回復期の脳卒中患者に対する上肢の課題指向型訓練の効果①

Arya KNら(2012)は、発症から3ヶ月程度、年齢52歳前後の脳卒中患者51人に対するMeaningful task-specific training (以下、MTST) の効果を検証しました。

リハビリ介入前のFugl-Meyer Assessment Upper Extremity (以下、FMAUE)スコアは11.98 + 9.74でしたので、重度の運動麻痺を持つ人たちが対象になったようです。

Fugl-Meyer Assessment Upper Extremity: FMAUE
脳卒中患者の麻痺側上肢・手の運動機能の評価です。4つの下位項目から成り(A. 肩/肘/前腕関節、 B. 手関節、 C. 手指、 D. 上肢全体の協調性や速度)、全33項目について評価します。それぞれについて0〜2点の3段階で点数をつけ、0〜66点で評価します。66点が満点(最も状態が良い)です。

MTSTについては、本文中では “運動学習、経験に依存する神経可塑性、Shapingに基づく脳卒中患者の上肢リハビリテーションのためのトレーニングプログラム” と説明されています。

主要な要素としては
①Shaping(課題の難易度調整)
②麻痺側もしくは両側の運動
③全ての患者に共通する意味のある課題
④反復

が挙げられます。

本研究では、MTSTを60分/回、週4〜5日、4週間実施しました。

結果として、FMAUEスコアは11.98 (9.74)から29.00 (14.70)へ、大幅な変化を示したことが報告されています。

また、Action Research Arm Test(以下、ARAT)スコアは6.56 (6.53)から22.84 (12.33)へ、こちらも大幅な変化を報告しました。

Action Research Arm Test: ARAT
麻痺側上肢の運動パフォーマンスの評価。下位項目4つ(つかみ、握り、つまみ、粗大運動)、全19項目から成り、それぞれに得点をつける。最低が0点、最高が57点。

最後に、Motor Activity Log(以下、MAL)はAmount of Useが0.51 (0.47)から2.64 (0.93)へ、Quality of Movementが0.27 (0.36)から2.06 (0.84)へ変化したことが報告されています。

Motor Activity Log: MAL
実生活における脳卒中患者の麻痺側上肢の使用状況に関する評価。14項目の日常生活動作について、どれくらい使用しているか(Amount of use)、そして動作の質(Quality of Movement)について評価し、得点をつける。

回復期の患者さんを対象にしているので変化を期待できるのは当たり前ではあるのですが、対照群(ブルンストローム法とボバース・コンセプト)と比較すると大きな変化を示しており、MTSTの有効性がうかがえます。

回復期の脳卒中患者に対する上肢の課題指向型訓練の効果②

Hsieh YWら(2017)は、発症から2.21 (1.11) ヶ月、年齢52.87 (10.40) 歳の脳卒中患者を対象に、課題指向型訓練の効果を検証しました。

なお、本研究は介入群にロボットプラインミング+課題指向型訓練、対照群に課題指向型訓練のみ、という設定になっています。

この記事では、対照群の課題指向型訓練のみ群のデータについて考察します。

課題指向型訓練のみを実施した群の介入前FMAUEスコアは29.07 (16.12) 点であり、中等度の運動麻痺を持つ人が対象になったようです。

課題指向型訓練は、①共通課題②個別課題、の2つのパートに分かれていました。

共通課題は
①リーチ
②物品操作
③つまみと握り
の3つの下位項目に分類される課題を240〜300回繰り返し実施しました。

個別課題は、個々の患者さんがより現実的な行動や課題を学ぶことを目的とした複雑かつ多段階の課題を2〜3種類実施しました。

共通課題、個別課題ともに40〜50分実施されており、合計80〜100分実施されています。

頻度は週3回、期間は4週間(合計12セッション)です。

結果として、FMAUEスコアは29.07 (16.12) 点から39.60(20.41)点へ変化しています。

また、Box and Block Test(以下、BBT)は8.60 (12.29)から20.87 (21.49)点へ変化しています。

Box and Block Test: BBT
脳卒中患者を含む幅広い疾患に対応する上肢・手の運動パフォーマンスの評価です。2.5cmの立方体を150個用意し、右から左、もしくは右から左へたくさんのブロックを移動させます。制限時間1分以内に動かせたブロックの数を得点とします。

いずれのアウトカムもMCIDを超える大きな変化となっています。

回復期の脳卒中患者に対する上肢の課題指向型訓練の効果③

Lewthwaite R(2018), Winstein CJら(2016)は発症から45.2 (20.3)日程度、年齢60.9 (13.7)歳前後の脳卒中患者に対するAccelerated Skill Acquisition Program(以下、ASAP)の効果を検証しました。

※論文は違いますが、Lewthwaite R(2018), Winstein CJら(2016)は同じ研究室のメンバーであり、対象者や介入内容の記載が同様であることから同じ研究から生まれた二つの論文であると思われます。

ASAPとは、以下の要素を含む、構造化された課題指向型訓練のことです。

①課題特異的な集中的練習
②筋力増強運動
③肩の安定性/可動性トレーニング
④自尊心と自律性のサポート
⑤日常生活でも麻痺側上肢・手を大切な活動に使用できるようにする動機付けの強化によるスキルの習得

ASAPを1時間、週3回、10週間行われました。

なお、対照群は①1時間、週3回、10週間の通常の作業療法群②時間、頻度は定めない通常の作業療法群の2群を設定していました。

この研究は施設を跨いで大規模に実施されており、各群の被験者は100人以上、合計300人以上のデータを集めています。

結果としては、各群ともに上肢運動パフォーマンス(Wolf Motor Function Test: WMFT、MAL)、上肢運動機能(FMAUE)の成績向上が認められました。

群間における統計的有意差はなく、ASAPは同量の通常作業療法、また同量ではなく通常作業療法と比べたときに優位性はないという結論に至っています。

回復期脳卒中患者に対する上肢の課題指向型訓練のエビデンスまとめ

以上の結果をまとめるとこうなります。

①発症から3ヶ月程度、年齢52歳前後の脳卒中患者51人に対するMTST(60分/回、週4〜5日、4週間)は上肢運動機能の向上に寄与する。またブルンストローム法やボバース・コンセプトに基づく介入に対する優位性がある(Arya KN 2012)

②発症から2.21 (1.11) ヶ月、年齢52.87 (10.40) 歳の脳卒中患者に対する課題指向型訓練(80〜100分/回、週3回、4週間)は上肢運動パフォーマンス(BBT)や上肢運動機能(FMAUEスコア)の向上に寄与する(Hsieh YW 2017)

③発症から45.2 (20.3)日程度、年齢60.9 (13.7)歳前後の脳卒中患者に対するASAP(1時間、週3回、10週間)は、上肢運動パフォーマンス(Wolf Motor Function Test: WMFT、MAL)、上肢運動機能(FMAUE)の向上に寄与するが、通常の作業療法に対する優位性はない(Lewthwaite R 2018, Winstein CJ, 2016)

上記のエビデンスを統合して考察すると、4件の研究のうち3件は課題指向型訓練により介入前後の上肢運動パフォーマンスや上肢運動機能の改善を報告しており、有益であると言えるでしょう。

仮説としては、回復期の脳卒中患者に対する課題指向型訓練は、4週間以上の介入が必要であるということが言えるかもしれません。

また、課題指向型訓練はブルンストローム法やボバース・コンセプトに基づく介入と比べると有効である報告がされていますが(Arya KN 2012)、通常の作業療法と比べると有効であるとは言えない(Lewthwaite R 2018, Winstein CJ, 2016)という報告もされています。

Hsieh YWら(2017)の研究は、介入群も対照群も課題指向型訓練を行っているのでArya KNら(2012)、Lewthwaite Rら(2018)、Winstein CJら(2016)の3本の研究から推測すると、課題指向型訓練は必ずしも他の方法よりも有益であるとは言えないかもしれません。

もちろん、これらは仮説ですので現時点で断定することはできません。さらに研究が発展する必要があるでしょう。

Evidence Based Practiceの参考になれば幸いです!

参考文献

1) Arya KN, Verma R, Garg RK, Sharma VP, Agarwal M, Aggarwal GG. Meaningful task-specific training (MTST) for stroke rehabilitation: a randomized controlled trial. Top Stroke Rehabil. 2012 May-Jun;19(3):193-211.
PMID: 22668675

2) Hsieh YW, Wu CY, Wang WE, Lin KC, Chang KC, Chen CC, Liu CT. Bilateral robotic priming before task-oriented approach in subacute stroke rehabilitation: a pilot randomized controlled trial. Clin Rehabil. 2017 Feb;31(2):225-233.
PMID: 26893457

3) Lewthwaite R, Winstein CJ, Lane CJ, Blanton S, Wagenheim BR, Nelsen MA, Dromerick AW, Wolf SL. Accelerating Stroke Recovery: Body Structures and Functions, Activities, Participation, and Quality of Life Outcomes From a Large Rehabilitation Trial. Neurorehabil Neural Repair. 2018 Feb;32(2):150-165.
PMID: 29554849

4) Winstein CJ, Wolf SL, Dromerick AW, Lane CJ, Nelsen MA, Lewthwaite R, Cen SY, Azen SP; Interdisciplinary Comprehensive Arm Rehabilitation Evaluation (ICARE) Investigative Team. Effect of a Task-Oriented Rehabilitation Program on Upper Extremity Recovery Following Motor Stroke: The ICARE Randomized Clinical Trial. JAMA. 2016 Feb 9;315(6):571-81.
PMID: 26864411