本記事では、脳卒中患者さんの上肢に対するストレッチについて、システマティックレビュー論文をもとに大局的に見たときの効果について検証します。
最初に、本記事のまとめです。
- 関節可動域制限の背景には痙縮がある患者さんが多い
- ストレッチには手関節の痙縮を抑制する効果はあるが関節可動域制限を改善させる効果はあるとは言えない
- なぜストレッチを行うのか?と自分に問う
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関節可動域制限の背景にある痙縮
関節可動域制限というのは、関節が動く範囲(関節可動域)が本来の範囲よりも小さくなってしまうことです。
例えば、病気や怪我のない健常者の手関節は、70° 背屈できると言われています。
しかし、脳卒中などにより背屈の反対方向である掌屈方向へ曲がり・固くなってしまい、誰かに動かそうとしてもらっても背屈方向へ動かせなくなってしまうことがあります。
これを関節可動域制限と言います。
脳卒中患者さんの関節可動域制限の原因はまず筋肉が固くなることです。
しかし、なぜ筋肉が固くなるのでしょうか。
背景には痙縮という筋緊張の問題があることが多いです。
痙縮というのは異常な神経の興奮によって特定の筋肉を意図せず収縮させてしまう現象です。
脳卒中を発症した後は痙縮が表れることが多く、これにより筋肉を収縮・固くさせてしまい、関節可動域制限に繋がるケースが多いです。
そしてこの痙縮・関節可動域制限に対し、リハビリではストレッチが行われることが多いです。
しかし、ストレッチは本当に効果があるのでしょうか。
上肢の痙縮に対するストレッチの効果
Salazar APら(2019)は、脳卒中患者さんに対するストレッチは、何もしない場合や通常のケアをする場合などと比べて、手関節の痙縮に有益であることを報告しています。
【手関節屈曲(MAS)】
Salazar AP, 2019
MD -1.89 (-2.44, -1.34) I2=79%
注意点としては、この結果を導いた3件のランダム化比較試験では、いずれもストレッチングデバイスを使用し20〜40分持続的にストレッチしていた、という点です。
5分〜10分の徒手的なストレッチをして得られた結果ではないということです。
上肢の関節可動域制限に対するストレッチの効果
Salazar APら(2019)は、脳卒中患者さんに対するストレッチは、何もしない場合や通常のケアをする場合などと比べて、肩関節や手関節の関節可動域制限に有益であるとは言えないという結果を報告しています。
【肩関節外旋ROM】
Salazar AP, 2019
MD 3.50 (-3.45, 10.45) I2=55%
【肩関節屈曲ROM】
MD -1.20 (-8.95, 6.55) I2=0%
【手関節伸展ROM】
MD -0.32 (-6.39, 5.75) I2=38%
痙縮を抑制する効果はあるものの、関節可動域制限を改善させる効果があるとは言えないようです。
“ストレッチから始めましょう!” に意味があるか?
私が学生〜新卒のとき、ストレッチと筋トレは運動療法の王様でした。
何か課題の練習をする前には必ずストレッチをしていたように思います。
ですが現状のエビデンスは、セラピストが徒手的に行うストレッチの効果について肯定的ではありません。
ストレッチで効果(痙縮を抑制する)を出そうとするならストレッチングデバイスを用い、患者さんにリハビリ以外の空き時間にストレッチをしておいていただいた方が効果が高そうです。
“じゃあ今日もストレッチから始めましょう!” から卒業し、より良いリハビリテーションを患者さんと選べると良いですね!
参考文献
Salazar AP, Pinto C, Ruschel Mossi JV, Figueiro B, Lukrafka JL, Pagnussat AS. Effectiveness of static stretching positioning on post-stroke upper-limb spasticity and mobility: Systematic review with meta-analysis. Ann Phys Rehabil Med. 2019 Jul;62(4):274-282.