脳卒中を発症すると、半側空間無視(はんそくくうかんむし)という症状が現れることがあります。

半側空間無視は患者さん本人の病識が乏しい傾向があり、知らないうちに事故に遭ったり、ご家族の介護負担が増える可能性があります。

しかし、半側空間無視に特化したリハビリはあまり行われていないのが現状です。

本記事では、半側空間無視に対して有効なリハビリを3つ紹介します。

情報の信頼性について
・本記事はBRAIN代表/理学療法士の針谷が執筆しています(執筆者情報は記事最下部)。
・本記事の情報は、基本的に信頼性の高いシステマティックレビュー研究、ランダム化比較試験から得られたデータを引用しています。

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脳卒中後の半側空間無視に対するリハビリ3選

まずは結論です。

半側空間無視に対して有効性が報告されている3つのリハビリは以下の通りです。

  • TMS
  • 運動療法
  • 電気刺激

以下、詳しく解説します。

半側空間無視とは?

主に左側の空間や物体を認識できなくなってしまう症状です。歩行中に物や人にぶつかってしまったり、食事をするときに左側に置いてある食べ物を見落として食べ損ねてしまうなど、日常生活に支障が出ます。

半側空間無視は

  • 上肢(腕や手)の運動障害が改善しにくい
  • 日常生活動作の自立が困難
  • 活動範囲の狭小化

などとの関連が指摘されており、脳卒中患者さんのリハビリにおいて放置できない症状と言えます。

しかし、半側空間無視は外から他人が見たときにその症状の有無や重症度がわかりにくく、患者さん本人やご家族がどれだけ困っているか伝わりづらい症状です。

また、半側空間無視に対しては確立されたリハビリ方法がないこともあり、入院中は半側空間無視に特化したリハビリがまったく行われないケースもあります。

しかし、退院後、半側空間無視をお持ちの多くの患者さんが生活に困ることになります。

今回は、半側空間無視に対して有効であることが報告されているリハビリを3つ紹介します。

半側空間無視に対するリハビリ3選

2021年のコクランレビュー、2022年のシステマティックレビュー研究から得られた情報をベースにお伝えします。

TMS

経頭蓋磁気刺激(Transcranial Magnetic Stimulation:TMS)は、脳に磁気刺激を与え、直接的に脳の活動性を高める手法です。

脳の活動性を高めた後にリハビリを行うことで、リハビリの効果が高まることが報告されています。

TMSは、脳卒中後の半側空間無視を改善させる上で有効であることが複数の研究で報告されていますHouben M 2021, Yang FA 2023, Cotoi A 2019, Salazar APS 2018, Li L 2022)。

TMSにはいくつかの刺激タイプがあります。

半側空間無視に対しては低頻度rTMS、高頻度rTMS、シータバースト刺激といった複数の刺激方法で有効性が報告されていますが、ほとんどの研究では、連続的シータバースト刺激を非損傷半球の後部頭頂皮質に適用しています。

また、Li L(2022)は、半側空間無視に対してシータバースト刺激が最も安定して効果を期待できると結論づけています。

これらのことから、半側空間無視を改善したいのであれば、シータバースト刺激を活用するのがよいと言えます。

運動療法

2022年の研究で、ミラーセラピーが半側空間無視を改善させる上で有効であることが報告されています。

ミラーセラピーは、鏡を使って麻痺している手が動いているように錯覚させるリハビリです。

基本的には運動障害を改善する上で有効とされていますが、半側空間無視を改善する上でも有効であると報告されています。

また、2013年の研究では、CI療法が半側空間無視、特に日常生活における左側の見落としを改善させる上で有効であることが報告されています。

CI療法とは、麻痺手だけをたくさん使うリハビリのことです。

麻痺手をリハビリでも生活でもたくさん使うので、運動障害が軽度な患者さんに適用可能なリハビリです。

一方、先ほど紹介したミラーセラピーは運動障害が重度な患者さんでも利用可能なリハビリなので、重症度に合わせてミラーセラピーやCI療法を使い分けるのが望ましいと言えます。

電気刺激

2009年の研究では、電気刺激が半側空間無視に対して有効であることが報告されています。

この研究では、電気刺激を左手(無視している側)に適用しつつスキャニング課題を行いました。

スキャニング課題とは?
半側空間無視を改善させるためのリハビリです。パソコンのモニターに映し出される刺激に反応したり、紙とペンを使って文章や絵を書き写す、といった課題を行います。半側空間無視に対するリハビリでよく行われるのですが、2021年の研究では、スキャニング課題単独では有効とは言えないと報告されており、電気刺激やTMSなどと組み合わせて行う必要があります。

1か月リハビリを行った結果、半側空間無視、特に机上課題の成績が向上したことが報告されました。

半側空間無視のリハビリでは病態を捉えることが重要

ここまで、半側空間無視に対して有効な3つのリハビリを紹介しました。

基本的にはTMS、運動療法、電気刺激を使うか、これらを組み合わせてリハビリを進めることが、改善の確率を上げるために大事だと言えます。

ただ、半側空間無視に対するリハビリのエビデンスは全体的に数が少なく、まだまだ研究が必要な分野です。

今回紹介したリハビリも、必ず効くというわけではなく、半側空間無視のタイプや病態によっては効果を示さない可能性もあります。

そこで大事になってくるのが、半側空間無視のタイプや病態に合わせてリハビリをカスタマイズするということです。

半側空間無視には『自己中心座標系の無視』や『物体中心座標系の無視』といったタイプがあり、また『能動的注意』の問題なのか『受動的注意』の問題なのかを判断しなければなりません。その他、『視空間性ワーキングメモリ』や『右側への過剰注意』、『予測バイアス』の影響があるのか、『全般的注意障害』の影響があるのかなど、さまざまなアセスメントを行い、どのように半側空間無視が表出しているのかを推定する必要があります。

この推定を行うために、さまざまな検査を実施し、リハビリ中の患者さんの行動を細かく観察することが重要になります。

ですので、ただ『TMSや運動療法、電気刺激を行えばよい』というわけではなく、患者さん一人ひとりの半側空間無視のタイプや病態を把握し、それに合わせたリハビリのカスタマイズが必要になります。

まとめ

  • 半側空間無視は左側を見落とすだけでなく、さまざまなことに影響を与える
  • 半側空間無視に対して有効性が報告されたリハビリは①TMS ②運動療法 ③電気刺激
  • 半側空間無視のタイプや病態を考慮してリハビリを進めましょう

半側空間無視をよくするためには、患者さんひとりひとりに合ったリハビリを行うことが必要です。

担当セラピストさんと相談し、あなたに合ったリハビリを進めてみてください。

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