日本の場合、回復期までは充実したリハビリを受けることができますが、回復期を退院すると途端にリハビリが制限されます。
回復期までは毎日3時間、週7回のリハビリを受けられていたのに、退院すると介護保険の訪問リハビリでは週2回60分か、週3回40分ずつになってしまいます。
慢性期の脳卒中患者さんも運動機能は改善しますが、多くの研究では1回60分、週3回以上のリハビリを実施していますので、「リハビリの量が足りない」という問題が出てきます。
なので、セラピストがいない時間にホームエクササイズを行なっていただく、という手があります。
リハビリの量を確保することで少しでも改善に近づけよう、という意図です。
とは言え、ホームエクササイズだとセラピストが患者さんの実際の運動を確認できないので、難易度調整が難しかったり、課題の選択が難しかったりします。
また、患者さん自身もホームエクササイズをやったりやらなかったりすることがどうしてもあるので、コンスタントな効果を期待するのが難しいです。
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上肢のホームエクササイズの効果は否定的であるが…
実際、上肢の運動障害へのホームエクササイズの効果を検証した2012年のコクランレビューでは、通常ケアと比べてADLや運動パフォーマンス、上肢の運動機能を向上させるとは言えない、と結論づけています。
ただ、このエビデンスには注意点があります。
ひとつ目は2012年に発行されており、このシステマティックレビューの最終検索日が2011年5月であるということです。
2011年6月から現在まで10年経過していますが、10年の中でホームエクササイズの研究が増え、2021年までに公表された研究を含めれば、結果が変わるかもしれません。
ふたつ目は取り込まれた研究の少なさです。
合計4件しか研究が取り込まれておらず、2011年まではそもそも上肢のホームエクササイズに関する研究が少なかったことが窺えます。
ひとつ目の注意点と重複しますが、研究数が増えたときに結果が変わるかもしれません。
ここまでまとめると次の通りです。
● 日本の場合、回復期病院を退院した後、十分にリハビリを受けられる環境ではない
● 訪問リハビリ+ホームエクササイズが光明になりそう
● 上肢に対するホームエクササイズは2012年時点では否定的だが研究数が増えれば結果が変わるかも
これを踏まえて、本記事では電気刺激+課題指向型訓練のホームエクササイズで、慢性期の脳卒中患者さんの上肢機能が向上したことを報告したランダム化比較試験を紹介します。
Page SJ (2012) のランダム化比較試験
この研究では慢性期の脳卒中患者さんに対するホームエクササイズの効果を検証したランダム化比較試験です。
ホームエクササイズの内容は電気刺激+課題指向型訓練です。
ホームエクササイズは週5回、8週間行なっています。
これに加え、セラピストが隔週(1週目、3週目、5週目、7週目)に訪問し、課題指向型訓練の難易度調整を行なっています。
課題指向型訓練をはじめリハビリというのは難易度調整が肝になるので、この点はしっかりセラピストがフォローしています。
また、この研究ではホームエクササイズの実施時間でグループ分けしてます。
ひとつ目のグループは30分、ふたつ目のグループは60分、みっつ目のグループは120分、それぞれホームエクササイズを実施しています。
結果としては、もちろん120分のグループがほとんどのアウトカムにおいて他のグループよりも良好な結果を示しています。
よくなったアウトカムとしては麻痺側上肢の運動機能(単関節運動や分離運動など)を評価するFugl-Meyer Assessmentの上肢項目(以下、FMAUE)や上肢のリーチ動作やグラスプ動作などの運動パフォーマンスを評価するAction Research Arm Test(以下、ARAT)などが挙げられます。
ホームエクササイズの内容次第で良くなるということ!
ホームエクササイズを患者さんに伝えるとき、多くの場合はストレッチ1回30秒とか、筋トレ10回3セット、という形で伝え、かつ1回伝えたらおしまい、になっていることが多いのではないでしょうか。
近年ではホームエクササイズによって麻痺側上肢の運動性が向上したと報告する研究も散見されています。
要は、ホームエクササイズの内容次第で上肢機能は良くなる、ということです。
慢性期ではICFでいう心身機能・身体構造面に焦点が当たらないことが多いですが、改善を希望されている患者さん・利用者さんに対しては、改善を目指すためのリハビリプログラムを提供する必要があります。
そのためには、セラピスト側にリハビリの引き出しがないといけません。
電気刺激装置は購入していただく必要があるのですが(家庭用であれば数万円で手に入ります)、今回紹介したエビデンスのように、訪問リハ+ホームエクササイズで上肢機能がよくなったというエビデンスを知っておくことが、セラピストの引き出しを増やすこと、患者さんの改善の可能性を高めることにつながります。
皆様の役に立つ情報になれば幸いです。
参考文献
Coupar F, Pollock A, Legg LA, Sackley C, van Vliet P. Home-based therapy programmes for upper limb functional recovery following stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2012 May 16;(5):CD006755.
Page SJ, Levin L, Hermann V, Dunning K, Levine P. Longer versus shorter daily durations of electrical stimulation during task-specific practice in moderately impaired stroke. Arch Phys Med Rehabil. 2012 Feb;93(2):200-6.