課題指向型訓練はこれまでの研究数が多く、シンプルな課題指向型訓練に加えて、ミラーセラピーと併用するもの、電気刺激と併用するものなど数多くのパターンがあります。

ここでは、シンプルな課題指向型訓練を紹介します。

他の療法と併用するものは「派生型」とし、次の記事でまとめます。

慢性期の脳卒中患者に対する課題指向型訓練の上肢運動障害への効果 No. 1

da Silva PBら(2015)は発症から41.4 (11.89)ヶ月、年齢70.4 (7.83)歳の脳卒中患者に対する課題指向型訓練の効果を検証しました。

リハビリ開始前の介入前のFugl-Meyer Assessment Upper Extremity (以下、FMAUE)スコアは35.0(11.8)点だったことから、中等度の運動麻痺を有する人が対象だったようです。

Fugl-Meyer Assessment Upper Extremity: FMAUE
脳卒中患者の麻痺側上肢・手の運動機能の評価です。4つの下位項目から成り(A. 肩/肘/前腕関節、 B. 手関節、 C. 手指、 D. 上肢全体の協調性や速度)、全33項目について評価します。それぞれについて0〜2点の3段階で点数をつけ、0〜66点で評価します。66点が満点(最も状態が良い)です。

課題指向型訓練は下記の原則を遵守して実施されました。

①麻痺側もしくは両側の運動
②日常生活動作(整容、食事動作など)
③実際の物品操作
④実際の環境に合わせて複数の運動面(矢状面・前額面・水平面)で実施
⑤10回繰り返し・3分休憩
課題指向型訓練は1日あたり30分、週2回、6週間実施されました。

結果として、上肢の運動機能(FMAUE)、肩関節屈曲の自動可動域、握力は向上しました。

ただ、FMAUEスコアについてはMDCを超えるほどの変化ではありませんでした。

一方で、肩関節屈曲筋力、痙縮(Modified Ashworth Scale: MAS)は統計的に有意な変化を示しませんでした。

肩関節屈曲筋力が改善していないのに自動可動域が改善したということは、屈曲を阻害する肩関節伸展筋などの余計な活動が落ち着いた、という可能性があります。

FMAUEスコアも向上していますし、分離運動が進んだのかもしれないですね。

慢性期の脳卒中患者に対する課題指向型訓練の上肢運動障害への効果 No. 2

Li YCら(2019)は、発症から47.64(33.9)ヶ月、年齢58.77(8.91)歳の脳卒中患者に対する課題指向型訓練の効果を検証しました。

リハビリ開始前の介入前のFMAUEスコアは33(9.74)点だったことから、中等度の運動麻痺を有する人が対象だったようです。

プログラムは下記のように組まれていました。

①病院での介入 90分、週3回、4週間
 1) ROM ex.
 2) 課題指向型訓練
②ホームエクササイズ 30〜40分、週5回、4週間

この研究は介入群に課題指向型ミラーセラピーが設定されており、その対照群として設定されていたため、プログラム①-2)の課題指向型訓練は “なるべく両手を左右対象に動かす” という条件が与えられていました。

結果として、日常生活での手の使用(Motor Activity Log: MAL)、上肢運動機能(FMAUE)は若干改善していますが(群内差については統計学的な検定がされていません)それぞれMDCを超えるほどの変化ではありませんでした。

Motor Activity Log: MAL
実生活における脳卒中患者の麻痺側上肢の使用状況に関する評価。14項目の日常生活動作について、どれくらい使用しているか(Amount of use)、そして動作の質(Quality of Movement)について評価し、得点をつける。

慢性期の脳卒中患者に対する課題指向型訓練の上肢運動障害への効果 No. 3

Valkenborghs SRら(2019)は、発症から102.2 (108.8)ヶ月、年齢49.8 (17.4)歳の脳卒中患者に対する課題指向型訓練の効果を検証しました。

介入前のAction Research Arm Test(以下、ARAT)スコアは12.6 (17.2)点だったため、重度〜中等度の運動障害を持つ人が対象になったようです。

Action Research Arm Test: ARAT
麻痺側上肢の運動パフォーマンスの評価。下位項目4つ(つかみ、握り、つまみ、粗大運動)、全19項目から成り、それぞれに得点をつける。最低が0点、最高が57点。
課題指向型訓練は60分、週3回、10週間実施され、ホームエクササイズは期間中に合計30時間実施されました。

結果として上肢運動パフォーマンスを評価するWolf Motor Function Test(以下、WMFT)の成績は向上しましたが、ARAT、MALなどの成績は向上したとは言えない結果になりました。

Wolf Motor Function Test: WMFT
麻痺側上肢運動パフォーマンスの評価。15項目の課題を実施し、その所要時間と動作の質を評価する。

慢性期の脳卒中患者に対する課題指向型訓練の上肢運動障害への効果 No. 4

Carrico Cら(2018)は、発症から6.86 (2.52)ヶ月、年齢63 (11.78)歳の脳卒中患者に対する課題指向型訓練の効果を検証しました。

なお、この研究では介入群に電気刺激+課題指向型訓練、対照群に偽電気刺激+課題指向型訓練が設定されていますが、ここでは対照群のデータについてまとめます。

対照群の介入前FMAUEは18.23 (13.34)点、ARATは13.36 (14.68)点でした。

また、取り込み基準には麻痺性中手指節関節および指節間関節が少なくとも10°、手首が20°の活発な伸展を示すことができない人が設定されており、ベースラインのアウトカムと合わせて考えると、重度運動障害を有する人が対象になったようです。

偽電気刺激+課題指向型訓練群の偽電気刺激は2時間、課題指向型訓練は4時間、これを週3回、6週間実施しました。

結果として、上肢の運動機能(FMAUE)、Stroke Impact Sale (以下、SIS)の成績が向上しました。

Stroke Impact Scale: SIS
9つの大項目の質問 (筋力、手の運動機能、ADL/ IADL、移動、コミュニケーション、感情、記憶と思考、参加、回復)からなる脳卒中患者のための評価指標。

FMAUEスコアについてはMinimal Detective Change(以下、MDC)をギリギリ超える変化でした。

一方で、WMFT、ARATスコアは統計的に有意な差を示しませんでした。

慢性期の脳卒中患者に対する課題指向型訓練の上肢運動障害への効果 No. 5

Sullivan JEら(2012)は、Carrico Cら(2018)と同様、電気刺激+課題指向型訓練と偽電気刺激+課題指向型訓練の効果を検証しました。

ここでは偽電気刺激+課題指向型訓練の効果について書きます。

対象者は発症から6.6 (3–14) 年経過した、59.5 (41–85) 歳の脳卒中患者であり、介入前のFMAUEスコアは27.4 (15–46) 点であり重度〜中等度の運動障害があったようです。

偽電気刺激はグローブ型の電気刺激装置を手に装着し、電気を流しませんでした。

課題指向型訓練は患者さん個人の目標を設定し、目標に基づいて個々人に10種類以上の課題を提供しました。

介入は1日2回、各30分、週5回、4週間実施しました。

結果として、上肢運動パフォーマンス(Arm Motor Ability Test: AMAT)、日常生活での手の使用(MAL)、上肢の運動機能(FMAUE)などは統計的に有意な変化を示さず、効果があるとは言えない結果になりました。

Arm Motor Ability Test(以下、AMAT)
日常生活動作課題で構成された麻痺側上肢、手の検査。AMAT-13は13項目の動作から、AMAT-10は10項目の動作から構成される。各動作を所要時間、動きの質の2つの側面から評価する。動きの質は0〜129点で評価される。満点は129点。

ただ、偽電気刺激+課題指向型訓練は既定の時間の50%以下しかできなかった人が6/18名、25%以下しかできなかった人が4/18名いたということは留意すべきでしょう。

課題指向型訓練の効果云々ではなく、単純にリハビリ量が少なくて効果が出なかった可能性があるからです。

慢性期の脳卒中患者に対する課題指向型訓練の上肢運動障害への効果 No. 6

Rand Dら(2017)は、発症から13.0 (6.0)ヶ月、64.9 (6.9) 歳の脳卒中患者に対する課題指向型訓練の効果を検証しました。

介入前FMAUEスコアは41.3 (10.7) 点であり、中等度運動麻痺を有する人が対象になりました。

また、この研究はホームエクササイズとして実施されたため、取り込み基準に「家族または介護者と同居している」という条件が与えられていました。

介入はGraded Repetitive Arm Supplementary Program(以下、GRASP)という課題指向型訓練ベースの構造化されたホームエクササイズを用いて実施されました。

GRASPの特徴的な点は構造化されているという点で、ホームページから無料ダウンロードできる資料通りに進行すればある程度は結果を再現できます。

GRASPは1時間/日、週6回、5週間実施されました。

結果として、上肢運動パフォーマンス(ARAT)、日常生活での手の使用(MAL)成績を向上させました。

一方、Box and Block Test(以下、BBT)成績は向上したとは言えない結果になりました。

Box and Block Test: BBT
脳卒中患者を含む幅広い疾患に対応する上肢・手の運動パフォーマンスの評価です。2.5cmの立方体を150個用意し、右から左、もしくは右から左へたくさんのブロックを移動させます。制限時間1分以内に動かせたブロックの数を得点とします。

慢性期の脳卒中患者に対する課題指向型訓練の上肢運動障害への効果 No. 7

Timmermans AAら(2014)は発症から3.7 (3.0)年、年齢56.8 (6.4)歳の脳卒中患者に対する課題指向型訓練の効果を検証しました。

介入前FMAUEスコアは53点前後、ARATスコアは39点前後、MALスコアは4.1点前後と、軽度な運動障害を持つ人が対象になったようです。

課題指向型訓練は下記の4つの動作の中から2つの動作を選択し、選択した動作を獲得するために実施されました。

①カップから飲む
②ナイフとフォークで食べる
③財布からお金を取る
④トレイを使用する
課題指向型訓練は1日2回、30分間、週4回、8週間実施されました。

結果として、課題指向型訓練は日常生活での上肢の使用(MAL-AOU、MAL-QOM)、QOL(SF-36の身体的健康項目)において統計的に有意な向上を示したものの、上肢機能(FMAUE)、上肢運動パフォーマンス(ARAT)の成績を向上させるとは言えない結果になりました。

慢性期の脳卒中患者に対する課題指向型訓練の上肢運動障害への効果 No. 8

Gharib NMら(2015)は発症から11.40±4.60 ヶ月、年齢54±6.23 歳の脳卒中患者に対する課題指向型訓練の効果を検証しました。

なお、この研究は介入群に電気刺激+課題指向型訓練、対照群に偽電気刺激+課題指向型訓練が設定されています。

この記事では対照群の偽電気刺激+課題指向型訓練のデータをもとに、課題指向型訓練の効果を推定します。

この研究の取り込み基準として、下記の条件が与えられていました。

①痙縮を評価するMASで1か2である
②自動肩関節屈曲・外転60度以上、手関節伸展10度以上が可能
ですので、軽度な運動障害を有する人が対象になったようです。

対照群(偽電気刺激+課題指向型訓練)のプログラムは下記のようになっていました。

①電気刺激 30分
電気針をつけているが電気を流さない。「電気が流れているか流れていないか感じる程度の電流」と被験者に伝えている。
②課題指向型訓練 45分
1) 抵抗に対する手首と指の伸展
2) 書く
3) 箱に入った物品の把持とリリース
4) 押す:セラピストが手首を支えている間に、指を拳の位置から押してペンを押す
合計75分、週3回、8週間実施されました。

結果として、偽電気刺激+課題指向型訓練は示指・中指・環指の自動ROM(PIP伸展、MCP伸展、外転)の向上に寄与する結果になりました。

一方で、上肢運動パフォーマンス(Jebsen Taylor Hand Function Test: JTHFT)の成績を向上させるとは言えない結果になりました。

Jebsen Taylor Hand Function Test: JTHFT
麻痺手と非麻痺手で行われる日常生活で使用される7つの課題を実施し、上肢運動パフォーマンスを評価する。課題における動作の質ではなく、動作の速度を評価するもの。

慢性期の脳卒中患者に対する課題指向型訓練の上肢運動障害への効果 No. 9

Rodrigues LCら(2016)は、発症から36.1 ± 31.2 ヶ月、年齢56.6 ± 5.3 歳の脳卒中患者に対する課題指向型訓練の効果を検証しました。

なお、この研究は介入群に課題指向型ミラーセラピー、対照群に課題指向型訓練が設定されています。

介入群と対照群の比較の妥当性を高めるために、対照群の介入はミラーボックスの中で、かつ鏡を見えないようにした状態で実施されています。

この記事では対照群で実施されたプログラムと結果から、課題指向型訓練の効果を推定します。

介入前のFMAUEスコアは40.6 ± 6.9点であり、中等度〜軽度運動障害を持つ人が対象になったようです。

課題指向型訓練は1時間、週3回、4週間実施されました。

結果として、上肢の運動機能(FMAUE)の向上に寄与する結果になりました。

FMAUEは、MDCを超える変化を示しています。

慢性期の脳卒中患者に対する課題指向型訓練の上肢運動障害への効果 No. 10

Carrico Cら(2016)は発症から25.7±17.7 ヶ月、年齢65.4±10.8 歳の脳卒中患者に対する課題指向型訓練の効果を検証しました。

なお、この研究は介入群に電気刺激+課題指向型訓練、対照群に偽電気刺激+課題指向型訓練が設定されています。

この記事では対照群の偽電気刺激+課題指向型訓練のデータをもとに、課題指向型訓練の効果を推定します。

対照群の介入前FMAUEは22.8 (15.0)点、ARATは10.4 (11.2)点でした。

また、取り込み基準には麻痺側中手指節関節を10°、手関節を20°自動伸展できない人が設定されており、ベースラインのアウトカムと合わせて考えると、重度運動障害を有する人が対象になったようです。

偽電気刺激は電極をErb point、橈骨神経、正中神経を刺激できる位置に貼りましたが、実際は電気刺激を与えませんでした。

課題指向型訓練は、難易度調整をしながら繰り返し実施されました。

偽電気刺激を2時間、課題指向型訓練を4時間、合計6時間を平日の連続10日間で実施しました。

結果、上肢の運動パフォーマンス(ARAT)と上肢の運動機能(FMAUE)の向上を示しましたが、WMFTについては統計的に有意な差は検出されませんでした。

慢性期の脳卒中患者に対する課題指向型訓練の上肢運動障害への効果まとめ

以上の結果をまとめると下記のようになります。

  1. FMAUE 35.0(11.8)点の慢性期脳卒中患者に対する課題指向型訓練(30分、週2回、6週間)は上肢の運動機能(FMAUE)、肩関節屈曲の自動可動域、握力の向上に寄与する(da Silva PB, 2015)
  2. FMAUE 33(9.74)点の慢性期脳卒中患者に対する課題指向型訓練(90分、週3回、4週間)+ホームエクササイズ(30〜40分、週5回、4週間)は日常生活での手の使用(MAL)、上肢運動機能(FMAUE)の向上に寄与するとは言えない(統計的検定がされていないため)(Li YC, 2019)
  3. ARAT 12.6 (17.2)点の慢性期脳卒中患者に対する課題指向型訓練(60分、週3回、10週間)+ホームエクササイズ(30時間)は上肢運動パフォーマンス(WMFT)の成績は向上に寄与するが、ARAT、MALなどの成績の向上に寄与するとは言えない(Valkenborghs SR, 2019)
  4. FMAUE 18.23 (13.34)点、ARAT 13.36 (14.68)点の慢性期脳卒中患者に対する課題指向型訓練(4時間、週3回、6週間)は上肢の運動機能(FMAUE)、SISの成績向上に寄与するが、WMFT、ARATスコアの成績向上には寄与するとは言えない(Carrico C, 2018)
  5. FMAUE 27.4 (15–46) 点の慢性期脳卒中患者に対する課題指向型訓練(1日2回、各30分、週5回、4週間)は上肢運動パフォーマンス(AMAT)、日常生活での手の使用(MAL)、上肢の運動機能(FMAUE)の向上に寄与するとは言えない(Sullivan JE, 2012)
  6. FMAUE 41.3 (10.7) 点の慢性期脳卒中患者に対する課題指向型訓練(1時間/日、週6回、5週間)は、上肢運動パフォーマンス(ARAT)、日常生活での手の使用(MAL)の向上に寄与するが、BBT成績を向上させるとは言えない(Rand D, 2017)
  7. FMAUE 53点前後、ARAT 39点前後、MAL 4.1点前後の慢性期脳卒中患者に対する課題指向型訓練(1日2回、30分間、週4回、8週間)は日常生活での上肢の使用(MAL-AOU、MAL-QOM)、QOL(SF-36の身体的健康項目)の向上に寄与するが、上肢機能(FMAUE)、上肢運動パフォーマンス(ARAT)の成績を向上させるとは言えない(Timmermans AA, 2014)
  8. 自動肩関節屈曲・外転60度以上、手関節伸展10度以上が可能な慢性期脳卒中患者に対する課題指向型訓練(合計75分、週3回、8週間)は示指・中指・環指の自動ROM(PIP伸展、MCP伸展、外転)の向上に寄与するものの、上肢運動パフォーマンス(JTHFT)を向上させるとは言えない(Gharib NM, 2015)
  9. FMAUE 40.6 ± 6.9点の慢性期脳卒中患者に対する課題指向型訓練(1時間、週3回、4週間)は上肢の運動機能(FMAUE)の向上に寄与する(Rodrigues LC, 2016)
  10. FMAUE 22.8 (15.0)点、ARAT10.4 (11.2)点の慢性期脳卒中患者に対する課題指向型訓練(合計6時間、平日10日間連続)は、上肢の運動パフォーマンス(ARAT)と上肢の運動機能(FMAUE)の向上を示すものの、WMFT成績を向上させるとは言えない(Carrico C, 2016)

上肢の運動機能(FMAUE)への効果

FMAUEへの影響を報告した研究は6件あり、向上を報告した研究は4件(da Silva PB 2015, Carrico C 2018, Rodrigues LC 2016, Carrico C 2016)、向上したとは言えない結果となった研究は2件(Sullivan JE 2012, Timmermans AA 2014)ありました。

また、向上したと言えるか否か不明な研究が1件(Li YC, 2019)ありました。

肯定的な結果を報告した4件の研究は、いずれも中等度〜重度の運動障害を持つ人が対象になっており、否定的な結果を報告した2件の研究のうち1件(Timmermans AA, 2014)は軽度の運動障害を持つ人が対象になっていました。

また、否定的な結果となったSullivan JEら(2012)の研究は、50%以上の患者が途中で脱落してしまっていることから、課題指向型訓練の恩恵を得られなかった可能性があります。

このことから、筆者は課題指向型訓練を通して上肢の運動機能(FMAUE)の向上を期待できるのは、重度〜中等度の運動障害を有する脳卒中患者であり、かつ最後まで介入を完遂できる場合である、と考えます。

上肢運動パフォーマンス(ARAT、WMFT)への影響

ARAT成績への影響について報告した研究は5件あり、2件(Rand D 2017, Carrico C 2016)は向上したという報告、3件(Valkenborghs SR 2019, Carrico C 2018, Timmermans AA 2014)は向上したとは言えないと報告していました。

向上を報告したRand Dら(2017)の研究では週6回のGRASPが、Carrico Cら(2016)の研究では週5回の課題指向型訓練が行われているのに対し、向上したとは言えないと報告した3件の研究では、週3〜4回の頻度で実施されていました。

このことから、課題指向型訓練によってARAT成績を向上させるためには週5回以上の集中的な介入が必要になると言えるかもしれません。

WMFT成績への影響について報告した研究は3件あり、1件は向上したという報告、2件は向上したとは言えないと報告していました。

向上したとは言えないと報告した研究のうち、Sullivan JEら(2012)の研究は上記の通り50%以上が途中で脱落しています。

今後のさらなる研究が待たれます。

日常生活での手の使用(MAL)への影響

MAL成績への影響について報告した研究は5件ありましたが、2件は向上したという報告(Timmermans AA 2014, Rand D 2017)、2件は向上したとは言えないという報告(Valkenborghs SR 2019, Sullivan JE 2012)、1件は向上したと言えるか否か不明な研究(Li YC, 2019)でした。

肯定的な結果を報告した2件の研究の対象者は、否定的な結果を報告した2件の研究の対象者と比べると、運動障害が軽度だったことがわかります。

また、向上したとは言えないと報告したSullivan JEら(2012)の研究は上記の通り50%以上が途中で脱落しています。

これらのことから、課題指向型訓練によって日常生活での手の使用(MAL)が向上するのは、軽度の運動障害を有する人であり、かつ治療を完遂する人であると言えるかもしれません。

結論

上記結果に加え筆者の臨床経験を交えて結論づけます。

①重度の運動障害を持つ、慢性期脳卒中患者に対する課題指向型訓練は上肢運動機能(FMAUE)を向上させる
②慢性期脳卒中患者に対する週5回以上の集中的な課題指向型訓練は上肢運動パフォーマンス(ARAT)を向上させる
③軽度の運動障害を持つ、慢性期脳卒中患者に対する課題指向型訓練は日常生活での手の使用(MAL)を向上させる

抽象的な結論にとどめていますが、実際の臨床では目の前の患者さんと先行研究との非直接性を加味しながら判断していく必要がありますのでご注意ください!

最後までお読みいただきありがとうございました!

参考文献

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