
ラクナ梗塞とは、脳の深い場所を流れる「細い血管(穿通枝)」が詰まることで起こる、直径15mm以下の小さな脳梗塞のことです。
「小さな脳梗塞だから心配ない」と言われたものの、本当にこのままで大丈夫なのか、再発や認知症のリスクはどれくらいあるのか、不安に感じている方も多いと思います。
この記事では、ラクナ梗塞の原因・典型的な症状(5つのラクナ症候群)・治療と再発予防・無症候性ラクナ梗塞の経過・リハビリの考え方まで、当事者とご家族が知っておきたい情報を1つにまとめて解説します。
脳卒中専門リハビリ施設BRAINの代表で理学療法士の針谷が、臨床経験と研究論文に基づいて解説します。
・医学的内容は、欧州脳卒中機構(ESO)2024年ガイドラインと、信頼性の高い査読付き研究論文を基にしています。
・ラクナ梗塞の診断・治療方針は、必ず主治医にご相談ください。
・本記事は医学的助言を代替するものではありません。
1つでも当てはまれば、すぐに救急車を呼んでください(Time is brain)。
ラクナ梗塞は症状が軽いことが多く「様子を見よう」と判断しがちですが、最初の数時間が治療成績を大きく左右します。
ラクナ梗塞とは?小さな脳梗塞
ラクナ梗塞は、脳の深い場所にある「穿通枝(せんつうし)」と呼ばれる細い動脈が詰まって起こる、ごく小さな脳梗塞です。
「ラクナ(lacuna)」はラテン語で「小さな空洞」を意味し、梗塞によって脳の組織が壊死した跡が、直径15mm以下の小さな空洞として残ることから名付けられました。
ラクナ梗塞は、脳の表面の太い血管が詰まる「アテローム血栓性脳梗塞」や、心臓由来の血栓が飛んで起こる「心原性脳塞栓症」とは異なる、もう1つの代表的な脳梗塞のタイプです。
・脳の深部にある穿通枝(直径100~400μmの細い動脈)が詰まって発生する。
・大脳基底核・視床・橋・内包・放線冠などに好発する。
・MRI拡散強調画像(DWI)で診断され、「脳小血管病(cerebral small vessel disease:CSVD)」という大きな概念の一部に位置づけられる。
2024年に発表された欧州脳卒中機構(ESO)の最新ガイドラインでは、ラクナ梗塞は「脳小血管病(CSVD)」という総称の中の代表的な臨床像として位置づけられています(Wardlaw, 2024)。
つまりラクナ梗塞は、単独で起こる現象ではなく、脳全体の細い血管がじわじわ傷んでいく病気の「氷山の一角」と理解することが大切です。
ラクナ梗塞の原因|高血圧と小さな血管の動脈硬化
ラクナ梗塞の最大の原因は、長年の高血圧です。
脳の深部を栄養する穿通枝は、太い血管から直接枝分かれする「行き止まりの細い血管」で、もともと圧力に弱い構造をしています。
そこに長年の高血圧がかかると、血管の壁が厚く硬くなり、内側の通り道が狭くなって最終的に詰まってしまいます。
② 加齢:60歳以上で発症リスクが急増する。
③ 糖尿病:血管壁の障害を加速させる。
④ 脂質異常症:穿通枝の入口にできる小さなプラークが原因になることがある。
⑤ 喫煙:血管内皮を傷つけ動脈硬化を進める。
⑥ 慢性腎臓病:腎臓の細い血管と脳の細い血管は同じように傷むため強い相関がある。
2018年に発表されたJAMA Neurologyのレビューでは、ラクナ梗塞の病態の中心は、穿通枝の壁が変性する「リポヒアリン変性」と、穿通枝の入口にできる小さな動脈硬化プラーク(微小アテローム)の2つであると整理されています(Regenhardt, 2018)。
2024年に発表されたレビューでは、高血圧が脳小血管病の発症と進行において最も影響の大きい修正可能なリスク因子であることが、改めて強調されています(Hainsworth, 2024)。
「血圧の薬を飲んでいるから大丈夫」ではなく、家庭血圧で実際に下がっているかを毎朝測って確認することが、再発予防の出発点になります。
特に冬場の朝、入浴前後、トイレ直後など、血圧が跳ね上がりやすい場面の管理が重要です。
ラクナ梗塞の症状|純粋運動性麻痺・感覚性麻痺・運動失調・構音障害
ラクナ梗塞は、梗塞ができた場所によって特徴的な症状パターンを示します。
これは「ラクナ症候群(lacunar syndrome)」と呼ばれ、古典的に5つの型に分類されます。
① 純粋運動性片麻痺(pure motor stroke)
最も多いタイプで、ラクナ症候群の半数以上を占めます。
顔・腕・脚の片側にほぼ均等に麻痺が出るのが特徴です。
感覚の鈍さ・しびれ・言葉の障害・視野の異常は伴いません。
内包後脚や橋の梗塞でよく見られます。
② 純粋感覚性脳卒中(pure sensory stroke)
片側の顔・腕・脚にしびれや感覚の鈍さだけが出るタイプです。
運動麻痺・失語・視野の異常は伴いません。
視床(感覚を中継する場所)の小さな梗塞で起こることが多いタイプです。
③ 感覚運動性脳卒中(sensorimotor stroke)
片側の麻痺と感覚の鈍さが同時に出るタイプです。
視床と内包をまたぐ場所の梗塞で起こります。
④ 運動失調性片麻痺(ataxic hemiparesis)
片側の麻痺に加えて、同じ側の手足のぎこちなさ・協調運動の障害が出るタイプです。
とくに脚の動きがふらつき、まっすぐ歩けない症状が前面に出ます。
橋や内包の梗塞で起こります。
⑤ 構音障害-手不器用症候群(dysarthria-clumsy hand syndrome)
ろれつが回らない「構音障害」と、片側の手の細かい動作の不器用さが同時に出るタイプです。
字が書きにくい・ボタンが留めにくい・箸が使いにくいなどの形で気づかれます。
橋や内包膝部の梗塞で起こります。
ただし、複数のラクナ梗塞が同時に起こったり、視床に大きめの梗塞が起こると、認知障害や意識のぼんやり感が出ることがあります。
症状が軽くても、迷ったら救急受診してください。
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無症候性ラクナ梗塞は治る?経過観察でいいのか
健康診断や別の病気の検査で頭部MRIを撮ったときに、「無症候性ラクナ梗塞があります」と言われた経験はありませんか。
無症候性ラクナ梗塞とは、症状はないけれどMRI画像上に小さな梗塞の跡が写っている状態のことです。
「治る」というより「跡が残る」
ラクナ梗塞でできた小さな空洞は、いったん組織が壊死してしまった結果なので、画像上の跡そのものが消えてなくなることはありません。
しかし、症状の方は時間とともに回復することが多く、当事者の方には「治った」と感じられるケースが多いです。
大切なのは、「跡が消えるかどうか」ではなく、これ以上新しい梗塞を作らないことです。
「症状がない=放っておいてよい」ではない
無症候性ラクナ梗塞は、症状が出ていないだけで、その人の脳の細い血管が確実に傷んでいる証拠です。
・将来の有症状脳卒中のリスクが約2倍に上昇
・認知症の発症リスクも明らかに上昇
することが、複数のコホート研究で報告されている(Markus, 2023)。
つまり、無症候性ラクナ梗塞は「症状のないラクナ梗塞」ではなく「これから起こる有症状脳卒中の警告」として受け止めることが大切です。
経過観察と言われても、血圧管理・脂質管理・血糖管理・禁煙・運動習慣の見直しは早めに着手する価値があります。
ラクナ梗塞でも油断できない理由|認知症・血管性うつのリスク
「ラクナ梗塞は小さいから心配ない」と医師から説明され、安心している方もいるかもしれません。
確かに発症直後の麻痺は軽く、後遺症が目立たないケースも多いのは事実です。
しかし、長い目で見ると、ラクナ梗塞には3つの隠れたリスクがあります。
① 再発しやすい
ラクナ梗塞は、原因となる細い血管の動脈硬化が脳全体に広がっているため、別の場所でまた詰まりやすい性質があります。
適切な再発予防をしないと、数年単位で2個目・3個目のラクナ梗塞が積み重なっていきます。
② 血管性認知症のリスク
小さなラクナ梗塞が複数積み重なると、「血管性認知症」を発症するリスクが上がります。
ラクナ梗塞・白質病変・微小出血・脳萎縮が組み合わさることで、思考の速度低下・注意力の低下・遂行機能の低下が段階的に進む。
アルツハイマー型認知症が「記憶の障害」から始まるのに対し、血管性認知症は「思考の速度が遅くなる」「段取りが立てづらくなる」「集中力が続かない」といった形で始まることが多いです。
③ 血管性うつ・意欲低下
前頭葉と皮質下を結ぶ細い血管が傷むと、「血管性うつ(vascular depression)」と呼ばれる状態が起こることがあります。
これは気分の落ち込みよりも、意欲の低下・興味の喪失・行動の鈍さとして現れることが特徴です。
「最近やる気が出ない」「外出が億劫」「会話が減った」というご家族の変化があれば、単なる老化ではなく、血管性うつや認知症の入り口の可能性も視野に入れる必要があります。
身体機能の回復と、認知・意欲面のサポートはセットで考える必要があります。
血圧・脂質・血糖の管理に加えて、有酸素運動・社会活動・読書・趣味の継続が、長期の脳の健康に大きく影響します。
治療と再発予防
ラクナ梗塞の治療は、急性期の治療と、その後の長期的な再発予防に分かれます。
急性期治療
発症から4.5時間以内であれば、血栓を溶かす点滴(rt-PA静注療法)の対象となることがあります。
ラクナ梗塞でも症状を残す場合は、rt-PAの効果が期待できると2024年のESOガイドラインでも整理されています(Wardlaw, 2024)。
その後は、抗血小板薬(アスピリン・クロピドグレルなど)が標準治療となります。
再発予防:5つの柱
② 脂質管理:スタチン(コレステロール低下薬)でLDLコレステロールをしっかり下げる。
③ 血糖管理:糖尿病があればHbA1cを目標値に管理する。
④ 抗血小板薬:原則として1剤(アスピリンまたはクロピドグレル)を継続する。
⑤ 生活習慣の改善:禁煙・節酒・運動・減塩・適正体重の維持。
2024年のESOガイドラインでは、ラクナ梗塞後の血圧目標は130/80mmHg未満が推奨されており、薬を増やしてでも下げきることが再発予防に直結すると整理されています(Wardlaw, 2024)。
退院後の生活全般と再発予防は、別記事の退院後の脳卒中リハビリ完全ガイドと脳卒中の再発予防|食事・運動・薬で何ができるかでも詳しく解説しています。
ラクナ梗塞のリハビリ
ラクナ梗塞は症状が軽いケースが多いため、「リハビリは必要ない」と判断されがちです。
しかし、本人がよく観察すると、細かい動作のぎこちなさ・歩行の安定性低下・疲れやすさ・集中力の続かなさなどが残っていることが少なくありません。
典型的なリハビリ課題
- 歩行の安定性:純粋運動性片麻痺や運動失調性片麻痺では、屋外歩行や階段昇降で症状が出ることがある
- 手の細かい動作:構音障害-手不器用症候群では、書字・ボタン留め・箸操作の練習が中心
- 感覚の再学習:純粋感覚性脳卒中では、しびれと触覚識別の再学習を組み合わせる
- 有酸素運動:脳の血管の健康を保つために週3回30分程度の中等度有酸素運動を継続
- 認知機能のトレーニング:注意力・遂行機能を保つために生活の中で工夫を取り入れる
「症状が軽いラクナ梗塞」こそ早めの介入が効く
ラクナ梗塞は、重い麻痺が残らない代わりに、リハビリの優先度が下がりやすい疾患です。
しかし、軽い症状こそ「もう少し動かせるようになる余地」が大きいことを、臨床現場では多く経験します。
「以前と同じスピードで歩きたい」「字をきれいに書きたい」「箸で豆をつかみたい」といった具体的な生活目標を立てて取り組むことで、回復の手応えを得やすくなります。
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BRAINからの臨床コメント
BRAINで多くのラクナ梗塞のご利用者を担当して感じるのは、「ラクナ梗塞は小さい脳梗塞」ではなく「脳全体の細い血管がすでに傷み始めているサイン」だということです。
1個目のラクナ梗塞で軽症のうちに、生活全体を整えるチャンスが訪れた、と捉えるのが現実的だと考えています。
具体的に意識していただきたいのは、次の3点です。
- 家庭血圧の毎日測定と記録(朝起床後・就寝前の1日2回)
- 有酸素運動の継続(散歩でもいいので週3回以上)
- 認知・意欲面の変化を家族と共有(早めの気づきが早期対応につながる)
ラクナ梗塞が見つかったことを、後悔ではなく「次の脳卒中を防げた幸運」として捉え直していただきたいと思います。
よくある質問(FAQ)
Q1. ラクナ梗塞は治りますか?
MRI画像上の「梗塞の跡」そのものは消えませんが、症状は時間とともに回復することが多いです。
大切なのは「跡を消す」ことではなく、再発を防ぐことです。
Q2. ラクナ梗塞に前兆はありますか?
明確な前兆は少ないですが、一過性脳虚血発作(TIA)として、数分から24時間以内に消える片麻痺・しびれ・ろれつの異常が前兆となることがあります。
このような症状があれば、症状が消えても必ず救急受診してください。
Q3. 無症候性ラクナ梗塞は経過観察だけで大丈夫ですか?
症状がなくても、有症状脳卒中・認知症の発症リスクが上がるため「血圧・脂質・血糖の管理+禁煙+運動」は早めに始める価値があります。
主治医と相談しながら、生活習慣の見直しを進めましょう。
Q4. ラクナ梗塞の症状はどんなものがありますか?
典型的には、片側の麻痺だけ・片側のしびれだけ・ろれつが回りにくいなどの「単独で出る症状」が特徴です。
失語・無視・視野欠損は通常伴いません。
Q5. 血圧はどれくらいまで下げればいいですか?
2024年のESOガイドラインでは、ラクナ梗塞後は家庭血圧で130/80mmHg未満が目標とされています。
ただし、ご高齢の方や腎機能の低下がある方では、急激な降圧でふらつきが出ることもあるため、主治医と相談しながら段階的に下げていくのが安全です。
まとめ
- ラクナ梗塞とは、脳の深い場所を流れる細い血管(穿通枝)が詰まる、直径15mm以下の小さな脳梗塞です。
- 脳梗塞全体の約25%を占め、「脳小血管病(CSVD)」という大きな概念の中に位置づけられます。
- 最大の原因は長年の高血圧で、加齢・糖尿病・脂質異常症・喫煙・慢性腎臓病もリスクです。
- 症状は、純粋運動性片麻痺・純粋感覚性脳卒中・感覚運動性脳卒中・運動失調性片麻痺・構音障害-手不器用症候群の5つの型に分けられます。
- 無症候性ラクナ梗塞は「症状のない病気」ではなく「これから起こる脳卒中・認知症の警告」です。
- 再発予防の柱は、家庭血圧で130/80mmHg未満を目標とした血圧管理、スタチンによる脂質管理、血糖管理、抗血小板薬、生活習慣の改善です。
- 軽症のラクナ梗塞でも、歩行の安定性・手の細かい動作・有酸素運動・認知機能のリハビリで「もう一段の改善」が期待できます。
実際の診断・治療方針は、主治医と相談のうえで決定してください。
本記事は医学的助言を代替するものではありません。
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参考文献
- Wardlaw JM, Chabriat H, de Leeuw FE, et al. European stroke organisation (ESO) guideline on cerebral small vessel disease, part 2, lacunar ischaemic stroke. Eur Stroke J. 2024;9(1):5-68. PMID: 38380638
- Regenhardt RW, Das AS, Lo EH, Caplan LR. Advances in Understanding the Pathophysiology of Lacunar Stroke: A Review. JAMA Neurol. 2018;75(10):1273-1281. PMID: 30167649
- Markus HS, de Leeuw FE. Cerebral small vessel disease: Recent advances and future directions. Int J Stroke. 2023;18(1):4-14. PMID: 36575578
- Hainsworth AH, Markus HS, Schneider JA. Cerebral Small Vessel Disease, Hypertension, and Vascular Contributions to Cognitive Impairment and Dementia. Hypertension. 2024;81(1):75-86. PMID: 38044814
- Markus HS, Joutel A. The pathogenesis of cerebral small vessel disease and vascular cognitive impairment. Physiol Rev. 2025;105(3):1075-1171. PMID: 39965059
最終医療レビュー日:2026年5月15日

