脳卒中患者さんのバランス障害へのリハビリは色々です。

バランスのアウトカムとしては世界的にはBerg Balance Scale(以下、BBS)やTimed Up and Go test(以下、TUG)が使われることが多いです。

これらBBSやTUGをアウトカムにした研究はとても多いです。

理学療法領域においては、歩行練習のリハビリとバランス障害へのリハビリが、研究数としては圧倒的に多いです。

バランス障害へのリハビリのひとつに、立ち上がり動作練習があります。

座った状態(座位)から立ち、また座っていく動作を繰り返す練習です。

最近では姿勢制御の神経科学やバイオメカニクスもどんどん明らかになってきており、単純に立ち座り動作を繰り返すだけのトレーニングというのは前時代的になりつつあるように感じます(私見です)。

とは言え、まだ自主トレで「立ち上がり100回」をやっている患者さんもいらっしゃるのではないかと思います。

今回は、その立ち上がり100回の効果を検証したランダム化比較試験を紹介します。

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Farqalit R (2013) のランダム化比較試験

まず、Farqalit R (2013) のランダム化比較試験の概要を紹介します。

この研究では、慢性期の脳卒中患者さん40人を、2つのグループに分けました。

ひとつ目のグループは「座位で麻痺側下肢を非麻痺側下肢よりも後方に引いた位置で立ち上がり練習をする」グループです。

※長いので「麻痺側後方グループ」とします。

もうひとつのグループは、「両足の位置を前額面で揃えて立ち上がり練習をする」グループです。

いわゆる、普通の立ち上がり動作練習をするグループです。

なので、ふたつのグループの違いは “麻痺側下肢の位置” だけです。

麻痺側下肢を後方に引くかどうか、という点で違いがあります。

両グループとも、10回10セット、合計100回の立ち上がり動作練習を週5回、4週間実施してます。

なお、セット間の休憩は1分で、なかなかハードにやっていることがうかがえます。

これらの立ち上がり動作練習に加え、両グループともに標準的なリハビリ(ストレッチや筋トレ、歩行練習など)を実施しています。

いずれのグループもバランス能力が向上

結果として、両グループともTUGやBBSのスコアが向上しました。

また、「麻痺側後方グループ」の方が大きい変化を示し、普通に立ち上がり動作練習をするよりは麻痺側下肢を後方に引いた方が有効であることが報告されました。

ただ、どちらのグループもBBSで大きい変化を示しており、麻痺側後方グループはBBS平均スコアおよそ34点が4週間後におよそ49点に、普通の立ち上がりグループはおよそ29点から42点に向上しています。

慢性期でこれだけ変化するのは大きい変化ですよね。

立ち上がり動作練習の有効性がうかがえます。

一方で、立ち上がり動作の非対称性などのアウトカムは取られておらず、なんとも言うことができません。

おそらく、動作練習の繰り返しで心配になるのは代償動作戦略の学習ではないでしょうか。

この点についても検証されていたらより興味深い研究だったなーと思います。

ただ、Lecours (2008) によると、脳卒中患者さんは普通に立ち上がり動作をするときは非麻痺側に大きく荷重されます。

麻痺側下肢を後方に引くことで左右対称に近い立ち上がり動作になるので、麻痺側を後方に引いた状態で立ち上がり動作練習を行う方が、代償動作戦略の学習も少なくて済むのではないかと思います。

立ち上がり練習は手軽に導入できる

まとめます。

● 脳卒中患者さんの歩行練習、バランス練習のリハビリ研究はとても多い
● 立ち上がり動作練習100回はバランス能力を向上させる
● 代償動作戦略を学習する可能性もあるが、麻痺側下肢を引けば押さえられるかも

「立ち上がり動作練習100回」と聞くと、「うわっ、古いなー」と思われる方もいるかもしれません。

ですが、少なくともバランス能力の向上に有効というエビデンスは存在しています。

立ち上がり動作練習は特殊な機器が必要なく、手軽に実施できるものですので、リハビリで取り入れてみてはいかがでしょうか!

参考文献

Farqalit R, Shahnawaz A. Effect of foot position during sit-to-stand training on balance and upright mobility in patients with chronic stroke. Hong Kong Physiotherapy Journal. 2013;31

Lecours, Julie, et al. “Interactions between foot placement, trunk frontal position, weight-bearing and knee moment asymmetry at seat-off during rising from a chair in healthy controls and persons with hemiparesis.” Journal of rehabilitation medicine 40.3 (2008): 200-207.