昨日、「運動イメージと運動錯覚の神経基盤と脳卒中リハビリテーションへの応用」というテーマでBRAINの特別セミナーを開催しました。

ご登壇いただいたのは酒井克也先生でした。

運動イメージは難しい分野ですが、酒井先生のご講義がとてもわかりやすく、興味深いものでした。

講義終了後の質問もたくさんいただき、盛り上がった勉強会になりました。

やっぱりそれだけ運動イメージについては皆さん臨床で困っている、あるいは使いたいけど上手く使えない、という方が多かったのかなと思っています。

今回は、運動イメージに関するエビデンスの紹介と、やっぱり評価が大事だよね、という話です。

セミナーに参加してくださった方は、昨日のセミナーを振り返りながら聞いていただけたらと思います。

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運動イメージのリハビリで陥りやすい問題

運動イメージ系のリハビリとして、メンタルプラクティス、運動観察、ミラーセラピー、視覚性運動錯覚があります。

これらのリハビリは、身体を動かさず脳の中でイメージしたり錯覚を起こさせたりします。

※ミラーセラピーは麻痺手を動かすパターンと麻痺手を動かさないパターンがあります。

身体を動かすリハビリ、例えば課題指向型訓練やトレッドミルトレーニングなどは、リハビリっぽいリハビリですし、リハビリをしてる感が患者さんもセラピストも得られやすいですよね。

ですが、運動イメージ系のリハビリは身体を動かさないので、リハビリをしている感が得られにくいです。

ですので、ちゃんと結果に繋がるまでは「これやって意味あるの?」と患者さんもセラピストも迷ってしまうことがあったり、その挙句、何回かやって結果が出ないと患者さんからの不信感にも繋がりかねません。

また、結果が出なかった時、それは運動イメージが患者さんに適さなかったのか、それとも患者さんの頭の中で運動イメージが行えなかったのかがわからないため、修正が難しいという点があります。

こういったデメリットがあり、運動イメージ系のリハビリは現場ではなかなか使いづらいのが実情です。

コクランレビューによって支持する結果が得られている

とは言え、運動イメージ系のリハビリはコクランレビューで有効性が報告されています。

例えばBarclay RE (2020) のコクランレビューでは、

「脳卒中患者に対する上肢のメンタルプラクティスは、他のリハビリに加えて実施することで、他のリハビリ単体で行うよりも上肢の運動パフォーマンスや上肢の運動機能を向上させる」

と報告しています。

メンタルプラクティスというのは運動イメージを繰り返し実施するものです。

また、Borges LR (2018) のコクランレビューでは、

「上肢運動機能障害を有する脳卒中患者に対する運動観察療法は、何もしない/他の治療と比べて上肢・手運動機能、ADLを改善させる。また、ホームエクササイズとしても上肢運動障害に対して有効である」

と報告しています。

運動観察療法は、iPadなどを使って運動を見てもらうリハビリを指します。

加えて、Thieme H (2018) のコクランレビューでは、

「脳卒中患者に対するミラーセラピーは、何もしない場合などと比較すると運動パフォーマンス、運動障害、ADLを向上させる」

と報告されています。

ミラーセラピーは鏡を使って、非麻痺側の運動を反転させ、麻痺側が動いているように錯覚させるリハビリです。

こちらは上肢に対しても下肢に対しても有効であるとされています。

いずれも2018年〜2020年に出版されたコクランレビューですが、このように、運動イメージ系のリハビリは運動機能やADLに対して有効性が報告されています。

病態に合わせてリハビリを行うことが大切

エビデンスがあれば、患者さんに説明して納得してもらうことができたり、セラピスト自身もある程度納得する事ができると思います。

ただ、患者さんはエビデンスのあるリハビリを受けたいわけではなく、身体や生活をよくしたいためにリハビリを受けているわけで、結果が伴わなければエビデンスのあるリハビリを行ったところであまり意味がありません。

エビデンスはリハビリの効果を得られる可能性を高めてくれるツールであって、エビデンスに基づくリハビリを行うことが目的になってはいけません。

よく手段と目的は違う、と言われますが、エビデンスに基づくリハビリは手段であって目的ではありません。

そう考えると、やはり結果を出す、ということが患者さんにとって大事なわけですが、そのためには「なぜ手足が動かせないのか/動かしづらいのか」という分析が大事になってきます。

原因に合わせて、リハビリの方法を選ぶ、という事です。

昨日のセミナーでは、酒井先生にメンタルクロノメトリーやKinesthetic and Visual Imagery Questionnaire (KVIQ) 、Visual Analog Scaleといった検査・測定バッテリーの活用の仕方を教えていただきました。

これらの評価に基づいて、運動イメージが適切かどうか判断し、適切なのであればエビデンスに基づいてメンタルプラクティスを選択するとか、視覚性運動錯覚を選択するとか、ミラーセラピーを選択する、というように意思決定できるといいですね!

脳卒中患者さんにおけるEvidence Based Practice (EBP)においては、単純にエビデンスに基づいてリハビリをすればいいというわけではなく、こういった病態に基づいて判断をしないといけないという、少し複雑ですが、その分やりがいのある仕事なのかもしれません。

参考文献

Barclay RE, Stevenson TJ, Poluha W, Semenko B, Schubert J. Mental practice for treating upper extremity deficits in individuals with hemiparesis after stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2020 May 25;5(5):CD005950.

Borges LR, Fernandes AB, Melo LP, Guerra RO, Campos TF. Action observation for upper limb rehabilitation after stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2018 Oct 31;10:CD011887.

Thieme H, Morkisch N, Mehrholz J, Pohl M, Behrens J, Borgetto B, Dohle C. Mirror therapy for improving motor function after stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2018 Jul 11;7:CD008449.