脳卒中患者さんへの上肢リハビリのひとつにCI療法というものがあります。

これは麻痺した上肢をたくさん使っていただくことで日常生活での麻痺側上肢の使用状況や、運動パフォーマンス、運動障害をよくするリハビリで、世界的に有効性についてコンセンサスが得られています。

実は、このCI療法系列のリハビリは上肢だけでなく、下肢にもあります。

下肢へのCI療法ということで歩行中に非麻痺側をあまり使えないようにするなどの工夫を行い、歩行や麻痺側下肢の運動機能を向上させようとするものです。

そして、言語にもあります。

今回は、CIATについて、どういうものかということと、エビデンスについてコクランレビューをもとに紹介させていただきます。

CIATについて簡単に解説

CIATというのはConstraint-induced aphasia therapy、つまりCI療法の失語症バージョンということになります。

CIATというのは、2001年にPulvermuller Fによって開発された言語のリハビリです。

CIATの元々のプロトコルには3つの原則があります。

①制約(constraint)
CIATでは患者さんはジェスチャーなどの非言語的な方法ではなく、言語によるコミュニケーションアプローチを使用することが強く推奨されます。

②大量の練習(massed practice)
元の CIAT プロトコルには、1 日 3 時間、合計 10 日間の介入でした。

③シェーピング(shaping)
課題の難易度は、患者さんに合わせて徐々に難しくなっていきます。

以降、修正CIATとも呼べる、元々のプロトコルとは違うCIATの研究も増えてきています。

CIATには3つの原則がありますが、このうち①制約(constraint)、②大量の練習(massed practice)、というのが必要なのかどうか議論があります。

制約を取り除いてしまうともはやCI療法系列とは言えなくなってしまうと思うのですが、現在、必要な構成要素はなんなのか研究が進められているようです。

ちなみに脳卒中治療ガイドライン2015の言語機能へのリハビリテーションのところではCIATについて記載がありません。

2017年に出版されたコクランレビューをもとに、効果について紹介させていただきます。

言語パフォーマンスに対する効果は従来の治療と同等

まず研究のリサーチクエスチョンですが、「脳卒中患者さんに対するCIAT、修正CIAT、ILAT(集中言語行動療法)は、通常の言語聴覚療法などと比べて失語症の重症度や言語パフォーマンスを向上させると言えるか」でした。

失語症の重症度や言語パフォーマンスは、Western aphasia battery—aphasia quotient(WAB-AQ)やAachen aphasia test(AAT)などで評価しています。

対象になったのは、2017年1月までに出版されたランダム化比較試験と、ランダム化クロスオーバー試験です。

最終的に取り込み対象になったのは8件でしたが、メタアナリシスに取り込まれたのは3件だけでした。

そしてメタアナリシスの結果ですが、AATで評価したときの言語パフォーマンスの変化については、CIATは従来の言語聴覚療法などと比べて有益であるとは言えないという結果になりました。

※AATは物品の呼称、文字を読む、などのサブテストが含まれる総合的な言語パフォーマンス評価です。

一方で、従来の言語聴覚療法も、CIATより大きい効果を示した訳ではないので、およそ同等の効果であると言えます。

また、Boston Naming Testという物品の呼称を評価する検査バッテリーがあるのですが、こちらを使った研究を取り込んだメタアナリシスの結果も同様、CIATが有益であるという結果にはなりませんでした。

まだまだ研究数が少ないので今後どうなるかわからない

麻痺側上肢に対するCI療法は有効なリハビリ方法ですが、言語障害に対するCIATは現状のところ、目立って有効であるとは言えなさそうです。

ただ、取り込まれた研究数が少なすぎるので、今後の研究次第で結果が大きく変わる可能性もあります。

また、冒頭でお伝えした通り、CIATの中でどの要素が必要でどの要素が不要なのかが明らかになってくれば、より効果的な言語聴覚療法が完成してくると思います。

そういった点で今後の研究がとても楽しみなリハビリです。

本日は「脳卒中後の失語症へのリハビリとしてCIATは有効か?」というテーマでお話しさせていただきました。

BRAINでは脳卒中EBPプログラムというオンライン学習プログラムを運営しております。

2021年前期はおかげさまで満員御礼となりましたが、後期は10月から開始、募集は7月〜8月ごろから開始する予定です。

ご興味がある方はよかったらホームページを覗いてみてください。

それでは今日もリハビリ頑張っていきましょう!

参考文献

Zhang J, Yu J, Bao Y, Xie Q, Xu Y, Zhang J, Wang P. Constraint-induced aphasia therapy in post-stroke aphasia rehabilitation: A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. PLoS One. 2017 Aug 28;12(8):e0183349.