本日のテーマは「脳卒中後に生じる半球間抑制の基本」です。
5月6日(木)、国際医療福祉大学大学院の玉利誠先生に御登壇いただき、「解剖的・機能的コネクティビティから考える脳画像の意義と脳卒中リハビリテーション」というテーマでセミナーを開催します。
キーワードは脳のコネクティビティになるのですが、今回はこちらについて基本的なところを事前に予習する回です。
今回はPart.2になります。
Part.1では脳のコネクティビティの基本的なところを紹介しました。
簡単にまとめると、脳はチームではたらいていて、脳の一部が損傷すると脳全体が変化しますよ、という内容です。
今回は、コネクティビティや機能解離の話でよく挙げられる半球間抑制、半球間不均衡について取りあげます。
ざっくりとした内容を紹介すると、「麻痺側の運動機能は、損傷していない方の大脳半球によって余計に動かなくさせられている可能性があるよ」という話です。
そもそも左右大脳半球はブレーキを掛け合う
脳は左右の大脳半球に分かれます。
右脳、左脳です。
右脳と左脳はバラバラにはたらくわけではなく、協調してチームとしてはたらきます。
いわゆる健常者の場合、左右の大脳半球がお互いにブレーキを掛け合っています。
左脳は右脳を、右脳は左脳を抑えているということです。
これは両側の大脳半球が協調的にはたらくために大事な意味を持ちます。
脳卒中後の半球間抑制について
では、脳卒中になるとこの左右の大脳半球間のブレーキがどうなるか、です。
結論としては、損傷した側の大脳半球から損傷していない大脳半球へのブレーキが効かなくなってしまいます。
すると、損傷していない側の大脳半球から、損傷した側の大脳半球へのブレーキがとても強くなってしまいます。
今まで反対側の大脳半球から抑えられていた力が開放され、強いブレーキをかけてしまう、ということです。
わかりづらいので、右脳卒中の患者さんを例にして説明します。
病前は、左右の大脳半球がお互いにブレーキを掛け合って協調関係を保っていました。
しかし、右の大脳半球に脳梗塞を起こしてしまいました。
そうすると、右脳から左脳へのブレーキが効かなくなってしまいます。
ブレーキから開放された左脳は、持っていたブレーキの力を開放され、より強いブレーキを右脳へかけることになります。
すると、右脳は今まで以上にブレーキをかけられることになってしまい、脳の活動性が低下することになります。
結果として何が起こるかというと、ブレーキが必要以上にかけられてしまうことによって、上肢の運動機能などが必要以上に強くあらわれてしまう、ということが起こり得ます。
半球間抑制の不均衡を改善させる手段として反復経頭蓋磁気刺激(repetitive Transcranial Magnetic Stimulation)を使って大脳半球を直接刺激する方法があります。
特定の脳の領域の活動を抑制したり、反対に促通することができるものです。
これによって、大脳半球の不均衡を解消し、麻痺側の上肢の運動パフォーマンスが改善することを報告している研究もあります。
これらのことから、脳卒中後に生じる半球間抑制の不均衡によって、上肢の運動障害が必要以上に強く表れてしまう可能性が示唆されています。
臨床的にどう判断するか、その注意点
大脳半球の不均衡についてはrTMSなどを用いることによって評価したり改善させたりできますが、rTMSを用意できる病院は少ないですよね。
加えて、セラピストが自由にrTMSを行えるなんてまずないケースだと思います。
そうすると、この半球間抑制の不均衡に対してどのように評価・治療すればいいかという問題が出てきます。
私が新人だった頃は、半球間抑制について無茶苦茶な評価をしてました。
言うのも恥ずかしいレベルですが、「非損傷側の大脳半球活動を抑えたときに損傷側の活動性が上がって、運動障害が改善するなら、非麻痺側をリラクゼーションして姿勢緊張や筋緊張を落としたときに麻痺側が動かしやすくなれば、半球間抑制の影響を受けていると言えるな」などと考えていました。
でも実際の脳活動は見えないですし、非麻痺側のリラクゼーションと麻痺側の運動性向上という2つの事象の間には色々な要因がありますよね。
例えば非麻痺側のリラクゼーションを行うために臥位になったとして、非麻痺側の緊張と同時に麻痺側の緊張も低下して拮抗筋の悪影響が少なくなり、動かしやすくなったとか。
これは半球間不均衡の改善ではなくて筋緊張の改善によるものですよね。
そもそも、非麻痺側の緊張が低下したのかどうかを正しく判断できるのかどうか、というのも怪しい点です。
評価についてはセラピストが臨床レベルで行うこと、つまり「この患者さんは半球間抑制の影響で麻痺側が動かしづらくなっている」と判断することは難しいのではないかと思います。
リハビリ方法については、両手を動かす両側性トレーニング(bilateral arm training:BAT)という方法が、半球間抑制の不均衡を改善させる可能性があることが報告されています。
両側性トレーニングというのは、左右両方の手を使って運動課題を行うリハビリ方法です。
この両側性トレーニングについてはまた別の機会で紹介させていただこうと思います!