
とろみの付け方は、脳卒中後の嚥下障害(飲み込みづらさ)がある方にとって、むせや誤嚥性肺炎を防ぐための最も基本的な対策です(Venkat, 2024)。
水やお茶を飲むとむせる、食事中に咳き込む、食後に痰がからむ――。
そんなとき家族や本人が悩むのが「どのくらいのとろみをつければいいのか」「片栗粉と市販のとろみ剤は何が違うのか」という具体的な付け方の問題です。
とろみは濃ければ安全というものではなく、濃度を間違えると逆に飲み込みにくくなることがわかっています(Bolivar-Prados, 2019)。
この記事では、脳卒中後の嚥下障害における安全な食事形態と適切なとろみ濃度の選び方を、脳卒中専門リハビリ施設BRAINの代表で理学療法士の針谷が、臨床経験と研究論文に基づいて解説します。
・本記事の情報は、信頼性の高い研究論文から得られたデータを中心に引用しています。
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・顔のゆがみ(片側が下がる)
・片腕の脱力(腕が上がらない)
・言葉のもつれ(ろれつが回らない)
また、食事や水分摂取の場面で以下の症状がある場合は、早めにかかりつけ医・言語聴覚士・歯科医師にご相談ください。
・食事中に頻繁にむせる、咳き込む
・38℃以上の発熱が繰り返し起こる(誤嚥性肺炎の疑い)
・食後に痰がからむ、声がガラガラになる
・体重が短期間で大きく減った(食事量低下のサイン)
なぜ脳卒中のあとに「とろみ」が必要なのか
脳卒中のあとは、口や喉の動きをつかさどる神経がダメージを受けることで、飲み込みがうまくいかなくなることがあります。
これを「嚥下(えんげ)障害」と呼びます。
2025年に公開された複数の研究をまとめた分析では、脳卒中後の方の約42%に嚥下障害が見られると報告されています(Gu, 2025)。
とくにサラサラの水分は喉を通り抜ける速度が速いため、飲み込みのタイミングが遅れた方にとって最も誤嚥(食べ物や水分が気管に入ること)しやすい飲み物です。
そこで使われるのが「とろみ」です。
水分にとろみをつけると、液体が喉を通る速度がゆっくりになり、飲み込みのタイミングを合わせやすくなるため誤嚥のリスクが下がります(Bolivar-Prados, 2019)。
とろみ 付け方の国際基準(IDDSI)と日本の学会分類2021
とろみの濃度は世界共通の基準で示されており、代表例が国際嚥下食標準化(IDDSI)と日本摂食嚥下リハビリテーション学会分類2021の2つです。
2017年に公開された国際的なまとめでは、IDDSIは飲み物を0から4までの5段階で表示すると定義されています(Cichero, 2017)。
2020年にはIDDSIが2.0に改訂され、世界60カ国以上で使われる国際標準になりました(Cichero, 2020)。
とろみ濃度の3段階(薄い・中間・濃い)
日本の学会分類2021では、とろみは以下の3段階に分けられています。
| 濃度 | わかりやすく言うと | 適している方の例 |
|---|---|---|
| 薄いとろみ(フレンチドレッシング状) | スプーンを傾けるとサラサラ流れ落ちる | 水分でわずかにむせる程度の方 |
| 中間のとろみ(とんかつソース状) | スプーンを傾けるとゆっくり流れる | 明らかに水分でむせる方 |
| 濃いとろみ(ケチャップ状) | スプーンを傾けても形が崩れにくい | 飲み込みのタイミングが大きく遅れる方 |
2022年に公開された測定研究では、IDDSIで示された各レベルの粘度(流れにくさ)は機械的にも一定の範囲に収まることが確認されています(Hadde, 2022)。
つまり「ケチャップ状」「とんかつソース状」という言葉は、感覚ではなく科学的に根拠のある粘度の目安として使えるということです。
食事形態は5段階(嚥下訓練食〜常食)
食事のかたさも段階で示されます。
2018年に公開された臨床研究では、IDDSIに基づく食事形態の段階づけが、嚥下障害がある方への提供食を統一する助けになることが示されています(Su, 2018)。
- 嚥下訓練食(ゼリー状でつるんと飲み込める)
- 嚥下調整食(やわらかいムース・ペースト状)
- 軟菜食(歯ぐきでつぶせる程度のやわらかさ)
- 移行食(普通食に近いがかみ砕きやすい)
- 常食(普通の食事)
食形態は本人の飲み込みの力と噛む力に合わせて段階的に上げていくのが基本です。
家庭でできる安全なとろみの付け方|手順とポイント
家庭で水分や汁物にとろみをつけるときの基本手順を紹介します。
市販のとろみ剤を使う場合(推奨)
嚥下障害の方には、片栗粉ではなく市販の介護用とろみ剤(キサンタンガム系)の使用が推奨されます(Bolivar-Prados, 2019)。
- カップに飲み物を150〜200ml入れる
- とろみ剤を少量(製品の表示量)スプーンに取る
- 飲み物にとろみ剤を加えながら、すぐに30秒以上かき混ぜる
- そのまま2〜3分置いて、とろみを安定させる
- スプーンですくって、目的の濃度になっているか確認する
2019年に公開された臨床試験では、キサンタンガム系のとろみ剤は適切な濃度に設定すれば誤嚥のリスクを大幅に下げることが示されました(Bolivar-Prados, 2019)。
片栗粉ではダメなのか?
料理用の片栗粉でとろみをつけることは可能ですが、嚥下障害がある方の水分補給用としては適していません。
理由は3つあります。
- 加熱が必要:常温の水やお茶ではとろみがつかない
- 時間の経過でとろみが変化する:唾液の酵素で分解され、口の中で水っぽく戻ってしまう
- 濃度の安定性が低い:作るたびに粘度がばらつきやすい
2022年に公開された粘度測定の研究では、市販のとろみ剤は時間が経っても粘度が安定しているのに対し、でんぷん系は変化しやすいことが報告されています(Hadde, 2022)。
ダマができたときの対処
市販のとろみ剤を使うときに最も多い失敗が「ダマ」です。
ダマができる主な原因は、とろみ剤を一気に入れてしまうこと、かき混ぜが足りないこと、温度が高すぎることの3つです。
対処のコツは、必ずかき混ぜながらとろみ剤を少しずつ振り入れること、加える前に味付けを完了しておくことの2点です。
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とろみは濃ければ安全?逆効果になる落とし穴
「不安だから濃くしておこう」は、嚥下障害ケアで最も多い間違いのひとつです。
2024年に公開された脳卒中後嚥下障害の現場研究では、適切な濃度のとろみが摂食量と水分摂取量を改善する一方、過度に濃いとろみは口の中に残りやすくなることが指摘されています(Venkat, 2024)。
濃すぎるとろみによる主な問題は次のとおりです。
- 口の中や喉に水分が残る(残留)
- 食後に痰がからみやすくなる
- 水分摂取量が減って脱水につながる
- 飲みづらさが増し、本人の意欲が下がる
2018年に公開された当事者の声を集めた調査では、脳卒中後にとろみ水を提供されている方の多くが「味や飲みごたえが好きではない」「水を自由に飲みたい」と感じていることが報告されています(McCurtin, 2018)。
つまりとろみは、安全と本人の生活の質のバランスをとりながら最小限の濃度で使うのが基本です。
退院後のリハビリ全体の進め方については退院後の脳卒中リハビリ完全ガイドでも解説しています。
とろみが必要な飲み物・食べ物の例
とろみを検討すべき飲み物や食べ物の例をまとめます。
| 対象 | 理由 | 付け方の注意 |
|---|---|---|
| 水・お茶 | 最も誤嚥しやすい | 指示された濃度で使用 |
| スープ・味噌汁 | 具と汁が分離してむせやすい | 汁にとろみをつけて具と一体化 |
| 牛乳・飲むヨーグルト | のど通りが速い | 冷えた状態でかき混ぜる |
| 栄養補助飲料(エンシュア・メイバランス等) | 嚥下障害の方が利用機会が多い | 専用とろみ剤か、表示に従い少量ずつ |
| 炭酸飲料 | 泡で粘度が変化しやすい | 基本は避け、必要なら専門家に相談 |
| 果汁・コーヒー | 酸味・苦味で咳が誘発されやすい | 温度を確認しながら少量ずつ |
2018年にヨーロッパで発表された臨床栄養ガイドラインでは、嚥下障害がある脳卒中後の方には個別評価のうえでとろみ付き水分と食事形態の調整を組み合わせることが推奨されています(Burgos, 2018)。
食事中の姿勢と環境のポイント
とろみの濃度と同じくらい大切なのが、食事のときの姿勢と環境です。
2025年に公開された脳卒中後嚥下障害の臨床研究では、適切な姿勢調整と食事形態の組み合わせが誤嚥性肺炎の予防に有用であると報告されています(Jamil, 2025)。
- 背もたれを起こす:椅子なら90度、ベッドなら30度以上を目安に
- 顎を軽く引く:あごが上がると気管に流れやすくなる
- 一口量を少なめに:ティースプーン1杯程度から始める
- 食事に集中できる環境:テレビをつけず、会話は最小限に
- 食後30分は座位を保つ:すぐ横にならない
食後すぐに横になると、口や喉に残った食べ物が気管に流れ込みやすくなるため要注意です。
水分摂取量を確保する工夫|「とろみ嫌い」への対応
とろみ付きの水分が口に合わず、結果として水分摂取量が減ってしまうことは現場で頻繁に起こります。
2014年にイギリスの専門委員会から発表された脳卒中の栄養支援ガイドラインでは、嚥下障害がある方の脱水予防のため、必要な水分量を確保する個別の工夫を行うことが推奨されています(Gomes, 2014)。
2019年に公開された臨床研究では、安定した嚥下機能を持つ方を対象に、口腔ケア後・食間に普通の水を摂取できる「フリーウォータープロトコル」を導入することで、誤嚥性肺炎の発生率を上げずに水分摂取量を増やせることが報告されています(Kenedi, 2019)。
ただしこの方法は必ず言語聴覚士の評価のうえで行うべきものであり、自己判断ではじめないでください。
家庭でできる工夫
- 味のついた飲み物(番茶・麦茶・薄めた果汁等)にとろみをつけて選択肢を増やす
- ゼリー飲料・水ようかんなど、口で溶けるかたちの水分源を活用する
- 食事の汁物にとろみをつけて、食事から水分を補う
- 1日の水分摂取量を「メモ用紙」で見える化し、家族と共有する
再発予防の観点からも、適切な水分摂取と栄養管理は重要です。詳しくは脳卒中の再発予防もご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. とろみ剤の量はどう決めればいいですか?
退院時に医師・言語聴覚士から「中間のとろみ」「濃いとろみ」など指示があるはずなので、その指示に従ってください。
市販のとろみ剤の容器には、各濃度に必要な目安量が記載されています。
製品ごとに必要量が異なるため、使う製品の表示量を必ず確認してください。
Q2. お茶や水はずっととろみをつけ続けるのでしょうか?
必ずしも一生続けるわけではありません。
嚥下機能はリハビリと回復によって改善することがあるため、定期的な評価をもとにとろみの濃度を下げたり、最終的には不要になることもあります。
2025年に公開された複数の研究をまとめた分析でも、適切な訓練と評価による段階的な調整が予後改善に重要だと示されています(Jamil, 2025)。
Q3. 介護用と料理用のとろみ剤は同じものでよいですか?
用途が違うため別物として扱うのが安全です。
料理用の片栗粉や小麦粉は、加熱調理の中でとろみをつける食材です。
嚥下障害の対策には、加熱不要・時間で粘度が安定する介護用のキサンタンガム系とろみ剤が推奨されます(Hadde, 2022)。
Q4. 病院で「中間のとろみ」と言われたが、家ではどう作ればいいですか?
退院時に渡される指導用紙やとろみ剤の表示が一番の参考になります。
参考の目安として、中間のとろみは「とんかつソースくらい」「スプーンを傾けるとゆっくり流れ、糸を引くように落ちる」状態です(Cichero, 2017)。
不安なときは、退院後の外来や訪問リハビリで濃度を確認してもらうのが確実です。
Q5. むせなければとろみは不要ですか?
むせは飲み込みの安全を保つ防御反応ですが、脳卒中のあとは「むせない誤嚥(不顕性誤嚥)」が起こることがあります。
そのためむせの有無だけで安全と判断するのは危険です。
食後の発熱や痰の増加、声のかすれなどがある場合は、誤嚥が起きている可能性があるので主治医にご相談ください。
まとめ|とろみは「正しい濃度」で「安全と生活の質」を両立する
本記事のポイントを整理します。
- 脳卒中後の方の約42%に嚥下障害が見られ、水分にとろみをつけることが基本対策
- とろみ濃度は「薄い/中間/濃い」の3段階。指示された濃度を守る
- 嚥下障害の対策では片栗粉ではなく市販のキサンタンガム系とろみ剤が推奨
- 濃ければ安全ではない。濃すぎは口腔残留・脱水・意欲低下を招く
- 姿勢・一口量・食後の体位など環境要因もとろみ濃度と同じくらい重要
- 定期的な再評価でとろみ濃度の見直しと食事形態の段階アップを目指す
とろみは「ずっと続ける我慢」ではなく、飲み込みの状態に合わせて柔軟に調整していくサポートです。
BRAINでは、嚥下機能や姿勢を含めた評価のうえで、ご本人とご家族が安心して生活できるよう支援しています。
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参考文献
- Gu H, Ren D. Prevalence and Risk Factors of Poststroke Dysphagia: A Meta-Analysis. Cerebrovascular Diseases. 2025. PMID: 38643757
- Bolivar-Prados M, Rofes L, Arreola V, et al. Effect of a gum-based thickener on the safety of swallowing in patients with poststroke oropharyngeal dysphagia. Neurogastroenterol Motil. 2019. PMID: 31402571
- Cichero JA, Lam P, Steele CM, et al. Development of International Terminology and Definitions for Texture-Modified Foods and Thickened Fluids Used in Dysphagia Management: The IDDSI Framework. Dysphagia. 2017. PMID: 27913916
- Cichero JAY, Lam PTL, Chen J, et al. Release of updated International Dysphagia Diet Standardisation Initiative Framework (IDDSI 2.0). J Texture Stud. 2020. PMID: 31498896
- Hadde EK, Prakash S, Chen W, et al. Instrumental texture assessment of IDDSI texture levels for dysphagia management. Part 1: Thickened fluids. J Texture Stud. 2022. PMID: 35717604
- Venkat S. Improving swallowing function with thickening agents in post-stroke oropharyngeal dysphagia: a real-world experience. Curr Med Res Opin. 2024. PMID: 38864410
- Jamil A, Imtiaz M, Muhammad A, et al. Evidence based therapeutic and assessment techniques to rehabilitate post stroke dysphagia patients – A systematic review. Eur Arch Otorhinolaryngol. 2025. PMID: 39105791
- Burgos R, Bretón I, Cereda E, et al. ESPEN guideline clinical nutrition in neurology. Clin Nutr. 2018. PMID: 29274834
- Gomes F, Hookway C, Weekes CE. Royal College of Physicians Intercollegiate Stroke Working Party evidence-based guidelines for the nutritional support of patients who have had a stroke. J Hum Nutr Diet. 2014. PMID: 24252162
- Kenedi H, Campbell-Vance J, Reynolds J, et al. Implementation and Analysis of a Free Water Protocol in Acute Trauma and Stroke Patients. Crit Care Nurse. 2019. PMID: 31154338
- McCurtin A, Healy C, Kelly L, et al. Plugging the patient evidence gap: what patients with swallowing disorders post-stroke say about thickened liquids. Int J Lang Commun Disord. 2018. PMID: 28621030
- Su M, Zheng G, Chen Y, et al. Clinical applications of IDDSI framework for texture recommendation for dysphagia patients. J Texture Stud. 2018. PMID: 29052849
最終医療レビュー日:2026年4月27日(針谷遼/理学療法士)

