嚥下障害へのリハビリ、どのようなことをやっていますでしょうか?
世界的には色々な嚥下障害のリハビリが報告されています。
今回は、Bath PM (2018) のコクランレビューをもとに、世界でどのような方法があるか、そして効果はどうかについて紹介します。
Bath PM (2018) のコクランレビューの概要
まず、Bath PM (2018) のコクランレビューの概要について紹介します。
リサーチ・クエスチョンは「嚥下障害を有する発症6ヶ月以内の脳卒中患者さんに対して、嚥下障害に対するアプローチは何もしない場合や偽の治療をする場合と比べて、死亡、日常生活の自立度、致死率、入院期間、嚥下障害の程度などに有効であるか」でした。
なので、急性期から回復期に勤めている言語聴覚士の先生にとって役に立つシステマティックレビューです。
対象にした研究はランダム化比較試験に絞っています。
コクランレビューですので、検索の情報源になる電子データベースは豊富に揃っていますし、言語バイアスもないですし、検索式も網羅的になっています。
最終検索日は2018年の6月28日ですので、そこまでに出版されたランダム化比較試験を取り込んだ研究、ということになります。
なお、嚥下障害に対するアプローチを全て含んでいますので、言語聴覚士さんをはじめ、セラピストがリハビリで行えるものも、行えないものも含まれています。
結果として、41件のランダム化比較試験を取り込みました。
続いて、メタアナリシスの結果を中心にどのような結果になったかお伝えします。
報告された嚥下障害に対するアプローチと効果
まず、嚥下障害に対するアプローチの種類は、8種類に大別されました。
研究数が多いものから紹介します。
まずは鍼治療です。
これが、研究数で言うと41件中11件、対象者数でいうと998人で一番多いアプローチでした。
ですがこれはセラピストは扱えないアプローチです。
続いて、「行動療法」とされるアプローチです。
この中に、嚥下運動、摂食のための姿勢や環境の修正、安全な嚥下アドバイス、食事の調整、呼気筋力トレーニングなどが含まれていました。
一般的に言語聴覚士の先生が行うアプローチはこういうものが多いのではないかと思います。
これらがまとまって「行動療法」と定義されていました。
これが研究数で言うと9件、対象者数で言うと632人でした。
あとは神経筋電気刺激が研究数6件、対象者数312人、咽頭電気刺激が研究数4件、対象者数214人でした。
電気刺激も世界的には広く研究されているようです。
だからと言って多く使用されているのかはわからないですが、Evidenceに基づいてリハビリを行なっていくときはこういったエビデンスがあるものの方が使いやすいので、普通に考えたら電気刺激も広く使われているのではないかと思います。
その他、物理療法(温熱刺激、触覚刺激)が研究数3件、対象者数155人、薬物療法が研究数3件、対象者数148人、経頭蓋磁気刺激法が研究数9件、対象者数167人、経頭蓋直流刺激が研究数2件、対象者数34人、と言う結果でした。
続いて、メタアナリシスの結果について紹介します。
今回は、日本で一般的に言語聴覚士の先生方が行なっているであろう、行動療法についてと、これら嚥下障害へのアプローチを全体的に見た時の効果について紹介します。
まず、全体で見た時の効果ですが、死亡や致死率に対する効果というのは、何もしない場合や偽治療などを行う場合と比べて、有益な効果があるとは言えないという結果になっています。
嚥下においては誤嚥性肺炎などによって亡くなってしまうことが一番問題になるわけですが、そもそも亡くなるというのはそういった誤嚥性肺炎や窒息に限らず様々な要因によって生じるので、嚥下障害に対するアプローチが意味がないとは言えないです。
嚥下障害によって亡くなる場合は、嚥下障害→窒息もしくは誤嚥性肺炎→死亡、という流れになると思うので、嚥下能力にどのような影響を与えるのかを把握した方が良いと思います。
ということで、嚥下障害を持つ人の割合、嚥下能力の程度をアウトカムにしたメタアナリシスを見てみると、こちらに対しては効果があるという結果になっています。
繰り返しになりますが、これは行動療法だけでなく、鍼治療や経頭蓋磁気刺激など様々なアプローチを含め、全体的に見た時の効果です。
では、国内で一般的に言語聴覚士の先生が行われる行動療法についてはどうでしょうか。
結果としては、行動療法は、何もしない場合や偽治療を行う場合と比べると、嚥下障害を持つ人の割合や、嚥下能力をよくする、という結果になっています。
言語聴覚士の先生方が行われているリハビリは、患者さんの嚥下障害が良くなるという高いレベルのエビデンスがある、ということになります。
まとめると、世界的に報告されている嚥下障害へのアプローチは8種類あり、全体で見たときも国内で言語聴覚士の先生が行われている行動療法だけで見た時も、嚥下障害に対して有効であるという結果になっています。
エビデンスに基づいた嚥下障害へのアプローチを
言語聴覚領域においてはエビデンスが少ないと言われているようですが、世界的にみると結構、色々な研究が行われているようです。
鍼治療が多かったというのは個人的には意外な結果でした。
国内でも鍼灸院では嚥下障害へのアプローチもされているのかもしれないですね。
国内のリハビリでは筋に対するアプローチや姿勢に対するアプローチを行うことが多いようですが、電気刺激を併用するとか、そういった世界的に報告されている、エビデンスに基づくリハビリを行なっていくことも患者さんのためになるのではないかと思います。
この朝ラジオでは今まで理学療法士、作業療法士の先生に向けた内容を伝えてきておりますが、今後は言語聴覚士さんにも役立つ情報をお伝えしていこうと思いますので、引き続きお聞きいただけたら嬉しいです。
本日は「脳卒中患者さんへの8つの嚥下アプローチを紹介」というテーマでお話しさせていただきました。
BRAINでは脳卒中EBPプログラムというオンライン学習プログラムを運営しております。
2021年前期はおかげさまで満員御礼となりましたが、後期は10月から開始、募集は7月〜8月ごろから開始する予定です。
ご興味がある方はよかったらホームページを覗いてみてください。
それでは今日もリハビリ頑張っていきましょう!
参考文献
Bath PM, Lee HS, Everton LF. Swallowing therapy for dysphagia in acute and subacute stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2018 Oct 30;10(10):CD000323.