脳卒中を発症した後、特に急性期や回復期の初期では、低緊張により肩の亜脱臼が生じます。

臨床の先生方も、肩の亜脱臼で困ることは多いのではないでしょうか?

亜脱臼の状態が続くと、棘上筋や上腕二頭筋の長頭を伸ばしてしまい、痛みが生じることがあります。

また、急性期の亜脱臼を放置してしまうと不可逆的(治らない)な亜脱臼になってしまう可能性があります。

ですので、亜脱臼を予防する、改善する、といったアプローチが急性期〜回復期初期のリハビリでは大事な意味を持ちます。

亜脱臼に対してはスリングやポジショニングなどで対応することがあるかもしれませんが、亜脱臼の改善に対して電気刺激も選択肢のひとつです。

Lee JH (2017) のシステマティックレビューでは、急性期の亜脱臼に対して、電気刺激が有効であることを報告しています。

ただ、電気刺激をするといっても、どこの筋肉を刺激するかで効果が変わってきます。

本記事では、3つのランダム化比較試験をもとに、亜脱臼に対する電気刺激でターゲットにすべき筋を3つ紹介しています。

亜脱臼で困っている方のお役に立てれば嬉しいです。

脳卒中EBPプログラム【上肢の運動障害コース】
課題指向型訓練やCI療法、ミラーセラピーや運動イメージなど、麻痺側上肢のリハビリとしてコンセンサスが得られているリハビリを、エビデンスに基づいて実践できるようになるためのオンライン学習プログラムです。6ヶ月にわたり、病態・検査・リハビリのやり方を学びます。
脳卒中EBPプログラム【上肢の運動障害コース】はこちら

脳卒中後の肩の亜脱臼に対するEMSが有効な3つの筋

EMSが有効な筋は下記の3つです。

①棘上筋(Koyuncu E, 2010; Jeon S, 2017; Manigandan JB, 2014)

②三角筋後部線維(Koyuncu E, 2010; Jeon S, 2017; Manigandan JB, 2014)

上腕二頭筋長頭(Manigandan JB, 2014)

棘上筋+三角筋後部+上腕二頭筋長頭への電気刺激が有効

基本的には、亜脱臼に対して電気刺激を行う場合は棘上筋+三角筋後部をターゲットにします。

Koyuncu E (2010)やJeon S (2017) のランダム化比較試験では、これらの筋をターゲットに電気刺激を行った結果、肩の亜脱臼が改善したと報告しています。

棘上筋や三角筋後部線維は、上腕骨を上へ引き上げる役割があります。

ですので、これらの筋に電気刺激を与えることで上腕骨が垂直方向では正しい位置に戻る可能性があります。

ただ、亜脱臼は純粋に下へ生じるのではなく、前下方(つまり前かつ下の方向)へ生じる場合があります。

この場合、上に引き上げる棘上筋と三角筋後部だけでは亜脱臼に対するアプローチとしては不十分であることが考えられ、前方への亜脱臼への対応が求められます。

肩の前面にはいくつか筋がありますが、上腕二頭筋長頭への電気刺激が注目されています。

Manigandan JB (2014)の研究では、上腕二頭筋長頭への電気刺激の有効性が調査されました。

この研究では、脳卒中を発症して3ヶ月以内の急性期〜回復期の患者さん24人を2つのグループに分け、亜脱臼に対する電気刺激のターゲット筋について研究しています。

ひとつ目のグループは「棘上筋と三角筋後部線維」グループで、もうひとつは「棘上筋と三角筋後部線維と上腕二頭筋」グループです。

結果として、棘上筋と三角筋後部へ電気刺激を行ったグループは、亜脱臼の平均距離が13.06 (5.36) から 9.85 (4.69) mmへ改善したのに対し、棘上筋と三角筋後部と上腕二頭筋長頭へ電気刺激を行ったグループは、平均12.61 (5.62) から 6.06 (4.07) mmへ改善しました。

グループ間の統計的な有意差が認められ、上腕二頭筋長頭へ電気刺激を加えたグループの方が、亜脱臼についてより大きい改善を示したことが報告されています。

多くの電気刺激装置は2チャンネルになっていて、同時に刺激できる筋肉は2つが限界です。

なので、基本的には棘上筋と三角筋後部線維に対して電気を与えるのが良いと思いますが、電気刺激装置がもうひとつ余っていたら上腕二頭筋長頭にも電気刺激を与えることを検討してみてください。

亜脱臼の電気刺激研究はバイアスリスクが高いものが多い

最後に注意点を紹介します。

本記事で紹介した研究に限らずなのですが、脳卒中患者さんの肩の亜脱臼に対する電気刺激の研究は、バイアスリスクが高いものが多いです。

バイアスリスクが高いというのは、情報の信頼性に難あり、ということです。

冒頭で説明した通り、Lee JH (2017) のシステマティックレビューでは亜脱臼に対する電気刺激は有効性が報告されています。

なので、大局的に見れば電気刺激は有効と言えるのですが、今後の研究で、しっかりした研究が出てきたときに結果が変わったり、あるいは他の筋への電気刺激の方が効果的だ、ということになるかもしれません。

あくまでも現時点でのエビデンスをもとに考えると、棘上筋、三角筋後部線維、上腕二頭筋長頭への電気刺激が有効である、とご理解いただけますと幸いです。

まとめます。

● 脳卒中後の肩の亜脱臼に対して電気刺激が有効
● 電気刺激のターゲットは三角筋後部+棘上筋+上腕二頭筋長頭が良い
● 亜脱臼に対する電気刺激研究はバイアスリスクが高いものが多く要注意

参考文献

Lee JH, Baker LL, Johnson RE, Tilson JK. Effectiveness of neuromuscular electrical stimulation for management of shoulder subluxation post-stroke: a systematic review with meta-analysis. Clin Rehabil. 2017 Nov;31(11):1431-1444.

Koyuncu E, Nakipoğlu-Yüzer GF, Doğan A, Ozgirgin N. The effectiveness of functional electrical stimulation for the treatment of shoulder subluxation and shoulder pain in hemiplegic patients: A randomized controlled trial. Disabil Rehabil. 2010;32(7):560-6.

Jeon S, Kim Y, Jung K, Chung Y. The effects of electromyography-triggered electrical stimulation on shoulder subluxation, muscle activation, pain, and function in persons with stroke: A pilot study. NeuroRehabilitation. 2017;40(1):69-75.

Manigandan JB, Ganesh GS, Pattnaik M, Mohanty P. Effect of electrical stimulation to long head of biceps in reducing gleno humeral subluxation after stroke. NeuroRehabilitation. 2014;34(2):245-52.