嚥下障害とは、食べ物や飲み物を上手に飲み込めない状態のことです。

脳卒中を発症した後、特に急性期でよくみられる症状です。

飲み込みがうまくいかず、食べ物や飲み物が誤って気管に入ってしまい誤嚥性肺炎を引き起こすこともあります。

誤嚥性肺炎は生命に関わることもあるので、その原因になりうる嚥下障害へのリハビリは大事です。

このBRAIN脳卒中リハビリ情報局でも嚥下障害に対するリハビリについて紹介していますが、世界では色々なリハビリ方法が開発されたり、検証されています。

世界的に有効性が報告されているリハビリを行うことが望ましいと考えていますが、それよりもまず、世界的に使用されているアウトカム指標(検査・測定で使用される指標)をセラピストが使う、ということが大事です。

今回はこの点の解説と、世界的に使われている嚥下障害の3つの評価を紹介します。

世界的に使われている嚥下障害の3つの評価

まずは世界的に使われている嚥下障害の3つの評価を紹介します。

● Mann Assessment of swallowing Ability (MASA)
● penetration-aspiration scale (PAS)
● Functional Oral Intake Scale (FOIS)

MASAは嚥下障害のスクリーニング検査です。

200点満点で、点数が高いほど嚥下機能が良好であることを示します。

PASは嚥下障害の重症度をカテゴライズする検査です。

嚥下障害の評価として嚥下造影検査(以下、VF)というのがあります。

レントゲン室でX線を照射しながら、飲み込みが口から胃に至るまでどのように行なわれているのかをみるものです。

PASというのは、このVFを行なった時の飲み込みの状態について点数をつけるものです。

スコア1〜8の8段階になっていて、8に近づくほど嚥下障害が重度であることを示します。

FOISは実際に食事摂取するときの食形態や摂取状況などをカテゴライズするものです。

スコアが1〜7の7段階になっていて、1が経口摂取なし(つまり経管栄養)、7が制限なく常食を経口摂取可能、という状態を指します。

これらの3つが、嚥下障害へのリハビリ研究で世界的によく使われている検査・測定バッテリーになります。

嚥下の状態について点数をつけておけば、1ヶ月後や2ヶ月後の変化をみるときに比べやすいですよね。

数値にできない定性的な評価も大事なのですが、数値にできる検査を使用できれば、客観的な分析が可能になるので、数値で表す検査も併用するのが望ましいと思います。

世界的に使用されているアウトカム指標を使うべき理由

世界的に使用されているアウトカム指標を使うべき理由は、Evidence Based Practice(以下、EBP)を行いやすくなるからです。

EBPでは、患者さんのリハビリプログラムを立てるときにランダム化比較試験などの介入研究を参考にすることがあります。

「この患者さんに、こういうリハビリをやったら、嚥下障害がこれくらいよくなった」というデータをもとに、リハビリプログラムを決めていくイメージです。

例えば、Park JS (2016)のランダム化比較試験を参考にリハビリプログラムを立てる場合の例を紹介します。

この研究では、脳卒中患者さんに対して呼気トレーニングを週5回4週間行うことによって、従来の嚥下療法を行う場合よりも、PASのスコアやFOISのスコアが大きく変化した(よくなった)ことが報告されています。

論文の結果のところや、アブストラクトのところを読めば、PASやFOISについて知らなくても「嚥下障害がよくなったんだな」ということはわかるのですが、どれくらいよくなったのかまではわかりません。

一方で、PASやFOISについて知っていれば、何がどれくらいよくなったのかがわかります。

例えば、この研究ではFOISの平均スコアがおよそ3.5から5.4まで変化しています。

つまり2段階くらいはよくなっています。

FOISの3レベルは「経管栄養と均一な物性の食事の併用」を示し、5レベルは「さまざまな物性の食事を経口摂取しているが、特別な準備や代償が必要(刻み食のトロミかけなど)」を示します。

つまり経管栄養が外れて、刻み食やとろみつきであれば経口摂取できるようになる可能性が高いことを意味します。

こういった情報があれば、患者さんに効果を説明しやすくなりますし、リハビリのチームカンファレンスでも予後を説明しやすくなります。

最近はShared Decision Makingが注目されていますが、患者さんと一緒に意思決定していく上でも、効果について患者さんにわかりやすく説明することは大事です。

「このリハビリをやれば嚥下障害がよくなりますよ」という説明だけでなく、「このリハビリをやれば、経管栄養が外れて、刻み食やとろみつきであれば経口摂取できるようになる可能性が高いですよ」と説明して差し上げる方がわかりやすいですよね。

こういった意味で、世界的に使用されている検査・測定バッテリーを理解し、自分も使っておくというのがとても大事なことになります。

まずはこの3つを押さえよう

まとめます。

● 脳卒中の後遺症に嚥下障害がある
● 世界的に使われている嚥下障害の3つの評価はMASA、PAS、FOIS
● EBPのために世界的に使用されている評価を使った方がいい

嚥下障害の検査は、今回紹介した検査以外にも、色々あります。

世界的に使用されている検査・測定バッテリーを理解しておくことで、EBPがより良いものになるのは間違いないです。

世界のエビデンスに触れるために、まずは検査・測定バッテリーの理解から始めましょう!

本日は「世界的に使われている嚥下障害の3つの評価」というテーマでお話しさせていただきました。

参考文献

Park JS, Oh DH, Chang MY, Kim KM. Effects of expiratory muscle strength training on oropharyngeal dysphagia in subacute stroke patients: a randomised controlled trial. J Oral Rehabil. 2016 May;43(5):364-72.