
脳卒中後の注意障害は、集中が続かない・複数のことを同時にできない・必要なものに目が向かないといった状態を指し、脳卒中を経験した方の半数前後で注意の不調が報告されています(Loetscher, 2019)。
「テレビを見ながら話を聞けなくなった」「料理の途中で手が止まる」「人ごみで頭が真っ白になる」――。
そんな変化は、脳卒中による注意障害が原因かもしれません。
注意障害は外から見えにくく、ご家族から「やる気がない」「ぼんやりしている」と誤解されがちですが、研究では適切なリハビリと環境の工夫で日常生活への影響を減らせることが示されています。
この記事では、脳卒中後の注意障害について、症状のサイン・認知症との違い・検査・リハビリ・家族の支援法を、脳卒中専門リハビリ施設BRAINの代表で理学療法士の針谷が、臨床経験と研究論文に基づいて解説します。
・本記事の情報は、信頼性の高い研究論文から得られたデータを中心に引用しています。
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・顔のゆがみ(片側が下がる)
・片腕の脱力(腕が上がらない)
・言葉のもつれ(ろれつが回らない)
また、以下のような変化が脳卒中の発症後に新しく現れた場合は、早めに主治医にご相談ください。
・短い会話の途中でも集中が切れ、生活が成り立たない
・名前を呼ばれても気づきにくく、外出時に危険な場面が増えた
・薬の飲み忘れ・火の消し忘れがくり返し起きる
・抑うつや意欲低下が強く食事や入浴ができない
脳卒中 注意障害とは|集中できなくなる仕組みをわかりやすく
注意障害(ちゅういしょうがい)とは、必要な情報に意識を向けて、それを保ち、必要に応じて切り替える――という脳の働きが低下した状態です。
英語ではattention deficitと呼ばれ、医学的には脳卒中・頭部外傷・認知症など、脳の働きが落ちるさまざまな病気で見られます。
脳卒中後にもっとも多く残る高次脳機能障害のひとつで、記憶や段取りの障害以上に日常生活への影響が出やすいことが報告されています(Loetscher, 2019)。
注意を支える4つの働き(持続・選択・分配・転換)
注意は、ひとつの能力ではなく、いくつかの異なる脳の働きが重なって成り立っています。
臨床でよく使われる分類では、「持続性」「選択性」「分配性」「転換性」の4つに分けて考えます(Sohlberg, 2000)。
| 要素 | わかりやすく言うと | 日常生活の例 |
|---|---|---|
| 持続性注意 | 同じことに集中を保つ力 | 本を最後まで読む/会議を聞き続ける |
| 選択性注意 | 必要なものに意識を向ける力 | 騒がしいカフェで相手の声を聞き取る |
| 分配性注意 | 2つ以上のことに同時に注意を分ける力 | 料理しながら子どもに返事をする |
| 転換性注意 | 途中で注意の対象を切り替える力 | 電話を聞きながら手元のメモに切り替える |
このうちどれかひとつでも障害されると、家事・仕事・運転・人付き合いなどが急に難しくなります。
どのくらいの人に起こるのか
2019年に公開された国際的な研究をまとめた分析では、脳卒中後に注意障害を抱える方の割合は研究によって30〜80%と幅があり、慢性期でも多くの方に残ると報告されています(Loetscher, 2019)。
2022年に公開された9つの調査をまとめた個人データの統合分析では、脳卒中後の認知機能低下は数年単位で続く傾向が示されています(Lo, 2022)。
つまり、注意障害は「数日で勝手に治る一過性の症状」ではなく、長く付き合うことを前提に対策を考える必要があります。
ただし、リハビリと環境調整で日常生活への影響は十分に減らせます。
注意障害とは|家族が気づくサイン・チェックリスト
注意障害の症状は、外見からはわかりにくいのが特徴です。
本人ご自身よりも、まわりのご家族が「以前と違う」と気づく場面が多いです。
以下のサインに当てはまるものがないか、本人とご家族の両方の視点でチェックしてみてください。
集中が続かない(持続性のサイン)
- テレビやドラマを最後まで集中して見られなくなった
- 新聞・本を読んでもすぐ疲れる、同じ行を何度も読む
- 食事中に手が止まり、ぼんやりする時間が増えた
- 会話の途中で話が頭に入らなくなる
- 夕方になると集中力ががくっと落ちる
必要なものに気づけない(選択性のサイン)
- テレビが付いていると会話に入れない
- 名前を呼ばれても気づかない、反応が遅い
- 必要な物が机の上にあっても見つけられない
- 人ごみや駅で頭が真っ白になる
- 店内で目的の商品を探すのが極端に苦手になった
同時にできない(分配性のサイン)
- 料理しながら話しかけられると手が止まる
- 電話を聞きながらメモが取れない
- 歩きながら話すと足元が不安定になる
- テレビを見ながら家族の話が聞き取れない
- 運転中に同乗者と会話する余裕がなくなった
切り替えができない(転換性のサイン)
- 始めた作業を途中で切り替えるのが極端に苦手
- 急な予定変更でパニックになる
- 同じ話題に固執して話が次に進まない
- 料理で複数の鍋を同時に進められない
- 会話で話題が変わると追いつけなくなる
3つ以上当てはまる場合は、かかりつけ医や脳卒中担当の作業療法士・言語聴覚士に相談する目安になります。
注意障害は、怠けや性格の問題ではなく、脳のダメージによる症状です。
「ぼんやりしている」「やる気がない」と本人やご家族が責めてしまうと、抑うつや意欲低下を強める可能性があります。
関連して、脳卒中後の疲れやすさが注意の不調を強めることも知られています。詳しくは脳卒中の疲労|疲れやすさの原因と対処法をご覧ください。
注意障害と認知症の違い・他の高次脳機能障害との違い
「うちの家族は認知症になってしまったのでは」とご相談を受けることがあります。
結論からいうと、脳卒中後の注意障害と認知症は別の病態です。
注意障害と認知症の違い
| 項目 | 脳卒中による注意障害 | 認知症(代表例:アルツハイマー型) |
|---|---|---|
| 始まり方 | 脳卒中の発症後に急に出る | 数年かけてゆっくり進む |
| 経過 | 基本的には進行しない/リハビリで改善余地あり | 徐々に悪化していく |
| 中心の症状 | 集中・注意・処理速度の低下 | 最近の記憶の障害が中心 |
| 本人の自覚 | 「集中できなくなった」と自覚できることが多い | 忘れていること自体を忘れることがある |
ただし、脳卒中をくり返した場合や脳の血管が広く傷んでいる場合は、認知機能の複数領域が同時に落ちて「血管性認知症」と診断されることがあります。
診断の整理は主治医にご相談ください。
他の高次脳機能障害との違い
| 障害名 | 中心になる困りごと | 注意障害との違い |
|---|---|---|
| 注意障害 | 集中・選択・同時並行・切り替えが難しい | ―― |
| 記憶障害 | 新しいことを覚えられない | 情報の保持が中心の問題 |
| 遂行機能障害 | 段取り・計画が組めない | 注意が保てても手順を組み立てる側に問題 |
| 半側空間無視 | 片側の空間が見えにくくなる | 注意が片側だけに極端に偏る |
| 病態失認 | 自分の障害そのものに気づきにくい | 困っている自覚が乏しい |
注意障害は、これらの障害と重なって出ることが多いのも特徴です。
関連する症状の詳細は、脳卒中 遂行機能障害|段取りが組めない時の支援法と脳卒中 病態失認|障害に気づきにくい時の対応でも解説しています。
原因と脳のどこが関係するか
注意障害は、脳の特定の1か所だけではなく、いくつもの脳の領域が連携した「注意ネットワーク」がダメージを受けて起こります。
そのため、脳卒中の場所が前頭葉・頭頂葉・脳の深部・小脳のどこであっても、注意障害が現れる可能性があります。
| 脳の部位 | 主な役割 | 障害された時の症状 |
|---|---|---|
| 前頭葉(特に右) | 集中を保つ・切り替える | 持続性注意の低下/切り替え困難 |
| 頭頂葉 | 空間への注意の向け方 | 必要な物が目に入らない/半側空間無視 |
| 視床・脳幹 | 覚醒レベル・注意の土台 | ぼんやりしやすい/反応が鈍い |
| 白質(深部の配線) | 脳領域同士をつなぐ | 処理速度低下/複数の注意要素が同時に落ちる |
つまり、「前頭葉の脳卒中ではないから注意障害は起こらない」とは言えません。
視床や基底核(きていかく)など、脳の深部の小さな脳卒中でも注意障害が出ることがあります。
検査・評価|TMTなどでどう測るか
注意障害の評価には、医師の診察と神経心理検査(紙やパソコンで行う認知のテスト)が使われます。
代表的な検査は次のとおりです。
- TMT(線つなぎ検査、Trail Making Test):数字や文字を順番に線でつなぐ。注意の切り替えと処理速度をみる代表的な検査
- CAT(標準注意検査法):持続・選択・分配・転換の4要素をまとめて評価する日本でよく使われる検査
- MoCA(モントリオール認知評価):注意を含む認知機能全般を10分程度でみるスクリーニング
- SDMT(符号変換検査):処理速度と作業記憶を測る短時間の検査
- BIT(行動性無視検査):半側空間無視を含む空間性注意を評価
これらの検査は、本人の困りごとを言葉だけでなく数字で見える化することで、リハビリのゴール設定や経過の確認に役立ちます。
ただし、机上の検査結果と、ご自宅での実際の困りごとには差が出ることがあります。
そのため、ご家族からの聞き取りや、自宅での実際の様子をふまえた総合判断が大切です。
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脳卒中 注意障害 リハビリ|効果が確認されている方法
注意障害には、研究で効果が確認されているリハビリ方法があります。
2019年に公開された脳卒中×注意障害に絞った国際的な分析では、注意に的を絞った訓練を行うことで注意のテスト成績は改善するが、日常生活での効果が確立されているとまでは言えないと慎重に結論づけられています(Loetscher, 2019)。
つまり、「テストの数字は良くなるが、生活でどこまで楽になるかは方法と本人次第」というのが現在の正直な到達点です。
そのうえで、現時点で研究の蓄積が比較的多い方法を6つ紹介します。
① 注意プロセス訓練(APT)
注意プロセス訓練(APT)は、持続性・選択性・分配性・転換性の4つの注意を、段階的に1つずつ鍛える方法です。
音声・紙・パソコンを使った課題を、簡単な物から少しずつ難しい物へと進めます。
2009年に公開された脳卒中当事者を対象にした研究では、APTを受けた群で注意の検査成績が対照群より改善したと報告されています(Barker-Collo, 2009)。
2000年の獲得性脳損傷(脳卒中と外傷性脳損傷を含む)の研究でも、APTは注意関連の検査成績を高めることが示されています(Sohlberg, 2000)。
APTは作業療法士や言語聴覚士の指導のもとで進めるのが基本ですが、考え方は自宅でも応用できます。
② パソコン・タブレットを使った認知訓練(CCT)
パソコンやタブレットのアプリを使った認知訓練(CCT)は、注意・作業記憶・処理速度をまとめて鍛えやすい方法です。
2025年に公開された脳卒中後の認知障害に対するコンピュータ認知訓練をまとめた分析では、通常リハビリ単独と比べて全体的な認知機能を改善する効果があると報告されています(Gao, 2025)。
2007年に公開された脳卒中後の作業記憶訓練の予備研究でも、コンピュータ訓練群は対照群より成績の伸びが大きいと報告されています(Westerberg, 2007)。
2022年の獲得性脳損傷を対象にした研究では、自宅オンラインで実施した注意訓練・作業記憶訓練のいずれも、対照群より成績が伸びることが示されました(Peers, 2022)。
③ 作業療法による日常生活訓練
作業療法では、料理・洗濯・買い物など、本人の生活場面そのものを訓練の題材にします。
2022年に公開された脳卒中後の認知障害への作業療法をまとめた国際的な分析では、日常生活動作の自立度を改善する可能性があると報告されています(Gibson, 2022)。
ただし研究の質には差があり、もっとも効果的なプログラムの形はまだ明確になっていません。
そのため、専門職と相談しながら、本人にとって意味のある活動(趣味・家事・仕事など)を題材にした訓練を組み立てることが大切です。
④ 有酸素運動と複合運動
意外に思われるかもしれませんが、適度な運動も注意・認知の改善に効果があると報告されています。
2022年に公開された脳卒中後の有酸素運動と認知機能をまとめた分析では、有酸素運動が認知機能を改善すると報告されています(Li, 2022)。
2021年に公開された認知訓練と運動を組み合わせた介入の分析でも、両者の併用は認知単独より効果が大きい傾向が示されました(Sun, 2021)。
具体的には、1回30〜60分・週3回以上・8週間以上続けると効果が出やすいとされています。
歩行が安定すれば外出機会も増えて、注意・認知への良い影響が広がりやすくなります。退院後の生活全体の整え方は退院後の脳卒中リハビリ|在宅で続ける完全ガイドでも解説しています。
⑤ 視覚スキル訓練
目の使い方の訓練(視覚スキル訓練)も、注意・認知に良い影響があると報告されています。
2024年に公開された脳卒中当事者を対象にした研究をまとめた分析では、視覚スキル訓練は注意を含む認知機能を改善すると報告されています(Niering, 2024)。
具体的には、視線をすばやく動かす練習・目で物を追う練習・視野の端まで見渡す練習などが含まれます。
⑥ 非侵襲的脳刺激(rTMS・tDCS)との組み合わせ
頭の外から弱い磁気や電気で脳の働きを補助する方法(rTMS・tDCS)を、認知訓練と組み合わせる研究も進んでいます。
2022年に公開された脳卒中後の注意と記憶への磁気刺激の効果をまとめた分析では、磁気刺激を組み合わせた群で注意関連の検査成績が改善したと報告されています(Xu, 2022)。
2020年に公開された脳卒中当事者を対象にした研究でも、磁気刺激を加えた群で日常生活動作と注意の検査が改善することが報告されています(Liu, 2020)。
2024年に公開された電気刺激と認知訓練の組み合わせの研究では、コンピュータ認知訓練に電気刺激を加えると、認知訓練単独より改善が大きいと報告されています(Chen, 2024)。
ただし、これらは医療機関や専門のリハビリ施設で実施される機器を使う方法であり、市販のリラクゼーション機器とは別物です。
自宅でできる練習|注意を育てる5つの工夫
専門的なリハビリと並行して、自宅でも「注意を支える仕組み」を作ることが大切です。
2022年に公開された慢性期脳卒中での自宅コンピュータ認知訓練の研究では、専門職の指導のもとで自宅練習を続けた群で、機能の改善が確認されています(Gil-Pagés, 2022)。
2025年の脳卒中後認知障害への自宅コンピュータ訓練の研究でも、自宅練習の有効性が報告されています(Soni, 2025)。
① 1回20〜30分・短く区切る
注意は長く保とうとするほど切れやすくなります。
「集中→休憩→集中」のように短い時間で区切ると、後半まで集中が保ちやすくなります。
- 読書や書類仕事は20〜30分で1度休憩する
- キッチンタイマーで「集中」と「休憩」を可視化する
- 疲れたと感じる前に休む(疲れてからでは間に合わない)
② 余計な刺激を減らす
- 会話のときはテレビ・ラジオを消す
- 机の上は使う物だけ置く
- 本人の正面ではなく横に座って話しかける(視覚刺激を減らす)
- スマホの通知をオフにする時間帯を決める
③ 「ひとつずつ」を合言葉にする
- 1度に1つの作業に絞る(料理しながら洗濯しない)
- 家族の指示も1度に1つにしてもらう
- 「次は何をする?」と声に出して確認する習慣をつける
④ 軽い有酸素運動を毎日に組み込む
- 朝の散歩を15〜30分・週3回以上
- 歩きながら数を数える・しりとりをする(注意+運動の二重課題)
- 無理のない範囲で、息が少し弾む強さを目安にする
⑤ 睡眠と疲労管理を最優先にする
注意は、睡眠と疲労にもっとも影響を受けやすい脳の働きです。
- 夜の睡眠を6〜8時間確保する
- 午後に20〜30分の昼寝を取り入れる
- 疲労が強い日は、訓練を半分に減らす勇気を持つ
家族・周囲の支援|気づくサインへの対処法
注意障害がある方を支えるご家族は、「どこまで手伝い、どこまで本人にやってもらうか」の線引きに悩みやすいです。
研究と臨床から、いくつかのコツが知られています。
声かけのコツ
- 名前を呼んでから本題に入る(本人の注意を引き出す)
- 1度に1つの指示にする(「お皿を取って、テーブルに置いて」ではなく1つずつ)
- 急かさない(焦るとさらに注意が散る)
- 大事な話は静かな環境で短く伝える
- うまくいったときはその場で具体的にほめる
先回りしすぎない
ご家族が手を出しすぎると、本人が自分で集中する機会が減ってしまいます。
2022年に公開された脳卒中後の認知障害への作業療法の分析でも、本人が能動的に取り組む形のリハビリのほうが日常生活への波及が大きい傾向が示されています(Gibson, 2022)。
ご家族の役割は「代わりにやる」のではなく「うまくいかなかったところだけ一緒に振り返る」のが理想です。
家族が抱え込まないための工夫
- 家族会・脳卒中当事者の会など、同じ経験をした方と話す機会をもつ
- ケアマネジャーに相談し、訪問リハビリ・デイサービスを活用する
- 近隣の地域包括支援センターで利用できる制度を確認する
- ご家族自身の睡眠・休養の時間を確保する
受診・相談の目安
以下のような場合は、かかりつけ医や脳卒中担当のリハビリ専門職に相談することをおすすめします。
- 退院後、家事や買い物が以前のようにできない状態が2週間以上続いている
- 仕事・学業への復帰がうまくいかず、本人が混乱している
- 火の消し忘れ・薬の飲み忘れがくり返し起きている
- 抑うつ気分・意欲低下が強く、外出を避けるようになった
- 本人と家族の関係が悪化し、互いに疲弊している
相談先としては、次のような窓口があります。
- かかりつけ医・脳神経内科:診断と神経心理検査の依頼ができる
- リハビリテーション科:作業療法士・言語聴覚士による評価とリハビリが受けられる
- 地域の高次脳機能障害支援センター:都道府県ごとに設置。医療・福祉・就労を包括的に相談できる
- 地域包括支援センター:介護保険サービスや地域のリハビリ資源を紹介
- 就労支援機関(障害者就業・生活支援センターなど):仕事復帰や新しい働き方を相談
脳卒中 注意障害 よくある質問(FAQ)
Q. 注意障害は時間が経てば自然に治りますか?
発症から数か月の間に自然な回復が見られる方もいますが、多くの場合は完全には元に戻らず、長く付き合っていく必要があります。
2022年に公開された9つの調査をまとめた統合分析でも、脳卒中後の認知機能低下は数年単位で続く傾向が報告されています(Lo, 2022)。
ただし、リハビリと環境調整で日常生活への影響は確実に減らせます。
Q. 注意障害と認知症は同じものですか?
違います。
脳卒中による注意障害は「特定の認知機能の障害」であり、認知症のように複数領域が進行性に低下するわけではありません。
ただし、脳卒中後に認知機能の複数領域が落ちて生活が成り立たなくなると「血管性認知症」と診断されることがあります。
Q. 注意障害があると仕事や運転はできませんか?
仕事の内容と症状の程度によります。
事務職や接客業など、複数のことに同時に注意を向ける職種では工夫や調整が必要になることがありますが、段取りの簡素化・チェックリスト・1度に1つの作業に絞る工夫で復職できる方は少なくありません。
運転再開については、主治医・公安委員会・運転再開支援を行うリハビリ専門職に必ずご相談ください。
Q. スマホやタブレットの脳トレアプリは効果がありますか?
市販の脳トレアプリは「やらないより良い」程度の効果は期待できます。
ただし、2019年に公開された国際的な分析では、机上やアプリの課題で得た成績が日常生活の自立度にそのまま結びつくとは限らないと慎重に評価されています(Loetscher, 2019)。
アプリ単体で終わらせず、生活場面での練習や運動と組み合わせることが大切です。
Q. 注意障害はADHDと同じですか?
違います。
ADHDは生まれつきの発達特性ですが、脳卒中の注意障害は脳卒中というはっきりした原因のあとに新しく出てくる症状です。
本人の集中しづらさという見た目は似ていても、原因・経過・対応はそれぞれ異なります。
まとめ|注意障害は「環境+本人+家族」の3点セットで支える
脳卒中後の注意障害は、外から見えにくく、ご家族からは「ぼんやりしている」「やる気がない」と誤解されやすい症状です。
しかし、注意は「持続・選択・分配・転換」という4つの働きから成り立っていて、それぞれに合った練習と工夫があります。
研究で効果が確認されているのは、注意プロセス訓練・コンピュータ認知訓練・作業療法・有酸素運動・視覚スキル訓練・非侵襲的脳刺激の6つです。
そのうえで自宅では、「短く区切る」「余計な刺激を減らす」「ひとつずつ」「軽い有酸素運動」「睡眠と疲労管理」の5つを土台に整えることが大切です。
ご家族は、先回りせず、名前を呼んで・1度に1つ・静かな環境で・うまくいったらほめる――を意識してみてください。
注意障害は本人だけの問題ではなく、環境と家族の関わり方を整えることで日常生活が大きく変わります。
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参考文献
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最終医療レビュー日:2026年5月15日/執筆:株式会社BRAIN代表 針谷遼(理学療法士)

