先に本記事のまとめを記載しております。

  • ミラーセラピーは鏡を使うリハビリテーション
  • 脳卒中後の上肢運動パフォーマンス向上に効果がある
  • 鏡の大きさ、麻痺手を動かすかどうかは結果に大きく影響を及ぼさないが、物品操作は避けたほうがいい

興味がある方は是非続きをお読みください。

脳卒中EBPプログラム【上肢の運動障害コース】
課題指向型訓練やCI療法、ミラーセラピーや運動イメージなど、麻痺側上肢のリハビリとしてコンセンサスが得られているリハビリを、エビデンスに基づいて実践できるようになるためのオンライン学習プログラムです。6ヶ月にわたり、病態・検査・リハビリのやり方を学びます。
脳卒中EBPプログラム【上肢の運動障害コース】はこちら

ミラーセラピーとは?

ミラーセラピーは、鏡を使って麻痺側の上肢や下肢をあたかも運動障害なく動かせているように錯覚をさせるリハビリ方法です。 

錯覚によって上肢の運動障害や痛みなどの改善を期待します。

ミラーセラピーの手順は次の通りです。

①座ったまま左右の手の間に鏡を挟む(鏡面が非麻痺側になるようにする)
②左右の上肢が同じポジションになるようにする
③非麻痺側の上肢を動かす
④患者さんは鏡面を見ておき、麻痺側の上肢が動いているような錯覚を起こさせる

リハビリ室にある姿鏡(大きい鏡)を利用しても行えるので、すぐ実践できます。

ミラーセラピーの独自の効果(錯覚)は課題指向型訓練などの他の治療方法では再現できない、独特の要素です。

セラピストの治療オプションとしてミラーセラピーを提供できるようにしておくと、患者さんに大きなメリットがあるでしょう。

なお、脳卒中治療ガイドライン2015では、上肢の運動麻痺へのリハビリテーションにてグレードBとされています。

また、コクランレビューも定期的に公表されており、エビデンスが集積されているリハビリ方法です。

ミラーセラピーの上肢の運動障害への効果

さて、ミラーセラピーの効果ですが、脳卒中後の運動障害に対しては有効性が報告されています。

例えば、2018年に出版されたコクランレビューでは、基本的に「治療をしない場合あるいはミラーセラピー以外の治療をする場合」と比べると運動パフォーマンス向上に有益であると言える結果になっています。

特に、鏡を見ない場合(ミラーボックスの鏡を隠し、非麻痺側の上肢の運動しか見えないようにする場合)と比べると大きな効果が報告されており、麻痺手が動くように見える、ということが重要な要素であることがうかがえます。
 
ただし、「標準的なリハビリ」と比べると効果があるとは言えない、という分析結果も出ており、どういう患者さんにはミラーセラピーを適応すべきで、どういう患者さんには適応すべきでないか、については今後深く検証していく必要があると考えています。

ミラーセラピーの条件設定

ミラーセラピーを実施するとき、次の条件を設定する必要があります。

①麻痺側の上肢を動かすか動かさないか
②物品操作をするかしないか
③鏡は大きいほうがいいか小さいほうがいいか

ミラーセラピーの肝は「麻痺側上肢の錯覚」なのですが、麻痺側の上肢を動かしたときに「上肢が思ったよりも動かない」とか「物品を操作できない」ということが起こると、錯覚が解けることがあります。

また、鏡が小さいと手の動きが鏡面をはみ出てしまい、視覚情報が途絶え、錯覚が解けることがあります。

したがって、これらの条件をセッティングし錯覚をコントロールすることが必要になります。

では実際、どのような条件が望ましいのでしょうか?
 

Morkisch Nら(2019)はこの条件についてシステマティックレビューを行い、次の結果を報告しています。

①麻痺側の上肢は動かす・動かさないで効果に違いがあるとは言えない
②物品操作をすると効果があると言えなくなる
③鏡は大きい・小さいで効果に違いがあるとは言えない

物品操作をして運動障害の改善を報告したランダム化比較試験もいくつかあるのですが、大局的に見ると、物品操作をしない方が良さそうです。

麻痺側の上肢を動かすか動かさないか、大きい鏡を使うか小さい鏡を使うかはどちらでも良さそうです。

ミラーセラピーに対する私見

ミラーセラピーは、運動イメージ療法や運動観察療法と同じカテゴリーだと考えています。

CI療法や課題指向型訓練は実際に手を動かすことで運動パフォーマンスの改善を目指しますが、ミラーセラピーや運動イメージ療法、運動観察療法は麻痺側の手を動かさず、錯覚やイメージを利用して改善を目指すものです。

前者の “実行系” のリハビリと、後者の “イメージ系” の課題は、おそらく活動している脳領域も異なるでしょうから、脳の損傷部位や病態によって使い分けられるべきなのではないかと思っています。

ただし、現状は “実行系” のリハビリを実施すべき、 “イメージ系” のリハビリを実施すべき、という判断基準がありません。

上記のエビデンスに加えて、脳科学の知識や患者さんが示す現象から判断する他ない状況ですが、そういったケースレポート、ケースシリーズが集まれば判断基準の作成を後押しするのではないかと思います。

その仕事は私たち臨床現場で働いているセラピストの仕事だと思うので、みんなで積み重ねていけると良いですよね。

参考文献

  1. Thieme H, Morkisch N, Mehrholz J, Pohl M, Behrens J, Borgetto B, Dohle C. Mirror therapy for improving motor function after stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2018 Jul 11;7:CD008449.
  2. Zeng W, Guo Y, Wu G, Liu X, Fang Q. Mirror therapy for motor function of the upper extremity in patients with stroke: A meta-analysis. J Rehabil Med. 2018 Jan 10;50(1):8-15.
  3. Morkisch N, Thieme H, Dohle C. How to perform mirror therapy after stroke? Evidence from a meta-analysis. Restor Neurol Neurosci. 2019;37(5):421-435.