ミラーセラピーは鏡を使ったリハビリで、脳卒中患者さんの上肢リハビリや、下肢・歩行のリハビリなどで幅広く使われます。
脳卒中治療ガイドライン2015では、上肢機能障害に対するリハビリテーションのところでグレードBとされています。
グレードBというのは、「行うよう勧められる」ことを意味するので、推奨されているリハビリになります。
ミラーセラピーは色々なオプションがあります。
オプションの例をいくつか紹介させていただきますと、「非麻痺側も麻痺側も同時に動かすかどうか」、とか「物品操作をするかどうか」、「大きい鏡を使うか小さい鏡を使うか」などです。
脳卒中患者さんで重度の運動障害がある患者さんだと麻痺側の手を動かすことができないので、視覚と体性感覚の不一致が生じてしまうのですが、これに対応して「麻痺側の手に電気刺激を与える」という選択肢があります。
麻痺側を随意的に動かすことができなかったとしても、電気刺激を与えることによって関節運動を起こさせ、視覚と体性感覚の一致を図ることができます。
ただ、ミラーセラピーのオプションは一歩間違えれば効果を下げることになりかねないので、慎重な判断が必要です。
例えば、Morkisch N (2019) のシステマティックレビューによると、ミラーセラピーの中で物品操作を行なってしまうと、効果があるとは言えなくなるという報告がされています。
さて、ミラーセラピーと電気刺激の組み合わせはどうでしょうか。
今回は、Saavedra-García A (2021) のシステマティックレビューをもとに、ミラーセラピー+電気刺激の効果について紹介します。
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Saavedra-García A (2021) のシステマティックレビューの概要
まず、Saavedra-García A (2021) のシステマティックレビューの概要を紹介します。
リサーチクエスチョンは「脳卒中患者さんに対するミラーセラピー+電気刺激は、従来のリハビリもしくはミラーセラピー 単独、電気刺激単独を行う場合と比べて上肢の運動能力を向上させるか?」でした。
なお、電気刺激には普通の電気刺激も、IVESのような筋電トリガー式の電気刺激も、様々なものが含まれていました。
対象になった研究デザインは、ランダム化比較試験だけでなく、非ランダム化比較試験も対象にしていました。
最終検索日は2020年7月で、使用された電子データベースはPubMed、Web of Science、Scopus、PEDro、CENTRAL、 ScienceDirectと複数のデータベースが使用されていました。
最終的にメタアナリシスに取り込まれた研究数は7件でした。
個々の研究のバイアスリスクはPEDro scaleを用いて評価していますが、平均7点(範囲:5〜9点)と良好でした。
※PEDro scaleは6点以上で高品質とされます。
それではメタアナリシスの結果についてお伝えします。
ミラーセラピー+電気刺激は他のリハビリと比べて上肢の運動障害に有効であると言えない
結果として、概ね、脳卒中患者さんに対するミラーセラピー+電気刺激は、従来のリハビリやミラーセラピー単独、電気刺激単独と比べると上肢の運動能力に有益であるとは言えない結果になりました。
一方で従来のリハビリやミラーセラピー単独、電気刺激単独の方が効果が大きいとも言えない結果になっていますので、どちらを選んでも同じような効果、ということになります。
ひとつだけ、ミラーセラピー +電気刺激はミラーセラピー 単独よりも、Action Research Arm Test(以下、ARAT)のスコアに対しては有効である、ということが報告されています。
ARATは上肢の運動課題を複数行って、運動パフォーマンスをみる検査ですが、同じように運動パフォーマンスをみる検査であるBox and Block Test(以下、BBT)のスコアでは有効性があるとは言えない結果になっており、誤差である可能性もあります。
いずれにせよ、概ね、脳卒中患者さんに対するミラーセラピー+電気刺激は、従来のリハビリやミラーセラピー単独、電気刺激単独と比べると上肢の運動能力に有益であるとは言えない結果になっています。
電気刺激を加えてもいいけど…
今回のメタアナリシスの結果は「ミラーセラピー +電気刺激の方がいい」ということも「従来のリハビリやミラーセラピー 単独もしくは電気刺激単独の方がいい」とも言えない結果ですので、「じゃあミラーセラピー に電気刺激を加えてもいいじゃないか」というご意見もあると思います。
全くその通りだと思います。
電気刺激を加えることによって、錯覚が起こりやすくなったり、明らかに即時効果が得られるのであれば電気刺激を加えてもいいと思います。
一方で、電気刺激をセッティングするにも時間がかかりますので、電気刺激をつけても付けなくても効果が変わらないのであればつけずに、セッティングの時間を他のリハビリに当てた方がいい、というご意見もあると思います。
こちらもその通りだと思います。
あとは患者さんの価値観、セラピストの臨床的な経験を踏まえて、患者さんと電気刺激を加えるか否か、について意思決定していけたらいいのではないかと思います。
参考文献
Morkisch N, Thieme H, Dohle C. How to perform mirror therapy after stroke? Evidence from a meta-analysis. Restor Neurol Neurosci. 2019;37(5):421-435.
Saavedra-García A, Moral-Munoz JA, Lucena-Anton D. Mirror therapy simultaneously combined with electrical stimulation for upper limb motor
function recovery after stroke: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Clin Rehabil. 2021 Jan;35(1):39-50.