予後予測、困ること多くないでしょうか?

予後予測、というと急性期のセラピストが行うものというイメージが強いかもしれませんが、本来は急性期・回復期・生活期といった病期に関係なく、セラピストなら絶対に持ってないといけないスキルです。

今回は、なぜ予後予測が必須のスキルなのか、そして予後予測の3つの具体的なやりかたについて紹介します。

情報の信頼性について
・本記事はBRAIN代表/理学療法士の針谷が執筆しています(執筆者情報は記事最下部)。
・本記事の情報は、基本的に信頼性の高いシステマティックレビュー研究から得られたデータを引用しています。

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脳卒中リハビリにおける予後予測3つのやりかた

最初に本記事のまとめです。

  • セラピストにとって予後予測は必須のスキル
  • 予後予測には3つのやりかたがある
  • 一般的な経過のデータ・予後予測モデル・介入研究のデータから予後予測を行える

以下、詳しく説明していきます。

なぜ予後予測が必須のスキルなのか?

私たちセラピストの仕事は『患者さんによくなっていただくこと』です。

患者さんによってActivity of Daily Living(以下、ADL)の向上を目指すときもあれば、手の運動機能の向上を目指すときもあれば、歩行の自立度向上を目指すときもあると思いますが、そういったものをひっくるめて『患者さんによくなっていただく』ための介入をしていると思います。

セラピストの仕事とは?

では、私たちがやっているリハビリが本当に患者さんにとってよくなることにつながっているといえるでしょうか?

多くのセラピストは『よくなっている』と答えると思います。

リハビリ前後で患者さんがよくなった?

それは、こういうふうにリハビリ前後で患者さんがよくなっているのを目の当たりにしているからです。

  • 発症直後よりもADLの自立度が上がった
  • 入院したときよりも手を動かせるようになった
  • 外来リハを始めた時よりも歩きがスムーズになった

…という、リハビリ前後で患者さんがよくなった経験をしていますよね。

なので『リハビリによって患者さんがよくなっている』と自信があるセラピストが多いのではないかと思います。

でも、忘れちゃいけないのは『患者さんは自然によくなる』ということです。

脳卒中にしろ整形外科疾患にしろ、自然治癒がありますよね。

なので、患者さんはセラピストがリハビリをしなくてもよくなるのです。

私たちセラピストが介入するのなら、この自然治癒以上に患者さんがよくならないと、『リハビリによって患者さんがよくなった』とは言えないですよね。

自然治癒を上回る結果が得られなければリハビリの意味がない

私たちセラピストは、リハビリをする前に、今から提供しようとしているリハビリが『自然治癒以上によくなるのか』を判断できないといけません。

そのために、①患者さんは自然治癒でどのようによくなるのかという予後予測と、②自分が提供しようとしているリハビリをすることによってどのようによくなるのかという予後予測ができないといけません。

予後予測ができないセラピストは、自分が提供しようとしているリハビリをすることによって自然治癒以上に患者さんがよくなるのかどうか判断できません。

つまり、予後予測ができないと『患者さんがよくなる上で効果的なリハビリを提供できない何が効果的なのかすらわからない』ということです。

だかたセラピストにとって予後予測は必須のスキルなのです。

脳卒中リハビリにおける予後予測3つのやりかた

続いて、予後予測の3つのやりかたについて紹介します。

  • 一般的な経過のデータから予測する
  • 予後予測モデルを使う
  • 介入研究のデータから予測する

それぞれ詳しく説明していきます。

予後予測のやりかた①一般的な経過のデータから予測する

脳卒中患者さんが発症してから○ヶ月までの経過を記録した研究データを参考にする方法です。

例えば

脳卒中発症から48時間以内にFIMスコア31点だった人たちを6ヶ月まで追った研究データを参考にする

6ヶ月のFIMスコアの推移

Branco JPら(2019)の研究を参考にすることで、自分の担当患者さんが発症から48時間でFunctional Independence Measure(以下、FIM)スコア31点だった場合、

発症から3週で64点くらい、3ヶ月で77点くらいまで改善するだろう

と予測ができます。

このように、一般的な経過のデータを参考にし、予後予測を行うことができます。

一般的な経過のデータはコホート研究やケースコントロール研究から入手できることが多いです。

予後予測のやりかた②予後予測モデルを使う

予後予測モデルを使って予測する方法です。

発症から3日以内の座位保持および筋力から6ヶ月後の歩行自立を予測するモデル

Veerbeek JMら(2011)の予後予測モデル

Veerbeek JMら(2011)の予後予測モデルでは、発症から3日以内の座位保持能力と下肢の筋力から、6ヶ月後に歩行自立している確率が何%かを予測することができます。

例えば、発症から3日以内に『座位保持ができている』『下肢の筋力がMotoricity Indexで25点以上(ある程度下肢を動かせる)』だと6ヶ月後に歩行自立している確率が97%、のように予測することができます。

このモデルを使うことで、発症から3日以内の患者さんデータをもとに6ヶ月後の状態を予後予測することができます。

ICUに入っているときの状態から2週間以内のPEG増設を予測するモデル

Faigle Rら(2015)の予後予測モデル

Faigle Rら(2015)の予後予測モデルでは、脳出血発症後、ICUに入っているときの覚醒状態、人種、年齢、脳出血の大きさから2週間以内にPEG増設の可能性が高いかどうかを予測することができます。

予後予測モデルを2つ紹介しましたが、このようなモデルを使うことによって、将来の状態を予測することが可能です。

予後予測のやりかた③介入研究のデータから予測する

ランダム化比較試験をはじめとした介入研究のデータを参考にすることで、予後予測を行う方法です。

介入によって予後が変わるという現実

世の中には色々なリハビリ方法があります。

その中には効果が高いリハビリもあれば、効果が高くないリハビリもあります。

当然ながら効果が高いリハビリを行えば患者さんはよくなりますし、効果が低いリハビリを行えば患者さんはよくなりません。

なので、私たちセラピストが行うリハビリによって患者さんの予後が左右されると言えます。

ここまで紹介した2つの予後予測のしかたは、『一般的にはこうなります』ということを教えてくれますが、セラピストのリハビリによって影響を受けます。

例えば、良いリハビリをすれば予測された予後を上回る改善をすることがありますし、一方で、よくないリハビリをすれば、予測された予後を下回る結果になり得ます。

私たちセラピストは『自分が行うリハビリによって患者さんの予後が変わる』ということを抑えておく必要があります。

リハビリ方法ごとの予後予測が必要になってくる

効果の高いリハビリの代表としてCI療法があります。

上肢のリハビリのひとつです。

一方、効果の低いリハビリの代表としてストレッチがあります。

効果が低いと書きましたが、実際は運動機能向上の効果は全く報告されていません。

ですので、患者さんにCI療法を行うかストレッチを行うか、という選択に迫られたとき、CI療法を行えば患者さんはよくなるのに、ストレッチを行えば患者さんがよくならない、ということが起こり得ます。

CI療法とストレッチの比較

なんとなく、『CI療法とストレッチを比べるなら、そりゃCI療法がいいよな』と思われるかもしれませんが、では、『CI療法と電気刺激』とか、『電気刺激とミラーセラピー』という選択だったらどうでしょうか?

感覚的には判断が難しくなりますよね。

なので、私たちは科学的な根拠をもとに、それぞれのリハビリを行ったとき、何週間で何がどれくらいよくなるのか、という予測を行える必要があります。

この未来図が見えるから、『CI療法をやろう』みたいな意思決定ができます。

そしてこの未来図を教えてくれるのがランダム化比較試験をはじめとする介入研究です。

言い換えれば、介入研究を読むことができれば未来図を描くことができ、結果として患者さんにとってベストなリハビリを選択できるようになります。

介入研究を読むことができなければ、未来図を描くことができず、患者さんにとってベストなリハビリを選択することが難しくなります。

修正CI療法によってFMAUEスコアが向上したことを報告したBang DHら(2015)の研究データを参考にする

Bang DHら(2015)は、慢性期脳卒中患者さんに対し、修正CI療法を1回1時間、週5回、4週間行うことによって、FMAUEスコアが39点くらいから46点くらいまで向上したことを報告しています。

このデータを参考にすると、自分の担当患者さんが慢性期でFMAUE39点くらいの場合、修正CI療法を1回1時間、週5回、4週間行えば、4週後に46点くらいになっていることが予測できます。

課題指向型訓練によって歩行速度が向上したことを報告したDePaul VGら(2015)の研究データを参考にする

DePaul VGら(2015)は、回復期脳卒中患者さんに対して課題指向型訓練を1回あたり60分、週3回、5週間実施することで、歩行速度が0.58m/sくらいから0.69m/sくらいまで向上したことを報告しています。

このデータを参考にすると、自分の担当患者さんが回復期で歩行速度0.58m/sくらいの場合、課題指向型訓練を60分、週3回、5週間実施することで、歩行速度が0.69m/sくらいまで向上することが予測できます。

このように、ランダム化比較試験をはじめとする介入研究を使うことによって、『○○のリハビリをすれば、何週間後に何がどれくらいよくなる』という予測をすることができます。

本記事のまとめ

  • セラピストにとって予後予測は必須のスキル
  • 予後予測には3つのやりかたがある
  • 一般的な経過のデータ・予後予測モデル・介入研究のデータから予後予測を行える

本記事の内容が困っているセラピストさん、患者さんの役に立てましたら幸いです。

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参考文献

Branco JP, Oliveira S, Sargento-Freitas J, Laíns J, Pinheiro J. Assessing functional recovery in the first six months after acute ischemic stroke: a prospective, observational study. Eur J Phys Rehabil Med. 2019 Feb;55(1):1-7.

Veerbeek JM, Van Wegen EE, Harmeling-Van der Wel BC, Kwakkel G; EPOS Investigators. Is accurate prediction of gait in nonambulatory stroke patients possible within 72 hours poststroke? The EPOS study. Neurorehabil Neural Repair. 2011;25:268–274

Faigle R, Marsh EB, Llinas RH, Urrutia VC, Gottesman RF. Novel score predicting gastrostomy tube placement in intracerebral hemorrhage. Stroke. 2015 Jan;46(1):31-6.

Bang DH, Shin WS, Choi HS. Effects of modified constraint-induced movement therapy combined with trunk restraint in chronic stroke: A double-blinded randomized controlled pilot trial. NeuroRehabilitation. 2015;37(1):131-7.

DePaul VG, Wishart LR, Richardson J, Thabane L, Ma J, Lee TD. Varied overground walking training versus body-weight-supported treadmill training in adults within 1 year of stroke: a randomized controlled trial. Neurorehabil Neural Repair. 2015 May;29(4):329-40.