嚥下障害に対するリハビリとして、世界的に行われているのが “行動性嚥下療法” です。

日本国内でも一般的に行われているもので、次のようなものを指します。

● 直接嚥下訓練
● 摂食のための姿勢のポジショニング
● 嚥下に関するアドバイス
● 食事の変更、修正
● 呼吸筋トレーニング など

脳卒中治療ガイドライン2015では、嚥下障害へのリハビリテーションのところで、行動性嚥下療法について推奨グレードB、とされています。

推奨グレードはA、B、C1、C2、Dの5段階があります。

Bは「行うよう勧められる」を意味しています。

今回は、行動性嚥下療法について最近のエビデンスを交え、簡単に紹介します。

2018年のコクランレビューで報告されている効果

脳卒中治療ガイドライン2015では推奨グレードBとされている行動性嚥下療法ですが、コクランレビューではどうでしょうか。

ちなみにコクランレビューというのは、方法が優れた、情報の信頼性が高いシステマティックレビューです。

メタアナリシスの結果として、嚥下障害患者の割合、嚥下能力、penetration-aspiration scale (PAS) といった各種アウトカムにおいて、何もしない場合などと比べて効果的であることが報告されています。

なお、嚥下能力についてはDysphagia Severity Rating Scale (DSRS)、Functional Oral Intake Scale(FOIS)といった摂取している食形態から点数をつけるアウトカムを採用しています。

penetration-aspiration scale (PAS)というのはVF検査の時の飲み込みの状態について1〜8でスコアリングするもので、嚥下障害の重症度を示します。

なので、行動性嚥下療法は、嚥下障害を改善させ、食形態を向上させる上で有効なリハビリであるということです。

2011〜2021年でよく行われている行動性嚥下療法

行動性嚥下療法は、複数のリハビリアプローチから成っています。

例えば冒頭で挙げたような、直接嚥下訓練や嚥下のアドバイスなどです。

2011〜2021年の10年間で、どのような行動性嚥下療法が研究されているか紹介します。

①呼吸筋トレーニング
機器や装置を使って吸気・呼気に抵抗をかけ、呼吸筋をトレーニングするリハビリです。

②口腔ケア
一般的な口腔ケアに加え、患者さんの介護者へ口腔ケアのやり方を伝え、介護者にやってもらうという方法です。

③努力性嚥下訓練
患者さんに強い力で飲み込みをしてもらうリハビリです。

④頭部挙上エクササイズ
背臥位で頭を持ち上げてキープしたり、繰り返し挙げたり下げたりする練習です。

⑤舌の筋力トレーニング(Tongue pressure strength and accuracy training: TPSAT)
舌を口蓋などに強く押しつける、舌の筋力トレーニングです。

⑥口腔神経筋トレーニング
唇でマウスピースを咥え、セラピストがそれを抜こうとする力に耐える、というリハビリです。

これらは主に研究の介入群で行われているものですが、その他、メンデルソン手技や嚥下に関するアドバイス、姿勢トレーニングなども対象群へのアプローチとして行われています。

介入群のリハビリも、対象群のリハビリもそれぞれリハビリの前後でみると嚥下障害のアウトカムが向上しているものがおおく、有効です。

なお、呼吸筋トレーニングについては一般的な行動性嚥下療法に加えて実施することでさらに高い効果を期待できそうです。

行動性嚥下療法を有効活用したい

まとめになります。

● 日本でも世界でも一般的な嚥下リハビリ
● ガイドラインやコクランレビューで嚥下障害に対する有効性が報告されている
● いくつものリハビリを含むが、呼吸筋トレーニングを加えるとさらに効果を期待できそう

セラピストや脳卒中患者さんの役に立つ情報になれば嬉しいです!

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2021年前期はおかげさまで満員御礼となりましたが、後期は10月から開始、募集は7月〜8月ごろから開始する予定です。

ご興味がある方はよかったらホームページを覗いてみてください。

それでは今日もリハビリ頑張っていきましょう!

参考文献

脳卒中治療ガイドライン2015

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