5月6日(木)、国際医療福祉大学大学院の玉利誠先生にご登壇いただき、「脳の解剖的・機能的コネクティビティから考える脳画像の意義と脳卒中リハビリテーション」というテーマでBRAINの特別セミナーを開催しました。
ご講義は脳のコネクティビティ研究についてご紹介いただいた部分ももちろんありましたが、脳画像の意義や脳のコネクティビティ研究の技術的な限界について大変興味深いお話をいただき、個人的にも自戒を込めて、気をつけないといけないなと思ったことがあったので、共有させていただこうと思います。
脳のコネクティビティ
今回は脳のコネクティビティがテーマだったので、コネクティビティについて簡単に触れさせていただこうと思います。
脳のコネクティビティというのは、ざっくりと説明すると脳のつながりのことです。
脳はひとつの脳領域だけではたらくということはなく、基本的にチームを組んで仕事をしています。
チームではたらいているので、チームメンバーが負傷すると、チーム全体に影響がでます。
サッカーで例えると、通常は11人でひとつのチームですが退場者が出ると10人になったり9人になったりします。
それでもチームとして相手のゴールを奪い、自分のゴールを守るという仕事をしないといけないです。
その仕事をするために、残されたチームメンバーは自分の役割を変えたり、活動性(運動性)を変えたりします。
これが脳でも同じことが起こります。
脳卒中になると脳の一部が損傷することで(つまりチームメンバーの一員が機能しなくなってしまうことで)脳全体の活動性や、脳の別領域の役割が変化したりします。
これは機能解離(Diaschisis)と呼ばれる現象です。
機能解離は脳のコネクティビティがあるがゆえに生じる現象です。
そして先日のセミナーでは、解剖的な脳のコネクティビティと、機能的な脳のコネクティビティを教えていただきました。
解剖的な脳のコネクティビティとは、白質線維で脳領域同士が繋がっている、つまり構造的・解剖的に実際につながりを持つことを指します。
一方で、機能的な脳のコネクティビティとは、白質線維で脳領域同士が繋がっていない(物理的なつながりがない)のに同期して活動するつながりのことを指します。
これらのコネクティビティ研究には、トラクトグラフィーやfMRIといった機器や技術が用いられます。
脳のコネクティビティ研究の技術的な限界
そして玉利先生からは技術的な限界について教えていただきました。
いくつかかいつまんで説明すると、ひとつはRegion of Interest(以下、ROI)、ふたつ目はFA threshold、みっつ目はAngular thresholdです。
いずれも脳のコネクティビティを研究する機器でセッティングする条件であり、これらの条件を調整することで、コネクティビティの描出の仕方が変わってきます。
もう少し具体的に、悪い例でいうと、著者らが描出したいと思ったコネクティビティを、意図的に描くことができてしまうということです。
つまり、実際は存在しない(ほとんどの人で存在しないような)コネクティビティが、実在するかのように主張することが可能ということです。
そう考えると、脳のコネクティビティ研究を読むとき、著者らの主張通り鵜呑みにしてしまうことは危険ですよね。
ROIやFA threshold、Angular thresholdといった条件のセッティングが妥当だったのか判断する必要があります。
しかし、これは脳のコネクティビティ研究をしていない、一般のセラピストからすると極めて難しい作業です。
「ROIって何?」「FA thresholdって何?」「Angular threshold?」という話ですよね。
なので臨床で働く多くのセラピストからすると、脳のコネクティビティ研究を正しく読み解くことは困難を極めるということになります。
正しく読み取れなければ、誤った情報をもとに患者さんのリハビリを行なってしまう可能性があるというわけで、患者さんにとっては害になる可能性があります。
セラピストとしてはそれは避けたいですよね。
今回のセミナーを通して、改めて基礎研究領域は、その領域で研究されている先生にご講義いただくべきだと思いました。
脳科学研究を臨床応用するときの注意点
このように、その領域で研究されている先生にしかわからないことがあります。
例えば、皮質脊髄興奮性を調べるための反復経頭蓋磁気刺激(repetitive Transcranial Magnetic Stimulation:以下、rTMS)は磁気刺激のパラメータ設定があります。
皮質脊髄興奮性を調べる研究論文を読むときは、rTMSで設定されていた刺激のパラメータが妥当だったのかどうか判断しなければいけません。
脳卒中が脳の病気である以上、脳科学の勉強はしておかなければならないと思います。
「手足が動かしづらい」という運動障害の場合、「なぜ動かしにくいのか」という評価は、患者さんの手が動かせるようになるためのリハビリプログラムを組む上でとても大事です。
一方で、その脳科学の知識も正しい情報(正しい知識)でなければなりません。
正しい知識を得るためには、一般的なバイアスリスクの評価に加え、こういった専門的な機器の条件設定について詳しくなっていなければなりません。
ランダム化比較試験などの介入研究であれば、セラピストの方がリハビリのセッティングに詳しいので妥当性を判断しやすいと思いますが、脳科学の研究は要注意だなと思いました。
その領域で研究されている先生に教えていただくとか、自分自身が研究機器に触れてみるとか、そういう工夫をしてきちんと脳科学の研究を読み解くことが患者さんのより良いリハビリテーションにつながると思います。
本日は「脳のコネクティビティセミナーから学ぶ脳科学研究を読むときの注意点」というテーマでお話しさせていただきました。
BRAINでは脳卒中EBPプログラムというオンライン学習プログラムを運営しております。
2021年前期はおかげさまで満員御礼となりましたが、後期は10月から開始、募集は7月〜8月ごろから開始する予定です。
ご興味がある方はよかったらホームページを覗いてみてください。
それでは今日もリハビリ頑張っていきましょう!