脳卒中患者さんの上肢のリハビリのひとつにミラーセラピーがあります。
ミラーセラピーは、鏡を使って、麻痺手が動いているかのように錯覚を起こさせるリハビリです。
世界的に有効性が報告され、コンセンサスが得られているリハビリです。
先日発行された脳卒中治療ガイドライン2021では日常生活動作障害へのリハビリテーションとして推奨度Bとされています。
また、2018年のThieme H (2018) のコクランレビューでは、運動パフォーマンス、運動機能、日常生活動作の自立度、などのアウトカムに対して有効であることが報告されています。
このように世界的にコンセンサスが得られている上肢のリハビリは、他にも課題指向型訓練やCI療法などがありますが、ミラーセラピーの特徴の一つは重度運動障害の患者さんへの効果も報告されているということです。
CI療法は、ご存知の通り手関節が背屈できるとか手指が伸展できるとか適応のための基準が設けられており、軽度運動障害の患者さんにしか適応できません。
課題指向型訓練は適応の基準はありませんが、2011年以降、バイアスリスクの低い研究に絞ると、中等度〜軽度運動障害を有する方へのランダム化比較試験が多いです。
ちなみに私が調べる限り、最も重症度が高い方々を対象にした課題指向型訓練のランダム化比較試験はArya KN (2012) の研究で、対象者のFugl-Meyer Assessment Upper Extremity(以下、FMAUE)の平均点数は11.98点です。
FMAUEは66点満点の検査で、これでもかなり重度な方になるのですが、ミラーセラピー研究では11.98点を下回る患者さんを対象にした研究がいくつかあります。
一番点数が低いのが1.7点の患者さんを対象にしたThieme H (2013) のランダム化比較試験です。
本記事ではこのThieme H (2013) のランダム化比較試験を踏まえ、重度の運動障害を持つ脳卒中患者さんへのミラーセラピーの進め方について考えます。
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Thieme H (2013) のランダム化比較試験
この研究は、重度の運動障害をもつ回復期の脳卒中患者さんに対するミラーセラピーの効果を調べています。
合計60人の患者さんを3つのグループに分けています。
ひとつ目のグループは「個別ミラーセラピー」グループです。
これはセラピスト1人と患者さん1人のマンツーマンでミラーセラピーを行うグループです。
ふたつ目のグループは「グループミラーセラピー」グループです。
これはセラピスト1人に対し、患者さん2〜6人の複数人でミラーセラピーを行うグループです。
みっつ目のグループは「偽ミラーセラピー」グループです。
これはミラーセラピーと同様のセッティングをするのですが、鏡が板になっており、視覚フィードバックを得られないようになっているものです。
これらの条件の下、30分、週4回、5週間のミラーセラピーが行われています。
ミラーセラピーは際立って有効とは言えない結果に
結果として、各グループでFMAUEスコアは向上しているのですが、グループ間の統計的な有意差はありませんでした。
少なくとも、この研究からは、重度運動障害の患者さんに対するミラーセラピーは、際立って有効であるとは言えない結果になりました。
以前、ミラーセラピー+筋電トリガー式電気刺激が重度の運動障害をもつ患者さんに対して有効だったことを報告したSchick T (2017) のランダム化比較試験を紹介しました。
まだ研究数が少なく仮説の段階ですが、重度運動障害の患者さんへミラーセラピーで効果を期待するなら、筋電トリガー式の電気刺激を併用することが求められるのかもしれません。
まとめます。
● ミラーセラピーは世界的にコンセンサスが得られているリハビリの中で、重度運動障害の患者さんへの効果を検証した研究が比較的多い
● Thieme H (2013)のランダム化比較試験では、ミラーセラピー単体では際立って有効とは言えない結果になった
● 筋電トリガー式電気刺激を併用したSchick T (2017)のランダム化比較試験では重度運動障害の患者さんへ有効性が報告されていることから、重度運動障害の患者さんへミラーセラピー+筋電トリガー式電気刺激が有効かもしれない
参考文献
Thieme H, Morkisch N, Mehrholz J, Pohl M, Behrens J, Borgetto B, Dohle C. Mirror therapy for improving motor function after stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2018 Jul 11;7:CD008449.
Arya KN, Verma R, Garg RK, Sharma VP, Agarwal M, Aggarwal GG. Meaningful task-specific training (MTST) for stroke rehabilitation: a randomized controlled trial. Top Stroke Rehabil. 2012 May-Jun;19(3):193-211.
Thieme H, Bayn M, Wurg M, Zange C, Pohl M, Behrens J. Mirror therapy for patients with severe arm paresis after stroke–a randomized controlled trial. Clin Rehabil. 2013 Apr;27(4):314-24.
Schick T, Schlake HP, Kallusky J, Hohlfeld G, Steinmetz M, Tripp F, Krakow K, Pinter M, Dohle C. Synergy effects of combined multichannel EMG-triggered electrical stimulation and mirror therapy in subacute stroke patients with severe or very severe arm/hand paresis. Restor Neurol Neurosci. 2017;35(3):319-332.