
脳卒中リハビリで上肢の粗大巧緻性(gross manual dexterity)を評価する代表的な指標として、BBT(Box and Block Test)は60秒課題で上肢機能を定量化します。
60秒間に何個のブロックを仕切り板の向こう側へ運べるかという極めてシンプルな手順でありながら、信頼性・妥当性・反応性のいずれも高く、急性期から慢性期まで幅広く使われています。
この記事では、BBTの正しい測定方法から、信頼性・妥当性・反応性(SEM・MDC・MCID)、健常高齢者の規範的データまでを、2026年時点の最新エビデンスに基づいて網羅的に解説します。
臨床で「この変化は本当に改善なのか?」と迷ったときの判断基準として、ぜひご活用ください。
情報の信頼性について
・本記事はBRAIN代表/理学療法士の針谷が執筆しています(執筆者情報は記事最下部)。
・本記事は、脳卒中専門リハビリ施設BRAINが運営するBRAINアカデミーアドバンスコース歩行の講義内容をもとに、最新の査読付き論文エビデンスを加えて作成しています。
BBT 脳卒中での概要と臨床的意義
BBTは、脳卒中患者を含む上肢障害者の粗大巧緻性(gross manual dexterity)を簡便に評価する標準化されたテストです。
BBTは「リーチ→把握→移動→離す」という一連の上肢動作を統合的に評価できる一方、検査時間が短く、特別なスキルを必要としないため、臨床現場で最も頻繁に使われる上肢評価の一つです。
測定方法
この手順は Mathiowetz, Volland, Kashman, Weber(1985)の原著論文に基づきます。
必要な器具
- 専用の木箱:内寸 53.7cm × 25.4cm × 8.5cm。中央に高さ15.2cmの仕切り板で2つの区画に分かれている
- 木製ブロック150個:1辺2.5cmの立方体
- ストップウォッチ
- 記録用紙
検査手順(原著論文に基づく)
- 患者をテーブルに着席させる。机の高さは肘がほぼ90°屈曲する程度に調整する
- 木箱を患者の正中線上に置き、150個のブロックを片側の区画にまとめて入れておく
- 検査する手と同じ側の区画にブロックが入るように箱を設置する(例:右手なら右側の区画にブロック)
- 患者に「箱のブロックを1個ずつつかんで、仕切り板を越えて反対側の区画に移してください。できるだけ多く運んでください」と教示する
- 15秒間の練習試行を行う
- 練習後、ブロックを元の位置に戻す
- 「始め」の合図と同時にストップウォッチを開始し、60秒間測定する
- 60秒経過したら「終わり」と合図し、反対側の区画にあるブロックの数を数えてスコアとする
- 同じ手順で反対側の手を測定する
実施上の注意点
- 指先が仕切り板を越えることが必須。手首だけ越えてブロックを落とすのは無効
- 2個同時に運んだ場合は1個としてカウントする
- 箱の外に落ちたブロックは拾わなくてよい
- 通常は非麻痺側→麻痺側の順で測定する(疲労や学習効果を考慮)
- 脳卒中患者で麻痺側の測定が困難な場合でも、ブロックを1個も運べなければ「0個」と記録する(除外しない)
- 座位保持が困難な患者では体幹サポートを行ってよいが、その旨を記録する
日本語版の有無
BBTは言語に依存しないテストのため、日本語版は不要です。
教示文を日本語に翻訳して使用すれば足ります。
原著論文のプロトコルがそのまま適用できます。
派生バージョン
近年、麻痺側上肢のリーチ能力をより細かく評価する「Targeted Box and Block Test(tBBT)」など複数の改良版が報告されていますが、脳卒中リハビリのスタンダードは依然として原著(Mathiowetz, 1985)の手順です。
本記事では原著版の数値データに基づいて解説します。
信頼性
BBTの脳卒中患者における信頼性は極めて高く、複数の研究で報告されています。
検査者内信頼性(Intra-rater reliability)
BBTは「何個ブロックを運んだか」を数えるだけのため、検査者内のばらつきは構造的に小さく、脳卒中患者を対象とした検査者内信頼性に特化した報告は多くありません。
後述の再テスト信頼性が同一検査者で実施されることが多く、実質的にこれを兼ねています。
検査者間信頼性(Inter-rater reliability)
| 著者(年) | ICC | 対象者 | 備考 |
|---|---|---|---|
| Platz et al.(2005) | 0.99 | 脳卒中37名+多発性硬化症14名+外傷性脳損傷5名(計56名) | ビデオ録画した試行を独立した複数評価者が採点 |
| Mathiowetz et al.(1985) | r = 0.99〜1.00 | 健常若年女性26名 | 原著論文。Pearson相関のためICCではない点に注意 |
検査者間信頼性は ICC ≧ 0.99 と非常に高く、誰が測定してもスコアがほぼ一致することが確認されています。
再テスト信頼性(Test-retest reliability)
| 著者(年) | ICC | 対象者 | 再テスト間隔 |
|---|---|---|---|
| Chen et al.(2009) | 麻痺側 0.98/非麻痺側 0.93 | 脳卒中患者62名(亜急性〜慢性期混合、平均61歳、発症後中央値8ヶ月) | 3〜7日 |
| Desrosiers et al.(1994) | 右手 0.97/左手 0.96(健常高齢者)。右手 0.90/左手 0.89(上肢障害者群) | 60歳以上、上肢障害者34名(脳卒中13名含む)+健常高齢者 | 1週間 |
| Platz et al.(2005) | 0.96 | 上肢麻痺患者23名 | 1週間 |
・0.75〜0.89:良好(Good)
・0.50〜0.74:中等度(Moderate)
・0.50未満:不良(Poor)
BBTの再テスト信頼性は ICC 0.89〜0.98 で、すべての研究で「良好〜優秀」の範囲に入っています。
臨床現場での経時的評価に十分耐えうる信頼性を持ちます。
内部一貫性(Internal Consistency / Cronbach’s α)
BBTは単一課題の計測指標(60秒間に片手で運搬できるブロック数を数える単一試行)であるため、複数項目の合計点スケールで算出される内部一貫性(Cronbach’s α)の概念は該当しません。
BBTの「一貫性」を評価する代替アプローチとしては、以下があります:
- 試行間一貫性:多くの研究では1試行のみ採用していますが、複数試行の実施で測定誤差を低減できます
- 両手間の相関:健常成人では利き手と非利き手の差は概ね3〜5個以内に収まる(Mathiowetz et al., 1985)
つまりBBTでは、Cronbach’s αの代わりに「両手評価による左右差の確認」と「再テスト信頼性(ICC 0.89〜0.98)」が、実質的な内部一貫性の役割を果たします。
妥当性
原著論文での妥当性検証
Mathiowetz et al.(1985)の原著は主に成人規範データの確立を目的とした研究であり、構成妥当性そのものを大きく扱ってはいません。
原型のテスト(Buddenberg & Cromwell, 1964)はリハビリ臨床で長年使用されており、上肢の粗大巧緻性を評価する内容妥当性が認められていました。
脳卒中患者での妥当性検証
| 比較指標 | 相関係数 | 対象者 | 著者(年) |
|---|---|---|---|
| FMA-UE(上肢項目) | rho > 0.92 | 脳卒中37名+MS14名+TBI5名(計56名) | Platz et al.(2005) |
| ARAT | rho > 0.92 | 同上 | Platz et al.(2005) |
| FMA-UE | r = 0.78 | 慢性期片麻痺34名 | Schiefelbein et al.(2019) |
| ARAT | rho = 0.55〜0.80(治療前)/0.57〜0.71(治療後) | 脳卒中59名 | Lin et al.(2010) |
| FMA・MAL・SIS手機能 | rho = 0.31〜0.59 | 同上 | Lin et al.(2010) |
| 改訂版Barthel Index(ADL) | rho = 0.04〜0.09 | 脳卒中37名+MS14名+TBI5名 | Platz et al.(2005) |
BBTはFMA-UE・ARATと非常に高い相関を示しつつも、ADL(Barthel Index)とはほぼ独立した情報を提供することが確認されています。
つまり、BBTは「上肢の機能能力」を反映する一方、ADLの自立度とは異なる側面を測っていると解釈できます。
弁別妥当性(Known-groups validity)
麻痺側 vs 非麻痺側:脳卒中患者では麻痺側のスコアが非麻痺側より明確に低下することが確認されています(Hmaied Assadi et al., 2022)。
痙縮あり群 vs なし群:Chen et al.(2009)は、痙縮を有する群で測定誤差(SEM)が増大することを報告し、痙縮の有無によってBBTの測定特性が変化することを示しました(後述の反応性セクション参照)。
反応性
・MDC95(Minimal Detectable Change at 95% confidence):95%の信頼度で「測定誤差を超えた真の変化」と判断できる最小の変化量。「Smallest Real Difference(SRD)」と呼ばれることもある
・MCID(Minimal Clinically Important Difference):臨床的に意味のある最小の変化量。患者・家族・セラピストが「明らかに良くなった」と感じる最小単位
SEM
| 著者(年) | SEM | 対象者 | 備考 |
|---|---|---|---|
| Chen et al.(2009) | 麻痺側 1.99 個/分 | 脳卒中62名(亜急性〜慢性期混合) | 2時点のSDを平均して算出 |
| Chen et al.(2009) | 非麻痺側 2.84 個/分 | 同上 | ― |
| Chen et al.(2009) | 痙縮あり群 2.92 個/分 | 同上 | 痙縮ありで測定誤差増大 |
| Chen et al.(2009) | 痙縮なし群 2.23 個/分 | 同上 | ― |
MDC95
| 著者(年) | MDC | 対象者 | 備考 |
|---|---|---|---|
| Chen et al.(2009) | 麻痺側 5.5 個/分(変化率18%) | 脳卒中62名 | SRDとして報告。MDC95と同義 |
| Chen et al.(2009) | 非麻痺側 7.8 個/分(変化率15%) | 同上 | ― |
| Siebers et al.(2010) | 約 4 個/分 | 痙性片麻痺患者17名 | 2週間訓練+6ヶ月フォロー |
MCID
成人脳卒中におけるBBTのMCIDは、現時点でコンセンサスが確立していません。
研究によってアンカー法・分布法が異なり、報告値もばらつきます。
実務的には以下のように扱うのが安全です。
- 最小の判断基準:MDC95(5.5個/分)を「真の変化」の閾値とする
- より厳しい判断基準:6〜7個/分以上の改善があれば「臨床的に意味のある改善の可能性が高い」と解釈する
- 反応性の証拠:Lin et al.(2010)はBBTのSRM(Standardized Response Mean)= 0.64〜0.79(中等度〜大)、Higgins et al.(2005)は急性期でSRM = 1.34(非常に大)と報告しており、BBTが介入効果を捉える能力は十分にあります
BBT 脳卒中患者のカットオフ値
一般的な解釈基準
BBTには「○○個以下なら異常」という単一のカットオフ値は存在しません。
年齢・性別による変動が大きいため、後述の規範的データと比較して「同年代・同性の平均から何SD下か」で判断するのが基本です。
脳卒中患者の重症度分類
BBT単独で脳卒中の上肢機能を「軽度/中等度/重度」と分類する確立したカットオフ値は存在しません。
実務では、FMA-UE(重度 0〜25点/中等度 26〜50点/軽度 51〜66点)と併用して重症度を分類し、BBTは経時的なモニタリング指標として使うのが現実的です。
床効果(Floor effect)に関する重要な注意
BBTは重度上肢麻痺患者では測定不可能(床効果)になります。
ブロックを1個もつかんで運べない場合、スコアは0個となり、それ以上の判別ができません。
重度麻痺の患者にはARATやFMA-UEなど、より細かい段階づけができる指標を併用してください。
判定基準(参考):Terwee et al.(2007, J Clin Epidemiol, PMID: 17161752)は「対象者の15%以上が最高点または最低点を取る場合、天井効果/床効果ありと判定する」という国際的な基準を提示しています。急性期脳卒中では1個も運べない患者が集団の15%を超えることが多く、BBSやFMAと同様に床効果が既知の限界として認識されています。
臨床的な意味
床効果下の患者さん(急性期・重度麻痺)では、全員が「0個」に集中するため、「わずかに改善した」患者と「全く変化していない」患者の区別がつきません。この層ではFMA-UE(分離運動や共同運動の微細な変化を捉えられる)やARAT(19項目で段階的評価が可能)を併用し、BBTは「粗大な把握・運搬が可能になった段階」で導入するのが臨床的に理にかなっています。健常レベルに近い軽症例では、両手の差(左右比)や秒速あたりのブロック数を追跡することで、天井効果下でも細かな変化を捉えられます。
上肢機能の予後予測
| 著者(年) | 知見 | 対象者 |
|---|---|---|
| Higgins et al.(2005) | 発症1週時点のBBTスコアは、5ヶ月後の上肢機能の最良予測因子であった(9種の上肢評価指標の中で) | 急性期脳卒中50名 |
急性期にBBTを測定しておくことは、長期予後予測の観点でも価値があります。
推奨度と臨床ガイドライン
BBTは国際・国内の主要ガイドラインで推奨されており、上肢粗大把握機能評価の標準的指標として位置づけられています。
米国:StrokEDGE II(2018, APTA Neurology Section)
StrokEDGE IIは米国理学療法士協会(APTA)Neurology Section のEDGE Task Forceが脳卒中特異的な評価指標を評価したドキュメントです。BBTは全診療場面でR(Recommended)の評価を受けています。
| 診療場面 | 推奨度 | 解釈 |
|---|---|---|
| 急性期病院(Acute Care) | R(Recommended) | 良好な心理測定特性・臨床有用性あり |
| 入院リハビリテーション(Inpatient Rehab) | R(Recommended) | 良好な心理測定特性・臨床有用性あり |
| 外来リハビリテーション(Outpatient) | R(Recommended) | 良好な心理測定特性・臨床有用性あり |
出典:APTA Neurology Section. StrokEDGE II Outcome Measures Recommendations (2018). https://neuropt.org/professional-resources/neurology-section-outcome-measures-recommendations/stroke
日本:脳卒中治療ガイドライン2021・理学療法ガイドライン第2版
- 脳卒中治療ガイドライン2021(日本脳卒中学会):上肢粗大機能・粗大巧緻性の評価として、簡便で実施時間の短い指標として広く使用されています。正確な推奨グレードの最新情報は同ガイドライン原本を参照してください。
- 理学療法ガイドライン第2版(2021, 日本理学療法士協会):上肢麻痺に対する介入効果検証のアウトカム指標として位置づけられています。
臨床での位置づけ
StrokEDGE II(全場面R)と日本のガイドライン双方で推奨されており、BBTは「60秒で完了する簡便さ」と「粗大把握・運搬能力の直接測定」という特性から、急性期〜回復期の経時的モニタリング指標として価値を発揮します。FMA-UE(運動パターン)・ARAT(課題遂行)・9HPT(手指巧緻性)の階層に対し、BBTは「粗大運搬」のレイヤーを担い、重症度・病期に応じて使い分けることで上肢機能の多角的評価が可能になります。
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規範的データ
健常高齢者の規範データ(Mathiowetz et al., 1985)
原著論文(Mathiowetz et al., 1985)は健常成人628名(男性310名、女性318名、20〜94歳)から規範データを取得しました。
臨床で最も比較頻度が高い60歳以上のデータを示します。
| 年齢 | 性別 | 右手 平均(SD) | 左手 平均(SD) |
|---|---|---|---|
| 60〜64歳 | 男性 | 71.3(8.8) | 70.5(8.1) |
| 60〜64歳 | 女性 | 76.1(6.9) | 73.6(6.4) |
| 65〜69歳 | 男性 | 68.4(7.1) | 67.4(7.8) |
| 65〜69歳 | 女性 | 72.0(6.2) | 71.3(7.7) |
| 70〜74歳 | 男性 | 66.3(9.2) | 64.3(9.8) |
| 70〜74歳 | 女性 | 68.6(7.0) | 68.3(7.0) |
| 75歳以上 | 男性 | 63.0(7.1) | 61.3(8.4) |
| 75歳以上 | 女性 | 65.0(7.1) | 63.6(7.4) |
参考:全年齢(20〜80歳)の平均値は、男性で右77個・左75個、女性で右78個・左76個(Mathiowetz et al., 1985)。
手指巧緻性のピークは20〜24歳で、加齢とともに緩やかに低下していきます。
脳卒中患者のスコア例
脳卒中患者は重症度の個人差が極めて大きいため、「規範データ」として確立された大規模研究は存在しません。
参考までに、信頼性研究で報告されたサンプルのスコア分布を示します。
| 著者(年) | 病期 | n | BBTスコア(平均±SD) |
|---|---|---|---|
| Chen et al.(2009) | 亜急性〜慢性期混合(発症後中央値8ヶ月) | 62 | 麻痺側 29.6(13.4) |
| Lin et al.(2010) | 亜急性期 | 59 | (研究内で介入前後を比較) |
| Higgins et al.(2005) | 急性期 | 50 | (予後予測モデルで使用) |
よくある測定ミス TOP5
実際の臨床現場でセラピストが陥りやすいBBTの測定ミスを5つ紹介します。
仕切り板を指先が越えていないのにカウントしてしまう
なぜ問題か:原著の手順では「指先が仕切り板を越えること」が必須。手首だけで投げるように移動するとカウント条件を満たしません。
正しいやり方:必ず「指先が反対側に入ったブロックのみ」をカウントする。曖昧な場合はビデオで確認するか、再測定する。
練習試行をスキップする
なぜ問題か:原著では15秒の練習試行を実施することが前提。特に初回測定で練習なしだと、患者がルールを理解しきれず本来より低いスコアになります。
正しいやり方:必ず各手15秒の練習試行を行ってから本測定を実施する。
麻痺側から先に測定する
なぜ問題か:麻痺側を先に行うと、努力性のために疲労が出て、その後の非麻痺側スコアが低めに出ることがあります。また、患者の心理的ハードルを下げる意味でも非麻痺側を先に行うのが原則です。
正しいやり方:原則として「非麻痺側 → 麻痺側」の順で測定する。
箱の高さや位置を毎回変えてしまう
なぜ問題か:箱の位置・高さが変わると、リーチ動作の負荷が変わってスコアに影響します。
正しいやり方:箱は常に患者の正中線上、肘がほぼ90°屈曲する高さに統一する。測定間で位置を固定する。
落ちたブロックを慌てて拾う
なぜ問題か:原著の手順では「箱の外に落ちたブロックは拾わなくてよい」と明記されています。検査者が拾って戻すと公平性が失われます。
正しいやり方:落ちたブロックは無視し、60秒経過まで測定を続行する。
類似評価指標との比較表:BBT vs 9HPT vs ARAT、どれを選ぶ?
上肢の巧緻動作・運動パフォーマンスを評価する代表的な3つのテストを比較します。
| 項目 | BBT | 9HPT | ARAT |
|---|---|---|---|
| 評価対象 | 粗大巧緻性(リーチ・把握・移動) | 微細巧緻性(ピンチ・挿入) | 把握・握り・つまみ・粗大運動の包括評価 |
| 所要時間 | 約2〜3分 | 約5分 | 約10分 |
| スコア形式 | 60秒間に運んだ個数 | 9本のペグを入れる時間(秒) | 19項目を0〜3点で採点(0〜57点) |
| 重度麻痺での測定 | 床効果あり(0個になる) | 床効果が大きい | 0点があるが段階づけ可能 |
| FMA-UEとの相関 | r = 0.78〜0.92(強) | r = -0.16〜-0.33(弱) | r > 0.92(強) |
| 反応性(SRM) | 0.64〜0.79(中〜大) | BBTと同等 | BBTと同等 |
| 有用な場面 | 経時モニタリング・スクリーニング | 微細運動に絞った精密評価 | 詳細な機能評価・研究用アウトカム |
臨床現場での使い分け
- スクリーニング・経時モニタリング → BBT(短時間で実施可能)
- 研究・詳細評価 → ARAT(最も包括的)
- ピンチ・微細動作のみ評価したい → 9HPT
- 重度麻痺の患者 → BBT・9HPTでは床効果が出るためARATまたはFMA-UEを選択
Lin et al.(2010)は「反応性と妥当性を総合すると、BBTとARATは9HPTより脳卒中患者の巧緻機能評価に適している」と結論づけています。
※ FMA(Fugl-Meyer Assessment)の詳細は「FMA(Fugl-Meyer Assessment)の測定方法と信頼性・MDC・カットオフ値を網羅解説」をご覧ください。
※ 9HPT(Nine Hole Peg Test)の詳細は「9HPT(Nine Hole Peg Test)の測定方法と信頼性・MDC・カットオフ値を網羅解説」をご覧ください。
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BBTカットオフ値かんたん判定ツール
BBT カットオフ値かんたん判定ツール
BBTスコアと年齢・性別を入力すると、健常高齢者の規範データ(Mathiowetz, 1985)との比較と、前回値からの変化がMDC95を超えたかを自動判定します。
※ この判定ツールは参考情報を提供するものであり、臨床判断を代替するものではありません。患者個々の状態を総合的に評価してください。
※ 規範データの出典:Mathiowetz V et al. Adult norms for the Box and Block Test of manual dexterity. Am J Occup Ther. 1985;39(6):386-391.
※ MDC95の出典:Chen HM et al. Test-retest reproducibility and smallest real difference of 5 hand function tests in patients with stroke. Neurorehabil Neural Repair. 2009;23(5):435-440.
BBTスコアと年齢・性別を入力すると、健常高齢者の規範データ(Mathiowetz, 1985)と比較して「同年代平均から何個低いか」と、前回値からの変化量がMDC95を超えたかを自動判定するツールです。
臨床評価の参考にご活用ください。
※このツールは参考情報を提供するものであり、臨床判断を代替するものではありません。最終的な評価は患者個別の状況を踏まえてセラピストが行ってください。
ワークショップ:臨床判断トレーニング
以下の症例を読んで、BBTの結果をどのように解釈すべきか考えてみましょう。「回答を見る」をクリックすると解説が表示されます。
MDC95を使った変化の解釈
慢性期脳卒中患者(65歳男性、発症後2年、右片麻痺、痙縮なし)の麻痺側BBTが、介入前 22個 → 4週間の課題指向型訓練後 28個(6個改善)でした。これは測定誤差ではない「本当の改善」と言えますか?また、臨床的に意味のある改善でしょうか?
回答:はい、本当の改善であり、臨床的にも意味のある改善である可能性が高いです。
麻痺側BBTのMDC95は5.5個/分(Chen et al., 2009)です。今回の変化量6個はMDC95を超えているため、95%の確信をもって「測定誤差ではない真の変化」と判断できます。
成人脳卒中におけるBBTのMCIDはコンセンサスが確立していませんが、実務的には「MDC95を超える=最低限の改善基準」「6〜7個以上=臨床的に意味のある改善の可能性が高い」と解釈するのが安全です。今回の6個改善はこの基準にも合致しています。
加えて、BBTの反応性(SRM)は介入研究で 0.64〜0.79 と報告されており(Lin et al., 2010)、4週間の介入で有意な変化を捉えるのに適した指標であることもこの判断を支持します。
痙縮を伴う患者での解釈
慢性期脳卒中患者(58歳女性、上肢MAS 2、手指屈筋に痙縮あり)の麻痺側BBTが、3週間の介入前後で 12個 → 16個(4個改善)でした。この変化を「真の改善」と判断してよいでしょうか?
回答:単独では「真の改善」と断定できません。慎重な解釈が必要です。
- Chen et al.(2009)は、痙縮を有する群でBBTのSEMが 2.92個/分(痙縮なし群の2.23個より大)に増大することを報告しています。痙縮のある患者ではMDC95も相対的に大きくなる可能性があります
- 痙縮なし群を基準にしたMDC95(5.5個)に対し、今回の変化量4個はMDC95を下回っています。痙縮ありの場合はさらに厳しい閾値が必要なため、「測定誤差の範囲内」と判断するのが安全です
- 判断を補強するためには、(1)測定を複数回行って変動幅を確認する、(2)FMA-UE・MASなど他の指標との変化を併せて確認する、(3)患者の主観的変化(MAL等)を併用する、という対応が有用です
- 痙縮の評価は同時にMASでも実施し、痙縮自体の変化が把握動作のパフォーマンスに影響していないかを併せて確認しましょう
床効果と指標選択
急性期病院に入院中の脳卒中患者(72歳男性、発症後10日、左片麻痺、上肢FMA-UE 8点)の麻痺側BBTを測定したところ、60秒間に1個もブロックを運べず0個でした。この結果をどう解釈し、今後の評価方針をどう立てますか?
回答:BBTの床効果に該当するため、より細かい段階づけが可能な指標へ変更すべきです。
- BBTは重度上肢麻痺患者では床効果(floor effect)が生じ、ブロックを1個も運べない場合はスコア0となり、それ以上の機能差を判別できません。今回のケースはまさにこの典型例です
- FMA-UE 8点は0〜25点の重度範囲にあり、Rech et al.(2020)の重症度分類では「重度(0-15点)」または「重度〜中等度(16-34点)」のうち重度に相当します。BBTでの評価は適していません
- 代替指標:(1)FMA-UEは0〜66点で細かい段階づけが可能で、重度麻痺の経時変化を捉えやすい、(2)ARATは0〜57点、19項目を0〜3点で採点するため重度群でも段階差を検出できる、(3)MASで痙縮の評価も並行する
- 急性期での機能評価は長期予後予測の観点でも重要です。Higgins et al.(2005)は「発症1週時点のBBTスコアが5ヶ月後の上肢機能の最良予測因子である」と報告していますが、これはBBT測定可能な軽〜中等度患者に限った話です。重度群ではFMA-UEを予後予測に使用するのが適切です
- BBTは上肢機能の回復に伴い「測定できる」状態になります。経過の中でブロックが1〜2個でも運べるようになった時点でBBTを再導入し、その後の経時モニタリングに活用するという段階的な使い分けが有効です
BBTを臨床で使いこなすための3問の臨床判断トレーニングです。
MDC95を使った変化の解釈、痙縮を伴う患者での解釈、重症度に応じた指標選択について、エビデンスに基づいた回答とともに学べます。
記録用紙ダウンロード
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SEM・MDC95参照値、健常高齢者規範データの早見表が同じ用紙に印刷されているため、その場で「変化量がMDCを超えたか」を判断できます。
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参考文献
- Mathiowetz V, Volland G, Kashman N, Weber K. Adult norms for the Box and Block Test of manual dexterity. Am J Occup Ther. 1985;39(6):386-391. PMID: 3160243
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- Platz T, Pinkowski C, van Wijck F, Kim IH, di Bella P, Johnson G. Reliability and validity of arm function assessment with standardized guidelines for the Fugl-Meyer Test, Action Research Arm Test and Box and Block Test: a multicentre study. Clin Rehabil. 2005;19(4):404-411. PMID: 15929509
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本記事で紹介したエビデンスは、BRAINアカデミーの講義資料および査読付き学術論文に基づいています。
最終更新:2026年4月

