筋力トレーニングはストレッチと並ぶ、王道的なリハビリです。

ブリッジエクササイズや、スクワットのような筋トレは誰もが一度は経験したことがあるのではないでしょうか?

下肢に対する筋力トレーニングは有効性が報告されているものの、万能というわけではありません。

有効性や限界について正しく把握しておく必要があります。

本記事では、脳卒中患者さんへの筋力トレーニングの有効性についてまとめました。

筋力トレーニングを初めて勉強するセラピストや、脳卒中当事者の方々に役に立てたら嬉しいです。

情報の信頼性について
・本記事はBRAIN運営責任者/理学療法士の針谷が執筆しています(筆者情報は記事最下部)。
・リハビリの効果や注意点に関しては、信頼性の高いシステマティックレビュー研究、ランダム化比較試験から得られたデータを引用しています。

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脳卒中リハビリにおける筋力トレーニングとは?

最初に本記事のまとめです。

  • 脳卒中リハビリでは、漸増抵抗運動・電気刺激・課題指向型訓練などが筋力トレーニングに含まれる
  • 筋力トレーニングは筋力を向上させるが、歩行能力を向上させるとは言えない
  • “とりあえず10回3セット” ではなく、きちんと強度設定しましょう
  • “筋力トレーニングによって痙縮が悪化する” は誤解

以下、詳しく説明します。

脳卒中リハビリにおける “筋力トレーニング” とは何を指すか?

筋力トレーニングは、筋肉に強い負荷をかけることによって、筋力の向上を促すリハビリです。

怪我や病気のない、いわゆる健常者では、スポーツジムにおいてあるようなトレーニングマシンを使って筋力トレーニングを行います。

トレーニングマシンは脳卒中リハビリでも使用され、適切な負荷を徐々に上げていく漸増抵抗運動(Progressive Resistance Exercise:PRE)として扱われます。

ただ、脳卒中患者さんは筋力をうまく発揮することが難しいため、漸増抵抗運動以外の方法を使って筋力を向上させようとするリハビリもあります。

例えば、電気刺激療法です。

電気刺激を筋肉や神経に与え、電気によって筋肉を収縮させることで筋力の向上を促します。

また、課題指向型訓練というリハビリもあります。

階段の上り下りをするなど、脚・足の筋肉に負荷を与える運動を行うことで、脚・足の筋力向上を促します。

その他、バイオフィードバック、有酸素運動なども、負荷をしっかりかけられるのであれば筋力トレーニングになります。

これらのことから、脳卒中リハビリにおける筋力トレーニングは、トレーニングマシンを使った漸増抵抗運動だけではなく、電気刺激療法や課題指向型訓練など幅広いリハビリを指すと言えます。

要は、努力して反復的に筋収縮を試みるような介入は筋トレとして扱われる、ということです。

豆知識:脚に対する筋トレは漸増抵抗運動が理想的?
Wist S (2016)の研究によると、これら筋力トレーニングは膝関節・足関節それぞれの筋力を向上させる上で有効ですが、股関節に対しては有効ではないとされています。ただし、筋力トレーニングの中でも、漸増抵抗運動だけでみてみると股関節の筋力向上に有効である、という結果になっています。このことから、可能であれば漸増抵抗運動を採用するのが望ましいと考えられます。

筋力トレーニングの効果

腕・手への効果

腕や手への筋力トレーニングの効果は一部で報告されています。

Ada L(2006)の研究では、発症6ヶ月未満でかつ重力に抗して全可動域を動かすことができる脳卒中患者さんに対しては、腕や手の筋力を向上させる上で有効であることは報告されています。

一方で、発症6ヶ月未満で抗重力位で全可動域を動かすことができない患者さんや、発症6ヶ月以降の患者さんに対しては有効であるとは言えないと報告しています。

また、Salter K(2016)の研究では、発症から3ヶ月未満の患者さんに対しては有効とは言えない、と報告されています。

このことから、筋力トレーニングにより腕や手の筋力が向上する患者さんは発症3〜6ヶ月でかつ重力に抗して全可動域を動かすことができる脳卒中患者さんに限られる、と考えられます。

脚への効果

筋力トレーニングによって、脚・足の筋力が向上することが知られています(Veldema J, 2020; Wist S, 2016)。

ただし、腕や手と同様に、発症から3ヶ月未満の筋力トレーニングは有効とは言えないとされています(Salter K, 2016)。

また、筋力トレーニングは歩行能力の向上に対しては有効であるとは言えません(Wist S, 2016; Dorsch S, 2018)。

多くの場合、筋力を強化することで「歩きをよくしたい」と考えられていると思いますが、脳卒中患者さんに対する筋力トレーニングは「筋力を向上させると言えるものの、歩行能力を向上させるとは言えない」という結果になっています。

歩行動作は筋力だけでなく感覚やバランスなどの様々な要素によって成り立っています。

このような脳科学的な視点からも、筋力を向上させるだけでは歩きをよくすることは難しいことが想像できます。

なお、歩行能力を向上させたいのであれば、トレッドミルトレーニングなどの歩行練習を行うことが最も効果的です。

また、バランス(Berg Balance Scale スコア)に対しても同様の結果が報告されており、筋力トレーニングは有効ではない、とされています(Wist S, 2016)。

ですので、歩行能力やバランス能力の向上を目的に筋力トレーニングをやっている方は、筋力トレーニング+歩行練習もしくはバランス練習を組み合わせながら行うことをお勧めします。

筋力トレーニングで肝心な強度設定

筋力トレーニングの肝は強度設定です。

ある程度筋肉に負荷をかけなければ効果を期待できません。

筋力増強の効果を期待する上では下記のような強度設定を行う必要があります。

  • レッグプレス 70% 1RM 8〜10回3セット
  • サイクリング 50% 1RM 60分
  • レッグエクステンション 80% 1RM 6〜8回2セット

一方で、リハビリ現場で行われる筋力トレーニングは次のようなものが多いのではないでしょうか。

  • スクワット 10回3セット
  • 膝伸ばし 10回3セット
  • ブリッジ 10回3セット

これらのトレーニングの有効性を報告した信頼に足る研究は筆者が調べる限り見つかりません。

ブリッヂやスクワットなどはよく行われるリハビリですが、本当に効果を期待する上では役に立たない可能性があります。

患者さんにとっての回復の期間は貴重なので、筋力トレーニングを行うのであれば、しっかりと強度設定をすべきでしょう。

“筋力トレーニングで痙縮が悪化する” は誤解

よく「筋トレをすると痙縮が悪化するからやめたほうがいい」という意見を聞きませんか?

現状の科学からは、筋力トレーニングによって痙縮が悪化するとは言えませんので安心してください。

ただ、現在までに明らかになっていることと明らかになっていないことは整理して理解しておいた方がいいと思います。

痙縮の評価は2つに大別される

痙縮は脳卒中後の後遺症のひとつです。

痙縮を評価する方法は大きく分けて2種類あります。

ひとつは臨床評価です。

この中には痙縮の評価でよく使われるModified Ashworth Scale(以下、MAS)が含まれます。

その他、反射の検査(ホフマン反射、アキレス腱反射など)やpendulum testなどもこの臨床評価の中に含まれます。

もうひとつは誘発筋電図による評価です。

脊髄神経機能の興奮性の指標であるH波、F波という指標を用い、痙縮の状態を評価します。

臨床評価のように手軽に行うことができないですが、細かいレベルで痙縮の評価を行うことができるため、基礎研究ではよく使用されています。

筋トレによって痙縮が悪化するとは言えない

もし筋トレによって痙縮が悪化する、と結論づけるのであれば、筋トレをするグループと筋トレをしないグループとを比べた時、筋トレをするグループの方がMASのスコアが悪くなるとか、pendulum testの結果が悪くなるとか、誘発筋電図の評価が悪くなる、というデータが必要です。

このデータについて調べたのがVeldema J (2020) 、Ada L (2006) 、Morris SL (2004)のシステマティックレビューです。

豆知識:システマティックレビュー
複数の研究を集めて、ひとつの結果・結論を導き出す研究デザイン。リハビリの効果を推定する目的の場合、特定のテーマについて世界中のランダム化比較試験が集められることが多い。例えば、運動麻痺に対する課題指向型訓練の効果を調べたランダム化比較試験を100件集めてきて、100件の結果を解析することで課題指向型訓練の有効性を判断する、など。エビデンスピラミッドでは最高峰に位置する。

結果として、いずれのシステマティックレビューでも、筋トレをすることによって痙縮が悪化するとは言えない、と結論づけています。

誘発筋電図データを取れば結果が変わるかも

ただし、もしかしたら誘発筋電図データを取れば結果が変わるかもしれません。

先の3つのシステマティックレビューの結果は、臨床評価を通して痙縮の状態を判断しています。

つまり、筋トレを行ってもMASやpendulum testなどのスコアが悪化していなかった、というデータです。

誘発筋電図で痙縮の状態を評価すれば、もしかしたら細かいレベルでは痙縮が悪化しているということもあるかもしれません。

ただ、そちらについてはデータがないのでなんとも言えないところです。

(もし研究論文をご存知の方がいらっしゃいましたら情報をお寄せください!)

ですので、少なくとも現時点では筋トレによって痙縮が悪化するというエビデンスはなく、痙縮の悪化を理由に筋トレを避ける、というのは適切ではないと言えます。

注意
あくまでも一般的な観点からの話です。個人差がありますので、患者さんによっては筋トレ後に痙縮が強くなると感じる方がいらっしゃるかもしれません。本記事はエビデンスをもとに筋トレのメリットとデメリットを正しく捉えられるようにすることを目的としており、筋トレを推奨することを目的にしているものではございません。

現時点では “痙縮の悪化” を理由に筋力トレーニングを行わないという選択は不適切か

ここまで紹介してきた通り、筋力トレーニングはしっかりと強度設定を行えば、筋力向上に対して有効であると言えます。

昔から「筋トレをすると痙縮は悪化する」という説は根強いですが、現時点のエビデンスからは筋トレによって痙縮が悪化するとは言えないですし、むしろ筋トレは筋力を向上させるメリットがあります。

ですので、「痙縮が悪化するから筋トレを避ける」とか、患者さんが自主トレで筋トレに取り組まれているときに「痙縮が悪化するから筋トレはやめた方がいいですよ」と中断させてしまうのは適切ではないです。

筋トレのメリットとデメリットをエビデンスをもとに正しく捉え、フラットにリハビリの選択肢を提供できるようにしましょう。

筋力トレーニングのメリットとデメリット

メリットとデメリットは患者さんの状況や価値観などによって異なりますが、一般的なメリットとデメリットを紹介します。

メリット

  • 筋力を向上させる

意外かもしれませんが、脳卒中リハビリにおいて『筋力を向上させる』というコンセンサスが得られているのは筋力トレーニングのみです。

そして、筋力は、歩行能力などの動作に影響を及ぼします。

状況によっては筋力を向上させる必要がありますが、そのときに筋力トレーニングは唯一の選択肢になります。

これは他のリハビリにはない、筋力トレーニングのメリットと言えるでしょう。

デメリット

  • 筋力トレーニングだけでは動作がよくなる可能性が低い
  • 強度設定を間違えると効果を期待できない

上述の通り、筋力トレーニングは筋力を向上させる効果を期待できますが、動作を改善させる効果を期待することが難しいです。

リハビリは普段の生活をよくするために行われることが多いので、多くの場合は筋力トレーニングに加え歩行練習やバランス練習、課題指向型訓練など別のリハビリを併用する必要があります。

そのため、患者さんの負担が大きくなることが多いです。

また、強度設定を誤ると効果を期待することが難しくなります。

厳密な強度設定が肝心です。

筋力トレーニングはどこで受けられる?

筋力トレーニングは、簡便な方法であれば病院でも、訪問看護リハビリでも、自費リハビリでも、どこでも受けることが可能です。

一方、しっかりしたトレーニングを受けるのであれば機器が必要になりますので、受けられる場所は限られます。

具体的には機器が置いてあるデイケア、またはパーソナルトレーニング施設を利用した自費リハビリなどが選択肢になります。

いずれにせよ、施設の設備を確認しておくことをお勧めします。

筋力トレーニングを有効活用しよう

筋力トレーニングは、強度設定をしっかり行えば筋力向上に有効です。

ただし強度設定をしないブリッヂ運動、スクワット、膝伸ばし10回3セット、などは有効とは言えません。

筋力トレーニングを行うのであれば、専門家にみてもらいながら強度設定をしっかりと行うのが望ましいと言えます。

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参考文献

Ada L, Dorsch S, Canning CG. Strengthening interventions increase strength and improve activity after stroke: a systematic review. Aust J Physiother. 2006;52(4):241-8.

Salter K, Musovic A, F Taylor N. In the first 3 months after stroke is progressive resistance training safe and does it improve activity? A systematic review. Top Stroke Rehabil. 2016 Oct;23(5):366-75.

Dorsch S, Ada L, Alloggia D. Progressive resistance training increases strength after stroke but this may not carry over to activity: a systematic review. J Physiother. 2018 Apr;64(2):84-90.

Veldema J, Jansen P. Resistance training in stroke rehabilitation: systematic review and meta-analysis. Clin Rehabil. 2020 Sep;34(9):1173-1197.

Wist S, Clivaz J, Sattelmayer M. Muscle strengthening for hemiparesis after
stroke: A meta-analysis. Ann Phys Rehabil Med. 2016 Apr;59(2):114-24.

Ada L, Dorsch S, Canning CG. Strengthening interventions increase strength and improve activity after stroke: a systematic review. Aust J Physiother. 2006;52(4):241-8.

Morris SL, Dodd KJ, Morris ME. Outcomes of progressive resistance strength training following stroke: a systematic review. Clin Rehabil. 2004 Feb;18(1):27-39.