構音障害について、今回紹介するMitchell C (2017)のレビューに記載されている文章をお借りすると、「構音障害は、発話の筋肉組織が遅く、弱く、および/または不正確になる神経学的運動発話障害」とされています。
これにより、呼吸や声の生成、口の関節運動を含む動きの調整が不十分になる、ともされています。
失語症と構音障害はコミュニケーションをうまくいかなくさせてしまう症状として共通ですが、失語症と構音障害は別の症状で病態も異なるので、リハビリの選択肢も異なってきます。
今回は、Mitchell C (2017)のコクランレビューをもとに、構音障害へのアプローチについて紹介します。
Mitchell C (2017)のコクランレビューの概要
研究のリサーチクエスチョンは「構音障害を有する脳卒中患者さんに構音障害へのアプローチは何もしない場合などと比べて日常生活での会話や構音障害を改善させるか」でした。
“日常生活での会話” のアウトカムとして “Dysarthria Therapy Outcome Measures Activity (TOMA)” や “communication effectiveness measure” などが採用されています。
また、構音障害(厳密には本文中に”障害レベルでのコミュニケーション” とされています)のアウトカムとして”Frenchay Dysarthria Assessment” や “Iowa Oral Performance Instrument (IOPI)” などが採用されています。
2016年9月までに出版されたランダム化比較試験を対象に、複数のデータベースを使って網羅的に文献検索がされています。
結果として、5件の研究が取り込まれました。
5件って少ないですよね。
先日紹介した失語症のコクランレビューでは64件でしたし、領域は異なりますが歩行障害に対するトレッドミルトレーニングのコクランレビューでは56件でした。
構音障害への研究があまり進んでいないということがわかります。
取り込まれた5件の研究において、どのようなリハビリが行われていたか紹介します。
まず大きくセラピストが現場で実施できるものとそうでないものに分けます。
①経頭蓋磁気刺激
②行動療法
行動療法の中身として、次のようなものが含まれていました。
・言語障害に関する情報提供
・呼吸トレーニング
・発声運動
・イントネーションを強調する練習 など
それではメタアナリシスの結果を紹介します。
構音障害自体への介入後効果があった
このレビューではいくつかの視点で結果が分析されているのですが、構音障害自体への介入後の効果としては、構音障害へのアプローチが有効であったことが報告されています。
①構音障害への効果
介入後:あり
持続効果:あるとは言えない
②日常生活での会話への効果
介入後:あるとは言えない
持続効果:あるとは言えない
まとめると、脳卒中患者さんへの構音障害に対するアプローチは、構音障害自体をよくすると言えますが、持続的な効果は期待できないことに加え、日常生活での会話に対しては効果があるとは言えない、という結果です。
構音障害が良くなることで日常生活での会話が良くなることが理想的ではありますが、ギャップを埋めるのは難しそうです。
今後の研究が期待される
繰り返しになりますが、脳卒中患者さんに対する構音障害への介入研究はとても少ないです。
とても簡単な検索式ですが、”stroke dysarthria”でPubMed検索すると、ランダム化比較試験は16件しかヒットしません(2021年6月14日現在)。
これから研究数が増えることによって、本日紹介した結果が変わるかもしれませんし、今回の結果がより強くなるかもしれません。
今後の研究に期待がかかります。
本日は「脳卒中後の構音障害に対するリハビリの効果〜2017年のコクランレビュー〜」というテーマでお話しさせていただきました。
BRAINでは脳卒中EBPプログラムというオンライン学習プログラムを運営しております。
2021年前期はおかげさまで満員御礼となりましたが、後期は10月から開始、募集は7月〜8月ごろから開始する予定です。
ご興味がある方はよかったらホームページを覗いてみてください。
それでは今日もリハビリ頑張っていきましょう!
参考文献
Mitchell C, Bowen A, Tyson S, Butterfint Z, Conroy P. Interventions for dysarthria due to stroke and other adult-acquired, non-progressive brain injury. Cochrane Database Syst Rev. 2017 Jan 25;1(1):CD002088.