脳卒中患者さんのリハビリ方法のひとつに、課題指向型訓練があります。

課題指向型訓練は、上肢のリハビリとしても下肢のリハビリとしても利用されます。

名前の通り、運動課題を中心にリハビリプログラムを組み立てます。

明確に獲得を目標とする動作があり、その動作の獲得に向けて進めていきます。

例えば、ご飯を食べるときに麻痺した左手でお椀を持てるようになりたい、という目標をたて、お椀を持つ動作に必要な手の動きの練習や、肘の曲げ伸ばしの練習をしていきます。

課題指向型訓練は、脳卒中患者さんの上肢のリハビリとして世界的にコンセンサスが得られています。

実際、臨床現場で課題指向型訓練を行われている方も多いのではないでしょうか。

課題指向型訓練にはTimmermans AA (2010) が報告した15の要素があります。

この15の要素のうち、多くは自然と使われるものなのですが、「患者さんに合わせてカスタマイズしたトレーニング負荷」という要素だけは意識しないと使われることが少ないのではないかと思います。

これは重錘などを使って患者さんの運動に抵抗をかけることを指します。

一般的には、課題指向型訓練では重錘を使うことがあまりないです。

運動障害があって、上肢が動かしにくいわけですから、その状態で重錘を加えようとは思わないですよね。

ただ、重錘を加えて課題指向型訓練を行うことによって、より大きな効果が報告されているのも事実です。

今回はda Silva PB (2015) で使用された、重錘を使った課題指向型訓練のプログラムを紹介します。

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課題指向型訓練に60%MVCの重錘を加えた脳卒中リハビリプログラム

da Silva PB (2015) のランダム化比較試験の紹介です。

この研究は、70歳くらいの慢性期の脳卒中患者さんを対象にしています。

Fugl-Meyer Assessment Upper Extremity (以下、FMAUE)の平均スコアは35点くらいの方々が対象になっており、中等度の運動障害を有していたことが考えられます(FMAUEの最大スコアは66点です)。

以下、リハビリプログラムです。

課題指向型訓練
課題は対象者ひとりひとり異なるが、下記の原則を遵守
①麻痺側もしくは両側の運動
②日常生活動作(整容、食事動作など)の練習
③実際の物品操作を行う
④実際の環境に合わせて複数の運動面(矢状面・前額面・水平面)で実施
⑤10回繰り返し・3分休憩

重錘
60%MVCを麻痺側の上肢につけて実施

時間・頻度・期間
30分、週2回、6週間

MVCというのは最大随意筋力(Maximal voluntary contraction)を意味します。

100%MVCが、その人が発揮できる最大筋力を示します。

筋力トレーニングでは、最大筋力の40%や60%の負荷を設定し、反復できるようにします。

da Silva PB (2015) のプログラムでは、60%MVCに相当する重錘を麻痺側上肢に負荷しています。

このプログラムを週2回、6週間実施しました。

重錘を加えた方が大きい改善を示した

結果として、FMAUEの平均スコアは34.5 (9.0)点から41.7 (10.4)点まで向上しました。

この研究ではもうひとつのグループで重錘なしの課題指向型訓練を行なっています。

そちらのグループでは、FMAUEの平均スコアが35.0 (11.8)点から36.6 (11.2)点となっており、わずかな変化にとどまっています。

統計的な有意差も認められており、60%MVCの重錘を使った課題指向型訓練の方が大きい効果を示しました。

この研究からは、重錘を使った課題指向型訓練の方が良い、と言えます。

なお、筋緊張についても評価されています。

筋力トレーニングをすると痙縮が悪化する、というイメージがある人もいるかもしれません。

この研究では Modified Ashworth Scale(以下、MAS)を用いて痙縮の程度を評価していますが、MASの平均スコアはリハビリ開始前1.0、終了時も1.0であり、変化がなかったことを報告しています。

したがって、重錘を負荷することで痙縮が悪化するとは言えません。

また、この研究では週2回しか実施していないのに大きい効果が得られているのが特徴的です。

一般的に、慢性期の脳卒中患者さんに対する上肢のリハビリ研究は、週3〜5回行われていることが多いです。

これは課題指向型訓練に限らず、ミラーセラピーや電気刺激など他のリハビリでも同様です。

上肢機能の改善には頻度の高いリハビリが必要、ということがネックになっていて、回復期病院を退院した患者さんは十分に改善の機会が得られない、という課題があります。

ただ、週2回のリハビリは介護保険の訪問リハビリや外来リハビリでも再現可能です。

上肢機能の改善を目指している生活期の脳卒中患者さんには、光明になるでしょう。

一般的には課題指向型訓練+αの方が効果が大きい

課題指向型訓練の15のポイントのうち、あまり使われない「患者さんに合わせてカスタマイズしたトレーニング負荷」ですが、有効であることが報告されています。

有効であったという実例を知っておけば、リハビリの選択肢にも挙がりやすくなるのではないかと思います。

近年の研究では、課題指向型訓練のみの効果を検証する研究が少なくなってきており、課題指向型訓練+αの効果を検証した研究が増えてきています。

+αとしては電気刺激や、今回紹介した重錘などが当てはまります。

課題指向型訓練自体はコンセンサスが得られてきており、現代の研究は「いかに課題指向型訓練の効果を高めるか?」という視点に移りつつあるように思います。

ほとんどのケースでは電気刺激などを加えた方が大きい効果があったことを報告しているので、装置や機器、重錘などがあれば+αを選択した方がいいです。

まとめます。

● 脳卒中後の上肢リハビリとして課題指向型訓練がコンセンサスを得ている
● 課題指向型訓練には15のポイントがあり、その中に「負荷」がある
● 課題指向型訓練+60%MVCの重錘は課題指向型訓練のみよりも有効

本日は「課題指向型訓練に60%MVCの重錘を加えた脳卒中リハビリプログラム」というテーマでお話しさせていただきました。

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2021年前期はおかげさまで満員御礼となりましたが、後期は10月から開始、募集は7月〜8月ごろから開始する予定です。

ご興味がある方はよかったらホームページを覗いてみてください。

それでは今日もリハビリ頑張っていきましょう!

参考文献

Timmermans AA, Spooren AI, Kingma H, Seelen HA. Influence of task-oriented training content on skilled arm-hand performance in stroke: a systematic review. Neurorehabil Neural Repair. 2010 Nov-Dec;24(9):858-70.

da Silva PB, Antunes FN, Graef P, Cechetti F, Pagnussat Ade S. Strength training associated with task-oriented training to enhance upper-limb motor function in elderly patients with mild impairment after stroke: a randomized controlled trial. Am J Phys Med Rehabil. 2015 Jan;94(1):11-9.