
脳卒中後の遂行機能障害は、段取りを組んだり計画通りに行動したりする力が低下する高次脳機能障害のひとつで、脳卒中を経験した方の30〜70%が経験するとされています(Kreiger, 2025)。
「料理の手順がわからなくなった」「優先順位がつけられなくなった」「2つのことを同時にできなくなった」――。
そんな変化は、脳卒中による遂行機能障害(実行機能障害)が原因かもしれません。
遂行機能障害は外から見えにくく、本人も家族も「性格が変わった」と誤解しがちですが、適切なリハビリと環境調整で日常生活への影響を減らせることが研究で示されています。
この記事では、脳卒中後の遂行機能障害の症状チェックリスト、原因、リハビリ方法、家族の支援法を、脳卒中専門リハビリ施設BRAINの代表で理学療法士の針谷が、臨床経験と研究論文に基づいて解説します。
・本記事の情報は、信頼性の高い研究論文から得られたデータを中心に引用しています。
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・顔のゆがみ(片側が下がる)
・片腕の脱力(腕が上がらない)
・言葉のもつれ(ろれつが回らない)
また、以下のような変化が脳卒中の発症後に新しく現れた場合は、早めに主治医にご相談ください。
・段取りがまったく組めず日常生活が成り立たない
・状況に合わない衝動的な行動(買い物の暴走・暴言など)が増えた
・本人が「困っている自覚」を失っている
・抑うつや意欲低下が強く食事や入浴ができない
遂行機能障害とは|脳卒中で「段取り」が組めなくなる仕組み
遂行機能障害(すいこうきのうしょうがい)は、目標を立てて計画を組み立て、計画通りに行動を進めて、結果をふり返って次に活かす――という一連の力が低下した状態です。
英語ではexecutive dysfunction(実行機能障害)と呼ばれ、医学的には「遂行機能障害」と「実行機能障害」はほぼ同じ意味で使われます。
脳卒中後に新しく現れる代表的な高次脳機能障害のひとつで、記憶や注意の障害と並んで日常生活への影響が大きいことが知られています(Saa, 2021)。
遂行機能を構成する4つの力
遂行機能は、ひとつの能力ではなく、複数の脳の働きが組み合わさって成り立っています。
大きく分けて、「目標設定」「計画立案」「実行と切り替え」「ふり返り」の4つです。
| 要素 | わかりやすく言うと | 日常生活の例 |
|---|---|---|
| 目標設定 | 「何のためにするか」を決める力 | 夕食はカレーを作ろうと決める |
| 計画立案 | 手順と順番を組み立てる力 | 買い物→下ごしらえ→煮込み→盛り付け |
| 実行と切り替え | 途中で軌道修正しながら進める力 | 煮込みながら別の野菜を切る/焦げに気づいて火を止める |
| ふり返り | 結果を確認して次に活かす力 | 味が薄かったので次は調味料を多めに |
このうちひとつでも障害されると、料理・家計管理・仕事復帰などが急に難しくなります。
どのくらいの人に起こるのか(頻度データ)
2025年に公開された複数の研究をまとめた分析では、脳卒中のあとに認知機能の低下が30〜70%の方に残ると報告されています(Kreiger, 2025)。
このうち、遂行機能の障害は記憶や注意の障害と同じくらい高い頻度で出ることがわかっています。
2022年に公開された9つのコホート研究をまとめた個人データ統合分析では、脳卒中後の認知機能低下は最低でも数年単位で続く傾向が示されています(Lo, 2022)。
つまり、遂行機能障害は「すぐに自然に治るもの」ではなく、長く付き合っていく可能性がある症状です。
ただし、適切なリハビリと環境調整で日常生活への影響は確実に減らせます。
症状チェックリスト|こんな様子はありませんか?
遂行機能障害の症状は、外見からはわかりにくいのが特徴です。
本人やご家族の気づきが、診断とリハビリへの第一歩になります。
以下の項目に当てはまるものがないか、当事者ご本人とご家族の双方の視点でチェックしてみてください。
段取り・計画に関する症状
- 料理の手順がわからなくなり、途中で止まってしまう
- 買い物に行くと、何を買うつもりだったか忘れてしまう
- 朝の身支度の順番がバラバラになる(歯みがき前に着替えるなど)
- 旅行や外出の準備ができなくなった
- 家計簿や薬の管理ができなくなった
優先順位・判断に関する症状
- 何から先に取りかかればいいかわからず、固まってしまう
- 急ぎの用事を後回しにしてしまう
- 状況に合わない衝動的な決断をしてしまう(高額な買い物・突然の解約など)
- 同じ失敗を何度もくり返す
- 急な予定変更にうまく対応できない
同時並行・切り替えに関する症状
- テレビを見ながら会話するなど、2つのことを同時にできなくなった
- 電話中にメモを取れなくなった
- 会話の途中で別の話題に切り替えるのが難しい
- 一度始めた作業を、別の用事のために中断しにくい
- 同じ言葉や行動を何度もくり返してしまう
行動の開始・自覚に関する症状
- 声をかけられないと、自分から動き出せない
- 趣味や好きだった活動への興味がなくなった
- 「困っている」という自覚が薄い(家族のほうが気にかかる)
- 自分の行動の問題点を指摘されても受け入れにくい
- 失敗してもふり返りができず、同じ間違いをくり返す
3つ以上当てはまる場合は、かかりつけ医や脳卒中担当の作業療法士・言語聴覚士に相談する目安になります。
遂行機能障害は、怠けや性格の問題ではなく、脳のダメージによる症状です。
症状を「がんばりが足りないから」と本人やご家族が責めてしまうと、抑うつや意欲低下を悪化させることが報告されています(Dillon, 2023)。
原因と脳のどこが関係するか
遂行機能障害は、主に脳の「前頭葉」とその周辺のネットワークがダメージを受けると起こります。
前頭葉は、おでこの内側にある脳の領域で、計画・判断・抑制・自己モニタリングなどを担当しています。
関係する脳の場所
| 脳の部位 | 主な役割 | 障害された時の症状 |
|---|---|---|
| 背外側前頭前野 | 計画・ワーキングメモリ | 段取りが組めない/同時並行ができない |
| 眼窩前頭皮質 | 衝動の抑制・社会的判断 | 衝動的な決断/場にそぐわない発言 |
| 前帯状皮質 | 注意・葛藤の解決・意欲 | 意欲低下/自発的に行動を始められない |
| 白質(深部) | 脳領域同士をつなぐ配線 | 処理速度低下/複数の障害が重なって出る |
脳卒中の場所が前頭葉から離れていても、白質という配線部分がダメージを受けると遂行機能に影響することがあります。
たとえば、視床(ししょう)や基底核(きていかく)といった脳の深部の脳卒中でも、前頭葉とのつながりが切れることで遂行機能障害が現れます。
このため、「前頭葉の脳卒中ではないから遂行機能障害は起こらない」とは言えません。
他の高次脳機能障害との違い
脳卒中後には、遂行機能障害以外にもさまざまな高次脳機能障害が起こります。
違いを知っておくと、本人の困りごとに合った対処法を選びやすくなります。
| 障害名 | 中心になる困りごと | 遂行機能障害との違い |
|---|---|---|
| 遂行機能障害 | 段取りや計画が組めない | ―― |
| 記憶障害 | 新しいことを覚えられない | 手順は知っているのに「いつ何をしたか」を忘れる |
| 注意障害 | 集中や注意が続かない | 短時間の課題でも集中できない |
| 失行 | 道具の使い方や動作の作り方ができない | 「歯ブラシをどう使うか」自体がわからない |
| 失語 | 話す・聞く・読む・書くが難しい | 手順は理解できるが言葉でやり取りできない |
| 半側空間無視 | 片側の空間が見えにくくなる | 片側の物を見落とす(手順自体は組める) |
遂行機能障害は、これらの障害と重なって出ることが多いのも特徴です。
たとえば、注意障害と遂行機能障害が両方ある方では、計画通りに行動を続けるのがさらに難しくなります。
疲労が遂行機能の発揮を妨げることも研究で示されています(Dillon, 2023)。脳卒中後の疲れやすさへの対処は、脳卒中の疲労|疲れやすさの原因と対処法でも詳しく解説しています。
検査・評価|どうやって診断するのか
遂行機能障害の診断には、医師の診察と神経心理検査(紙やコンピュータで行う認知機能のテスト)が用いられます。
主な検査には次のようなものがあります。
- BADS(遂行機能障害症候群の行動評価):料理の手順や時間管理など、日常生活に近い課題で遂行機能を評価する検査
- WCST(ウィスコンシン・カード分類検査):ルールが切り替わるなかでカードを分類する検査。柔軟性をみる
- FAB(前頭葉機能検査):短時間でできるスクリーニング検査
- TMT(線つなぎ検査):注意の切り替えと処理速度をみる
- MoCA(モントリオール認知評価):遂行機能を含む認知機能全般を10分程度で評価
2025年に公開された複数の研究をまとめた分析によると、脳卒中後の認知機能スクリーニングではMoCAがMMSEより検出力が高いことが示されています(Wei, 2025)。
そのため、退院後の外来で「認知機能の検査をしたい」と希望する場合は、MMSEだけでなくMoCAも追加してもらうとよりていねいに評価できます。
ただし、これらの検査は「机上の課題」で評価するため、実生活の困りごととズレがあることもあります(Kristensen, 2023)。
そのため、ご家族からの聞き取りや、自宅での実際の様子をふまえた総合判断が大切です。
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脳卒中 遂行機能障害 段取りを取り戻すリハビリ方法
遂行機能障害には、研究で効果が確認されているリハビリ方法がいくつかあります。
リハビリの基本は、本人ができる方法を「身につける」ことと、環境を整えることの両輪です(Gibson, 2022)。
① ゴール・マネジメント・トレーニング(GMT)
ゴール・マネジメント・トレーニング(GMT)は、「段取りが組めない」「途中で目的を見失う」という遂行機能障害に対して開発された訓練法です。
「いったん立ち止まる→目標を確認する→やることを書き出す→進めながらチェックする」という5段階のセルフモニタリング手順を、繰り返し練習して身につけます。
2011年に公開された研究では、前頭葉損傷のある方にGMTを行うと遂行機能の検査成績が有意に改善したと報告されています(Levine, 2011)。
2025年に公開された脳卒中当事者を対象とした研究でも、遠隔での遂行機能リハビリプログラムが実施可能であり、参加者の受け入れも良好だったことが確認されています(Ene, 2025)。
GMTは、専門の作業療法士・公認心理師の指導のもとで進めるのが基本ですが、考え方は自宅でも応用できます。
② コンピュータ支援の認知トレーニング
パソコンやタブレットを使った認知トレーニング(CCT)は、注意・ワーキングメモリ・遂行機能を組み合わせて鍛えられる方法です。
2025年に公開された複数の研究をまとめた分析では、脳卒中後の認知障害に対してコンピュータ認知訓練が全体的な認知機能を有意に改善したと報告されています(Gao, 2025)。
2020年に公開されたワーキングメモリへの効果をまとめた分析でも、コンピュータ認知訓練は通常リハビリより成績の伸びが大きいと報告されています(Niemeijer, 2020)。
2024年に公開された経頭蓋直流電気刺激(tDCS)と組み合わせた研究では、コンピュータ認知訓練単独より認知機能の改善が大きかったと報告されています(Chen, 2024)。
ただし、tDCSは医療機関で実施される機器を使う方法であり、市販のリラクゼーション機器とは別物です。
③ 作業療法(OT)による日常生活訓練
作業療法では、料理・買い物・服薬管理など、実生活の場面そのものを訓練教材にします。
2022年に公開された国際的な分析では、脳卒中後の認知障害に対する作業療法は日常生活動作の自立度を改善する可能性があると報告されました(Gibson, 2022)。
ただし研究の質には差があり、最も効果的なプログラムの形はまだ明確ではないとされています。
そのため、専門職と相談しながら、本人にとって意味のある活動(趣味・仕事・育児など)を題材にした訓練を組み立てることが大切です。
④ 運動療法(有酸素運動・複合運動)
適度な運動も、遂行機能の改善に効果があると報告されています。
2026年に公開された20の研究をまとめた分析では、脳卒中後の遂行機能改善には複合運動(有酸素+認知課題)の効果が大きい傾向が示されました(Zheng, 2026)。
2025年に公開された運動介入のアンブレラレビュー(複数の分析をまとめた研究)でも、運動が脳卒中後の認知機能を改善する効果が確認されています(Sun, 2025)。
具体的には、1回30〜60分・週3回以上・8週間以上続けると効果が出やすいとされています。
歩行能力の改善は遂行機能や日常生活の自立にもつながります。下肢の運動の進め方は杖を卒業するタイミングと判断基準でも解説しています。
⑤ バーチャルリアリティ(VR)を用いた認知訓練
VRゴーグルなどを使ったリハビリは、近年研究が進んでいる手法です。
2024年に公開された複数の研究をまとめた分析では、VRを使った認知介入が脳卒中後の認知機能と日常生活動作の改善に有効と報告されています(Lin, 2024)。
2025年に公開された脳卒中リハビリのVRに関する国際的な分析でも、運動だけでなく認知面への効果も検証されており、補助的な介入として位置づけられています(Laver, 2025)。
ただし、VR機器は医療機関や専門のリハビリ施設で導入されているもので、自宅で代用できるゲーム機との同等性は確立されていません。
⑥ 視覚スキル訓練
意外に思われるかもしれませんが、目の使い方の訓練も遂行機能に良い影響を与えることが報告されています。
2024年に公開された複数の研究をまとめた分析によると、視覚スキル訓練は遂行機能を含む認知機能を改善すると報告されています(Niering, 2024)。
2021年に公開された脳卒中当事者を対象とした研究でも、眼球運動の訓練を行うと遂行機能検査の成績が改善することが報告されています(He, 2021)。
自宅でできる工夫|段取りを取り戻すセルフケア
専門的なリハビリと並行して、自宅でも「段取りを補助する仕組み」を作ることが大切です。
遂行機能障害は、本人の脳の働きを変えるだけでなく、外側の環境を整えることで日常生活が安定します。
手順を「見える化」する
- 朝の支度の手順を、写真付きでキッチンや洗面所に貼る
- 料理は、レシピを1ステップずつカードに分ける
- 持ち物リスト・チェックリストを玄関に置く
- 1日のスケジュールをホワイトボードに書き出す
- 薬は曜日ごとに分かれたケースに入れる
スマートフォンを「外付けの脳」として使う
- カレンダーアプリで、予定と通知を設定する
- リマインダーで「薬の時間」「家を出る時間」を音で知らせる
- 音声入力でメモを取る
- 地図アプリで道順を表示する
- 家計簿アプリで、お金の出入りを自動記録する
「ひと呼吸の習慣」をつける
遂行機能障害があると、とっさに動いて間違えるパターンが多くなります。
そのため、行動の前にひと呼吸おく合図を作ると、間違いが減りやすくなります。
- 玄関に「持ち物・鍵・財布・スマホ」と書いた紙を貼る
- キッチンに「火を使う前に深呼吸」と貼る
- 買い物では「メモを見てから店内に入る」を習慣にする
- 判断に迷ったら「家族に電話する」というルールを決める
家族・周囲の支援法|「先回りしすぎない」が基本
遂行機能障害がある方を支えるご家族にとって、どこまで手伝い、どこまで本人にやってもらうかの線引きはとても難しい問題です。
研究や臨床経験から、いくつかのコツが知られています。
声かけのコツ
- 「次は何だっけ?」と問いかける(答えを与えるより、本人に考えてもらう)
- 1度に1つの指示にする(「お皿を取って、テーブルに置いて」ではなく1つずつ)
- 急かさない(焦るとさらに段取りが組みにくくなる)
- 失敗しても責めない(「次はどうしたらいいだろう?」と一緒に考える)
- うまくいったときはその場で具体的に伝える(「自分で薬を出せたね」など)
「先回りしすぎない」が大切な理由
家族が手を出しすぎると、本人が考えて行動する機会が減り、遂行機能の回復のチャンスを失います。
2024年に公開された複数の介入をまとめた分析でも、認知機能の改善には本人が積極的に参加する形のリハビリが効果的とされています(Liu, 2024)。
そのため、ご家族の役割は「代わりにやる」のではなく「一緒に手順を見直し、つまずいたところだけ手助けする」のが理想です。
家族が抱え込まないための工夫
遂行機能障害のサポートは、ご家族の負担も大きくなりがちです。
- 家族会・脳卒中当事者の会など、同じ経験をした人と話す機会をもつ
- ケアマネジャーに相談し、訪問リハビリ・デイサービスを活用する
- 近隣の地域包括支援センターで利用できる制度を確認する
- ご家族自身の睡眠・休養の時間を確保する
退院後の生活全体の整え方は、退院後リハビリ完全ガイドでも詳しく解説しています。
受診・相談の目安
以下のような場合は、かかりつけ医や脳卒中担当のリハビリ専門職に相談することをおすすめします。
- 退院後、家事や買い物が以前のようにできない状態が2週間以上続いている
- 仕事や学業への復帰がうまくいかず、本人が混乱している
- 金銭管理や薬の管理ができず、トラブルが起きている
- 抑うつ気分・意欲低下が強く、外出を避けるようになった
- 本人と家族の関係が悪化し、互いに疲弊している
相談先としては、次のような窓口があります。
- かかりつけ医・脳神経内科:診断と神経心理検査の依頼ができる
- リハビリテーション科:作業療法士・言語聴覚士による評価とリハビリが受けられる
- 地域の高次脳機能障害支援センター:都道府県ごとに設置。医療・福祉・就労を包括的に相談できる
- 地域包括支援センター:介護保険サービスや地域のリハビリ資源を紹介
- 就労支援機関(障害者就業・生活支援センターなど):仕事復帰や新しい働き方を相談
再発予防の観点では、生活習慣の管理も重要です。詳しくは脳卒中の再発予防|食事・運動・薬の続け方もご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 遂行機能障害は時間が経てば自然に治りますか?
発症から数か月の間に自然な回復が見られる方もいますが、多くの場合は完全には元に戻らず、長期的に付き合っていく必要があります。
2022年に公開された9つのコホート研究をまとめた個人データ統合分析でも、脳卒中後の認知機能低下は数年単位で続く傾向が報告されています(Lo, 2022)。
ただし、適切なリハビリと環境調整で日常生活への影響は確実に減らせます。
Q. 遂行機能障害と認知症は同じものですか?
違います。
遂行機能障害は脳卒中などによる「特定の認知機能の障害」であり、認知症のように記憶・判断・理解など複数領域が同時に進行性に低下するわけではありません。
ただし、脳卒中後に認知機能の複数領域が低下し、生活が成り立たなくなった場合は「血管性認知症」と診断されることがあります。
診断名の整理は主治医にご相談ください。
Q. 遂行機能障害があると仕事復帰はできませんか?
仕事の内容と症状の程度によります。
段取りの簡素化・チェックリストの活用・1度に1つの作業にしぼるなどの工夫で、復職できる方は少なくありません。
ただし、判断のスピードが求められる職種・複数のタスクを同時に進める職種では、職務内容の調整が必要になることがあります。
主治医・リハビリ専門職・産業医・障害者就業・生活支援センターなどに相談することをおすすめします。
Q. 自宅でできる課題プリントは効果がありますか?
計算・パズル・トランプなどの紙の課題は「やらないより良い」程度の効果は期待できますが、机上の課題が直接的に日常生活の段取り改善につながるかは研究によって結果が分かれています。
2022年に公開された国際的な分析では、日常生活の場面そのものを使った訓練のほうが、実生活での自立度に効果が出やすいと報告されています(Gibson, 2022)。
そのため、課題プリントだけでなく、料理・買い物・服薬管理など実生活に即した訓練と組み合わせるのが効果的です。
Q. 遂行機能障害は発達障害(ADHD)と同じですか?
症状が似て見えることがありますが、原因が違います。
脳卒中後の遂行機能障害は「脳卒中によるダメージで新しく現れた」ものです。
ADHDなどの発達障害は「子どものころからの特性」として続いてきたものです。
診断や対応も異なるため、心配な場合は脳神経内科や精神科で確認してください。
まとめ
- 遂行機能障害は、目標→計画→実行→ふり返りの4段階のいずれかが障害された状態
- 脳卒中後の30〜70%の方に何らかの認知機能低下があり、遂行機能障害も高い頻度で起こる
- 原因は前頭葉とその周辺ネットワークのダメージで、白質の傷でも起こる
- 症状は段取りができない・優先順位がつかない・同時並行できない・自覚が乏しいなど
- リハビリはGMT・コンピュータ訓練・作業療法・運動・VR・視覚スキル訓練の組み合わせ
- 自宅では「手順の見える化」「スマホ活用」「ひと呼吸の習慣」が役立つ
- 家族は先回りせず、声かけと環境調整で本人の主体性を支える
次にやるべきこと:まずはチェックリストでご本人とご家族の双方の視点で症状を整理し、3つ以上当てはまる場合はかかりつけ医や脳卒中担当のリハビリ専門職にMoCAなどの認知機能評価を依頼してみてください。
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参考文献
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最終更新:2026年4月

