
脳卒中後の記憶障害は、新しいことが覚えにくくなる・約束を忘れる・物を置いた場所がわからなくなるといった症状で、脳卒中後の方の約4割に何らかの認知機能の低下が残ると報告されています(Filler, 2024)。
「今しがた言われたことをすぐ忘れてしまう」「同じことを何度も家族に聞いてしまう」「薬を飲んだか思い出せない」――。
そんな変化は、脳卒中後の記憶障害が原因かもしれません。
記憶障害は本人も家族も気づきにくく、「年齢のせい」「性格が変わった」と誤解されやすい症状です。
しかし、適切なリハビリと、メモ・スマホ・スケジュール表などの外部の道具を使うことで、日常生活への影響を確実に減らせることがわかっています。
この記事では、脳卒中後の記憶障害の症状チェック、原因、認知症との違い、リハビリ方法、メモ・スマホの活用術、家族の関わり方を、脳卒中専門リハビリ施設BRAINの代表で理学療法士の針谷が、臨床経験と研究論文に基づいて解説します。
・本記事の情報は、信頼性の高い研究論文から得られたデータを中心に引用しています。
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・顔のゆがみ(片側が下がる)
・片腕の脱力(腕が上がらない)
・言葉のもつれ(ろれつが回らない)
・突然の強い物忘れ・自分の名前や家族の顔がわからない
また、脳卒中の発症後に下記の変化が新しく現れたり強くなった場合は、早めに主治医にご相談ください。
・自分の名前や住所がわからなくなる
・薬を飲んだかどうかが毎日のように思い出せない
・火を消し忘れる、外出先で道に迷う
・物忘れが急速に進んでいる感覚がある
脳卒中 記憶障害とは|物忘れが起こる仕組み
記憶障害(きおくしょうがい)は、新しいことを覚える力や、覚えていたことを思い出す力が低下した状態です。
脳卒中の後に新しく現れる代表的な高次脳機能障害のひとつで、見た目では気づきにくいのが特徴です。
2024年に公開された脳卒中後の認知機能低下に関する24本の研究をまとめた分析では、脳卒中後3か月〜1年の段階で認知機能が低下している方は約38%と報告されています(Filler, 2024)。
記憶障害はその中でも、注意の障害や段取りの障害と並んでよく起こる症状のひとつです。
記憶の4つの種類
記憶はひとつの能力ではなく、いくつかの違った働きが組み合わさっています。
大きく分けると、「短期記憶」「長期記憶」「陳述記憶」「手続き記憶」の4つです。
| 種類 | わかりやすく言うと | 日常生活の例 |
|---|---|---|
| 短期記憶(ワーキングメモリ) | 数十秒〜数分のあいだ情報を保つ力 | 電話番号を聞いてメモを取るまで覚えておく |
| 長期記憶 | 数時間〜何十年も残る記憶 | 昔の旅行の思い出/家族の名前 |
| 陳述記憶(言葉で説明できる記憶) | 出来事や知識を言葉で思い出せる力 | 昨日食べたものを話す/首都の名前を答える |
| 手続き記憶(体で覚える記憶) | 体の動かし方として身についた記憶 | 自転車の乗り方/箸の使い方 |
脳卒中後の記憶障害では、特に「短期記憶」と「新しい出来事の陳述記憶」が影響を受けやすいことが知られています。
一方、昔の思い出や、体で覚えた動作(手続き記憶)は比較的残りやすいのが特徴です。
つまり、「自転車には乗れるのに、今日の予定が思い出せない」というギャップが起こるのは、記憶障害の典型的な現れ方です。
症状チェックリスト|こんな様子はありませんか?
記憶障害は、外見からはわかりにくい症状です。
本人の自覚は薄い場合もあり、ご家族の気づきが診断とリハビリの第一歩になることが多いです。
以下の項目に当てはまるものがないか、当事者ご本人とご家族の双方の視点でチェックしてみてください。
新しいことの記憶に関する症状
- 言われたことを5〜10分でほとんど忘れてしまう
- 同じことを家族に何度も聞いてしまう
- 朝食に何を食べたかを夕方になると思い出せない
- 新しい人の名前や顔がなかなか覚えられない
- テレビ番組のあらすじを途中から思い出せない
予定や物の管理に関する症状
- 通院や約束の日時を忘れる、間違える
- 薬を飲んだかどうか、毎日のように思い出せない
- 鍵・財布・スマートフォンの置き場所がわからなくなる
- 買い物に行って、何を買うつもりだったか忘れる
- 火を消し忘れる、水を出しっぱなしにする
会話・行動に関する症状
- 会話の途中で、何の話だったかわからなくなる
- 同じ話をくり返してしまう
- 用件を伝言できない(電話の内容を家族に伝えられない)
- 本を読んでもページの内容がすぐ抜けてしまう
- 料理の途中でやっていた工程がわからなくなる
3つ以上当てはまる場合は、かかりつけ医や脳卒中担当のリハビリ専門職に相談する目安になります。
記憶障害は、怠けや性格の問題ではなく、脳のダメージによる症状です。
「がんばりが足りない」と本人やご家族が責めてしまうと、抑うつや意欲低下を悪化させることがあります。
関連症状として、段取りが組めなくなる脳卒中の遂行機能障害や、自分の症状を自覚しにくくなる脳卒中の病態失認もあわせて確認しておくと、本人の困りごとを整理しやすくなります。
原因と脳のどこが関係するか
記憶障害は、脳の中でも記憶を司る場所がダメージを受けると起こります。
代表的なのは「海馬(かいば)」と呼ばれる側頭葉の内側と、その周辺のネットワークです。
関係する脳の場所
| 脳の部位 | 主な役割 | 障害された時の症状 |
|---|---|---|
| 海馬・側頭葉内側 | 新しい出来事を覚える | 数分前のことを忘れる/同じ質問をくり返す |
| 視床(ししょう) | 海馬と前頭葉をつなぐ中継地点 | 記憶と注意の両方が落ちる/話の流れを保てない |
| 前頭葉・前頭前野 | 短期記憶(ワーキングメモリ)/記憶の引き出し | 電話番号を覚えていられない/物の置き場所を思い出せない |
| 頭頂葉 | 情報を整理して記憶につなぐ | 複数のことを並べて覚えるのが苦手になる |
| 白質(深部) | 脳の部位同士をつなぐ配線 | 処理速度低下/複数の認知障害が重なって出る |
2021年に公開された12のコホートをまとめた個人データ統合分析では、脳卒中の場所のうち、視床・海馬・基底核などが認知機能低下に強く関係すると報告されています(Weaver, 2021)。
つまり、運動麻痺が軽くても、視床や白質に小さな脳卒中があると記憶障害だけが残ることがあります。
このため、「麻痺は治ったのに物忘れだけが続く」というケースは、決して珍しくありません。
記憶障害と認知症の違い
「物忘れが増えたから認知症ではないか」と心配される方は多いですが、脳卒中後の記憶障害と認知症は別のものです。
違いを整理しておくと、本人もご家族も今後の見通しが立てやすくなります。
| 項目 | 脳卒中後の記憶障害 | 認知症(アルツハイマー型など) |
|---|---|---|
| 始まり方 | 脳卒中の発症と同時に現れる | 数か月〜数年かけてゆっくり進む |
| 進み方 | 急に進行することは少ない(横ばい〜改善が多い) | 基本的に進行性 |
| 障害される領域 | 記憶を中心に、一部の認知機能 | 記憶・判断・理解・言語など複数が同時に低下 |
| 原因 | 脳卒中による特定部位のダメージ | アミロイドβ蓄積や脳の萎縮など |
| 本人の自覚 | 「忘れた」自覚は残ることが多い | 忘れたこと自体を忘れる |
ただし、脳卒中後に複数の認知機能領域が同時に低下し、生活の自立が難しくなった場合は「血管性認知症」と診断されることがあります。
その境界は主治医による診察と検査で判断されます。
2022年に公開された9つのコホート研究の個人データを統合した分析では、脳卒中後の認知機能低下は最低でも数年単位で続く傾向が報告されています(Lo, 2022)。
記憶障害は「すぐ自然に治る」というよりも、長く付き合っていく前提で対策を組み立てる方が現実的です。
検査・評価|どうやって診断するのか
記憶障害の評価には、医師の問診と神経心理検査(紙やコンピュータで行う認知機能のテスト)が用いられます。
主な検査には次のようなものがあります。
- MoCA(モントリオール認知評価):記憶・注意・遂行機能など認知機能全体を10分程度でみるスクリーニング
- MMSE(ミニメンタルステート検査):古くから使われる認知機能の基本検査
- ウェクスラー記憶検査(WMS-R/IV):言葉の記憶・図形の記憶・短期記憶を細かく評価
- 三宅式記銘力検査・標準言語性対連合学習検査(S-PA):日本でよく用いられる言葉の記憶検査
- リバーミード行動記憶検査(RBMT):日常生活に近い場面で記憶をみる検査
これらの検査は、記憶障害が「ある」「ない」だけでなく、どの種類の記憶が弱いのかを区別するのに役立ちます。
ただし、机上の検査だけでは生活の困りごとを十分につかみにくいこともあります。
そのため、ご家族からの聞き取りや、自宅での実際の様子をふまえた総合判断が大切です。
脳卒中 記憶障害 リハビリの選択肢
脳卒中 記憶障害に対するリハビリには、研究で効果が確認されつつある方法がいくつかあります。
基本の方針は、「記憶そのものを鍛える」よりも「補い方を身につける」です。
2025年に公開された脳卒中後の記憶リハビリに関する文献の整理では、認知リハビリは記憶検査の成績や生活への影響に対して有望な効果を示すと報告されています(Mathew, 2025)。
① 外的な記憶補助(メモ・カレンダー・スマホ)
もっとも効果が安定して報告されているのが、「外的な記憶補助(external memory aids)」と呼ばれる、紙のメモ・カレンダー・スマートフォンなどの道具を活用する方法です。
2023年に公開された外傷性脳損傷の記憶障害に対する国際的な指針では、記憶障害に対しては内的な戦略よりも外的な記憶補助の方が、日常生活への効果が大きいとまとめられています(Velikonja, 2023)。
脳卒中とは原因疾患が異なる脳損傷の指針ではありますが、記憶リハビリの基本的な考え方は脳卒中後の方にも応用できると国内外で広く採用されています。
具体的には、メモ帳・付箋・カレンダー・スマートフォンのリマインダー機能などです。
これらの使い方は本記事のあとの章でくわしく解説します。
② 失敗の少ない覚え方(エラーレスラーニング)
エラーレスラーニングは、「最初から正解を伝え、間違えないように覚えていく」教え方です。
記憶障害がある方は、いったん間違って覚えると、その間違いの方が定着しやすくなることが知られています。
そのため、「試行錯誤させる」よりも「最初から正しい手順を見せる」方が、結果として長く覚えていられる、という考え方です。
2025年に公開された脳損傷後の日常生活におけるエラーレスラーニングに関する文献整理では、家事や道具の使い方など日常の手順を覚え直す場面でエラーレスラーニングが活用できると報告されています(Chui, 2025)。
自宅では、ご家族が「思い出させる」よりも「先に答えを伝える」関わり方を意識するだけでも、本人の負担が減ります。
③ コンピュータ認知トレーニング
パソコンやタブレットを使った認知トレーニングは、注意・短期記憶・遂行機能を組み合わせて鍛える方法です。
2025年に公開された脳卒中後の認知障害に対するコンピュータ認知トレーニングの分析では、通常リハビリに加えてコンピュータ訓練を行うと、認知機能スコアが改善したと報告されています(Gao, 2025)。
2020年に公開された短期記憶(ワーキングメモリ)に焦点を当てた分析でも、コンピュータ訓練は通常のリハビリより成績の伸びが大きいと報告されています(Niemeijer, 2020)。
2019年に公開された脳卒中当事者を対象とした研究では、グループ形式の記憶訓練とコンピュータ訓練を比較した結果、どちらも記憶障害の自覚的な変化に役立つ可能性が示されました(Withiel, 2019)。
コンピュータ訓練を選ぶ場合は、本人が楽しく続けられるソフトを選ぶことがもっとも大切です。
④ 作業療法(OT)による日常生活訓練
作業療法(OT)では、料理・買い物・服薬管理など実生活の場面そのものを訓練教材にします。
記憶障害に対しては、メモやチェックリストの使い方を一緒に練習したり、自宅での手順を写真付きで整理したりといった支援が中心です。
2022年に公開された脳卒中後の認知障害に対する作業療法の国際的な分析では、日常生活動作の自立度を改善する可能性があると報告されています(Gibson, 2022)。
ただし、もっとも効果的なプログラムの形はまだ明確ではないとされています。
そのため、本人にとって意味のある活動(趣味・仕事・家事)を題材にした訓練を専門職と一緒に組み立てるのが現実的です。
⑤ 運動療法(有酸素運動・複合運動)
適度な運動も、記憶を含む認知機能の改善に効果が報告されています。
2024年に公開された脳卒中後の運動と認知機能の研究をまとめた分析では、運動介入は全体の認知機能を改善し、記憶領域の成績も向上すると報告されています(Li, 2024)。
2022年に公開された有酸素運動と認知機能の研究をまとめた分析でも、有酸素運動が脳卒中後の認知機能に良い影響を与えることが報告されています(Li, 2022)。
2022年に公開された日本人を含む多施設の研究では、有酸素運動とコンピュータ認知トレーニングを組み合わせると、脳卒中後の認知機能の改善幅が大きくなる可能性が示されました(Yeh, 2022)。
具体的な目安としては、1回30〜60分・週3回以上・8週間以上を続けることがすすめられます。
歩く時間や活動量を増やすこと自体が、記憶リハビリの一部になります。
退院後の生活全般の組み立て方は、退院後の脳卒中リハビリ|自宅でできる進め方でもくわしく解説しています。
⑥ 脳に電気や磁気で刺激を与える治療
近年は、頭の外から弱い磁気や電気で脳を刺激して、記憶の働きを助ける治療も研究されています。
代表的なものが反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)です。
2023年に公開された脳卒中後の記憶障害に対するrTMSの研究をまとめた分析では、rTMSが記憶検査のスコアを改善することが示されたと報告されています(Xie, 2023)。
2026年に公開された高頻度rTMSと脳卒中後の記憶に関する分析でも、高頻度rTMSが記憶の改善に有望と報告されています(Liu, 2026)。
ただし、rTMSは医療機関や専門のリハビリ施設で行われる治療で、自宅の市販マッサージ機器とはまったく別物です。
受けたい場合は、脳神経内科やリハビリ専門医に相談する必要があります。
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メモ・手帳の使い方|紙でできる記憶の補い方
記憶を補う道具の中で、もっとも基本になるのが紙のメモと手帳です。
スマートフォンが苦手な方でも始めやすく、家族と共有しやすいのがメリットです。
記憶ノート(メモリーノート)の作り方
記憶ノートは、1日の予定・出来事・気づいたことを1冊にまとめる手帳です。
- A5サイズ程度の見開きで1週間が見える手帳がおすすめ
- 1日のページに「予定」「やったこと」「気になったこと」の3つの欄を作る
- 朝・昼・夕の3回、決まった時間に開いて書く(書く時間も予定として決める)
- 1冊だけ持ち歩く(複数だとどれに書いたかわからなくなる)
- 家族と週に1回ノートを一緒に見る時間を作る
大事なのは「書く習慣」を作ることなので、最初の数週間は家族が一緒に開く時間を作るとうまくいきやすいです。
「見える場所」に貼るボードと付箋
- 冷蔵庫やリビングの壁にホワイトボードを設置し、今日の予定を朝に書く
- 玄関ドアに「持ち物・鍵・財布・スマホ・お薬手帳」と書いた紙を貼る
- キッチンに「火を消す」「ガスを止める」と書いた付箋をコンロ近くに貼る
- 洗面所に「朝のお薬を飲む」と書いた札を置く
- 大きな壁掛けカレンダーに、家族の予定と本人の予定を色分けで書く
薬の管理に役立つ道具
- 1週間分の曜日・時間ごとに分けられる「お薬ケース」を使う
- 薬局で「一包化(1回分ずつにまとめてもらう)」を相談する
- 朝のテーブル・夕食のテーブルに、薬を出す位置を決めておく
- 飲んだら○をつけるチェック表を冷蔵庫に貼る
- 薬の管理は家族と二重チェックの体制を作る
スマートフォンの活用術|「外付けの脳」として使う
スマートフォンは、記憶障害がある方にとってもっとも便利な「外付けの脳」になります。
2024年に公開された後天的な脳損傷後のスマホ・タブレット利用に関する報告では、脳損傷後の方の多くがスマートフォンを記憶補助として使い、生活の助けになると感じていると報告されています(Beaulieu-Bonneau, 2024)。
ただし、ご本人にとっては「新しい道具を覚える」こと自体が大きなハードルにもなります。
最初に使いたい基本の機能
- カレンダーアプリ:通院や約束を入れ、前日と当日の朝に通知が鳴るよう設定する
- リマインダー(アラーム):「8時 お薬」「18時 夕食薬」など、時間で音が鳴るよう設定する
- 音声入力メモ:「明日◯◯さんに電話」とそのまま話して保存する
- カメラ:駐車場の場所・お店のレシート・体温計の数値を写真で残す
- 地図アプリ:知らない場所への道案内・現在地の確認
スマホの使い方を覚える時のコツ
2023年に公開された後天的な脳損傷後の方を対象にスマホの記憶アプリの教え方を比べた研究では、最初から正しい操作だけを教える方法(エラーレスラーニング)と、システマティックに手順をなぞる方法は、試行錯誤させるよりも習得が安定すると報告されています(Ramirez-Hernandez, 2023)。
これを家庭に応用すると、次のようなコツになります。
- 新しい機能を覚える時は「家族や専門職が手順を見せる→本人がなぞる」順で進める
- 「自分でやってみて」と試行錯誤させすぎない
- 1回に教える機能は1つだけにする(同じ日にいろいろ詰め込まない)
- 1日1〜2回、同じ時間に同じ操作をくり返す
- うまくいったらすぐにほめる(失敗したら声を荒げずに正しい手順を見せ直す)
家族と共有しておくと便利な設定
- 家族のカレンダーと予定を共有して、ダブルチェックできるようにする
- 緊急連絡先・主治医・かかりつけ薬局の番号をホーム画面のすぐ押せる場所に置く
- 位置情報の共有(家族のスマホで現在地が見られる設定)を入れておく
- パスコード・指紋認証は紙にもメモして、家族の誰かに預ける
- 「迷子になった時の連絡先カード」を財布に1枚入れておく
スケジュール表・1日の流れの整え方
記憶障害があると、1日のリズムが乱れただけで、何をしていたかわからなくなりやすくなります。
そのため、1日の流れを「決まった型」にしておくことが、記憶障害の負担を軽くします。
基本のスケジュール表の作り方
- 起床・食事・薬・リハビリ・就寝の時間を、毎日同じに固定する
- 表は紙1枚・A4サイズで、リビングと寝室の2か所に貼る
- 項目は時系列に並べる(朝→昼→夕の順)
- 変更があった日だけ、ペンで書き込む
- 週末・通院日は別バージョンを用意しておく
睡眠と疲労を整えることも記憶の味方になる
睡眠不足や疲労は、記憶障害の症状を一時的に悪化させます。
脳卒中後は、いつもより疲れやすい状態が続くことが多いため、休む時間をしっかりスケジュールに組み込むことが大切です。
くわしくは脳卒中の疲労|疲れやすさの原因と対処法で解説しています。
家族・周囲の関わり方|「思い出させる」より「先に伝える」
記憶障害がある方を支える際、もっとも大事なポイントが「思い出させようとしすぎない」ことです。
「昨日のこと、覚えてる?」「さっき言ったでしょ」と何度も問いただすと、本人は責められた気持ちになり、抑うつや意欲低下を強めてしまいます。
家族が意識したい4つの基本
- 思い出させるより、先に答えを伝える:「◯◯さんと午後2時に会う約束だよ」と先に伝える
- 責めない・笑わない:同じ話を聞いても初めてのように聞き返す
- 道具に頼る:「忘れないで」と口で伝えるより、ボードに書く・スマホに通知を入れる
- 静かで邪魔の少ない環境で大事な話をする:テレビ・ラジオはいったん消す
家族が抱え込まないための工夫
記憶障害は、本人だけでなく、ご家族の負担も大きい症状です。
- 主介護者を1人に固定しすぎず、家族内で曜日ごとに役割を分担する
- 地域包括支援センター・ケアマネジャーに早めに相談する
- 同じ立場の家族会・オンラインコミュニティで体験を共有する
- 家族自身の通院・睡眠・余暇の時間を意識的に確保する
- 困った時は迷わず脳卒中担当のリハビリ専門職・主治医に共有する
受診・相談の目安
「物忘れが続いているが、どこに相談したらいいかわからない」という声はよく聞かれます。
記憶障害でかかれる主な相談先は次のとおりです。
- かかりつけ医・脳神経内科:診断と神経心理検査の依頼ができる
- リハビリテーション科:作業療法士・言語聴覚士による評価とリハビリが受けられる
- 地域の高次脳機能障害支援センター:都道府県ごとに設置。医療・福祉・就労を包括的に相談できる
- 地域包括支援センター:介護保険サービスや地域のリハビリ資源を紹介してくれる
- 就労支援機関(障害者就業・生活支援センターなど):仕事復帰や新しい働き方を相談できる
かかりつけ医に相談する時は、本記事のチェックリストや、ご家族から見た様子のメモを持参していただけますか。
記憶障害の問診は本人の自覚だけでは不十分なことが多く、家族からの情報が診断の決め手になります。
よくある質問(FAQ)
Q. 脳卒中 記憶障害は時間が経てば自然に治りますか?
発症から数か月の間に自然な回復が見られる方もいますが、多くの場合は完全に元には戻らず、長く付き合っていく必要があります。
2022年に公開された9つのコホート研究をまとめた個人データ統合分析でも、脳卒中後の認知機能低下は数年単位で続く傾向が報告されています(Lo, 2022)。
ただし、メモ・スマホ・スケジュール表などの工夫と、リハビリの組み合わせで日常生活への影響は確実に減らせます。
Q. 脳卒中 記憶障害と認知症は同じものですか?
違います。
脳卒中後の記憶障害は「特定部位のダメージによる症状」で、原則として急に進行はしません。
一方、認知症は記憶・判断・理解など複数領域がゆっくり進行性に低下していく状態です。
ただし、脳卒中後に複数領域の低下が進んだ場合は「血管性認知症」と診断されることがあります。
Q. 脳トレや計算ドリルは記憶障害に効きますか?
計算ドリル・パズル・脳トレアプリは「やらないより良い」程度の効果は期待できますが、机上の課題が直接的に日常生活の記憶を改善するかは、研究によって結果が分かれています。
大切なのは、ドリルだけで終わらせず、メモ・スマホ・スケジュール表を組み合わせて、実生活で困らない仕組みを作ることです。
Q. 同じことを何度も聞かれてつらい時はどうしたら?
同じ質問は、本人が「不安だから確認している」サインであることが多いです。
口頭で答えるより、ホワイトボード・スマホのメモ・付箋など「いつでも本人が自分で確認できる場所」に答えを書いておくと、聞かれる回数が減りやすくなります。
ご家族の負担が大きい場合は、ケアマネジャーや地域包括支援センターに相談していただけますか。
Q. 仕事に復帰できますか?
仕事の内容と症状の程度によります。
メモを必ず取る・1つの作業に集中する・連絡事項はその場でカレンダーに入れるなどの工夫で、復職できる方も少なくありません。
ただし、素早い判断や複数のタスクを同時に進める職種では、職務内容の調整が必要になることがあります。
主治医・リハビリ専門職・産業医・障害者就業・生活支援センターに早めにご相談いただけますか。
まとめ
- 脳卒中後は約4割の方に何らかの認知機能低下が残り、記憶障害もよく起こる症状のひとつ
- 影響を受けやすいのは短期記憶と新しい出来事の記憶。昔の思い出や体で覚えた動作は残りやすい
- 原因は海馬・視床・前頭葉・白質などのダメージ。麻痺が軽くても記憶障害だけ残ることがある
- 認知症とは原因も進み方も異なる。脳卒中後の記憶障害は基本的に進行性ではない
- リハビリは「鍛える」より「補い方を身につける」が基本。外的な記憶補助・エラーレスラーニング・運動の組み合わせが現実的
- 自宅では記憶ノート・ホワイトボード・お薬ケース・スマホのカレンダー&リマインダーが要
- 家族は「思い出させる」より「先に伝える」「責めない」「道具に頼る」を意識する
次にやるべきこと:まずはチェックリストでご本人とご家族の双方の視点で症状を整理し、3つ以上当てはまる場合はかかりつけ医や脳卒中担当のリハビリ専門職にMoCAなどの認知機能評価を依頼してみてください。
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最終更新:2026年5月

