脳卒中後の構音障害は、舌や唇・喉・呼吸の動きが弱くなり「ろれつが回らない」状態になる症状で、初発の脳梗塞で入院した方の約44%に認められたと報告されていますDe Cock, 2020)。

「言いたいことは頭にあるのに、口がうまく動かない」「家族から何度も聞き返される」。

そんなお悩みは、脳卒中による構音障害(こうおんしょうがい)が原因かもしれません

構音障害は「言葉そのもの」が出にくい失語症とは違い、言葉を組み立てる力は残っていて、それを声にする運動だけがうまくいかない状態です

適切な発声・呼吸・口腔リハビリと、家族の関わり方の工夫で、伝わりやすさは確実に改善できることが研究で示されています。

この記事では、脳卒中後の構音障害の症状、失語症との違い、リハビリ方法、家族の支援法、相手に伝わる工夫を、脳卒中専門リハビリ施設BRAINの代表で理学療法士の針谷が、臨床経験と研究論文に基づいて解説します。

情報の信頼性について
・本記事はBRAIN代表/理学療法士の針谷が執筆しています(執筆者情報は記事最下部)。
・本記事の情報は、信頼性の高い研究論文から得られたデータを中心に引用しています。

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⚠ 突然のろれつ困難は救急要請の検討を
急に「ろれつが回らない」状態が出た場合は、脳卒中の発症や再発の可能性があります。FAST(顔のゆがみ・腕の脱力・言葉のもつれ・発症時刻)を確認し、救急要請(119番)を検討してください。

・顔のゆがみ(片側が下がる)
・片腕の脱力(腕が上がらない)
・言葉のもつれ(ろれつが回らない)
・症状の発症時刻を記録(治療判断に必要)

また、すでに脳卒中後で構音障害がある方も、以下の場合は早めに主治医にご相談ください。
・もとに比べて急に話しにくさが強くなった
・むせる・飲み込みづらさを同時に感じる
・呼吸が浅く息切れしやすい
目次
  1. 脳卒中 構音障害とは|「ろれつが回らない」が起こる仕組み
    1. 発音を作る4つの工程
    2. 脳卒中以外の原因にもなる症状
  2. 脳卒中 構音障害と失語症の違い
  3. 脳卒中 構音障害の症状チェックリスト
    1. 発音・ろれつに関する症状
    2. 声・呼吸に関する症状
    3. 話す速さ・リズムに関する症状
    4. 食事・口まわりに関する症状
  4. 構音障害の原因と脳のどこが関係するか
    1. 関係する脳の場所と症状の特徴
    2. 運動性タイプと感覚性タイプの違い
  5. 脳卒中 構音障害のリハビリ方法
    1. ① 呼吸・発声の練習
    2. ② 口腔体操(口・舌の運動)
    3. ③ 構音訓練(発音の練習)
    4. ④ 話す速度・大きさの調整
    5. ⑤ デジタル・アプリを活用した自宅練習
    6. ⑥ 非侵襲的脳刺激(研究段階)
  6. 自宅でできる発声練習5つ
    1. 練習① 深呼吸とロングトーン
    2. 練習② パタカラ体操
    3. 練習③ 舌・唇のストレッチ
    4. 練習④ 文章を声に出して読む
    5. 練習⑤ 歌う・会話する
  7. 相手に伝わる「会話のコツ」
  8. AAC(補助コミュニケーション)の活用
    1. 手軽に始められるAAC
  9. 家族・周囲の支援法
    1. 家族にお願いしたい7つのこと
  10. 受診・相談の目安
  11. よくある質問(FAQ)
    1. Q. 構音障害は時間が経てば自然に治りますか?
    2. Q. 失語症と構音障害は同時に起こりますか?
    3. Q. カラオケで歌うのはリハビリになりますか?
    4. Q. 電話だけ伝わらないのはなぜですか?
    5. Q. 構音障害があっても仕事に戻れますか?
  12. まとめ
  13. 参考文献

脳卒中 構音障害とは|「ろれつが回らない」が起こる仕組み

構音障害は、舌・唇・あご・喉・呼吸など、声を作るための筋肉の動きがうまくいかなくなった状態です。

英語ではdysarthria(ディサルスリア)と呼ばれ、医学的には「脳・神経・筋肉のダメージで発音の運動だけが障害された状態」と定義されています。

言葉を組み立てる力は保たれていて、頭の中の言葉を音にする工程だけがうまくいかなくなる、これが構音障害の本質です

脳卒中後に起こる代表的なコミュニケーション障害のひとつで、2020年に発表された151名の前向き研究では、初発の脳梗塞で入院した方の44%(95%信頼区間 37〜52%)に構音障害が認められたと報告されていますDe Cock, 2020)。

発音を作る4つの工程

声を出すには、ひとつの動きではなく、複数の体の働きが連携する必要があります。

大きく分けて、「呼吸」「発声」「共鳴」「構音」の4つの工程です

工程担当する場所うまくいかないと…
呼吸横隔膜・肋骨まわりの筋肉声が小さい/途中で息が切れる
発声のどの声帯声がかすれる/力が入りすぎてしぼり出す
共鳴のどの奥・鼻の通り道鼻にかかった声/こもった声になる
構音唇・舌・あご・歯発音がぼやける/ろれつが回らない

この4つのうちひとつでも障害されると、相手に伝わりにくい話し方になります。

脳卒中の場合は、麻痺の場所によって障害される工程が違ってきます。

BRAINの判断!
BRAINに来られる方でも、「呼吸が浅くて長く話せない」「声が小さくて聞き返される」と訴える方が多いです。実は、構音の練習よりも先に姿勢・呼吸の土台を整えるほうが効果が出やすいケースが少なくありません。

脳卒中以外の原因にもなる症状

「構音障害 脳卒中以外」と検索される方も多いですが、構音障害は脳卒中以外でも起こります。

代表的な原因は、パーキンソン病・小脳の病気・筋萎縮性側索硬化症(ALS)・頭部外傷・脳腫瘍・多発性硬化症などです

脳卒中による構音障害は、これらと違って「非進行性」(病状が進まないタイプ)に分類されます。

つまり、適切なリハビリと時間経過で改善が見込める種類の構音障害です。

脳卒中 構音障害と失語症の違い

構音障害と失語症(しつごしょう)は、どちらも脳卒中後に「言葉が通じにくくなる」症状ですが、原因と困りごとがまったく違います

この違いを知らないまま「とにかく話す練習」をしても、改善にはつながりにくいです。

まず一覧で確認しましょう。

比較項目構音障害失語症
障害される場所発音の運動(口・舌・喉・呼吸)言葉そのもの(言葉を選ぶ・理解する)
言いたいことは?頭の中にちゃんとある言葉が思い浮かばないことがある
聞いて理解は?問題なくできる理解しづらいタイプがある
書く・読むは?基本的に保たれる同時に障害されることが多い
典型的な症状ろれつが回らない/声が小さい/鼻にかかる名前が出てこない/意味が通じにくい
脳の障害部位脳幹・小脳・運動皮質など発話運動の経路優位半球(多くは左)の言語野

2020年に発表された151名の脳梗塞コホート研究では、構音障害44%、失語症23%、嚥下障害23%が同じ集団で出現していましたDe Cock, 2020)。

つまり、構音障害と失語症は別の症状ですが、同じ方に両方が同時に起こることもあります。

失語症の特徴やリハビリについては、脳卒中後の失語症リハビリでくわしく解説しています。

BRAINの判断!
BRAINでは、初回評価で「言葉が出ないのか/出るけど発音できないのか」をご家族にも一緒に聞きます。両者で対応がまったく違うため、まずタイプを見極めることがリハビリの出発点になります。

脳卒中 構音障害の症状チェックリスト

構音障害の症状は、人によって出方がさまざまです。

本人やご家族が気づくきっかけになるよう、よくある症状をチェックリストにまとめました

発音・ろれつに関する症状

  • ろれつが回らない、舌がもつれる感じがする
  • 「タ・カ・パ」など特定の音が出にくい
  • 長い文章を話すと最後のほうがぼやける
  • 家族や知人から何度も「えっ?」と聞き返される
  • 電話だと特に伝わりにくくなった

声・呼吸に関する症状

  • 声が以前より小さくなった、ささやくような声になる
  • 声がかすれる、力をしぼり出して話す感じ
  • 鼻にかかった声・こもった声になる
  • 一息で話せる長さが短くなった
  • 話している途中に息が切れる

話す速さ・リズムに関する症状

  • 話すスピードが遅くなった
  • 逆に早口になりすぎて何を言ったかわからない
  • 抑揚(イントネーション)が平らになった
  • 言葉が途切れ途切れになる
  • 言葉の最後が消えてしまう

食事・口まわりに関する症状

  • 口の片側からよだれが出やすい
  • 食事中にむせやすくなった
  • 食べ物が口の中に残りやすい
  • 口の動きを左右対称にできない(口角・舌の偏り)
  • 舌を前に出した時に左右どちらかに曲がる

3つ以上当てはまる場合は、かかりつけ医や脳卒中担当の言語聴覚士に相談する目安になります

構音障害は外見からは「ろれつが回らない」としか見えないことが多く、本人やご家族でも軽く見られがちです。

むせやすさが同時にある場合は、誤嚥(食べ物や唾液が気管に入ること)からの肺炎リスクが高まります(De Cock, 2020)。

むせや食事中の問題が気になる方は、誤嚥性肺炎の予防もあわせてご覧ください。

構音障害の原因と脳のどこが関係するか

脳卒中による構音障害は、発話の運動命令を伝える経路がダメージを受けると起こります

大きく分けて、運動の指令を作る場所・指令を伝える経路・運動を調整する場所のいずれかが障害されます。

2022年に公開された24本の研究をまとめた分析では、構音障害が起こりやすい脳の部位は橋(脳幹の一部)・放線冠・小脳の順に多いと報告されていますSummaka, 2022)。

関係する脳の場所と症状の特徴

脳の部位役割特徴的な話し方
運動皮質・放線冠発話の運動命令を作る・伝える力が入りにくく、ぼやけた発音になる
橋(脳幹)顔・舌・喉の神経が集まる舌・喉のまひが強く出やすい
小脳話す動きの調整・タイミング話すリズムが乱れて言葉が途切れる
大脳基底核運動の強さ・滑らかさを調整声が小さい・抑揚が乏しい

このように、脳のどこが障害されたかで構音障害の出方が違います

言語聴覚士はこの違いをふまえてリハビリの内容を変えるため、まず正確な評価が大切です。

運動性タイプと感覚性タイプの違い

「構音障害は運動性と感覚性に分かれる」とよく言われますが、これは正確には少し誤解があります。

構音障害そのものは、すべて発話の「運動」の障害です

「感覚性失語」「運動性失語」という分類は、失語症(言葉そのものの障害)の分け方です。

構音障害の場合は、麻痺の出方によって以下のように分類されます。

  • 痙性(けいせい)型:力が入りすぎて発音が硬くなる(運動皮質の障害で多い)
  • 弛緩(しかん)型:力が入らず舌や唇がだらんとなる(脳幹・末梢神経の障害で多い)
  • 失調(しっちょう)型:話すリズムが乱れる(小脳の障害で多い)
  • 動きの調整型:声が小さい・抑揚が乏しい(大脳基底核の障害で多い)
  • 混合型:上のタイプが組み合わさる(脳卒中で最も多い)

2021年に公開された37本の研究をまとめた分析では、脳卒中後の構音障害はタイプによって有効なリハビリ方法が違うことが示されましたChiaramonte, 2021)。

脳卒中 構音障害のリハビリ方法

構音障害のリハビリは、言語聴覚士(ST)が中心となって行います。

2017年に発表された国際的な分析(5つの研究、234名)では、脳卒中などによる構音障害への言語聴覚療法は、明瞭度の改善に役立つ可能性があると結論づけられていますMitchell, 2017)。

ここでは、研究で効果が確認されている主なリハビリの種類を紹介します。

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① 呼吸・発声の練習

声を作る土台になるのが呼吸です。

2020年に発表された21名の脳卒中後の研究では、息を吸う筋肉と吐く筋肉を6週間鍛える練習で、呼吸機能と発声の安定性が改善したと報告されていますLiaw, 2020)。

具体的には、専用の器具で吸う・吐く力に負荷をかけて鍛えるトレーニング(呼吸筋トレーニング)です。

器具がなくても、深呼吸・「あー」と長く声を伸ばす練習・歌うことなどで土台を作れます。

② 口腔体操(口・舌の運動)

唇・舌・あごの動きを大きく・正確にするための練習です。

具体的には、口を大きく開け閉めする・舌を前後左右にしっかり動かす・「パ・タ・カ・ラ」を繰り返し発音する、などの体操です

「パ」は唇、「タ」は舌の前、「カ」は舌の奥、「ラ」は舌のはじき、というふうに使う筋肉が違うため、組み合わせて練習します。

1日2〜3回、1回5〜10分ほどから始めるのが目安です。

③ 構音訓練(発音の練習)

苦手な音を、ゆっくり・はっきりと発音し直す練習です。

言語聴覚士は、本人がどの音で詰まりやすいかを評価して、その音から始めます。

例えば「カキクケコ」が出にくければ、「カ」だけを何度か練習してから単語、文章へと広げていきます。

2020年に発表された22本の研究をまとめた分析では、脳卒中後の構音訓練は明瞭度や音響パラメータの改善に有効と結論されていますFinch, 2020)。

④ 話す速度・大きさの調整

速く話すと不明瞭になる方が多いため、あえてゆっくり・大きな声で話す練習をします。

パーキンソン病でよく使われる「LSVT-LOUD」という方法は、声を大きく出すことに集中するリハビリで、構音障害の一部にも応用されています。

脳卒中後の構音障害でも、声を意識して大きくする・1文ごとに区切る・キーワードをはっきり言うなどの工夫で伝わりやすさが上がります。

2020年に発表された言語聴覚士の介入をまとめた分析でも、こうした速度・声量の調整が明瞭度改善に役立つことが示されています(Finch, 2020)。

⑤ デジタル・アプリを活用した自宅練習

近年は、スマートフォンの音声アプリで自宅でも構音訓練ができる時代になりました。

2024年に発表された32名の脳卒中後の研究では、スマートフォンの構音訓練アプリを1日1時間×週5日×4週間使ったグループで、発話の明瞭度が有意に改善したと報告されていますKim, 2024)。

言語聴覚士の対面リハビリの代わりになるわけではありませんが、自宅練習の継続を助ける道具として有用です。

⑥ 非侵襲的脳刺激(研究段階)

頭の外側から弱い磁気や電気で脳を刺激する方法(rTMS・tDCSなど)も研究されています。

2022年に発表された10本の研究をまとめた分析(脳卒中・パーキンソン病・小脳失調などを含む268名)では、非侵襲的脳刺激は構音障害の改善に可能性がある一方、研究数が少なくまだ標準治療には位置づけられていないと結論されていますBalzan, 2022)。

この研究は脳卒中だけでなく他の神経疾患も含む集団のため、脳卒中での効果量は今後さらなる検証が必要です。

BRAINの判断!
BRAINでは、呼吸・発声・口腔体操をリハビリの土台として毎回行います。発音だけ練習しても声量・呼吸が弱ければ伝わりにくいままだからです。「土台→構音→会話練習」の順で積み上げるのがコツです。

自宅でできる発声練習5つ

言語聴覚士の指導を受けたうえで、自宅でも続けられる練習を5つ紹介します。

無理のない範囲で、毎日少しずつ続けるのがいちばん効果的です。

練習① 深呼吸とロングトーン

背中をまっすぐ伸ばして椅子に座り、鼻からゆっくり息を吸います。

そのまま「あー」と一定の声で長く伸ばし、息が続くところまで声を保ちます。

最初は5秒から、慣れたら10秒・15秒と少しずつ伸ばしていきます。

1日3〜5回、声がかすれない範囲で行いましょう

練習② パタカラ体操

「パ」「タ」「カ」「ラ」をそれぞれ10回ずつ、はっきりと発音します。

慣れたら「パタカラ」をつなげて速く・正確に言う練習に進みます。

口の動きが鏡で確認できるよう、洗面台の前で行うのがおすすめです。

練習③ 舌・唇のストレッチ

舌をしっかり前に出す・上下左右に動かす・口の中で歯の表面をなめる、を1セットとして10回くり返します。

唇は「い」と「う」を交互にしっかり作る・「ぷっ」と空気を強く吐く動きを練習します。

左右で動きに差がある場合は、動きにくい方を少し多めに練習します。

練習④ 文章を声に出して読む

新聞の見出しや好きな本の1ページを、ゆっくり・大きな声で・抑揚をつけて音読します。

1日5分から始めて、慣れたら15分ほどに伸ばしてかまいません。

録音して聞き返すと、自分でも聞き取りにくい部分が見えてきます。

練習⑤ 歌う・会話する

カラオケでゆっくりめの曲を歌うのも、呼吸・発声・構音を一度に使ういい練習です。

家族との日常会話も、リハビリの大切な時間です。

「練習だから」と気負わず、毎日の会話の中でゆっくり・はっきり話す習慣を作ることが、いちばん身につきやすい練習になります。

BRAINの判断!
BRAINでは、「練習を15分まとめてやる」より「3分×5回」のほうが続きやすい方が多いです。歯みがきの後・お風呂上がり・食事前など生活の区切りに練習をくっつけると習慣化しやすいと感じます。

相手に伝わる「会話のコツ」

構音障害があっても、話し方の工夫しだいで伝わりやすさは大きく変わります

言語聴覚士の現場でよく指導される実践的なコツを紹介します。

  • 結論から短く:長い前置きより「〇〇したい」「〇〇が痛い」と最初に伝える
  • 1文を短く区切る:「、」をたくさん使って息を継ぐ
  • 大事な言葉ははっきり大きく:場所・時間・数字など
  • あらかじめ話題を伝える:「これから薬の話をするね」と前置きする
  • うなずきや指差しを併用:言葉だけに頼らず、ジェスチャーを混ぜる
  • 静かな場所で話す:テレビは消し、対面で口元が見えるように
  • うまく伝わらなければ書く・スマホで打つ:恥ずかしいことではない

2022年に発表された129本の研究をまとめた分析では、急性期90日のコミュニケーション支援の取り組みは本人と相手の双方への働きかけが効果的と整理されていますBaker, 2022)。

つまり、本人が話し方を工夫すると同時に、家族や周囲の聞き方もリハビリの一部になります。

AAC(補助コミュニケーション)の活用

AACは「Augmentative and Alternative Communication」の略で、声以外の手段でコミュニケーションを補う仕組みのことです。

恥ずかしさや「機械に頼りたくない」と感じる方も多いですが、AACは話す力を奪うものではなく、伝わる場面を増やすための補助手段です。

2022年に発表された分析でも、急性期から慢性期までAACの活用は有効な支援手段と位置づけられています(Baker, 2022)。

手軽に始められるAAC

  • 筆談:紙とペンを常に身近に置いておく
  • スマホのメモ・音声入力:話せない時は打って見せる
  • 絵カード・写真カード:よく使う言葉を絵で持ち歩く
  • 50音表(あいうえお表):1文字ずつ指差して伝える
  • はい・いいえカード:質問形式で答えやすくする
  • 音声合成アプリ:打った言葉を読み上げてくれる

はじめは家族との間で使い、慣れたら病院・買い物・役所などに広げていくのが現実的です。

家族・周囲の支援法

構音障害のリハビリで、ご家族の関わり方はとても大きな要素です。

聞こえにくいからと先回りして言葉を奪ってしまうと、本人の話す機会が減って練習量が落ちます。

家族にお願いしたい7つのこと

  • 正面に座って、本人の口元を見ながら聞く
  • テレビを消し、静かな環境を作る
  • 急かさず、本人が話し終わるまで待つ
  • わからない時は「もう一度お願い」と素直に伝える
  • 言葉を代弁する前に、筆談・指差しを促す
  • 「はい/いいえ」で答えられる質問に切り替えると伝わりやすい
  • 練習を強要しない、できた時に一緒に喜ぶ

「聞き返すのは失礼かな」と遠慮する方が多いですが、聞き返してあげるほうが本人は安心します

うやむやにうなずいたり、わかったふりをすると、本人は伝わったかどうかわからず不安になります。

長期間の支援になることが多いため、ご家族自身の休息も大切です。

退院後の生活全般の整え方は、退院後の脳卒中リハビリにまとめています。

BRAINの判断!
BRAINでも、初回でご家族に「聞き返してあげてください」と必ずお伝えします。聞き返すことは本人を否定する行為ではなく、「もう一度言いたい」というリハビリの機会を作る支援になります。

受診・相談の目安

以下の場合は、かかりつけ医・脳神経内科・リハビリテーション科に相談してみてください。

  • 退院後に話しにくさが続いていて、リハビリが終わってしまった
  • 明らかにむせる回数が増えてきた
  • 話す機会が減って、家にこもりがちになっている
  • 仕事復帰や運転再開に向けて発話の改善が必要
  • 自分で取り組んでも変化を感じられない

言語聴覚士のリハビリは、退院後でも訪問リハビリ・通所リハビリ・自費リハビリで継続できます。

声が出にくいことで気分が落ち込みやすくなる方も多いです。

疲れやすさを感じる方は、脳卒中の疲労もあわせて参考にしてください。

よくある質問(FAQ)

Q. 構音障害は時間が経てば自然に治りますか?

軽症であれば数か月で自然に改善する方もいます。

ただし、適切なリハビリを受けたほうが改善の程度が大きいことが、複数の研究で報告されていますMitchell, 2017)。

慢性期に入ってからの開始でも、練習を続けることで明瞭度が改善するケースは少なくありません。

Q. 失語症と構音障害は同時に起こりますか?

はい、同じ方に両方が起こることがあります。

2020年の研究では、初発の脳梗塞で入院した方の中で、構音障害と失語症の両方を持つ方が一定数いたことが示されています(De Cock, 2020)。

その場合は、両方を分けて評価し、それぞれにあったリハビリを組み合わせます。

Q. カラオケで歌うのはリハビリになりますか?

はい、歌うことは呼吸・発声・構音を同時に使う良い練習です。

ゆっくりめのバラードや童謡などから始めると、抑揚と一息の長さを練習しやすいです。

ただし、声がかすれて痛む時はすぐに休んでください。

Q. 電話だけ伝わらないのはなぜですか?

電話は口の動きが見えない・周囲の音が混ざる・音質が劣化するという3つの不利な条件が重なるためです。

対面なら伝わる方でも、電話では伝わらないのはよくあります。

大事な要件は、事前にメモを作る・ゆっくり話す・1文を短くする・相手にもメモを取ってもらうと通じやすくなります。

Q. 構音障害があっても仕事に戻れますか?

多くの方が、職場の理解と工夫で復職しています。

会議では資料を事前共有する・チャットを併用する・電話は同僚にお願いするなど、業務の組み立てを変える工夫が役立ちます。

「ろれつが回らない」だけで仕事ができないと判断する必要はありません。

まとめ

  • 構音障害は、舌・唇・喉・呼吸の運動の障害で、初発脳梗塞の約44%に認められる症状
  • 失語症とは違って、言葉そのものは保たれていて、発音の運動だけが障害される
  • 原因部位は橋・放線冠・小脳が多く、麻痺のタイプによって出方が変わる
  • リハビリは呼吸・発声・口腔体操・構音訓練・速度調整・アプリ活用の組み合わせ
  • 自宅ではロングトーン・パタカラ体操・音読・歌などを日常生活に組み込む
  • 相手に伝わる工夫として、結論から短く・大事な言葉を強く・ジェスチャー併用が有効
  • AAC(筆談・メモアプリ・絵カードなど)は話す力を奪うものではなく補助手段
  • 家族は先回りせず、聞き返してあげて本人の話す機会を保つ

次にやるべきこと:まずはチェックリストでご本人とご家族の双方の視点で症状を整理し、3つ以上当てはまる場合はかかりつけ医や言語聴覚士に評価を依頼してみてください。

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この記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療の代わりになるものではありません。症状や治療については、必ず担当の医師や療法士にご相談ください。

参考文献

  1. Mitchell C, Bowen A, Tyson S, et al. Interventions for dysarthria due to stroke and other adult-acquired, non-progressive brain injury. Cochrane Database Syst Rev. 2017;1(1):CD002088. PMID: 28121021
  2. Chiaramonte R, Vecchio M. Dysarthria and stroke. The effectiveness of speech rehabilitation. A systematic review and meta-analysis of the studies. Eur J Phys Rehabil Med. 2021;57(1):24-43. PMID: 32519528
  3. Chiaramonte R, Vecchio M. A Systematic Review of Measures of Dysarthria Severity in Stroke Patients. PM R. 2021;13(3):314-324. PMID: 32818305
  4. Finch E, Rumbach AF, Park S. Speech pathology management of non-progressive dysarthria: a systematic review of the literature. Disabil Rehabil. 2020;42(3):296-306. PMID: 30286661
  5. De Cock E, Batens K, Hemelsoet D, et al. Dysphagia, dysarthria and aphasia following a first acute ischaemic stroke: incidence and associated factors. Eur J Neurol. 2020;27(10):2014-2021. PMID: 32515514
  6. De Cock E, Oostra K, Bliki L, et al. Dysarthria following acute ischemic stroke: Prospective evaluation of characteristics, type and severity. Int J Lang Commun Disord. 2021;56(3):549-557. PMID: 33580596
  7. Summaka M, Hannoun S, Harati H, et al. Neuroanatomical regions associated with non-progressive dysarthria post-stroke: a systematic review. BMC Neurol. 2022;22(1):353. PMID: 36114518
  8. Kim Y, Kim M, Kim J, et al. Smartphone-Based Speech Therapy for Poststroke Dysarthria: Pilot Randomized Controlled Trial Evaluating Efficacy and Feasibility. J Med Internet Res. 2024;26:e56417. PMID: 38509662
  9. Balzan P, Tattersall C, Palmer R. Non-invasive brain stimulation for treating neurogenic dysarthria: A systematic review. Ann Phys Rehabil Med. 2022;65(5):101580. PMID: 34626861
  10. Liaw MY, Hsu CH, Leong CP, et al. Respiratory muscle training in stroke patients with respiratory muscle weakness, dysphagia, and dysarthria – a prospective randomized trial. Medicine (Baltimore). 2020;99(10):e19337. PMID: 32150072
  11. Baker C, Foster AM, D’Souza S, et al. Management of communication disability in the first 90 days after stroke: a scoping review. Disabil Rehabil. 2022;44(26):8524-8538. PMID: 34919449

最終更新:2026年5月