脳梗塞や脳出血(以下、脳卒中と言います)を発症すると、失語症(しつごしょう)が生じることがあります。

言葉が出にくくなったり、他人の言葉を理解するのが難しくなる症状で、コミュニケーションに影響が出ます。

本記事では、脳卒中後の失語症について情報をまとめました。

情報の信頼性について
・本記事はBRAIN代表/理学療法士の針谷が執筆しています(執筆者情報は記事最下部)。
・本記事の情報は、基本的に信頼性の高いシステマティックレビュー研究やランダム化比較試験、観察研究から得られたデータを引用しています。

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脳梗塞の失語症は治る?

最初に結論です。

  • 失語症はいくつものタイプに分かれる
  • 個人差はあるものの失語症は改善する
  • 失語症の時期やタイプに合わせた言語リハビリが必要
  • 有効性が認められた言語リハビリがあるがエビデンスは不十分
  • 言語リハビリは特に言語聴覚士の力量(知識・スキル)が大事

以下、詳しく解説します。

失語症とは?

脳卒中後の失語症は、脳卒中によって生じる言語障害のひとつです。

脳卒中は、脳の血流が阻害されることによって脳が損傷する状態です。この損傷が言語に関連する領域に影響を与えることで、失語症が表れます。

失語症は大きく以下の3つのタイプに分かれます。

運動性失語

言葉が出にくくなるタイプの失語症です。

感覚性失語

言葉を理解することが難しくなるタイプの失語症です。

混合性失語

発語・理解のいずれも難しくなるタイプの失語症です。

その他、伝導失語や健忘失語などもあります。

失語症は、失語症のタイプや脳損傷の程度などによって表れかたが大きく異なる複雑な症状です。

失語症によって二次的に社会的孤立、うつ・不安、生活の質の低下が生じることを示している図
失語症と二次的に生じる問題(Doogan C, 2018より引用改変)

失語症により、コミュニケーションが上手くとれなくなることで社会的な孤立や気分の低下(うつ・不安など)のほか、生活の質(Quality of Life:QOL)の低下を招きます。

失語症のリハビリは、単純に言葉を話せる/理解できるにとどまらず、二次的に生じる社会的孤立やうつ・不安の改善、QOLの向上を見据えて実施する必要があります。

失語症の経過

失語症の一般的な経過を紹介します。

↑YouTubeでも簡単に紹介しておりますのでよかったらご覧ください。

発症6ヶ月以内に失語症が消失する人は74%

Maas MB(2012)によると、発症5日時点で失語症を呈していた脳卒中患者さん102人のうち、6ヶ月後に失語症が消失した人が74%にのぼることが報告されました。

脳卒中発症から6ヶ月までに失語症の有病率が大幅に低下することを報告した図

また、消失するまでに至らずとも、86%の患者さんに失語症の改善が見られたとも報告されています。

このように、失語症は発症6ヶ月までに多くの方が改善する症状であると言えます。

発症1年までに90%の人が日常生活での会話が可能

El Hachioui H(2013)は、Aphasia Severity Rating Scaleという評価を用い、失語症の重症度の変化を調査しました。

結果として、発症から1年までにおよそ90%の人が『ほとんど助けがなくても日常の問題についての会話が可能』なレベル以上へ改善することを報告しました。

発症1年までの失語症の有病率と重症度変化を示した図

もし失語症が消失しなかったとしても、コミュニケーションをとることは可能になるということです。

ほとんどの失語症はタイプ変化が起こる

運動性失語、感覚性失語以外にも、失語症には色々なタイプがあります。

Pedersen PM(2004)は、脳卒中発症1年までの経過の中で、患者さんの失語症タイプがどのように変化するかを調査しました。

結果として、多くの患者さんで失語症のタイプ変化が生じることが明らかになりました。

脳卒中発症から1年まで、失語症のタイプが変化することを示した図

つまり、患者さんの失語症は変化(改善)していくのが一般的であり、リハビリもその時々の患者さんの状態に合わせて更新していかなければならないと言えるでしょう。

発症6ヶ月までの回復曲線

Godecke E(2021)は、脳卒中発症10日から6ヶ月までの失語症の回復のしかたについてデータを報告しました。

結果として、発症10日から3ヶ月までに大きく改善し、3ヶ月から6ヶ月までは緩やかに回復することが明らかになりました。

脳卒中発症直後から6ヶ月までの失語症の回復のしかたを示した図

ここまでお伝えしてきたとおり、発症6ヶ月、1年まで失語症の改善が期待できますが、改善の度合いが最も大きいのは急性期〜回復期病院に入院しているときであると言えます。

発症1年以降で失語症がよくなる人もいる

Breitenstein C(2017)は脳卒中発症からおよそ28ヶ月から34ヶ月までの失語症経過データを収集しました。

この研究にはリハビリをした場合と、リハビリをしなかった場合のデータが含まれています。

結果として、リハビリをしなかった場合でも失語症は一部で改善することが報告されました。

ただし、リハビリをした場合はより大きく改善することが報告されました。

発症からしばらく経っていても言語の改善は期待できると言えます。

以上をまとめます。

  • 失語症は発症6ヶ月までに改善することが多い
  • 失語症はタイプ変化を起こすことが多い
  • 発症6ヶ月以降も失語症がよくなる可能性はある

失語症に対する言語リハビリが重要になってきます。

失語リハビリ

失語リハビリも歩行や手のリハビリと同様に、以下の2つが大事です。

  • 有効性が実証されているリハビリ方法を選ぶ
  • 脳科学の知見に基づきひとりひとりに合わせたリハビリを行う

ただし、失語症のリハビリでは特に脳科学の知見が重要になります。

↑YouTubeでも簡単に紹介しておりますのでよかったらご覧ください。

失語リハビリの種類

失語症に対して行われる言語リハビリを紹介します。

オンライン言語リハビリ

近年、テレビ電話で行われるオンライン言語リハビリが注目されています。

オンライン言語リハビリとは、言語聴覚士は病院・施設から、患者様はご自宅からテレビ電話をつなぎ、お互いの顔を見て声を聞きながら言語リハビリを行うものです。

オンライン言語リハビリは、対面で行う言語リハビリと比べたとき、同等の効果があることが報告されていますCacciante L, 2021)。

つまり、外来や訪問看護リハビリで行う言語リハビリは、オンラインへ変更したとしてもこれまでと同じような効果を期待できるということです。

BRAINもオンライン言語リハビリサービスを提供しています。

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高強度言語聴覚療法

オンライン言語リハビリが注目されるようになったのは2020年以降です。

以下、2020年以前から有効性が報告されていた言語リハビリを紹介します。

Brady MC(2016)は、2015年9月までに世界中で報告された脳卒中後の失語症リハビリの種類と効果をまとめました。

高強度言語聴覚療法とは、週あたりの実施時間が4~15時間(1日あたりおよそ50分~3時間)になる言語リハビリを指します。

実生活でのコミュニケーション能力や、失語症自体の改善が期待できる一方で、リハビリ途中で中止になるケースが多いことも報告されています。

要因は複数ありますが、高強度言語聴覚療法はリハビリ時間が長く、疲労感やストレスが強くなってしまうことが理由のひとつとして考えられています。

コンピュータ言語聴覚療法

コンピュータソフトウェアやWebアプリを使用した言語リハビリです。

海外であればStepByStep、国内であれば花鼓といったソフトウェアがあり、使用されます。

コンピュータ言語聴覚療法の特徴は『患者さんが個人で、ご自宅で実施できること』です。

実際、専門家による言語リハビリを行う場合と、コンピュータ言語リハビリとの間に大きな効果の差がないことが報告されており、『言語リハビリはコンピュータで代替できるのではないか?』という意見もあります。

なるべくお金を掛けずに言語リハビリを行いたい方は、コンピュータを活用するのもよいかもしれません。

Constraint‐induced aphasia therapy(CIAT)

以下の3原則に基づいて実施される言語リハビリです。

① 制約(constraint)
ジェスチャーなどの非言語的な方法ではなく、言語によるコミュニケーションアプローチを使用する
②大量の練習(massed practice)
1日3時間、合計10日間を目安に実施する
③シェーピング(shaping)
課題の難易度は、患者さんに合わせて徐々に難しくなる

しかし、現在はこの3原則が必要なのかどうか議論されており、発展途上といえます。

実際の効果も通常の言語リハビリと比較して大きな差がないことが報告されており、CIATの実施には懐疑的な意見もあります。

反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)+言語リハビリ

脳に磁気刺激を与え、直接的に脳の活動性を高めた後に言語リハビリを実施する手法です。

rTMSを実施することで、通常の言語リハビリの効果を高めることができます。

Kielar A(2022)によると、低頻度刺激を1日20~40分、右下前頭回三角部に10~15セッション行うことで、言語の改善が最長12ヵ月間観察されることが示されています。

詳しくはこちらの記事をご覧ください。

なお、BRAIN世田谷店舗にはTMSを用意しております。

その他の言語リハビリ

その他、以下の言語リハビリが報告されています。

  • グループ言語聴覚療法
  • セマンティック言語聴覚療法
  • ジェスチャーを使用した言語聴覚療法
  • メロディックイントネーションセラピー
  • オペラント・トレーニング言語聴覚療法
  • 動詞理解言語聴覚療法(Verb comprehension SLT)
  • 談話療法(Discourse therapy)
  • 課題特異的生産(’Task Specific’ production)
  • 言語指向療法(Language oriented therapy)
  • 聴覚理解言語聴覚療法(Auditory comprehension SLT)
  • FIlmedプログラム(FIlmed programme instruction)
  • 意味論言語聴覚療法(semantic SLT)

ただし、いずれも研究数が少なく、有効性について判断するために今後の研究に期待がかかります。

失語リハビリでは言語聴覚士の知識・スキルが大事!

失語症のリハビリでは、歩行や上肢のリハビリと比べ、より『担当セラピストの知識・スキル』が大事になります。具体的には、『担当セラピストが脳科学・神経科学の知見を知っているか』が重要です。

その理由を2つに分けて解説します。

失語症リハビリのエビデンスが少ない

歩行リハビリや手のリハビリと比べると圧倒的にエビデンスが少なく、有効な方法が明確に示されていません。

例えば歩行リハビリであれば、

  • 週3回以上のトレッドミルトレーニング(歩行練習)が有効
  • 70%HRmaxの強度で合計30分歩くのが有効
  • 電気刺激を総腓骨神経に運動閾値の強さで30分実施するのが有効

…など、具体的なすすめかたとともに有効性が報告されているケースが多く、現場のセラピストも再現しやすくなっています。

一方で、言語リハビリではこのような具体的な記述がほとんどなく、エビデンスに基づいてリハビリを進めようとしても、結局は現場のセラピストの力量に委ねられるケースが多いのが実情です。

失語症の改善に影響を与える要因が複雑である

Doogan C(2018)は、失語症の改善には

  • 言語リハビリの種類・量・強度・タイミング
  • 脳卒中の部位・発症期間
  • 失語症の発症初期の重症度
  • 服薬状況
  • 脳の言語関連ネットワーク
  • 認知的困難や気分の低下(抑うつや不安など)

など様々な要因が影響を与えることを報告しています。

つまり、ひとりひとり失語症の状況が異なっており、ひとりひとりに合わせた言語リハビリが必要であるといえます。

担当言語聴覚士の知識・スキルが重要!

したがって、失語症のリハビリでは『患者さんひとりひとりの状況に合わせてリハビリを調整できる担当言語聴覚士の力量(知識・スキル)が高い』ことが重要といえます。

言語聴覚士さんの力量を推定する方法として『認定言語聴覚士(失語・高次脳機能領域)』を取得しているどうかがあります。

認定言語聴覚士とは、日本言語聴覚士協会によって公認された言語聴覚士のことです。

日本言語聴覚士協会のホームページには認定言語聴覚士の氏名と所属施設が公表されていますので、こちらを参考にリハビリを受ける施設を決めていただくのもよいかもしれません。

上記のURLには記載されていませんが、BRAINに所属している言語聴覚士は全員が認定言語聴覚士(失語・高次脳機能障害領域)を取得おり、質の高い言語リハビリを提供できるよう努めております。

BRAINのオンライン言語リハビリ実践例

BRAINではZOOMを活用してオンライン言語リハビリサービスを提供しています。

オンライン言語リハビリは下記の手順で行われます。

  • ① 担当者よりミーティングURLを送信
  • ② 時間になったらミーティングルームへ入室
  • ③ オンライン言語リハビリを60分実施
  • ④ 終了とともにミーティングルームを退室

着替えや外出が一切必要ないので、ご負担が少なくリハビリをお受けいただけます。

まとめ

脳卒中後の失語症のリハビリについてまとめます。

  • 失語症はいくつものタイプに分かれる
  • 個人差はあるものの失語症は改善する
  • 失語症の時期やタイプに合わせた言語リハビリが必要
  • 有効性が認められた言語リハビリがあるがエビデンスは不十分
  • 言語リハビリは特に言語聴覚士の力量(知識・スキル)が大事

少しでもお役に立てましたら幸いです。

リハビリの無料体験を実施中!

BRAINリハビリのポイント
効果が実証された手法のみをご提供
取得率3%の認定資格保有者が対応
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質の高いリハビリを受けたい、自宅で集中してリハビリに取り組みたい、
といった方から選ばれています!

参考文献

Maas MB, Lev MH, Ay H, Singhal AB, Greer DM, Smith WS, Harris GJ, Halpern EF, Koroshetz WJ, Furie KL. The prognosis for aphasia in stroke. J Stroke Cerebrovasc Dis. 2012 Jul;21(5):350-7.

El Hachioui H, Lingsma HF, van de Sandt-Koenderman MW, Dippel DW, Koudstaal PJ, Visch-Brink EG. Long-term prognosis of aphasia after stroke. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2013 Mar;84(3):310-5.

Pedersen PM, Vinter K, Olsen TS. Aphasia after stroke: type, severity and prognosis. The Copenhagen aphasia study. Cerebrovasc Dis. 2004;17(1):35-43.

Godecke E, Armstrong E, Rai T, Ciccone N, Rose ML, Middleton S, Whitworth A, Holland A, Ellery F, Hankey GJ, Cadilhac DA, Bernhardt J; VERSE Collaborative Group. A randomized control trial of intensive aphasia therapy after acute stroke: The Very Early Rehabilitation for SpEech (VERSE) study. Int J Stroke. 2021 Jul;16(5):556-572.

Breitenstein C, Grewe T; FCET2EC study group. Intensive speech and language therapy in patients with chronic aphasia after stroke: a randomised, open-label, blinded-endpoint, controlled trial in a health-care setting. Lancet. 2017 Apr 15;389(10078):1528-1538.

Cacciante L, Kiper P, Garzon M, Baldan F, Federico S, Turolla A, Agostini M. Telerehabilitation for people with aphasia: A systematic review and meta-analysis. J Commun Disord. 2021 Jul-Aug;92:106111.

Brady MC, Kelly H, Godwin J, Enderby P, Campbell P. Speech and language therapy for aphasia following stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2016 Jun 1;(6):CD000425.

Doogan C, Dignam J, Copland D, Leff A. Aphasia Recovery: When, How and Who to Treat? Curr Neurol Neurosci Rep. 2018 Oct 15;18(12):90.