『ガイドラインに “推奨されるリハビリ” が書いてあるのは知ってるけど、結局臨床でどうすればいいの?』
…というお悩みを感じたことはないでしょうか。
日本の脳卒中リハ領域で主に使われるガイドラインは『脳卒中治療ガイドライン2021』と『理学療法ガイドライン第2版』です。
一応、一度も読んだことのない方のために説明すると、『こういう状況ではこういう治療(リハビリ含む)を推奨するよ』という指針が書いてある文書です。
例えば、
- 運動麻痺に対してはCI療法を行うことを推奨する
- 歩行障害に対してはトレッドミルトレーニングを行うことを推奨する
- 失語症に対しては言語聴覚療法を行うことを推奨する
…のようなことが書かれています。
それぞれ日本脳卒中学会という医師の学会と、日本理学療法士協会という理学療法士の学会が主体となって策定されたものです。
ただ、ガイドラインは使い方がわかりづらいですよね。
『へぇ〜、こういう治療法が推奨されてるんだ』ということはわかっても、目の前の患者さんにこの情報をどうやって適用するか、がとても見えにくいと思います。
結論をお伝えすると、ガイドラインだけ活用するのではなく、別の文献と合わせて活用することで臨床に落とし込みやすくなります。
今回は、リハビリにおけるガイドラインの活用法を紹介します。
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診療ガイドラインを活用する方法
最初に結論です。
ガイドラインは単体で使うのではなく、
ガイドライン→システマティックレビュー研究→ランダム化比較試験
という順序で文献を読むことで活用できます。
ここまでやることによって
- 自分の担当患者さんにCI療法を1日1時間、週5回、3週間実施すればよいんだな!
- 自分の担当患者さんにトレッドミルトレーニングを1日30分、週5回、4週間実施すればよいんだな!
- 自分の担当患者さんに言語聴覚療法を1日45分、週5回、2週間実施すればよいんだな!
…という形で具体的なリハビリプログラムに落とし込むことができます。
システマティックレビューやランダム化比較試験とか難しい言葉が出てきていますが、あとで詳しく解説していきます。
診療ガイドラインとは?
そもそもガイドラインとは何か、について説明します。
まず前提をお伝えすると、世界には色々な治療法(リハビリも含む)があります。
その中には有効な治療法もあれば有効でない治療法もあります。
ガイドラインというのは、簡単に言うと、『世界で報告されている無数の治療法の中から有効な治療法を厳選して教えてくれる文書』です
厳密にはちょっと違うのですが、ガイドラインが何なのかご存知ない方は、まずこのように認識していただければと思います。
有効な治療法を “推奨する治療” として教えてくれるので、基本的にはガイドラインで推奨されている治療(リハビリ)を行えば、大外れな治療(リハビリ)を行うことがありません。
反対に、ガイドラインで推奨されていない治療法というのは世界的に有効性が認められていない治療であることが多いので、ガイドラインに記載されていない治療法を選んでしまうと、リハビリをしたのに思いのほか患者さんがよくならない、ということが起こり得ます。
患者さんによくなってほしいのであれば、基本的にはガイドラインにしたがってプログラムをつくっていくことをお勧めします。
日本の脳卒中領域では脳卒中治療ガイドラインと理学療法ガイドライン第2版が主に使われており、これらのガイドラインの推奨にしたがってプログラムをつくればOKです。
診療ガイドラインの作成方法
続いて、ガイドラインの作成方法について簡単に説明します。
こちらmindsの診療ガイドライン作成マニュアルに記載されている手順です。
今回は臨床家向けに話すので難しいことは割愛します。
ポイントだけ話すと、
- 世界中のエビデンスが集められる
- 世界中のエビデンスをまとめて何が有効で何か有効でないのか判断する
- まとめたデータをもとに推奨を与える
つまり、ガイドラインというのは日本脳卒中学会や日本理学療法士協会が独断と偏見に基づいて作成した文書ではなく、世界中のエビデンスを踏まえて、有効な治療法に推奨を与えた文書であるということです。
なので、ガイドラインの推奨に従って治療(リハビリ)を行えば患者さんがよくなる可能性が高いのです。
診療ガイドライン活用で生じる問題
ただ、『推奨されているリハビリをやるっていったって、どうやればいいの?』という疑問がわくと思います。
例えば、理学療法ガイドライン第2版、脳卒中理学療法ガイドラインのCQ7、54ページにはこのように記載されています。
『ガイドラインの推奨に従って治療(リハビリ)を行えば患者さんがよくなる可能性が高い』とお伝えしましたが、私たち臨床のセラピストはリハビリプログラムをつくるとき
- どのリハビリをやるか
- どれくらいの時間をやるか
- どれくらいの頻度をやるか
- どれくらいの期間をやるか
…などを細かく決めなければいけません。
この中で、ガイドラインの推奨に従って決められるのは
● どのリハビリをやるか→今回の例でいうと『トレッドミルトレーニング』
くらいなもので、
- 『トレッドミルを1回何分やればいいの?』
- 『トレッドミルを週何回やればいいの?』
- 『トレッドミルを何週間やればいいの?』
さらに細かいところで言うと
- 『トレッドミルの速度はどれくらいで行えばいいの?』
- 『休憩時間は入れなくていいの?』
- 『トレッドミルの坂道設定はあったほうがいいの?ないほうがいいの?』
などの条件設定ができません。
セラピストはこれを決めないとトレッドミルトレーニングを行えないので、つまりガイドラインに記載されている推奨だけ見てもリハビリプログラムを立てられないのです。
ガイドラインの推奨をもとにリハビリプログラムを立てる場合、
- どれくらいの時間をやるか
- どれくらいの頻度をやるか
- どれくらいの期間をやるか
- 状況によってはそのほかの細かい設定
について情報を補完しないといけません。
システマティックレビュー研究で情報を補完する
その情報を補完してくれるのがシステマティックレビュー研究です。
システマティックレビューというのは情報をまとめる研究のことです。
色々な情報が手に入るのですが、手に入る情報のひとつに『リハビリプログラムがどういう条件で有効なのか』があります。
例えば2017年に出版された【Treadmill training and body weight support for walking after stroke.】というのシステマティックレビュー研究ではこのようなことが記載されています。
トレッドミルトレーニングで歩行速度を向上させる場合は
- 週5回以上の実施は有効
- 週3回以上の実施は有効
- 週3回未満の実施は有効とはいえない
というデータが出ています。
このことから『トレッドミルトレーニングを行うなら週3回以上実施するべきである』と言えます。
一方で、リハビリの期間はどうでしょうか。
トレッドミルトレーニングで歩行速度を向上させる場合は
- 4週間以上の実施は有効
- 4週間未満の実施も有効
というデータが出ています。
このことから『トレッドミルトレーニングを行なうときは4週間未満でも4週間以上でもOK』と言えます。
2週間でも、3週間でも、6週間でも効果が期待できるということです。
このような情報とガイドラインの推奨を合わせて、
- どのリハビリをやるか→トレッドミルトレーニング
- どれくらいの時間をやるか
- どれくらいの頻度をやるか→週3回以上
- どれくらいの期間をやるか→4週間未満でも4週間以上でも
…ということまで決められます。
しかし、まだ『どれくらいの時間をやるか』と『トレッドミルの速度/ウォーミングアップとクールダウン/坂道設定』などの細かいところまでは情報が足りません。
ランダム化比較試験で細かい情報を得る
それを補完してくれる情報がランダム化比較試験です。
ランダム化比較試験とは、リハビリ介入の効果を調べる研究です。
例えば、2011年に出版された【Speed-dependent treadmill training is effective to improve gait and balance performance in patients with sub-acute stroke】というランダム化比較試験ではこのようなことが記載されています。
このような情報と、先ほどまでの情報を合わせると
- どのリハビリをやるか→トレッドミルトレーニング
- どれくらいの時間をやるか→30分(4分実施+2分休憩)
- どれくらいの頻度をやるか→週5回
- どれくらいの期間をやるか→2週間
- トレッドミルの速度→ 快適歩行速度で開始しつまづかなければ10%ずつアップ
- その他細かい設定含む
…という具体的なプログラムを立てることができます。
ここまで具体的にできれば、私たちの臨床でガイドラインの推奨に基づいてリハビリプログラムを具体的に立てることができますよね。
最初からランダム化比較試験みればいいんじゃないの?はNG
さてここまで話を聞いてくださった方の中には『なら最初からランダム化比較試験みればいいんじゃないの?』と思われる方もいるかもしれません。
ですが、それはNGです。
詳しくは割愛しますが、ランダム化比較試験の結果は後になって覆ることがよくあります。
その場合、ランダム化比較試験に書いてある通りにリハビリをやったのによくならなかった、ということが起こりかねません。
木を見て、森を見ずのような状態になります。
なので、まずはガイドライン、続いてシステマティックレビュー、最後にランダム化比較試験という手順で進めていくとそれを防ぐことができます。
森を見て、林を見て、最後に木を見る、という順番です。
まとめ
最後にまとめです。
ガイドラインは単体で使うのではなく『ガイドライン→システマティックレビュー研究→ランダム化比較試験という順序で文献検索を行い、リハビリプログラムの立案に活用しましょう』ということでした。
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