『ひとりで歩いていいんだろうか?』

…とお悩みの方は多いのではないかと思います。

実際、私たちBRAINのご利用者様からもよく聞かれる質問です。

『脳梗塞や脳出血を発症した直後と比べると今かなりよくなってきているものの、病気を発症する前と比べるとまだ十分に歩けてないしバランスもよくない…』

『でも、歩かないと通勤できない、買い物に行けない、散歩ができない…』

そんなときに役立つ、ひとりで外を歩けるかどうか判断するための5つの基準をお伝えします。

私たちBRAINのセラピストが判断基準にしているものです。

担当セラピストさんと相談した上でご自身が5つの条件を満たしているか確認していただき、ひとりで歩けるかどうか判断する上で参考にされてみてください。

情報の信頼性について
・本記事はBRAIN代表/理学療法士の針谷が執筆しています(執筆者情報は記事最下部)。
・本記事の情報は、研究論文から得られたデータを引用しています。詳細をお知りになりたい方は原著論文をご確認ください。

▼ 動画でご覧になりたい方はこちらをご参照ください

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脳梗塞・脳出血を発症された方がひとりで歩けるようになるための5つの条件

最初に本記事のまとめとして、5つの条件をお伝えします。

  • 条件① 10mを11.7秒以下で歩ける
  • 条件② 6分間に318m以上歩ける
  • 条件③ BBSというバランス検査で35点以上とれる
  • 条件④ BESTestというバランス検査で70%以上とれる
  • 条件⑤ FMALEという運動検査で21点以上とれる

以下、詳しく説明します。

条件① 10mを11.7秒以下で歩ける

外を歩けるようになるためにはある程度の速さで歩ける必要があります。

ある程度速く歩けないと、横断歩道を渡りきれなかったり、人が多いところでは人にぶつかってしまうことがあります。

2015年に韓国の研究チームは、制限なく外出できるための歩行速度の基準として歩行速度0.85 m/sを報告しました(An S, 2015)

これは10mをおよそ11.7秒で歩く速さです。

もし11.7秒よりも速く歩ける場合、例えば10秒で歩ける、8秒で歩けるという場合も条件を満たしていることになります。

注意点としては、『いつも通りの歩行速度』ということです。

歩きのペースは変えられます。

速く歩くこともできれば、遅く歩くこともできます。

ここで報告された0.85 m/sというのは、快適歩行速度という『いつも通りの歩行速度』で歩いたときの速度です。

もうひとつ、最速歩行速度という『最大限速く歩いたときの歩行速度』があります。

検査になると気合が入って速歩きになってしまう方がいますが、いつも通りのペースで歩いたときの速度を記録しないといけないので注意が必要です。

ちなみに病気や怪我のない人の歩行速度は70歳代まで1.3 m/sくらいだと言われています。

1.3 m/sの速度で歩ければご友人やご家族の方と一緒にスムーズに歩ける可能性が高いですが、ひとりで外を歩くための条件としては0.85 m/s で十分であると言えます。

歩行速度は一般的には10m歩行試験、病院・施設さんによっては5m歩行試験で測定することが多いので、これらの検査結果をセラピストさんに確認していただければ、ご自身の歩行速度を把握することができます。

もし病院や施設さんで10m歩行試験をとっていなかったとしても、公園や廊下など歩ける場所であればどこでもできるので、セラピストさんと相談しながら10m歩行試験に取り組んでみてください。

条件② 6分間に318m以上歩ける

外を歩くときは長い距離を歩くことになります。

仮に先ほど紹介した歩行速度の基準を満たしていても、『10mだけは速く歩けるけど、50mは歩くことができない』となると、外を歩くのは難しくなってしまいます。

そのため、ある程度の速度で長い距離を歩く能力が必要になります。

それをみることができるのが6分間歩行試験です。

6分間歩行試験とは、6分間連続でなるべく速く、たくさん歩いていただき、合計何m歩けるのかを測定する検査です。

先ほどの韓国の研究チームは、制限なく外出できるための歩行距離の基準として “6分間で318m歩けること” を報告しました(An S, 2015)

6分間歩行試験をするためには特別な機器は必要ありません。

公園や12m以上の廊下があればできます。

こちらも担当セラピストさんに確認してみてください。

条件③ BBSというバランス検査で35点以上とれる

ひとりで歩くときに一番怖いのは転んで怪我をしてしまうことです。

そのため、バランス検査をして転倒のリスクが高いか低いかを判断します。

今回は2つのバランス検査を紹介します。

ひとつ目はBerg Balance Scale(以下、BBS)です。

これは14項目からなるバランスの検査で、最低0点、最高56点のスコアでバランスの状態を数値化します。

得点が高いほどバランスがよいことを示します。

2022年、チェコの研究チームは、脳卒中患者さんの6ヶ月以内の転倒を予測する基準値として、35点を報告しました(Fiedorová I, 2022)。

つまり、56点中、35点とれていないと転んでしまう可能性が高いということです。

ちなみに余談ですが、BBSはもともと健康な高齢者のためのバランス検査です。

病院さんによっては46点や48点などの基準値を使っているケースがあります。

ただ、本記事で紹介している35点という基準値は、脳梗塞や脳出血を発症された患者さんを対象に算出された値なので、脳梗塞や脳出血患者さんは35点を参考にした方がよいです。

条件④ BESTestというバランス検査で70%以上とれる

バランス検査はいくつかあります。

先ほど紹介したBBSの35点という基準値は、専門用語で恐縮ですが感度が低く特異度が高い、という特徴があります。

ざっくり説明すると、BBSの点数だけで判断してしまうのは望ましくないということです。

BRAINでは、BESTestという別の検査を併用して、転倒リスクを詳細に把握することを推奨しています。

BESTestは27項目からなるバランスの検査で、BBSよりも細かくバランスをみていきます。

点数は108点満点なのですが、これを%に直します。

例えば108点中108点とれたら100%と記録し、108点中54点とれたら50%と記録します。

2019年、トルコの研究チームは、1年以内の転倒を予測する基準値として69.44%を報告しました(Sahin IE, 2019)。

つまり、69%以下だと転倒するリスクが高いことを意味しています。

BESTestは BBSよりも検査項目が多く大変なのですが、その分精度が高いという特徴があります。

条件⑤ FMALEという運動検査で21点以上とれる

最後に、脚の運動機能の基準値を紹介します。

Fugl-Meyer Assessment Lower Extremity(以下、FMALE)という検査があります。

これは34点満点の検査で、脚を曲げ伸ばしする、足首を動かすなどの脚の動きを数値化します。

2019年、シンガポールで行われた研究では、ほぼ外出可能な高レベルの移動を予測する基準値として21点を報告しました(Kwong PWH, 2019)。

34点中21点以上とれていれば、速いスピードで歩くことができたり、長い距離を歩けたり、バランスよく歩ける可能性が高いということです。

FMALEも特別な機器は必要ないので、病院でも施設でも自宅でもテスト可能です。

もしテストしたことがないという方は、担当セラピストさんと相談し、テストしてみてください。

まとめ

以上、5つの条件をまとめますと

  • 歩行速度 0.85m/s
  • 6分間歩行距離 318m
  • BBSスコア 35点
  • BESTestスコア 69.44%
  • FMALEスコア 21点

になります。

注意点としてお伝えしておきたいのは、『これら全てを満たす必要はない』ということと『個人差がある』ということです。

転んでもいいから歩きたいんだ、という価値観の方であれば、バランスの条件を満たしていなくてもひとりで歩いている方もいます。

一方で、全て満たしていても認知機能が著しく低下しているなどの理由で、ご家族の方と必ず一緒に外を歩かれている方もいます。

そういった個別性の高いところにつきましては担当セラピストさんと相談しながらご判断いただけたらと思います。

また、上記5つの条件を満たしていても、独断で『外出OK』と判断してしまうのは避けるようにしてください。

担当セラピストや主治医の先生、ケアマネジャーさんと相談し、総合的に判断いただけましたら幸いです。

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参考文献

An S, Lee Y, Shin H, Lee G. Gait velocity and walking distance to predict community walking after stroke. Nurs Health Sci. 2015 Dec;17(4):533-8

Fiedorová I, Mrázková E, Zádrapová M, Tomášková H. Receiver Operating Characteristic Curve Analysis of the Somatosensory Organization Test, Berg Balance Scale, and Fall Efficacy Scale-International for Predicting Falls in Discharged Stroke Patients. Int J Environ Res Public Health. 2022 Jul 27;19(15):9181.

Sahin IE, Guclu-Gunduz A, Yazici G, Ozkul C, Volkan-Yazici M, Nazliel B, Tekindal MA. The sensitivity and specificity of the balance evaluation systems test-BESTest in determining risk of fall in stroke patients. NeuroRehabilitation. 2019;44(1):67-77.

Kwong PWH, Ng SSM. Cutoff Score of the Lower-Extremity Motor Subscale of Fugl-Meyer Assessment in Chronic Stroke Survivors: A Cross-Sectional Study. Arch Phys Med Rehabil. 2019 Sep;100(9):1782-1787.