脳卒中後の手のむくみは、麻痺がある側の手に起こりやすい症状で、脳卒中を経験した方の最大で約7割に手の腫れが認められたとの報告もありますIwata, 2002)。

朝起きると指輪が抜けない、コップが握りにくい、手の甲がパンパンに張っている――。

そんな手のむくみは「そのうち治る」と放置されがちですが、放置すると関節が硬くなり、痛みや拘縮を引き起こす原因になります

この記事では、なぜ脳卒中のあとに手がむくむのか、家でできるケアと医療機関を受診すべきサインを、脳卒中専門リハビリ施設BRAINの代表で理学療法士の針谷が、臨床経験と研究論文に基づいて解説します。

情報の信頼性について
・本記事はBRAIN代表/理学療法士の針谷が執筆しています(執筆者情報は記事最下部)。
・本記事の情報は、信頼性の高い研究論文から得られたデータを中心に引用しています。

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⚠ 今すぐ医療機関への相談を検討してください
以下の症状が突然出た場合は、様子を見ずに救急要請(119番)を検討してください。
・顔のゆがみ(片側が下がる)
・片腕の脱力(腕が上がらない)
・言葉のもつれ(ろれつが回らない)

また、手のむくみに加えて以下の症状がある場合は、早めにかかりつけ医にご相談ください。
・手の皮膚が赤紫や青白く変色している
・手の温度が反対の手と明らかに違う(冷たい・熱い)
・軽く触れただけで激しい痛みがある(CRPS=複合性局所疼痛症候群の可能性)
・片側だけ急にむくみが強くなり、痛みや発熱がある(深部静脈血栓症の可能性)
目次
  1. 脳卒中 手 むくみとは?|まず知っておきたいこと
    1. なぜ脳卒中のあとに手がむくむのか
    2. どのくらいの人が経験するのか(有病率データ)
    3. 脳卒中の手のむくみの主な原因|麻痺・不動・CRPS・心臓や腎臓の問題
  2. こんな症状・困りごとはありませんか?
  3. 家でできる手のむくみケア|今日から試せる方法
    1. 手を心臓より高く上げる(挙上)
    2. 健康な手で握り運動(反対の手のグリップ運動)
    3. 他動運動・自動運動(指と手首をやさしく動かす)
    4. 手と指のマッサージ(求心性マッサージ)
    5. ポジショニング(座位・臥位・移動時の腕の位置)
    6. 圧迫グローブ・包帯(医療相談のうえで)
  4. 医療機関で行われる手のむくみ治療
    1. 空気圧マッサージ(間欠的空気圧迫)
    2. ミラー療法・段階的運動イメージ(CRPSがある場合)
    3. 薬や注射による治療
  5. やってはいけないこと・よくある間違い
    1. 麻痺側の腕を強く引っ張る・体重をかける
    2. 市販のサポーターをきつく巻く
    3. 痛みを我慢して無理に動かす
    4. 熱いお湯やドライヤーで温めすぎる
  6. 危険サイン|こんなときはすぐに受診を
    1. CRPS(複合性局所疼痛症候群)の兆候
    2. 深部静脈血栓症(DVT)の兆候
    3. その他の受診の目安
  7. 回復の見通し|むくみはどのくらいで良くなる?
    1. BRAINでのリハビリの考え方
      1. ステップ1:むくみの原因を見立てる
      2. ステップ2:エビデンスに基づいて介入を選ぶ
      3. ステップ3:再評価で変化を数値で確認する
  8. ご家族・介護者の方へ
    1. 家族ができる5つのこと
    2. 医療職への伝え方
  9. 相談窓口・地域の支援先
  10. よくある質問(FAQ)
    1. Q. 手のむくみは時間が経てば自然に治りますか?
    2. Q. 朝はむくんでいないのに、夕方になるとパンパンになります
    3. Q. むくみ取りのサプリメントや漢方薬は効きますか?
    4. Q. むくんでいるのに、塩分を控えれば良くなりますか?
    5. Q. むくみと一緒に手がしびれるのですが、関係ありますか?
  11. まとめ
  12. 参考文献

脳卒中 手 むくみとは?|まず知っておきたいこと

脳卒中後の手のむくみは、麻痺がある側の手や指がパンパンに腫れたり、ふくらんだりする状態です。

医学的には「片麻痺患者の上肢浮腫(へんまひかんじゃのじょうしふしゅ)」と呼ばれます。

原因はひとつではなく、麻痺による筋ポンプ作用の低下と、手を動かさないことが大きく関わっていますGeurts, 2000)。

なぜ脳卒中のあとに手がむくむのか

むくみとは、皮膚や皮下組織のすきまに余分な水分(組織液)がたまった状態のことです。

通常、手や腕の血液は、筋肉が縮んだりゆるんだりする「筋ポンプ作用」で心臓へ戻されます。

脳卒中で麻痺が起きると、手や腕の筋肉が動かなくなり、筋ポンプ作用が働かなくなります

すると、静脈やリンパの流れが滞り、水分が手の組織にたまって、むくみとして現れます。

2025年に公開された日本人を対象とした研究では、麻痺側の上肢では静脈の血流速度が反対側よりも明らかに低下していることが確認されましたHayashi, 2025)。

つまり、むくみは「だらしない」「努力が足りない」のではなく、麻痺の影響として体の構造的に起こりうる症状です。

BRAINの判断!
BRAINでも、退院後しばらく経ってから「手だけパンパンになってきた」とおっしゃる方が多くいらっしゃいます。これは、退院後に座っている時間が長くなり、麻痺側の腕が下に垂れ下がる時間が増えることが影響しています。

どのくらいの人が経験するのか(有病率データ)

2002年に公開された日本人脳卒中片麻痺患者64名を対象とした研究では、73%にあたる47名に麻痺側の手のむくみが認められたと報告されていますIwata, 2002)。

2000年に公開された脳卒中後の手のむくみと肩手症候群に関する文献をまとめた分析では、むくみが手の症状のなかで最初に現れる徴候の一つであると指摘されていますGeurts, 2000)。

研究によって割合に幅があるのは、調査するタイミング(発症から何か月か)や、「むくみあり」と判断する基準が違うためです。

いずれにしても、脳卒中後の手のむくみは、ごくありふれた症状です

「自分だけがおかしい」と感じる必要はありません。

脳卒中の手のむくみの主な原因|麻痺・不動・CRPS・心臓や腎臓の問題

脳卒中後の手のむくみには、主に以下の原因があります。

ひとつだけでなく、複数が重なっていることが多いですGeurts, 2000)。

原因わかりやすく言うと特徴
麻痺による筋ポンプ低下手を動かさないので血液が戻りにくい手を下げていると悪化する。腕を上げると軽くなる
長時間の同じ姿勢手が下に垂れたまま動かない夕方や夜にむくみが強くなる。日中の腕の位置で変わる
肩手症候群/CRPS脳卒中後に起こる強い痛み+むくみ触ると激痛、皮膚の色や温度の変化、発汗の異常
肩の亜脱臼肩関節がずれて腕の血流が滞る麻痺側の肩が下がって見える。腕全体に重だるさ
心臓・腎臓の問題全身性のむくみ両手両足、顔もむくむ。息切れや尿量の変化を伴う
深部静脈血栓症(DVT)血管に血のかたまりができて流れが止まる片側だけ急に強くむくむ。痛みや発熱を伴う

麻痺による筋ポンプの低下と、手を動かさない時間の長さ(不動)が、もっとも多い原因です

2022年に公開された日本人脳卒中患者45名を対象とした研究では、CRPSがある方ほど麻痺側の手の使用量が少ないことが報告されています(Katsura, 2022)。

むくみと痛みは、手を動かさないことを通じてつながっています。肩の痛みについては脳梗塞後の肩の痛み|原因とセルフケアでも詳しく解説しています。

BRAINの判断!
BRAINでは、「むくみだけ」の方と「むくみ+痛み」の方を分けて評価しています。痛みがある場合はCRPSの可能性を念頭に置き、必要に応じて担当医への受診をおすすめしています。

こんな症状・困りごとはありませんか?

以下に当てはまるものがないか、確認してみてください。

ひとつでも当てはまる場合は、手のむくみへの対処が必要なサインです

  • 麻痺側の手の甲がパンパンに張っている
  • 指輪が抜けない、外れない
  • 朝より夕方のほうがむくみがひどい
  • 手の皮膚を指で押すと、しばらくへこんだままになる
  • 指を曲げると皮膚がきつく感じる
  • 麻痺側の手だけが反対より明らかに大きく見える
  • 手の色が赤紫や青白く変わっている

BRAINに来られる方でも、「むくみはあるけれど、放っておけば治ると思っていた」という方がとても多いです。

むくみを放置すると、関節が硬くなり、指が曲げにくくなったり、痛みが強くなったりしますGeurts, 2000)。

手の機能が落ちると、自宅でのリハビリのモチベーションにも影響します。詳しくはリハビリのモチベーションが続かない|本人と家族ができることで解説しています。

家でできる手のむくみケア|今日から試せる方法

手のむくみには、毎日の小さな工夫を積み重ねることが大切です。

ここでは、研究で効果が確認されている方法と、BRAINで実際にお伝えしている方法を中心にご紹介します。

手を心臓より高く上げる(挙上)

もっとも基本的で、もっとも効果が出やすい方法が「挙上(きょじょう)」です

手を心臓よりも高い位置に置くことで、重力の力で手にたまった水分が体のほうに戻りやすくなります。

  • 座っているとき:麻痺側の腕をクッションやテーブルの上に載せ、手が心臓より高くなるようにする
  • 寝ているとき:麻痺側の手の下にクッションを置き、手が肩より少し高くなるようにする
  • 車いす:アームレストにクッションを足し、手が前腕より高く保たれるように工夫する
  • テレビを見るとき:麻痺側の手を背もたれの上に置く、または高めのクッションに乗せる

挙上を1日のなかでこまめに繰り返すことが大切です

BRAINの判断!
BRAINでは、挙上を「特別な運動」ではなく「いつもの生活で腕の位置を意識する」ことから始めるよう提案しています。とくに、テレビを見る時間や食事のときの腕の位置を見直すだけで、夕方のむくみが軽くなる方が多いです。

健康な手で握り運動(反対の手のグリップ運動)

これは、知っている方が少ないけれど、研究で効果が確認されている方法です。

2020年に公開された日本人脳卒中患者を対象とした研究では、健康な手でグリップ運動をすると、麻痺側の腕の静脈の流れが明らかに改善することが報告されていますHayashi, 2020)。

仕組みは、健康な手の運動が呼吸や全身の循環を高め、麻痺側の血液の戻りも助けるためと考えられています。

具体的な方法は次のとおりです。

  • 健康な手で柔らかいボールやハンカチを握る
  • 1〜2秒握って、1〜2秒ゆるめる
  • これを10回繰り返す(1セット)
  • 1日3〜5セット、テレビを見ながらでもOK

麻痺側の手はそのまま挙上した姿勢にしておくと、より効果的です。

他動運動・自動運動(指と手首をやさしく動かす)

手や指を動かすことそのものが、筋ポンプの代わりになります。

1994年に公開された症例検討では、他動的な運動を続けたところ、むくみのある手の容積が減少したことが報告されていますDirette, 1994)。

自分でできる動かし方の例を紹介します。

  • 健康な手で麻痺側の指を1本ずつやさしく曲げ伸ばしする(各5〜10回)
  • 健康な手で麻痺側の手首をゆっくり回す(左右5回ずつ)
  • 両手の指を組み、健康な手の力で麻痺側の指を伸ばす
  • 痛みのない範囲で、ゆっくり、深く呼吸しながら行う
⚠ 動かす際の注意
痛みが強く出る範囲まで無理に動かさないでください。
痛みを我慢して動かすと、関節を傷つけ、かえってむくみが悪化することがあります(Pertoldi, 2005)。
具体的な動かし方は、必ず担当の療法士に確認してから行いましょう。

手と指のマッサージ(求心性マッサージ)

むくんだ手をマッサージするときは、指先から肩のほうへ、心臓に向かってさするのがコツです。

これを「求心性(きゅうしんせい)マッサージ」と呼びます。

  • 指先 → 手のひら・手の甲 → 手首 → 前腕 → 肘 → 肩の順にゆっくりさする
  • 強くこすらず、皮膚が軽く動くくらいの圧で
  • 1部位を10〜15回ずつ、1日2〜3回
  • ハンドクリームを使うと滑りがよく、肌の負担が減る

この方法は、リンパや静脈の流れの方向に沿って圧をかけ、たまった水分を上流に流すイメージです。

ポジショニング(座位・臥位・移動時の腕の位置)

ポジショニングは、1日の大半を占める「動いていない時間」のむくみ対策です。

2001年に公開された日本人脳卒中片麻痺患者を対象とした研究では、急性期からの介助者教育とポジショニングを含むプロトコルで、肩手症候群(CRPSの一種)の発症が抑えられたと報告されていますKondo, 2001)。

具体的なコツは次のとおりです。

  • 座っているとき:麻痺側の腕がだらんと下に垂れないようにする。テーブルやアームレストの上に置く
  • 寝るとき(仰向け):クッションで腕全体を支え、手が肩より少し高くなるようにする
  • 歩くとき:腕がブラブラ揺れないように、ポケットに手を入れるかスリングで支える
  • 食事のとき:テーブルの上に麻痺側の腕を載せて支える

圧迫グローブ・包帯(医療相談のうえで)

圧迫(弾性)グローブや包帯は、手のむくみが強い方に検討される方法です。

2016年に公開された脳卒中後の手のむくみがある方への研究では、指先から脇までの圧迫包帯で手の容積が減少したと報告されていますGustafsson, 2016)。

同じ研究グループによる別の研究では、圧迫包帯で減少したむくみを、その後の圧迫グローブで維持できるかどうかが検証され、グローブにより一定の維持効果が示唆されましたGustafsson, 2016)。

ただし、これらは作業療法士による評価と指導のもとで行われたものです。

自己判断で圧迫グッズを使うと、血流をかえって悪くしたり、神経を圧迫したりするリスクがあります

使用する場合は、必ず担当の医師・作業療法士・理学療法士に相談してください。

BRAINの判断!
BRAINでは、圧迫グッズは最初から導入するのではなく、挙上・運動・マッサージ・ポジショニングを徹底しても改善が乏しい場合に、選択肢の一つとして提案しています。サイズや圧の強さの選択は、必ず医療職と一緒に決めることをおすすめしています。

医療機関で行われる手のむくみ治療

家でのケアで改善しない場合や、むくみと一緒に強い痛みがある場合は、医療機関で行う治療が検討されます。

空気圧マッサージ(間欠的空気圧迫)

空気圧マッサージは、空気で膨らむ袖のような機器を腕に巻き、空気を入れたり抜いたりしてマッサージする治療です。

1999年に公開された脳卒中後に手のむくみがある方を対象とした研究では、空気圧マッサージを2週間続けた結果、むくみの程度に有意な改善はみられなかったと報告されていますRoper, 1999)。

つまり、空気圧マッサージは「絶対に効く」治療ではありません。

研究結果から、挙上や運動などの他の方法と組み合わせて使うことが現実的と考えられます。

ミラー療法・段階的運動イメージ(CRPSがある場合)

むくみと強い痛みが同時にある「CRPS(複合性局所疼痛症候群)」には、専門的なリハビリが必要です。

2004年に公開されたCRPSの方を対象とした研究では、段階的運動イメージ(鏡を使って健康な手を動かすイメージから始める方法)で、痛みとむくみが軽減したと報告されていますMoseley, 2004)。

2024年に公開されたCRPSに対するミラー療法と段階的運動イメージの効果をまとめた分析でも、痛みと機能の改善に有用な選択肢であると評価されていますDonati, 2024)。

2023年に公開された脳卒中後のCRPSに対する理学療法の効果をまとめた分析では、ミラー療法や運動療法を含めた介入により痛みと機能の改善が報告されていますKanika, 2023)。

薬や注射による治療

痛みが強い場合や、CRPSが疑われる場合は、医師が痛み止めの内服薬や注射、神経ブロックなどを検討します。

2016年に公開されたCRPSに対する理学療法の効果をまとめた分析(Cochraneレビュー)では、薬物療法とリハビリを組み合わせるアプローチが推奨されていると報告されていますSmart, 2016)。

薬の選択は専門医の判断が必要なため、痛みやむくみが強い場合は、まずかかりつけ医に相談してください。

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やってはいけないこと・よくある間違い

善意で行われる対処が、かえってむくみを悪化させる原因になることがあります

以下は、研究や臨床経験に基づいた「避けたいこと」です。

麻痺側の腕を強く引っ張る・体重をかける

移乗(車いすからベッドなど)の介助で、麻痺側の腕を引っ張ると、肩や手の血流が悪くなり、むくみが悪化します。

2005年に公開された総説では、肩関節の亜脱臼を悪化させる動作はCRPSの引き金になりうると指摘されています(Pertoldi, 2005)。

市販のサポーターをきつく巻く

「むくんでいるから締めれば戻るだろう」と、市販の包帯やサポーターをきつく巻くのは危険です。

強すぎる圧迫は、血流をかえって遮断し、神経も圧迫してしまう可能性があります

圧迫グッズは、必ず医療職と相談してから選びましょう。

痛みを我慢して無理に動かす

「動かさないと固まるから」と、痛みのある範囲を超えて無理に手を曲げ伸ばしするのは逆効果です。

強い痛みは、組織を傷つけるサインです。

炎症が起こると、むくみも痛みも悪化しますPertoldi, 2005)。

熱いお湯やドライヤーで温めすぎる

「冷えるとむくむ」と思って、熱いお湯にずっと手をつけたり、ドライヤーを当て続けたりするのは避けてください。

麻痺側の手は感覚が鈍くなっている方が多く、やけどに気づきにくいです。

また、急激な温度刺激は、血管を一時的に拡張させてむくみがかえって増えることもあります。

危険サイン|こんなときはすぐに受診を

むくみの多くは、家でのケアと適切なリハビリで改善します。

しかし、以下の症状がある場合はすぐに医療機関を受診してください。

CRPS(複合性局所疼痛症候群)の兆候

CRPS(以前は「肩手症候群」「反射性交感神経性ジストロフィー」とも呼ばれていました)は、脳卒中後のむくみと痛みが組み合わさった状態です。

2000年に公開された脳卒中患者の調査では、脳卒中後の患者の約2%にCRPSが認められたと報告されていますPetchkrua, 2000)。

発症から1〜6か月の時期に多くみられるとされています(Pertoldi, 2005)。

⚠ CRPSを疑う症状
・手や指がパンパンに腫れている
・手の皮膚が赤紫や青白く、光沢を帯びている
・軽く触れただけで激しい痛み(衣服でも痛い)
・手の温度が反対の手と明らかに違う
・発汗の異常(多すぎる、または全く出ない)
・爪の変形、手の毛の異常な発育

→ これらの症状がある場合は、早めにリハビリ科やペインクリニックにご相談ください。早期発見・早期治療が回復の見通しを左右します(Quisel, 2005)。

深部静脈血栓症(DVT)の兆候

深部静脈血栓症は、血管のなかに血のかたまり(血栓)ができる病気です。

血栓が肺に飛ぶと命に関わる「肺塞栓症」になるため、見逃してはいけません。

⚠ 深部静脈血栓症を疑う症状
・片側の腕だけが急にパンパンにむくむ
・むくんだ部位が熱を持っている、または赤くなっている
・突然の息切れ・胸の痛み・動悸(血栓が肺に飛んだ可能性)

→ これらの症状がある場合は、すぐに救急要請または救急外来を受診してください。

その他の受診の目安

  • 両側の手・足や顔がむくむ:心臓・腎臓・甲状腺の病気が隠れている可能性
  • 息切れ・体重が急に増える:心不全のサインの可能性
  • 尿が少ない・色が濃い:腎臓のトラブルの可能性
  • むくみが2週間以上改善しない:かかりつけ医に原因評価を依頼する

回復の見通し|むくみはどのくらいで良くなる?

むくみの回復は、原因と対処の早さで大きく変わります。

早期に挙上や運動などの対策を始めれば、多くの方が数週間から数か月でむくみの軽減を実感されています

一方で、放置するとむくみは慢性化し、関節の硬さや痛みを引き起こします。

2002年に公開された日本人を対象とした研究では、手のむくみが強い方ほど、その後CRPSを発症するリスクが高いと報告されていますIwata, 2002)。

つまり、むくみを早めに減らすことは、痛みやCRPSの予防にもつながります。

BRAINでのリハビリの考え方

BRAINでは、リハビリの内容を「なんとなく」で決めることはしません。

研究論文で効果が確認された方法をもとにリハビリを組み立て、その変化を周径(手の太さ)や容積で数値として測定しています

手のむくみに対する流れは、おおむね次の3ステップです。

ステップ1:むくみの原因を見立てる

麻痺と不動が主因なのか、CRPSが疑われるのか、心臓・腎臓側の影響もありそうか。

指の周径、手の容積、皮膚の色や温度、痛みの強さ(VASなど)を測って、原因を特定します。

必要に応じて、かかりつけ医や担当のリハビリ職と情報共有します

ステップ2:エビデンスに基づいて介入を選ぶ

原因に応じて、研究で効果が確認された方法を選びます。

たとえば、麻痺と不動が主因なら挙上・健康な手のグリップ運動(Hayashi, 2020)・他動運動・求心性マッサージを中心に組み立てます。

CRPSが疑われる場合は、痛みの管理を優先しつつ、ミラー療法や段階的運動イメージ(Moseley, 2004)を慎重に導入します。

ステップ3:再評価で変化を数値で確認する

一定期間後に、同じ方法で周径や容積を再測定します。

むくみの程度を数字で見える化することで、介入の方向性が正しいかどうかを判断できます

BRAINの判断!
BRAINでは、むくみは「単独の症状」ではなく「使えない手が出している信号」と捉えています。むくみを改善するだけでなく、手を生活のなかでどう使うかまで一緒に考えることが、長期的な改善につながります。

ご家族・介護者の方へ

手のむくみは、ご本人が気づきにくく、口に出しにくい症状です。

ご家族の「ちょっとした気づき」が、早期発見・早期改善のきっかけになります

家族ができる5つのこと

  1. 麻痺側の腕が垂れ下がっていないか確認する
    座っているときの腕の位置を見て、テーブルやクッションで支えてください。
  2. 毎日、手の太さや皮膚の色を見比べる
    左右の手の見た目を比べると、変化に気づきやすくなります。
  3. 麻痺側の腕を引っ張らない
    移乗や歩行の介助では、必ず体幹や腰を支えてください。
  4. 触ったときの表情を観察する
    顔をしかめる、手を引っ込めるしぐさは、痛みのサインです。CRPSの初期かもしれません。
  5. 異変があればすぐに医療職に相談する
    急にむくみが強くなった、色が変わった、痛みが出た――これらは早めの相談で対処できます。

医療職への伝え方

担当のリハビリ職や医師に相談するとき、以下の情報を整理しておくと、的確な助言をもらいやすくなります。

「麻痺側の右手が、退院してから少しずつ大きくなっています。とくに夕方になるとパンパンになります。指輪はもう外れません。痛みは強くありませんが、ときどき触ると違和感があります。」

むくみの「いつから」「どの時間帯」「どのくらい」「痛みは」を伝えると、原因の見立てがスムーズに進みます。

相談窓口・地域の支援先

むくみが続く場合や、CRPSの兆候がある場合は、以下に相談できます。

  • かかりつけ医:まずは主治医に「麻痺側の手がむくんでいる」と伝えてください。リハビリ科やペインクリニックへの紹介を検討してもらえます。
  • リハビリテーション科のある病院:むくみの原因を詳しく評価し、必要に応じてCRPSや深部静脈血栓症の専門的な検査が受けられます。
  • 地域包括支援センター:訪問リハビリやデイサービスの利用について相談できます。お住まいの市区町村の窓口にお問い合わせください。
  • 脳卒中相談窓口(一部の認定病院に設置):脳卒中に特化した相談ができます。退院後の生活、リハビリ、福祉サービスについて幅広く対応しています。

退院後の全体的なリハビリの進め方は退院後の脳卒中リハビリ完全ガイドでまとめています。

よくある質問(FAQ)

Q. 手のむくみは時間が経てば自然に治りますか?

自然に軽くなる方もいますが、多くの場合は適切な対処をしないと慢性化します。

2002年に公開された日本人を対象とした研究では、早期にむくみへ対処することがCRPSの予防につながると報告されていますIwata, 2002)。

むくみに気づいたら、まずは挙上・健康な手のグリップ運動・ポジショニングを始めてみてください。

Q. 朝はむくんでいないのに、夕方になるとパンパンになります

日中に手を下げた姿勢が長いと、夕方にむくみが目立ちます。

これは麻痺側の手の筋ポンプ作用が働かないことで、重力に逆らって血液を心臓に戻せないためです(Hayashi, 2025)。

対策は、1〜2時間に1回、麻痺側の手を心臓より高い位置に上げて休ませることです。

Q. むくみ取りのサプリメントや漢方薬は効きますか?

市販のむくみ取りサプリメントや漢方薬は、脳卒中後の手のむくみへの効果を検証した研究がほとんどありません。

使用を検討する場合は、他の薬との飲み合わせや、心臓・腎臓への負担を医師に確認してから始めてください

むくみが続く場合は、まずは原因を特定し、リハビリ的な対策から始めるのが基本です。

Q. むくんでいるのに、塩分を控えれば良くなりますか?

塩分管理は、全身性のむくみ(心臓・腎臓の問題によるもの)には役立ちます。

しかし、脳卒中後の麻痺側の手だけにあるむくみは、塩分よりも麻痺と不動が主因です

塩分制限よりも、挙上・運動・マッサージなどの直接的な対策のほうが効果が出やすいです。

もちろん、再発予防のために塩分を控えることは別の意味で大切です。詳しくは脳卒中後の血圧管理|家庭での測り方と目標値で解説しています。

Q. むくみと一緒に手がしびれるのですが、関係ありますか?

むくみが強くなると、手の神経が圧迫されてしびれることがあります。

また、麻痺による感覚障害がもともとある場合は、しびれが「麻痺由来」なのか「むくみ由来」なのか判別が難しいことがあります。

しびれが急に強くなった場合や、痛みを伴う場合は、CRPSや神経の圧迫の可能性があるため、担当医に相談してください。

まとめ

  • 脳卒中 手 むくみは、麻痺側に起こりやすい症状で、約7割の方に手の腫れが認められたとの報告がある(Iwata, 2002)
  • 主な原因は麻痺による筋ポンプ作用の低下と、手を動かさないこと
  • 家でのケアの基本は、挙上・健康な手のグリップ運動・他動運動・求心性マッサージ・ポジショニング
  • 圧迫グッズは医療職と相談してから使う
  • 強い痛み・皮膚の色変化・触っただけで激痛があればCRPSのサイン
  • 片側の腕だけが急にむくみ熱を持つときは深部静脈血栓症の可能性。すぐに受診を

次にやるべきこと:まずは座っているとき・寝ているときの腕の位置を確認してください。クッションやテーブルで麻痺側の手を心臓より高くするだけで、夕方のむくみが軽くなる方が多くいらっしゃいます。

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質の高いリハビリを受けたい、自宅で集中してリハビリに取り組みたい、
といった方から選ばれています!
この記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療の代わりになるものではありません。症状や治療については、必ず担当の医師や療法士にご相談ください。

参考文献

  1. Iwata M, et al. Prediction of reflex sympathetic dystrophy in hemiplegia by evaluation of hand edema. Arch Phys Med Rehabil. 2002;83(10):1428-1431. PMID: 12370880
  2. Geurts AC, et al. Systematic review of aetiology and treatment of post-stroke hand oedema and shoulder-hand syndrome. Scand J Rehabil Med. 2000;32(1):4-10. PMID: 10782934
  3. Hayashi H, et al. Hand Edema and Venous Return After Stroke: A Preliminary Study. NeuroRehabilitation. 2025. PMID: 40368368
  4. Hayashi H, et al. Grip Exercise of Non-Paretic Hand Can Improve Venous Return in the Paretic Arm in Stroke Patients: An Experimental Study in the Supine and Sitting Positions. Ann Vasc Dis. 2020;13(2):151-156. PMID: 32595794
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最終更新:2026年5月