de Sousa DG 2019, Wang RY 2012)ありました。

de Sousa DGら(2019)は下肢の伸展筋力について、課題指向型訓練と課題指向型訓練+Sit to Stand訓練とを比較しています。

この研究では、課題指向型訓練+Sit to Stand訓練の方が大きい変化を報告しています。

Wang RYら(2012)の研究は下肢の運動機能(FMALE)について、偽rTMS+課題指向型訓練と、rTMS+課題指向型訓練とを比較しています。

この研究では、rTMS+課題指向型訓練の優位性が報告されました。

これらのことから、下肢の運動機能(筋力、FMALE)の向上を目指す場合において、課題指向型訓練は課題指向型訓練+Sit to Stand訓練やrTMS+課題指向型訓練よりも有益であるとは言えません。

結論

以上より、結論です。

①脳卒中患者への下肢・歩行の課題指向型訓練は、バランスや下肢の運動機能を向上させる可能性がある
②脳卒中患者への下肢・歩行の課題指向型訓練は、筋力増強運動や患者への教育と比べると歩行能力やバランス向上へ寄与する可能性がある
③脳卒中患者への下肢・歩行の課題指向型訓練は、rTMS+課題指向型訓練や課題指向型訓練+Sit to Stand訓練と比べると下肢の運動機能を向上させるとは言えない

ただ、下肢・歩行への課題指向型訓練の研究数は少なく、まだまだ真の効果を推定するには情報が不足しています。

今後の研究により結果が大きく覆る可能性もあるので、注意深く研究を追いかけたいと思います!

参考文献

1) Cha HG, Oh DW. Effects of mirror therapy integrated with task-oriented exercise on the balance function of patients with poststroke hemiparesis: a randomized-controlled pilot trial. Int J Rehabil Res. 2016 Mar;39(1):70-6.
PMID: 26658524

2) de Sousa DG, Harvey LA, Dorsch S, Varettas B, Jamieson S, Murphy A, Giaccari S. Two weeks of intensive sit-to-stand training in addition to usual care improves sit-to-stand ability in people who are unable to stand up independently after stroke: a randomised trial. J Physiother. 2019 Jul;65(3):152-158.
PMID: 31227279

3) Knox M, Stewart A, Richards CL. Six hours of task-oriented training optimizes walking competency post stroke: a randomized controlled trial in the public health-care system of South Africa. Clin Rehabil. 2018 Aug;32(8):1057-1068.
PMID:29529870

4) Wang RY, Tseng HY, Liao KK, Wang CJ, Lai KL, Yang YR. rTMS combined with task-oriented training to improve symmetry of interhemispheric corticomotor excitability and gait performance after stroke: a randomized trial. Neurorehabil Neural Repair. 2012 Mar-Apr;26(3):222-30.
PMID: 21974983