リハビリでは1ヶ月に1回くらいの頻度で、定期的に検査をしますよね。

検索結果をもとに、今のリハビリを続けるかどうか判断したり、チームでカンファレンスしたり、退院に向けた準備をしたりすると思います。

検査結果が明確に良くなっていれば患者さんに説明したり、これからどうするか決めやすいのですが、検査結果上、少ししかよくなっていなかった、ということがありますよね。

少しは良くなっているけど、患者さんとしては良くなっていると感じない。

だから患者さんはリハビリプログラムを変えて欲しいとおっしゃっている。

こういう時、どう解釈・判断しますか?

ありがちなのは、患者さんの意見を聞き、採用し、プログラムを変えるパターンだと思います。

私自身もよくやっていました。

でも、良くなっていると感じていなかったとしても実は良くなっていて、さらによくなる途中だったらどうでしょうか?

リハビリプログラムを継続した方がいいですよね。

でも未来予知でもできない限りその判断は難しいです。

ただ、科学はそういった問題にチャレンジしてきていて、もちろん完全に予測することはできませんが、対応のヒントを与えてくれています。

そのヒントの一つにMCIDというものがあります。

MCIDは、minimal clinically important differenceの略で、日本語だと臨床的に意義のある最小差、とされています。

1989年Jaeschkeらの定義によると、”患者が有益であると認識し、厄介な副作用や過剰なコストがない場合において、患者の管理を変更する必要があると思われる関心領域のスコアにおける最小差” とされています。

初出が1989年で、その後MCID関連のいろいろな最小差が研究、報告されてきました。

その上で、現代におけるMCIDの定義は “対象者、医療者、家族などが改善または悪化したと感じることができる最小差” と理解して良いと思います。

例えば、100点満点の検査があったとします。

0点が悪い状態で、100点が良い状態を示す検査です。

そして、この検査のMCIDが10点だったとします。

この場合、10点よくなれば患者さんが「よくなった」と感じる、10点悪くなれば患者さんが「悪くなった」と感じる可能性が高いことを示しています。

例えば、Aさんにリハビリを行うとして、Aさんのリハビリ開始時点の検査スコアが50点だったとします。

そしてリハビリをした後、60点になっていました。

Aさんは「良くなった」と感じていました。

一方、Bさんはリハビリ開始時がAさんと同様、50点でした。

しかし、リハビリ実施後、Bさんは55点までしか良くなっていませんでした。

この検査のMCIDは10点ですので、良くなったと感じるためには、多くの場合60点以上に変化することが必要です。

Bさんは5点の改善しかなかったため、つまり10点を下回っていたため、「良くなった」と感じることができませんでした。

(ちなみに、MCIDというのはアンカー法で数値が算出されている場合、何をアンカーにしたかで解釈の仕方が変わります。上記はあくまでも一例として捉えていただけますと幸いです)

Aさんの場合は臨床的にも問題が起こらないパターンですね。

検査結果も良くなっているし、患者さんの主観的にも良くなっていると感じる。

ただ、Bさんの場合は臨床的に問題になりうるパターンです。

検査結果は良くなっているのに患者さんの主観的には良くなっていると感じられない。

この時、難しい判断を迫られます。

リハビリプログラムをこのまま継続するか、それとも変えるか、です。

もちろんMCIDだけで全てを決められるわけではありません。

前提としてランダム化比較試験をはじめとする介入研究を正しく読むスキルが必要だったり、SEM(Standard Error of Measurement)やMDC(Minimal Detectable Change)などその他の知識、患者さんやセラピストのバイアスを排除するスキルなども必要になってきます。

ただ、MCIDも大事なひとつの要素であることは間違いありません。

MCIDを知っておくと、Bさんのようなケースの場合、「この検査で良くなっていると感じられるためには10点の改善が必要とされています。Bさんは5点しか良くなっていないのでまだ改善を感じられていないのだと思いますが、良くなっていることは間違い無いですし、これは当初の予定通りの結果です。このまま継続してリハビリを進めていくことをお勧めします」と言った提案ができるようになります。

なお、MCIDは検査ごとに存在しています。

例えば、歩行速度のMCID、6分間歩行試験のMCID、上肢であればAction Research Arm TestのMCID、Fugl-Meyer AssessmentのMCID、などが研究、報告されています。

それぞれの検査についてMCIDを把握しておくことで、より良い臨床判断ができるようになると思います。

今回は【脳卒中後の歩行速度のMCIDについて簡単に解説 Part.1】というテーマでお話しさせていただきました。

シリーズにしていきたいと思います。

次回はMCIDの注意点などを紹介していきたいと思います。

BRAINでは脳卒中EBPプログラムというオンライン学習プログラムを運営しております。

2021年前期はおかげさまで満員御礼となりましたが、後期は10月から開始、募集は7月〜8月ごろから開始する予定です。

ご興味がある方はよかったらホームページを覗いてみてください。

それでは今日もリハビリ頑張っていきましょう!