実際に臨床で運動イメージを患者さんにやっていただくことってありますでしょうか?

運動イメージって、患者さんの頭の中で行われるので、正しく運動イメージを行えているのか、そしてこれを続けていいのか、という不安にかられることがあります。

ただ、あとでお伝えしますが、メンタルプラクティスは上肢のリハビリとして効果が報告されています。

できれば積極的に使用していきたいです。

今回はメンタルプラクティスの概要と効果に関するエビデンスについて紹介します。

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メンタルプラクティスの概要

メンタルプラクティスは、脳卒中患者さんのリハビリのひとつです。

上肢に対するリハビリでも歩行に対するリハビリでも使われるので、作業療法士の先生も、理学療法士の先生も利用できます。

メンタルプラクティスは運動イメージを繰り返し行うものです。

一般的には、自分の身体が動いているところ、何か課題を行っているところを頭の中で繰り返しイメージします。

頭の中で行えるリハビリなので、重度の運動障害があって思うように動かせないという患者さんでも行うことができます。

それでは、エビデンスについて紹介します。

メンタルプラクティスのエビデンス

脳卒中患者さんに対するメンタルプラクティスのエビデンスを紹介します。

みなさまご存知のとおりかと思いますが、脳卒中治療ガイドライン2015というものがあります。

これは脳卒中患者さんに対するリハビリテーション含む治療についてのガイドラインで、日本脳卒中学会が作成したものです。

そしてメンタルプラクティスの記載ですが、残念ながら脳卒中治療ガイドライン2015の上肢機能障害に対するリハビリテーションや運動障害・ADLに対するリハビリテーションのところでは記載がありません。

少なくとも推奨はされていない状況です。

一方で否定的な記載があるわけでもないので、単純にガイドライン作成時にメンタルプラクティスの研究論文が取り込まれなかったということなのかもしれません。

そこで、Barclay RE (2020) のコクランレビューを紹介します。

コクランレビューはシステマティックレビューでして、方法を厳密に、かなりきっちり行われたものです。

このコクランレビューでは上肢運動障害を持つ脳卒中患者さんに対する上肢のメンタルプラクティスが治療をしない場合やプラセボ介入、他のリハビリを行う場合などと比べて上肢の運動パフォーマンスや運動機能にどのような影響を与えるかを検証しています。

結果としては、メンタルプラクティスを他のリハビリに加えて実施することで、他のリハビリ単体で行うよりも上肢の運動パフォーマンスや上肢の運動機能を向上させる、という報告がされています。

一方で、ADLを向上させるとは言えない、という報告もされています。

あくまで上肢の運動性を向上させるにとどまり、日常生活レベルが直接改善するわけではない、と捉えられます。

また、Stockley RC (2021) のシステマティックレビューでは、重症度や病期に応じてメンタルプラクティスの効果が変わるかどうかを検証しています。

この重症度につきましては、Action Research Arm Test(以下、ARAT)の得点に応じて0〜20点(重度)、21〜40点(中等度)、41〜57点(軽度)に分類し、解析を行っています。

結果としては、重度と中等度の運動障害を持つ患者さんに対して、メンタルプラクティスがコントロール群よりも有益であることが報告されています。

軽度の患者さんに対してはコントロール群と比べて有意に効果が高いとは言えない状況でしたが、軽度の患者さんに対する研究論文数が少ないということが影響している可能性があり、今後研究数が増えることで結果が変わるかもしれません。

また、病期に応じて効果の違いがあるかについても検証されています。

結果としては、発症3ヶ月未満、そして6ヶ月以降の患者さんに対するメンタルプラクティスがコントロール群よりも有益であることが報告されています。

一方で、発症3〜6ヶ月の患者さんに対してはコントロール群と比べて有意に効果が高いとは言えない結果でした。

ですので、このエビデンスからは、急性期〜回復期初期、慢性期の患者さんにはメンタルプラクティスが有益であることが示唆されています。

まとめると、脳卒中治療ガイドライン2015にはメンタルプラクティスの記載がなかったものの、複数のシステマティックレビュー・メタアナリシスで上肢の運動パフォーマンスや運動機能への効果が報告されており、特に重度運動障害を持つ患者さん、急性期〜回復期初期、慢性期の患者さんに対して有益であることが報告されています。

メンタルプラクティスの活用を!

最後に、Stockley RC (2021) に取り込まれた研究のメンタルプラクティス平均実施時間は1日あたり20.3分、週あたりの頻度の中央値は3(つまり週3回)、平均実施期間は4.7週間でした。

メンタルプラクティスの良いところは、道具が必要ないところです。

やり方さえわかれば、患者さん一人でもできますので、自主トレーニングとして組み込んでもいいかもしれません。

また、運動イメージというのは、CI療法や課題指向型訓練、反復促通療法などにはない要素です。

もしかしたら、他のリハビリで思うように結果がでない、という患者さんの場合はメンタルプラクティスが有効、ということがあるかもしれません。

特に、今回紹介したエビデンスからは重度運動障害を持つ患者さんに対する有効性が報告されていますので、リハビリに難渋する場合はプログラムの選択肢に入れてみてはいかがでしょうか!

参考文献

Stockley RC, Jarvis K, Boland P, Clegg AJ. Systematic Review and Meta-Analysis of the Effectiveness of Mental Practice for the Upper Limb After
Stroke: Imagined or Real Benefit? Arch Phys Med Rehabil. 2021 May;102(5):1011-1027.

Barclay RE, Stevenson TJ, Poluha W, Semenko B, Schubert J. Mental practice for treating upper extremity deficits in individuals with hemiparesis after
stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2020 May 25;5(5):CD005950.