さて、いきなりですがみなさんに質問です。
あなたが担当する患者さんの5m歩行速度が、1ヶ月前(仮に3月1日とします)は5秒でした。
そして、1ヶ月後(仮に4月1日とします)の歩行速度は4.9秒でした。
これは改善した(歩行速度が速くなった)と判断しますか?
…ほとんどの人は改善したと判断しないですよね。
“誤差” だと判断すると思います。
では、1ヶ月後(仮に4月1日とします)の歩行速度が3.5秒でした。
これは改善した(歩行速度が速くなった)と判断しますか?
おそらく、ほとんどの人が改善したと判断すると思います。
では、1ヶ月後(仮に4月1日とします)の歩行速度が4.5秒だったらどうでしょうか?
1ヶ月前より0.5秒速くなっています。
これは改善ですか?誤差ですか?
…判断が難しいですよね。
PTさんもOTさんもSTさんも、リハビリをする上では必ず評価をすると思います。
病院なら入院時、1ヶ月後、2ヶ月後、と定期的に評価しますよね。
その結果を見て、何が良くなっているか、あるいは良くなっていないかを判断し、リハビリプログラムを修正すると思います。
つまり、検査結果はリハビリプログラムを組む、あるいは修正する上で大事な判断要素になっています。
患者さんの検査結果を見たとき、改善しているのか、それとも改善していない、つまり誤差の範囲の変化なのかを判断できるというのはとても大事なスキルになります。
今回は誤差の判断のしかたについてお伝えする回です。
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脳卒中の評価で大事な “誤差” の判断のしかた
キーワードは2つあります。
ひとつ目のキーワードは測定標準誤差(Standard Measure of Error: 以下、SEM)です。
これは各検査で標準的に生じる誤差の範囲を示すもので、主要な検査については研究者の先生方が算出してくれています。
ふたつ目のキーワードは最小可検変化量(Minimal Detectable Change: 以下、MDC)です。
MDCは誤差の限界値と言われています。
つまり、MDCの値を超える変化を示したとき、誤差ではない変化が生じた、つまり改善したと判断することができます。
まとめると、各検査で標準的に生じる誤差の範囲がSEM、誤差の限界値がMDCです。
SEMを知っておけば、「普通はこれくらいの誤差が出るんだな」と認識することができて、MDCを知っておけば、「これ以上変化したら誤差ではない変化だと言えるな」と判断することができます。
脳卒中の主要評価の誤差を紹介
それでは脳卒中リハビリにおける主要ないくつかの検査について、SEMとMDCを紹介させていただきます。
歩行速度
歩行速度のSEMですが、亜急性期の脳卒中患者さんで0.04m/sとされています。
つまり、先ほどの5m歩行速度の例でいうと、入院時に5mを5秒で歩いていたとして、1ヶ月後に4.8秒になっていたとしても誤差の範囲と言えます。
MDCについては、ベースラインの歩行速度によって異なるという説があるのですが、元々速い患者さん(>0.08m/s)の場合は0.18m/sとされています。
先ほどの5m歩行速度の例でいうと、入院時に5mを5秒で歩いていたとして、1ヶ月後に4.23秒以下で歩けるようになっていたら、誤差ではない変化、と言えるということです。
6分間歩行試験
6分間歩行試験のSEMですが、慢性期の脳卒中患者さんで12.4〜18.6mまたは4.8%の変化とされています。
MDCですが、亜急性期の脳卒中患者さんでは60.98m、慢性期の脳卒中患者さんでは34.37〜36.6mまたは13%の変化とされています。
このように、研究・報告されていないものもありますが、報告されているものについてはその値を参考にできるのではないでしょうか。
誤差は生じるものと認識しておく
私たちセラピストも、患者さんも人間ですので検査において多少の誤差が出るのは当たり前です。
誤差は出るものと認識しておき、前回の記録と比べるときは前回の数値だけでなくSEMやMDCの値も頭に入れておくと良いと思います。
そうすると、患者さんの検査結果の数値から、本当によくなったと言えるのか、それともよくなったと言えないのか判断することができるようになり、適切なリハビリプログラムを組むことができるようになります。
リハビリにおいてプログラム、治療の質を高めることはもちろん大事なのですが、プログラムや治療の方針が間違っていたら的外れな介入をすることになってしまいます。
そういう意味では評価はリハビリのスタート地点であり、ある意味リハビリプログラムの内容・質よりも重要といえるでしょう。
誤差について理解しておけば、より良いリハビリプログラムを患者さんへ提案することができ、より良い結果に繋がります。