脳卒中を発症すると腕や手に運動障害が生じます。

運動障害に対しては様々なリハビリ方法がありますが、その中の一つに電気刺激があります。

脳卒中リハビリで使用される電気刺激は、大きく分けると電気的筋刺激(Electric Muscular Stimulation:EMS)、経皮的電気刺激(Transcutaneou Electrical Nerve Stimulation: TENS)、筋電トリガー式電気刺激に分かれます。

それぞれ目的が異なり、目的に合わせて電気刺激を選択します。

一般的にTENSは痛みの緩和や痙縮の改善目的で使われることが多いので、運動障害に対して有効であるというイメージはあまり無いかもしれません。

ただ、脳卒中後の重度運動障害に対して、TENSを併用したリハビリを行うことによって、運動障害が大きく改善したと報告する研究があります。

今回はそのリハビリプログラムについて、Marquez-Chin C (2017) のランダム化比較試験を紹介させていただきます。

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脳卒中後の重度運動障害に対するTENSを使ったリハビリのやり方

この研究で採用された、電気刺激を使ったリハビリプログラムを紹介します。

ざっくりと説明すると、課題指向型訓練にTENSを組み合わせたリハビリです。

①課題指向型訓練
<内容>
リーチ動作、グラスプ動作、ピンチ動作の課題指向型訓練
<手順>
1) シンプルなリーチ動作
 初期は前方へ手を伸ばす、側方へ手を伸ばす、という単純なリーチ動作を練習
2) 身体をさわるリーチ動作
 対象者の口、反対側の膝、反対側の肩などへ手を伸ばす、というリーチ動作
3) 複雑な上肢の動作
 リーチ能力の向上とともに物品を使ったリーチ動作、グラスプ動作、ピンチ動作などの課題指向型訓練を実施
②TENS
<パラメータ>
周波数40Hz、パルス幅 0〜0.3ms、刺激強度10~50mA
<ターゲット筋>
a) 三角筋前部,中央部,後部,上腕三頭筋,上腕二頭筋(さまざまな手を伸ばす動作)
b) 橈骨屈筋,尺骨屈筋(手首の曲げ伸ばし)
c) 橈骨伸筋(手首の曲げ伸ばし)
d) 長橈骨筋・短橈骨筋および尺側伸筋(手首の伸展)
e) 表在性指屈筋および深在性指屈筋(指の屈曲)
f) 母指球(親指の屈曲)
g) 指伸筋および母指球I~IV(指の伸展および屈曲)
<手順>
ターゲット筋は、リーチ動作やグラスプ動作などを補助する筋を選定し、実施(課題指向型訓練で必要な筋を収縮させる)
③時間・頻度・期間
45分、週3〜4回、12週間
※平均すると合計40.4回、30.3時間の介入を受けたとの記載あり

まとめると、課題指向型訓練をベースにしつつ、運動障害によりうまく働かせられない筋に対してTENSを使ったアシストをする、というイメージです。

この研究では重度の運動障害を持つ回復期の患者さんが対象になっており、対象者のFugl-Meyer Assessment Upper Extremity(以下、FMAUE)の平均スコアは3.4点ほどです。

最大66点の検査ですので、3.4点というととても重度の運動障害を持っていることがわかります。

重度運動障害が改善するという結果に

12週間、上記のリハビリを実施した結果、FMAUEの平均スコアは3.4 (4.8) 点から30.6 (15.5) 点へ改善しました。

なお、この研究ではもうひとつグループが設定されており、そちらではエクササイズのみを行なっています。

この電気刺激なしグループも1日あたり45分、週3〜4回、12週間のエクササイズを実施しているのですが、FMAUEの平均スコアは4.4 (4.6) 点から 9.6 (13.7) 点への改善にとどまっています。

電気刺激を併用したグループが30.6点であったのに対し、電気刺激を併用しないと9.6点に留まってしまうというのは衝撃的な結果です。

このエビデンスから考えるなら、リハビリには電気刺激は併用した方がいいと言えるでしょう。

患者さんに合わせてリハビリを選択できるようにしておく

上肢の運動障害に対するリハビリは数多くあります。

ただ、どの患者さんに対しても有効なリハビリというのは無いですし、それぞれのリハビリの中で適切にプログラムを組まなければ効果は期待できません。

重度の運動障害を持つ患者さんに対してはミラーセラピーや電気刺激が有効であると報告されています。

本日紹介したリハビリプログラムはTENSを課題指向型訓練に併用させるもので、日本の回復期リハビリ病院でも再現可能なプログラムです。

セラピストの皆さんのリハビリの選択肢がひとつ増えたら嬉しいです。

まとめます。

● 電気刺激は脳卒中後の運動障害に対して有効
● 重度の運動障害に対してTENS+課題指向型訓練が有効
● 患者さんに合わせてリハビリプログラムを選べるよう、引き出しを多くしておく

参考文献

Marquez-Chin C, Bagher S, Zivanovic V, Popovic MR. Functional electrical stimulation therapy for severe hemiplegia: Randomized control trial revisited. Can J Occup Ther. 2017 Apr;84(2):87-97.