上肢の運動障害に対するリハビリとして、どのようなものがあるかご存知でしょうか。

例を挙げると、課題指向型訓練、CI療法、ミラーセラピー、メンタルプラクティス、運動観察療法、筋力トレーニング、電気刺激、などがあります。

課題指向型訓練やCI療法は手で物品を操作するリハビリ、メンタルプラクティスや運動観察療法、ミラーセラピーは麻痺手を動かさず錯覚を使うリハビリ、筋力トレーニングや電気刺激はターゲットの筋肉を収縮させるリハビリです。

いずれも全てシステマティックレビューで、そしてメタアナリシスを通して有効性が報告されています。

エビデンスピラミッドでは、最高峰に位置するのがシステマティックレビューです。

また、上記のリハビリのほとんどがコクランレビューという情報の信頼性が高いシステマティックレビューで有効性が報告されています。

物品を操作するリハビリもあれば特定の筋肉のみを働かせるリハビリもあり、さらには身体を動かさないリハビリすら有効であると報告されているわけですが、こうなるとどれを行うべきなのか悩みませんか?

これは私見ですが、患者さんの運動障害の原因や病態に合わせて、リハビリを選択するべきだと思います。

今回はそんなテーマでお送りします。

脳卒中リハビリにおけるEvidence Based Practiceの落とし穴

世界的にEvidence Based Practice(以下、EBP)、Evidence Based Medicine(以下、EBM)の重要性が謳われています。

およそ30年前にCAST STUDYをはじめとし、今まで正しいと思われていた医療が実は患者さんに害になっていた、ということが明らかになったことが契機になっています。

理論的・経験的に正しい医療を行うのではなく、効果があるという証拠(エビエンス)に基づいて医療を提供しよう、という世の中の流れからEBPやEBMが生まれました。

脳卒中患者さんの上肢の運動障害を例にすると、運動障害に対して有効であるというエビデンスがあるリハビリを実施する、ということです。

ですが、運動障害に対して有効なリハビリというのは上述の通り、色々あります。

そしてタイプも違います。

ですが、いずれも有効であるというエビデンスがあります。

最近はShared Decision Making(以下、SDM)という意思決定の仕方もよく話題になります。

SDMの中で、治療の選択肢を並べて患者さんに提示するフェーズがあります。

このとき、表面的なEBPやEBMしかできていないと運動障害の患者さんに対して課題指向型訓練もメンタルプラクティスも電気刺激も同様に提示することになります。

例えば、「腕や手の麻痺に対しては課題指向型訓練、メンタルプラクティス、電気刺激、が有効とされています。…(各種リハビリを説明した後に)○○さんはどのリハビリをやっていきたいですか?」という具合です。

これでも一応EBPやEBMとして成り立ってはいます。

実際、臨床現場ではこういう意思決定を患者さんと進められていることもあります。

ただ、このやりとりの中には病態の話が含まれていないですよね。

上肢の運動障害にはいろいろな原因がある

近年、神経科学が発展してきているおかげで、なぜ運動障害が起こるのか、なぜ手足の動かしにくさが生じるのか、という原因の一部が明らかになってきています。

代表的なのは皮質脊髄路損傷、あるいは半球間抑制などによる皮質脊髄興奮性の低下、運動プログラムの問題、筋シナジーや共収縮の問題、学習性不使用が挙げられます。

本来、原因が異なれば対策も異なります。

例えば、車が動かなくなったとします。

動かない原因がエンジンなのか、タイヤなのか、電気系統なのか、によって対策が変わってきますよね。

エンジンに問題があるならエンジンを交換しないといけないですし、タイヤにあるならタイヤを交換しないといけないですし、電気系統に問題があるなら電気の配線をいじらないといけないです。

問題解決においてはこのように原因を探る、ということが当たり前に行われますが、脳卒中リハビリにおいては、特に症状の原因が何なのか、という分析が行われないまま解決策(つまり、リハビリ)の選択が行われてしまうケースをよく見ます。

運動障害の原因が何なのか、わかりうる限り探究・分析し、その病態に応じたリハビリが選択されるべきではないでしょうか。

エビデンスに基づき、病態に基づくリハビリを

これは私見ですが、日本のリハビリはエビデンスに基づくか、病態に基づくかのどちらかに振られていることが多いように思います。

エビデンスに基づいている人は、先ほどの例のように病態を無視してリハビリを選択するし、病態に基づく人はオリジナルのリハビリを考案し、エビデンスを無視したリハビリを選択する、という具合です。

運動障害の原因がわからないままリハビリを選択してしまえば見当違いなアプローチをすることになりますし、一方で原因を明らかにしても効果のないリハビリを行なっては結果がついてきません。

なので、病態を明らかにし、病態に適切と思われるリハビリをエビデンスに基づいて選択する、というハイブリッドなリハビリが大事です。

まとめます。

● エビデンスに基づくリハビリも、病態に基づくリハビリも大事
● どちらかに完全に振ってしまうと片手落ち
● どちらも踏まえたハイブリッドなリハビリが求められる

皆様の役に立つ情報になれば嬉しいです!

BRAINでは脳卒中EBPプログラムというオンライン学習プログラムを運営しております。

2021年前期はおかげさまで満員御礼となりましたが、後期は10月から開始、募集は7月〜8月ごろから開始する予定です。

ご興味がある方はよかったらホームページを覗いてみてください。

それでは今日もリハビリ頑張っていきましょう!