課題指向型訓練は、脳梗塞や脳出血(以下、脳卒中といいます)を発症した後のリハビリのひとつです。

麻痺した手でブロックをつかむ、ボールを投げる、麻痺した脚で段差を登る、などの運動課題を通して身体を動かし、運動障害の改善を図ります。

課題指向型訓練は、腕や手のリハビリにも、脚・歩行のリハビリにも使われます。

本記事では、脳卒中当事者の方へ向けて課題指向型訓練の実際や有効性について紹介します。

情報の信頼性について
・本記事はBRAIN運営責任者で理学療法士の針谷が執筆しています(筆者情報は記事最下部)。
・リハビリの効果や注意点に関しては、信頼性の高いシステマティックレビュー研究、ランダム化比較試験から得られたデータを引用しています。

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脳卒中リハビリにおける課題指向型訓練とは?

最初に、本記事のまとめです。

  • 課題指向型訓練は世界的に有効性が報告されているスタンダードなリハビリ
  • 課題指向型訓練は腕・手のリハビリとしても脚・歩行のリハビリとしても有効性が報告されている
  • メリットは『どの患者さんでも行えること』デメリットは『担当セラピストの知識・スキルによる可能性があること』

以下、詳細に説明します。

課題指向型訓練はスタンダードな脳卒中リハビリのひとつ

課題指向型訓練は、腕や手のリハビリとしても、脚や歩行のリハビリとしても有効なリハビリです。

課題指向型訓練の特徴は、名前の通り、運動課題を通してリハビリを行うところです。

例えば、腕や手のリハビリでは『ドアを開ける』『ブラシで髪をとかす』『ボールを持つ』『ブロックをつまむ』『コーンを積み上げる』などの運動課題を通して、麻痺した手を前に伸ばせるようになること(リーチ動作)や、物品を掴めるようになること(グラスプ動作)を目指します。

腕や手のリハビリとしての課題指向型訓練を説明する図
課題指向型訓練(腕・手)のイメージ

脚や歩行のリハビリでは『段差を上る』『椅子から立ち上がる』『線を跨ぐようにして足を前に出す』などの運動課題を通して、脚の運動能力や、歩行能力、バランス能力の向上を目指します。

脚や足のリハビリとしての課題指向型訓練を説明する図
課題指向型訓練(脚・歩行)のイメージ

課題指向型訓練は、派生型も存在しますが基本的に下記の4つの特徴を含みます。

①獲得を目標にしている課題が明確である
②課題の要素を細分化した下位課題の練習を行う
③課題の難易度調整を行う
④繰り返し実施する(反復)

例えば、『料理をするときに麻痺した手で野菜を押さえ、麻痺していない側で包丁を持ち、切れるようになりたい』という目標を立てたとします。

野菜を押さえる動作は、台所の上に手を持ち上げる、野菜を押さえる、などの下位課題(獲得したい課題/今回は『野菜を押さえる』)があります。

課題指向型訓練では、この下位課題をひとつずつできるようにしつつ、同時に目標課題(今回は『野菜を押さえる』)の練習もしていきます。

吹奏楽やサッカーなどのチームスポーツではパート練習と全体練習があると思います。

課題指向型訓練も同様に、パート練習と全体練習を組み合わせながら実施していきます。

ただ、下位課題もすぐにできるようになるわけではないので、課題の難しさを調整し、簡単な課題から難しい課題へステップアップしながら進めていきます。

これが課題指向型訓練のイメージです。

脳卒中患者さんへの課題指向型訓練の効果

日本脳卒中学会が出版している脳卒中治療ガイドライン2021では、課題指向型訓練は日常生活動作障害や、上肢機能障害に対するリハビリの方法として推奨されています。

腕や手への課題指向型訓練の効果

腕や手のリハビリとしての課題指向型訓練を説明する図

2016年のシステマティックレビューという研究で、課題指向型訓練は腕や手の運動パフォーマンス向上に対して有効であることが報告されています(French B, 2016)。

システマティックレビュー
複数の研究を集めて、ひとつの結果・結論を導き出す研究デザイン。リハビリの効果を推定する目的の場合、特定のテーマについて世界中のランダム化比較試験が集められることが多い。例えば、運動麻痺に対する課題指向型訓練の効果を調べたランダム化比較試験を100件集めてきて、100件の結果を解析することで課題指向型訓練の有効性を判断する、など。

運動パフォーマンス
複数の関節からなる運動、例えば腕や手ならリーチ動作、つかむ動作、つまむ動作などを指します。

発症から6ヶ月以上経過し、退院された患者さんに対しても有効であることが報告されています。

複数のランダム化比較試験を統合して考えると、慢性期の脳卒中患者さんへの効果としては、下記の効果が考えられます。

①重度の運動障害を持つ患者さんに対しては腕や手の運動機能を向上させる
②週5回以上の集中的な課題指向型訓練は上肢運動パフォーマンスを向上させる
③軽度の運動障害を持つ患者さんに対しては日常生活での麻痺手の使用状況を改善させる

リハビリの有効性を確認するときはガイドライン、システマティックレビュー、ランダム化比較試験の3種類の情報を主な情報源として判断しますが、腕や手への課題指向型訓練は、いずれの情報源からも有効性が報告されており、腕や手のリハビリとしては信頼できると言えます。

脚や歩行への課題指向型訓練の効果

2016年のシステマティックレビューという研究で、課題指向型訓練は歩行の自立度、歩行距離、バランス、脚の運動機能に対して有効であることが報告されています(French B, 2016)。

また、同研究では、発症から6ヶ月以上経過した脳卒中患者さんに対して有効である、という報告もされています。

なお、ランダム化比較試験のレベルでは慢性期の脳卒中患者さんに対する課題指向型訓練がバランスの向上に寄与する(Cha HG, 2016)、偽rTMS+課題指向型訓練は下肢の運動機能(FMALE)の向上に寄与する(Wang RY, 2012)といった報告もされています。

豆知識:脚・歩行の課題指向型訓練について
課題指向型訓練は腕・手にも、脚・歩行にも有効であるというデータがあることは間違いのない事実です。一方、課題指向型訓練は腕や手のリハビリとして研究されることが多く、脚や歩行のリハビリとしてはまだまだ研究数が少ないのが現状です。今後の研究次第では有効性の解釈が変わる可能性があります。

課題指向型訓練の実際のすすめかた

課題指向型訓練を実際に行うときのイメージをお伝えします。

いくつかの運動課題を用意する

患者さんが獲得したい動作につながる運動課題を複数用意します。

運動課題の用意をする上ではこちらの資料が参考になります。

また、課題指向型訓練には15のポイントがあり、これらを押さえておく必要があります。

15のポイントについて詳細に知りたい方はこちらをご覧ください。

1回あたり30〜60分、週2〜5回、1〜2ヶ月行う

課題指向型訓練は、多くの場合、1回あたり30〜60分、週2〜5回、1〜2ヶ月行われます。

1回のリハビリですぐによくなるわけではなく、ある程度根気強く、集中して行う必要があります。

一方で、CI療法と比べると週あたりの頻度が少なくても良い場合が多いです(患者さんのお身体の状態や目指す目標などにより個人差があります)。

課題指向型訓練がうまくいくかは担当セラピストに依存する部分も

課題指向型訓練は、患者さんにとって必要な運動課題を準備できるか、課題の難易度調整を適切に行えるか、といったうまくいくためのポイントがあります。

これらのポイントは患者さんご自身が気をつけるものではなく、担当セラピストが事前に準備したり、リハビリ中の患者さんの動きを確認しながら調整するものです。

したがって、担当セラピストに知識やスキルがあることが求められます。

課題指向型訓練のメリットとデメリット

メリットとデメリットは患者さんの状況や価値観などによって異なりますが、一般的なメリットとデメリットを紹介します。

メリット

  • CI療法と比べると1回あたりの時間や週あたりの頻度が少ないことが多い
  • CI療法では適応にならない中等度の運動障害がある患者さんも実施可能

課題指向型訓練はCI療法よりも柔軟な対応が可能なことが多いです(患者さんの状態や目標などによって個人差があります)。

CI療法は軽度の運動障害を持つ患者さんに対しては有効ですが、中等度〜重度の患者さんに対してはそもそも適応になりません。

中等度の運動障害をお持ちの患者さんであれば、CI療法はできなくても、課題指向型訓練を行うことができます。

なお、重度の運動障害をお持ちの患者さんに対しても課題指向型訓練を行うことは可能ですが、重度の運動障害に対しては電気刺激療法やミラーセラピー、運動イメージ療法など別の選択肢もあります。

デメリット

  • 効果の確実性にやや難がある(特に脚・歩行のリハビリとして)
  • 効果の大きさが担当セラピストに依存してしまう部分がある

『やれば確実に効果が出る』というリハビリが望ましいですが、特に脚・歩行のリハビリとして使う場合は効果が安定しないことが考えられます。

また、上述の通り、セラピストの知識やスキル次第で患者さんに提供される運動課題の種類や運動難易度が変わってしまうため、効果の大きさが担当セラピストに依存してしまう可能性があります。

課題指向型訓練はどこで行われる?

病院の図

以下、当事者の方へ向けた内容です。

課題指向型訓練はCI療法と異なり、1回あたりの時間が比較的短くても行える場合があったり、週あたりの頻度が少なくても行える場合があります。

このため、CI療法と比べると受けやすいリハビリであると言えます。

病院

脳卒中を発症した後の急性期病院や、回復期病院であれば豊富なリハビリ時間を確保できますので、課題指向型訓練を行うことが可能です。

入院中の方は、担当セラピストや医師に相談してみてください。

保険外(自費)リハビリ

保険外(自費)のリハビリは、医療保険や介護保険でのリハビリのような利用制限がなく、課題指向型訓練を行うことが可能です。

ただし、保険外である分、費用が高くなってしまうのが難点です。

資金に余裕があり、課題指向型訓練を受けたい場合は、保険外(自費)リハビリサービスを利用されることをお勧めします。

課題指向型訓練を行うことが難しい場所

一方で、退院後の外来リハビリやデイケア、訪問看護リハビリなどでは医療保険や介護保険の制度上の問題で、集中的なリハビリ時間を確保できないため、課題指向型訓練が行いにくくなります。

ただし、課題指向型訓練に限らず他のリハビリもそうですが、必ずしも週3回以上行わなければならないというわけではないので、効果は下がってしまうかもしれませんが週1〜2回でも受けることが可能です。

その場合は、外来リハビリや訪問看護リハビリでも受けることができます。

是非、担当セラピストに相談してみてください!

課題指向型訓練を有効活用しよう!

課題指向型訓練は脳卒中リハビリテーションの中でもとても有効なリハビリのひとつです。

ストレッチや筋力トレーニングは身体が柔らかくなったり筋力がつくことが報告されていますが、動作ができるようになることに対しては弱いです。

一方、課題指向型訓練は動作ができるようになることに強いリハビリになりますので、生活をよくしたいという方には有効なリハビリです。

課題指向型訓練を有効活用していきましょう!

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参考文献

French B, Thomas LH, Coupe J, McMahon NE, Connell L, Harrison J, Sutton CJ, Tishkovskaya S, Watkins CL. Repetitive task training for improving functional ability after stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2016 Nov 14;11(11):CD006073.

Cha HG, Oh DW. Effects of mirror therapy integrated with task-oriented exercise on the balance function of patients with poststroke hemiparesis: a randomized-controlled pilot trial. Int J Rehabil Res. 2016 Mar;39(1):70-6.

Wang RY, Tseng HY, Liao KK, Wang CJ, Lai KL, Yang YR. rTMS combined with task-oriented training to improve symmetry of interhemispheric corticomotor excitability and gait performance after stroke: a randomized trial. Neurorehabil Neural Repair. 2012 Mar-Apr;26(3):222-30.