脳卒中リハビリテーションにおいて運動機能や運動パフォーマンスの向上を期待できるリハビリとしてコンセンサスを得られているもののひとつに、ミラーセラピー があります。

ミラーセラピーは、名前の通り鏡を使うリハビリです。

手のリハビリとして使う場合は100円均一で売っている道具で始められますし、腕のリハビリとして使う場合や下肢のリハビリとして使う場合はリハビリ室にある姿勢鏡を利用することで実施可能です。

姿勢鏡はほとんどの病院・施設にあると思いますので、手軽に始められるリハビリでもあります。

本日は、ミラーセラピーについて簡単に説明します。

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脳卒中リハビリのミラーセラピー を簡単に解説

ミラーセラピーは鏡を使って、あたかも麻痺側の腕・手や足が動いているかのように見せかけ、錯覚を利用して運動機能や運動パフォーマンスを改善させるリハビリです。

上肢のリハビリとしても、下肢のリハビリとしても使われます。

手順をざっくりと説明しますと上肢のリハビリとして行う場合は両手の間に鏡を置き、下肢のリハビリの場合は両下肢の間に鏡を置きます。

そして鏡面(鏡の面)を非麻痺側に向けておき、患者さんは鏡を見ておきます。

この状態で非麻痺側を動かすと、鏡に反射して、麻痺側が動いているかのように見えます。

これで錯覚を起こし、リハビリ効果を期待します。

ミラーセラピーは単純な関節運動を行うだけでなく、課題指向型訓練のように物品操作を行う場合もあります。

また、麻痺側を、非麻痺側と一緒に動かすパターンもあれば、麻痺側は動かさないようにするというパターンもあります。

これらのオプションをどうするかによって効果が異なるというシステマティックレビューの報告もあり、エビデンスに基づき慎重に条件設定する必要があります。

ミラーセラピーのエビデンス

脳卒中治療ガイドライン2015では、上肢機能障害に対するリハビリテーションのところでグレードBとされています。

また、2018年のコクラン・レビューでは、脳卒中患者さんに対するミラーセラピーは、何もしない場合や通常ケアなどと比べると、運動パフォーマンスや運動機能、ADL向上の効果があると報告されています。

また、上肢へも下肢へも効果が期待できることが報告されており、コンセンサスが得られているリハビリと言って良いと思います。

また、先ほどのチャプターで紹介しましたが、ミラーセラピーには細かい方法がいくつかあります。

その中のひとつに「物品を操作する」というのがあります。

例えば、ミラーボックスの中でボールを持つとか、ペグを摘むとか、そういう課題指向型訓練のようなことを行うケースです。

ただ、Morkisch N (2019) のシステマティックレビューによると、このようにミラーセラピーで課題を行なってしまうと、効果があるとは言えなくなるという報告がされており、注意が必要です。

これは自分でやってみるとよくわかるのですが、麻痺側の手で物品操作をしようと思った時、視覚と体性感覚の不一致が生じます。

鏡を見てあたかも麻痺側が動いているように見えるのですが、見えているのはあくまでも非麻痺側の運動なので、実際の麻痺側の運動は見えていません。

この状態で麻痺側で物品操作をしようとすると、麻痺側の運動にズレが生じます。

例えば、麻痺側でボールをつかもうとしたときに、ボールがイメージした位置になくうまく掴めないとか、ペグを穴に差し込もうとしたときに穴が見つからないとか、そういうことがあります。

これにより錯覚はすぐ解けてしまいます。

“なぜ物品操作をすると効果があるとは言えなくなるのか” については私が知る限りまだ明らかになっていませんが、おそらくこの錯覚の問題がひとつあるのではないかと思います。

ただ、大局的に見ればミラーセラピーは脳卒中患者さんの上肢の運動や下肢の運動、ADLを向上させる可能性が高いです。

ミラーセラピーを使ってみよう

繰り返しになりますが、ミラーセラピーは100円均一の道具や、リハビリ室においてある姿勢鏡を使うことで手軽に始められるリハビリです。

上肢へも下肢へも効果があると言えるという報告がされていますので、積極的に使用を検討して、みてはいかがでしょうか!

ミラーセラピーのような “錯覚” の要素は、普通の運動療法や課題指向型訓練などでは得られにくい経験です。

運動観察療法などでも錯覚を起こさせることができますが、ミラーセラピーの錯覚はまた独特なので、セラピストのリハビリの選択肢として持っておくとリハビリの幅が広がるのではないかと思います。

参考文献

Thieme H, Morkisch N, Mehrholz J, Pohl M, Behrens J, Borgetto B, Dohle C. Mirror therapy for improving motor function after stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2018 Jul 11;7:CD008449.

Morkisch N, Thieme H, Dohle C. How to perform mirror therapy after stroke? Evidence from a meta-analysis. Restor Neurol Neurosci. 2019;37(5):421-435.