
MAL(Motor Activity Log)は、脳卒中リハビリテーションにおいて麻痺側上肢が日常生活で実際にどれくらい使われているか(Amount of Use:AOU)、どのような質で使われているか(Quality of Movement:QOM)を、患者本人への半構造化面接で評価する自己報告尺度です。
WMFTやARATが「できるレベル(capacity)」を測るのに対し、MALは「しているレベル(performance)」を測る数少ない指標であり、CI療法(Constraint-Induced Movement Therapy)の主要アウトカムとして国際的に標準化されています。
この記事では、MALの正しい実施手順(半構造化面接)とAOU・QOMの0〜5点の採点基準から、信頼性・妥当性・反応性(SEM・MDC・MCID)、急性期で使うべきでない理由までを、Uswatte et al.(2005, 2006)の原著論文と最新エビデンスに基づき網羅解説します。
臨床で「FMA-UEは伸びているのに患者が『使えていない』と言う」「CI療法後にQOMが0.5点上がったのは本物の改善か」と迷ったときの判断基準として、ぜひご活用ください。
情報の信頼性について
・本記事はBRAIN代表/理学療法士の針谷が執筆しています(執筆者情報は記事最下部)。
・本記事は、脳卒中専門リハビリ施設BRAINが運営するBRAINアカデミーアドバンスコース上肢の講義内容をもとに、最新の査読付き論文エビデンスを加えて作成しています。

BRAINアカデミー
エビデンスに基づく脳卒中リハビリテーションを体系的・網羅的に学ぶ、3ヶ月間のオンライン学習プログラムです。①動画教材 ②課題 ③フィードバックを通じて、EBMを身に付けましょう!
詳細はこちら
概要
MALは、脳卒中をはじめとする上肢障害者の「実生活における麻痺側上肢の使用」を、半構造化面接によって自己報告で評価する標準化尺度です。
1993年にTaubらがCI療法(強制使用療法)の効果指標として初めて導入し、その後Uswatteらの項目分析を経て心理測定特性が確立されました。
ICF分類では「活動(Activity)」レベルの中でも、検査室での「能力(capacity)」ではなく日常環境での「実行(performance)」を測定する点が最大の特徴です。
MALは「課題遂行能力」を測るWMFT・ARAT・FMA-UEとは決定的に異なり、「今日、麻痺側の手をどのくらい・どんな質で使ったか」を患者の主観で測ります。
CI療法では介入の主要アウトカムとして採用され、Cochraneレビュー(Corbetta et al., 2015)でもMAL-AOU SMD = 0.79、MAL-QOM SMD = 0.68 と「介入効果が最も明確に出る指標」として位置づけられています。
測定方法
この手順は Uswatte et al.(2005, Stroke)と Uswatte et al.(2006, Neurology)の標準化論文、および Shirley Ryan AbilityLab/Strokengine の公式記載に基づきます。
必要な物品
- MALの質問用紙(14項目版・28項目版・30項目版のいずれか)
- 筆記用具
- 静かで集中できる面接環境
特別な機器は不要です。
検査手順
- 患者本人(または同居の介護者)と1対1で面接できる静かな環境を確保する
- 「これからの質問は『過去1週間(MAL-28の場合は過去3日間でも可)に、こういう動作を麻痺側の手でどう使ったか』を伺うものです」と説明する
- 質問用紙の項目を1つずつ提示し、まず「この動作は病前から行っていましたか?」を確認する
- 病前から行っていなかった動作(例:化粧をしない男性の「化粧」項目)は除外し、その項目は採点しない
- 病前から行っていた項目について、AOU(使用頻度)とQOM(動きの質)をそれぞれ0〜5点で聴取する
- 患者の回答に対して、検査者は「つまり、ほとんど健側だけで食事しているということですね?」のように言い換えて確認(paraphrase)する。これは Uswatte & Taub(2005)が推奨する手順であり、回答の精度を担保する
- 0.5点刻みの中間値も許容される(実質11段階のリッカート尺度として運用)
- 全項目を聴取し終えたら、AOU・QOMそれぞれについて以下を計算する:MALスコア = 該当項目の合計点 ÷ 該当項目数
- AOU平均値(0〜5点)とQOM平均値(0〜5点)を記録する
AOU(Amount of Use:使用頻度)の採点基準
| 点 | 状況(日本語版/原, 2010および公式定義) |
|---|---|
| 0 | 麻痺側はまったく使用しない(不使用) |
| 1 | 場合により麻痺側を使用するが、極めてまれ(発症前の5%程度) |
| 2 | 時折麻痺側を使用するが、ほとんどの場合は非麻痺側のみを使用(発症前の25%程度) |
| 3 | 発症前の使用頻度の半分程度、麻痺側を使用(発症前の50%程度) |
| 4 | 発症前とほぼ同様の頻度で、麻痺側を使用(発症前の75%程度) |
| 5 | 発症前と同様の頻度で、麻痺側を使用(発症前の100%=正常) |
QOM(Quality of Movement:動きの質)の採点基準
| 点 | 状況(日本語版/原, 2010および公式定義) |
|---|---|
| 0 | 麻痺側はまったく使用しない(不使用) |
| 1 | 動作の過程で麻痺側を動かすが、動作の助けにはならない(極めて不十分) |
| 2 | 麻痺側を使用するが、非麻痺側による介助が必要、または動作が緩慢か困難(不十分) |
| 3 | 麻痺側を使用するが、動きがやや緩慢または力が不十分(やや正常) |
| 4 | 麻痺側を使用しており、動きもほぼ正常だが、スピードと正確さに劣る(ほぼ正常) |
| 5 | 発症前と同様に、麻痺側を使用(正常) |
14項目版(MAL-14)の課題リスト
MAL-14は Strokengine/Shirley Ryan AbilityLab に掲載されている14項目で構成されます。
| 順 | 項目 |
|---|---|
| 1 | 本/新聞/雑誌を持って読む |
| 2 | タオルやグラスを使って顔や身体を拭く |
| 3 | グラスを持ち上げる |
| 4 | 歯ブラシを使って歯を磨く |
| 5 | 髭剃り/化粧をする |
| 6 | 鍵を使ってドアを開ける |
| 7 | 手紙を書く/タイプを打つ |
| 8 | 安定した立位を保持する |
| 9 | 服の袖に手を通す |
| 10 | 物を手で動かす |
| 11 | フォークやスプーンを把持して食事をとる |
| 12 | 髪をブラシや櫛でとかす |
| 13 | 取っ手を把持してカップを持つ |
| 14 | 服の前ボタンをとめる |
(出典:原ほか, 2010/Strokengine)
派生バージョン
事実:MALには複数のバージョンがあり、項目数と用途が異なります。
| 版 | 項目数 | 開発・確立 | 用途 |
|---|---|---|---|
| MAL-30 | 30 | Taub et al.(1993)の原版 | CI療法初期試験で使用 |
| MAL-28 | 28 | Uswatte et al.(2006, Neurology)が項目分析で2項目を除外して確立 | 国際標準。亜急性〜慢性期向け |
| MAL-26 | 26 | MAL-14 + 追加11項目 + 患者選択1項目 | 両手動作を含む |
| MAL-14 | 14 | Uswatte et al.(2005, Stroke)が短縮 | 上肢機能が低い対象者向け |
| MAL-12 | 12 | Ashford et al.(2008) | MAL-28の短縮版 |
MAL-14とMAL-28は項目が完全には一致しません。
MAL-14がMAL-28の単純な部分集合になっているわけではない点に注意してください。
日本語版
日本語版MAL-14は以下の論文で信頼性・妥当性が報告されています。
- 原ほか「麻痺側上肢使用状況の評価―Motor Activity Log-14の信頼性と妥当性」総合リハビリテーション 2010; 38(5): 485-489
報告された値(同論文より):
- 検査者間信頼性:AOU ICC = 0.98/QOM ICC = 0.98
- 併存的妥当性:FMA-UE等との相関が確認されている
日本語版MAL-14の質問紙そのものは、和文の原著論文または医中誌Web経由で入手するのが現実的です。
MAL-28・MAL-30の正式な日本語版は2026年4月時点で確立されていないため、日本国内で標準的に使われるのはMAL-14が中心です。
著作権と使用条件
原版MALはアメリカのアラバマ大学バーミンガム校(UAB)の Edward Taub Therapy Group が開発元であり、Shirley Ryan AbilityLab の公式記載では「Cost = Free」「Required Training = Reading an Article/Manual」と記されています。
臨床・研究での使用は無料であり、特別なライセンス契約は不要です(CI療法の正式トレーニングコースは別途UABで提供)。
信頼性
MALは脳卒中患者で良好な信頼性が報告されていますが、版(14/28/30)や下位尺度(AOU/QOM)によって値が異なります。
3-1. 内的整合性(Cronbach α)
| 著者(年) | α | 対象者 | 備考 |
|---|---|---|---|
| van der Lee et al.(2004) | AOU α = 0.88/QOM α = 0.91 | 慢性期脳卒中56名 | MAL-30 |
| Uswatte et al.(2006) | QOM α = 0.94〜0.95 | 亜急性〜慢性期222名 | MAL-28 |
| Uswatte et al.(2005) | QOM α > 0.81 | 慢性期41名 | MAL-14 |
3-2. 再テスト信頼性(Test-retest reliability)
| 著者(年) | 値 | 対象者 | 備考 |
|---|---|---|---|
| Uswatte et al.(2006) | QOM r = 0.82 | 亜急性〜慢性期116名 | MAL-28 |
| van der Lee et al.(2004) | AOU r = 0.70〜0.85/QOM r = 0.61〜0.71 | 慢性期56名(2週間隔) | MAL-30 |
| Uswatte et al.(2005) | QOM r > 0.91 | 慢性期41名 | MAL-14(参加者AOUの再テスト信頼性は不十分と報告) |
3-3. 検査者間信頼性(介護者MAL vs 患者MAL)
| 著者(年) | 値 | 対象者 | 備考 |
|---|---|---|---|
| Uswatte et al.(2005) | AOU r = 0.73/QOM r = 0.70 | 慢性期27名 | 介護者の代理回答 vs 患者本人の回答 |
| 原ほか(2010) | AOU ICC = 0.98/QOM ICC = 0.98 | 日本人脳卒中患者 | 日本語版MAL-14 |
3-4. ICCの解釈基準(参考)
- 0.90以上:優秀(Excellent)
- 0.75〜0.89:良好(Good)
- 0.50〜0.74:中等度(Moderate)
- 0.50未満:不良(Poor)
MAL-14日本語版の検査者間信頼性(ICC = 0.98)はExcellentの範囲にあり、臨床現場での経時評価に十分耐えうる信頼性を持ちます。
一方、MAL-30のAOU再テストは r = 0.70〜0.85 と「Moderate〜Good」にとどまる点には注意が必要です。
3-5. 信頼性に関する注意点
MALは自己報告尺度であるため、患者の認知バイアス(自分の腕をどう認識しているか)の影響を完全には排除できません。
Uswatte et al.(2005)は患者AOUの単独信頼性は不十分と報告しており、AOUとQOMをセットで運用すること、可能であれば家族の代理回答(caregiver MAL)と照合することを推奨しています。
半側空間無視・自己認識の障害がある患者では、MALを単独で判断材料にせず、加速度計や行動マップなどの客観指標と併用することが現実的です。
妥当性
4-1. 構成概念妥当性(Construct validity)
MALは上肢機能・実生活使用を測定する他指標と中等度〜高い相関を示します。
| 比較指標 | 相関係数 | 対象者 | 著者(年) |
|---|---|---|---|
| 加速度計(実生活活動量) | r = 0.91 | 慢性期27名(MAL-14 QOM) | Uswatte et al.(2005) |
| 加速度計 | r = 0.52 | 亜急性〜慢性期222名(MAL-28 QOM) | Uswatte et al.(2006) |
| SIS Hand Function | r = 0.72 | 亜急性〜慢性期222名(MAL-28 QOM) | Uswatte et al.(2006) |
| MAL-AOU vs MAL-QOM | r = 0.92 | 亜急性〜慢性期222名 | Uswatte et al.(2006) |
| ARAT | Spearman ρ = 0.63 | 慢性期56名(MAL-30) | van der Lee et al.(2004) |
Uswatte(2005)の MAL-14 QOM と加速度計の相関 r = 0.91 と、Uswatte(2006)の MAL-28 QOM と加速度計の相関 r = 0.52 では大きな差があります。
これは(a)MAL-14とMAL-28で項目構成が異なること、(b)対象者の重症度・サンプルサイズの違いを反映しています。
4-2. 縦断的妥当性(変化を捉える妥当性)
van der Lee et al.(2004)は、MAL-30の変化量とARAT変化量の相関が Spearman ρ = 0.16〜0.22 と弱いことを報告しています。
「ある時点でのMALと他指標の関係(横断的妥当性)」は良好でも、「介入前後のMALの変化と他指標の変化の関係(縦断的妥当性)」は必ずしも強くありません。
これは「MALは他指標とは独立した次元(実生活での実行)を測っている」と解釈すべきであり、MALを「ARATやFMA-UEの簡易代替」として使うのは誤りです。
MALはWMFT・FMA-UEと併用してこそ価値が出る指標です。
4-3. 床効果・天井効果
Shirley Ryan AbilityLab の StrokEDGE 推奨度は以下の通りです。
| 病期 | 推奨度 | 理由 |
|---|---|---|
| 急性期(発症2か月未満) | 推奨せず | 床効果が大きい(多くの患者で MAL = 0 に近い) |
| 亜急性期(2〜6か月) | 強く推奨 | 変化を捉えやすい |
| 慢性期(6か月以降) | 強く推奨 | CI療法等の介入効果の主要アウトカム |
急性期入院中の脳卒中患者でMALを使うとほとんどの患者が0〜1点に張り付き、変化が出ません。
急性期はFMA-UEやARATで「できるレベル」を追い、回復期入棟後にMALを導入するのが現実的な運用です。
反応性
用語解説
- SEM(Standard Error of Measurement):測定の標準誤差。同じ患者を繰り返し測ったときに生じる「測定誤差の大きさ」
- MDC95(Minimal Detectable Change at 95% confidence):95%の信頼度で「測定誤差を超えた真の変化」と判断できる最小の変化量
- MCID(Minimal Clinically Important Difference):臨床的に意味のある最小の変化量
5-1. MDC(最小可検変化量)
| 指標 | 著者(年) | 値 | 対象者 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| MAL-AOU | Chen et al.(2012) | MDC90 = 16.8%(≈ 0.84点) | EXCITE試験対照群 | 0〜5点スケール換算値 |
| MAL-QOM | Chen et al.(2012) | MDC90 = 15.4%(≈ 0.77点) | EXCITE試験対照群 | 0〜5点スケール換算値 |
Chen et al.(2012)はEXCITE試験の対照群データから、MAL-AOUとMAL-QOMのMDC90を算出しました。
原著では「スケール最大値に対するパーセンテージ」で表現されているため、6段階(0〜5点)スケールに換算する場合は約 0.77〜0.84点 が「測定誤差を超えた変化」の目安になります。
5-2. MCID(最小臨床重要差)
| 指標 | 著者(年) | MCID | 対象者 | アンカー |
|---|---|---|---|---|
| MAL-QOM(急性期・利き手麻痺) | Lang et al.(2008) | 1.0点 | 急性期52名(発症平均9.5日→25.9日) | 患者の主観的変化 |
| MAL-QOM(急性期・非利き手麻痺) | Lang et al.(2008) | 1.1点 | 同上 | 同上 |
| MAL-AOU(急性期) | Lang et al.(2008) | indeterminate(判定不能) | 同上 | 同上 |
| MAL(慢性期) | Uswatte et al.(2006) | 約0.5点(「0.5点未満は臨床的意味なし」の経験則) | 亜急性〜慢性期 | 専門家コンセンサス |
Lang et al.(2008)のMCID(QOM 1.0〜1.1点)は、発症10日前後の急性期患者で算出された値です。
慢性期でCI療法を実施する場面では、Uswatte et al.(2006)が示した「0.5点未満の変化は臨床的に意味がない」という経験則の方が現実的な判断基準として使われます。
MAL-AOUの急性期MCIDが「indeterminate(判定不能)」だったのは、急性期では多くの患者でAOUが床効果を示し、変化幅が小さくて統計的にMCIDが算出できなかったためと考えられます。
急性期ではAOUよりQOMを優先し、慢性期では両方を見るのが安全です。
5-3. 反応性(介入効果を捉える能力)
| 著者(年) | 指標 | 値 | 対象者 |
|---|---|---|---|
| Corbetta et al.(2015、Cochrane) | MAL-AOU SMD | 0.79(95% CI 0.50, 1.08、I² = 66%) | CI療法 RCT 23本、851名 |
| Corbetta et al.(2015、Cochrane) | MAL-QOM SMD | 0.68(95% CI 0.47, 0.88、I² = 40%) | CI療法 RCT 24本、891名 |
| van der Lee et al.(2004) | Responsiveness ratio | AOU = 1.9/QOM = 2.0 | 慢性期56名 |
| Uswatte et al.(2005) | Responsiveness ratio | QOM > 3 | 慢性期41名 |
MALはCI療法の効果を最も明確に検出できる指標です。
Cochrane(Corbetta 2015)の SMD 0.68〜0.79 は「中〜大」の効果量に相当し、運動パフォーマンス系指標(ARAT・WMFT等)の SMD 0.34 よりも明らかに大きな値です。
介入効果を主アウトカムとして示したい場合は MAL-AOU を第一選択にしてください。
カットオフ値
MALには「重症度を分類する公式カットオフ値」は確立されていません。
MALは0〜5点の連続評価であり、AOUとQOMの2軸を組み合わせて「使用障害の質的評価」を行う設計です。
代わりに、以下のような臨床判断指標が報告されています。
6-1. BRAINアカデミーの3STEPフローチャートにおける目安
BRAINアカデミー アドバンスコース(上肢)の「麻痺側上肢リハビリ 3STEPフローチャート」では、「できるレベル」と「しているレベル」のギャップ判定にMAL-AOUを以下のように用います。
| ステップ | 「できる」レベルの目標 | 「している」レベルの目標(MAL-AOU) |
|---|---|---|
| STEP 1 | FMA-UE 43点/ARAT 40点 | MAL-AOU 3〜4 |
| STEP 2 | FMA-UE 54点/ARAT 55点 | MAL-AOU 4〜5 |
| STEP 3 | FMA-UE 66点/ARAT 57点 | MAL-AOU 5 |
(出典:BRAINアカデミー アドバンスコース上肢/Buxbaum et al., 2020 等の不使用に関する研究を参考)
6-2. 解釈の目安
意見:講義での運用基準を文章で示すと以下の通りです。
| MAL-AOU | 臨床的解釈 |
|---|---|
| 0〜1点 | 麻痺側がほぼ機能的に参加していない(不使用) |
| 2点前後 | 軽い補助動作には使うが、能動的な実生活使用は限定的 |
| 3点前後 | 病前の半分程度の頻度で使用。両手動作で安定化役を担う段階 |
| 4点前後 | 病前の3/4程度の頻度。実用使用レベル |
| 5点 | 病前と同等。回復のゴール |
6-3. 治療効果判定の閾値(実務的なまとめ)
| 場面 | 閾値 | 出典 |
|---|---|---|
| 急性期・QOM・利き手麻痺 | 1.0点以上の改善 | Lang et al.(2008) |
| 急性期・QOM・非利き手麻痺 | 1.1点以上の改善 | Lang et al.(2008) |
| 慢性期・AOU | 約0.84点(測定誤差ライン) | Chen et al.(2012) |
| 慢性期・QOM | 約0.77点(測定誤差ライン) | Chen et al.(2012) |
| 慢性期・経験則 | 0.5点未満は臨床的意味なし | Uswatte et al.(2006) |
規範的データ
7-1. 健常成人の参考スコア
事実:MALは脳卒中介入研究のアウトカムとして開発されたため、独立した「健常成人の規範データ研究」は整備されていません。
CI療法文献では「健常成人 = AOU 5 点 / QOM 5 点(満点)」を回復のゴールラインとして扱うのが一般的です。
7-2. 脳卒中患者の参考スコア
| 著者(年) | 病期・対象 | n | MAL-AOU | MAL-QOM |
|---|---|---|---|---|
| Taub et al.(1993) | 慢性期(CI療法対象) | 9 | 約1.0〜2.5(ベースライン) | 同程度 |
| Wolf et al.(2008、EXCITE 1年フォロー) | 亜急性期(発症3〜9か月) | 222 | CI療法群でベースライン約2.0 → 1年後約3.0 | 同様の改善 |
| Uswatte et al.(2006) | 亜急性〜慢性期(CI療法試験参加者) | 222 | 平均約2.0(ベースライン) | 平均約2.0 |
比較のポイント
- 健常成人:AOU = 5/QOM = 5(満点)
- CI療法の対象になる慢性期軽〜中等症:AOU 1.0〜2.5(ベースライン)/介入後 0.5〜1.0点改善が標準
- MALの値を解釈する際は、「絶対値」より「ベースラインからの変化量」を重視すること。0.5点未満の変化は臨床的に意味がない可能性が高い(Uswatte 2006)
よくある測定ミス TOP5
実際の臨床現場でセラピストが陥りやすいMALの測定ミスを5つ紹介します。
1. 「病前から行っていない動作」を採点に含める
なぜ問題か:MALは「病前にやっていた動作を、今どれくらい・どんな質でやっているか」を聞く尺度です。
化粧をしない男性に「化粧」項目を聞いたり、字を書かない患者に「手紙を書く」項目を採点したりすると、AOU・QOMの平均値が不当に下がります。
正しいやり方:各項目で必ず「病前からこの動作をしていましたか?」を最初に確認し、していない動作は採点から除外する。MAL平均値の分母(該当項目数)も実際に該当した項目数で計算する(Uswatte et al., 2005/2006)。
2. 急性期入院中に使ってしまう
なぜ問題か:急性期では多くの患者でMALが0〜1点に張り付き、床効果のため変化を捉えられません。
Lang et al.(2008)でもAOUのMCIDは「indeterminate(判定不能)」と報告されました。
正しいやり方:Shirley Ryan AbilityLab/StrokEDGEの推奨に従い、急性期(発症2か月未満)は使用を避ける。急性期はFMA-UEやARATで「できるレベル」を追い、亜急性期に入って実生活で麻痺側を使う機会が出てきたタイミングでMALを導入する。
3. 検査者が患者の回答を「言い換え確認」しない
なぜ問題か:「だいたい使っています」「あまり使っていません」のような曖昧な回答をそのまま採点すると、AOU・QOMの値が検査者の解釈に依存してしまいます。
Uswatte & Taub(2005)はこの問題を避けるため、検査者が回答を言い換えて患者に確認する手順を明示しています。
正しいやり方:「つまり、ほとんど健側だけで食事しているということですね?」のように回答を言い換えて確認してから採点する。0〜5点の各定義を共通言語として面接に臨む。
4. AOUとQOMの違いを患者に説明せずに進める
なぜ問題か:AOUは「頻度(どれくらいの回数・時間使っているか)」、QOMは「質(どんな動きで使っているか)」を聞く別軸です。
これを区別せずに「使っていますか?」とだけ聞くと、患者がAOUとQOMを混同して回答し、両者の相関が不自然に高くなります。
正しいやり方:面接の冒頭で「これから、麻痺した手をどのくらいの頻度で使ったか(AOU)と、どんな動きで使ったか(QOM)の2つを別々に聞きます」と説明する。各項目でAOUを聞いた後にQOMを聞き、両者を独立に判断してもらう。
5. 0.5点の変化を「改善」と報告してしまう
なぜ問題か:Chen et al.(2012)のMDC90はAOU 0.84点・QOM 0.77点であり、Uswatte et al.(2006)の経験則でも「0.5点未満の変化は臨床的意味なし」とされています。
0.3〜0.5点の変化は「測定誤差の範囲」であり、本物の改善とは言えません。
正しいやり方:慢性期でMALの変化を解釈する際は、0.77〜0.84点(≒1点)以上の変化があったかどうかを最低ラインとする。それ未満の変化は「現状維持」と報告する。急性期では Lang(2008)の MCID 1.0〜1.1点を判断基準にする。
類似評価指標との比較表:MAL vs ARAT vs FMA-UE vs WMFT、どれを選ぶ?
上肢の運動機能・運動パフォーマンス・実生活使用を評価する代表的な4つのテストを比較します。
| 項目 | MAL | ARAT | FMA-UE | WMFT |
|---|---|---|---|---|
| 評価対象 | 実生活での麻痺側上肢使用(AOU + QOM) | 把握・握り・つまみ・粗大運動の包括評価 | 共同運動・分離運動の段階評価 | 15項目の動作(時間 + 機能の質) |
| ICFレベル | 活動(実行 = performance) | 活動(能力 = capacity) | 心身機能 | 活動(能力 = capacity) |
| 評価形式 | 半構造化面接(自己報告) | 直接観察(パフォーマンステスト) | 直接観察 | 直接観察+ストップウォッチ |
| スコア形式 | AOU 0〜5点/QOM 0〜5点(平均) | 19項目を0〜3点で採点(0〜57点) | 33項目を0〜2点で採点(0〜66点) | TIME(秒、中央値)+ FAS(0〜5点、平均値) |
| 所要時間 | 約20分 | 約7〜10分 | 約20〜30分 | 約30〜35分 |
| 急性期での使用 | 推奨せず(床効果) | 可 | 可 | 可 |
| 亜急性期・慢性期 | 強く推奨 | 可 | 可 | 可 |
| MDC(慢性期) | AOU 0.84点/QOM 0.77点(Chen, 2012) | 約6点(van der Lee, 2001) | 4〜7点 | TIME 4.36秒/FAS 0.37点(Lin, 2009) |
| MCID(急性期) | QOM 1.0点(利き手)/1.1点(非利き手)(Lang, 2008) | 12点(利き手)/17点(非利き手)(Lang, 2008) | 4〜7点 | FAS 1.0点(利き手)/1.2点(非利き手)(Lang, 2008) |
| CI療法での効果量 | AOU SMD 0.79/QOM SMD 0.68(Corbetta, 2015) | SMD 0.34(運動パフォーマンス全体) | SMD 0.47(運動障害) | 同左 |
BRAINでの使い分け
- 実生活で麻痺側を「使っているか」を測りたい → MAL(CI療法の主要アウトカム)
- 「できるレベル」を細かく評価したい → ARAT・WMFT
- 運動機能の質を細かく見たい・重度麻痺 → FMA-UE
- 「できるレベルとしているレベルのギャップ」を評価したい → FMA-UE / ARAT × MAL のセットで使う
- CI療法の効果を介入研究で示したい → MAL-AOU を主アウトカムにする(効果量が最大)
▼関連記事:[ARAT(Action Research Arm Test)の測定方法と信頼性・MDC・カットオフ値を完全解説]
▼関連記事:FMA(Fugl-Meyer Assessment)の測定方法と信頼性・MDC・カットオフ値を完全解説
▼関連記事:[WMFT(Wolf Motor Function Test)の測定方法と信頼性・MDC・MCIDを完全解説]
脳卒中リハビリで MAL・ARAT・FMA-UE・WMFT をどう使い分け、「できるレベル」と「しているレベル」のギャップをどう埋めるか。
脳卒中専門リハビリ施設BRAINが運営する「BRAINアカデミー」アドバンスコース(上肢)では、評価から課題指向型訓練・CI療法までを体系的に学べます。
臨床判断の精度を一段引き上げたい方はぜひご覧ください。

BRAINアカデミー
エビデンスに基づく脳卒中リハビリテーションを体系的・網羅的に学ぶ、3ヶ月間のオンライン学習プログラムです。①動画教材 ②課題 ③フィードバックを通じて、EBMを身に付けましょう!
詳細はこちら
BRAINの臨床意思決定フロー(BRAINオリジナル)
ここまでの数値の読み方を解説してきましたが、臨床現場で本当に難しいのは「測ったあと、明日のリハビリで何をするか」です。
このセクションでは、BRAINがこの評価指標の結果をどのように臨床判断に翻訳しているかを共有します。
査読付き論文に基づく事実と、BRAIN内部の運用ルール(意見)を分けて記載します。
10-1. AOU・QOMの2軸によるパターン分類と、不一致パターンによるボトルネックの特定
事実
Uswatte G(2005, 2006)はMALのAOU(Amount of Use:使用頻度)とQOM(Quality of Movement:動きの質)の2軸評価を確立しました。van der Lee JH(2004)は慢性期のMCIDを約0.5点、Cochraneレビュー(Corbetta D, 2015)でCI療法効果のSMDを AOU=0.79、QOM=0.68 と報告しています。
BRAINの判断!
BRAINではMALを「実生活での上肢使用」を評価する唯一の指標として位置づけ、AOUとQOMの不一致パターンからボトルネックを特定します。FMA・ARAT・WMFT が示す「能力」とMALが示す「実行」の差は、リハビリ介入の最重要ターゲットです。
MALから見えるパターン分類(AOUとQOMの組み合わせ、各0〜5点)
- AOU高い × QOM高い → 良好:実生活での上肢統合が達成。CI療法を卒業可能
- AOU高い × QOM低い → 「使うが質が悪い」:代償的使用が定着している可能性。質の改善がボトルネック
- AOU低い × QOM高い → 「使えるのに使わない」:学習性不使用(learned non-use)。CI療法の最適適応
- AOU低い × QOM低い → 高度:CI療法の前段階として、能力(FMA・ARAT)の底上げが必要
AOUとQOMが不一致の場合
- 学習性不使用(AOU≪QOM)→ CI療法(強制使用療法)の主適応。Shaping技法で使用機会を増やす
- 代償固定化(AOU≫QOM)→ 質的フィードバック介入。動画フィードバック・部分課題練習を優先
- 両方が低い → 能力レベルの底上げが先。FMA-UEで分離運動を確認し、能力介入から再開
- 両方が高い → 介入卒業のタイミング。地域生活への般化フェーズへ
10-2. MCIDを「超えた/超えなかった」後の判断
事実
van der Lee JH(2004)は MCID を約0.5点、Cochraneレビュー(Corbetta, 2015)はCI療法の効果量SMDで AOU=0.79(large)、QOM=0.68(medium-large)を報告しています。
BRAINの判断!
BRAINでは「MCIDを超えた/超えなかった」を AOU と QOM で別々に判断し、両者の関係から介入方針を見直します。
【AOUとQOMの両方がMCIDを超えた場合】
- 介入内容を維持し、次回も同じ条件(質問用紙バージョン・面接スタイル)で再評価
- 患者本人に「実生活で何が変わったか」を具体場面でフィードバック
- FMA・ARAT(能力指標)と整合しているか確認
- 次の介入で取り組む実生活課題を本人と共に選定
【AOUだけ改善・QOMが伸び悩む場合】
- 「使う頻度は増えたが質が伴わない」状態。代償戦略の定着を疑う
- 動画フィードバックで質的観察を強化
- 部分課題練習で動作の質を再構築
【QOMだけ改善・AOUが伸び悩む場合】
- 「能力はあるが使っていない」状態。学習性不使用が継続
- CI療法のShaping技法・Transfer package を強化
- 家族・介護者にも巻き込んで使用機会を増やす
【両方ともMCIDを超えなかった場合】
- 質問用紙バージョン(MAL-14/28/30)が前回と同じか確認
- paraphrase(言い換え確認)が適切に行われたか面接プロセスを振り返る
- 患者のGROCを聞く
- FMA・ARATでの能力評価に戻り、介入レベルを再設定
10-3. 患者への結果説明(Shared Decision Making への接続)
事実
MALは患者の主観を直接測定する指標であり、SDMとの親和性が極めて高い評価指標です。
BRAINの判断!
MALの結果を患者本人に説明する際、BRAINは以下の運用ルールを守ります。
- 数値だけを伝えない。「AOU 2.5、QOM 2.0でした」ではなく「実生活では麻痺側を半分くらいの場面で使えていますが、質はまだ低い状態です」と日常場面で言語化
- 経時変化はAOUとQOMの両方をグラフで可視化
- 「次の4週は実生活での使用頻度向上(AOU)を優先します。家事の場面で意識的に麻痺側を使ってみましょう」と具体的に合意
- 家族にも結果を共有し、家庭でのShaping機会の提案
- 治療オプションを3〜5個提示してから決定する
10-4. BRAINで意図的に「やらない」5つの判断
事実と解釈の境界を明確にするため、BRAINではエビデンスが不十分な以下の判断を意図的に避けています。
これらは「絶対やってはいけない」のではなく、「現時点のエビデンスでは支持できないので、BRAINでは慎重を期して避けている」という運用ルールです。
エビデンスが蓄積されれば見直す可能性があります。
- AOUとQOMを単純に合計して総合点として扱う → 不一致パターンが介入の鍵
- 面接でparaphrase(言い換え確認)を省略する → Uswatte(2005)が推奨する標準手順
- 病前から行っていない動作も採点する → 必ず除外して該当項目数で割る
- 0.5点刻みを使わずに整数のみで採点する → 11段階リッカートとして運用すべき
- MALだけで上肢介入効果を判定する → FMA・ARATの「能力」評価と必ず併用
MAL変化量かんたん判定ツール
MAL 変化量かんたん判定ツール
MAL-AOU(平均値)またはMAL-QOM(平均値)の前回値・今回値・病期・利き手情報を入力すると、Lang(2008)/Chen(2012)/Uswatte(2006)の閾値に基づく変化判定を自動で行います。
※ この判定ツールは参考情報を提供するものであり、臨床判断を代替するものではありません。患者個々の状態を総合的に評価してください。
※ MDC(慢性期)の出典:Chen S et al. Minimal detectable change of the actual amount of use test and the Motor Activity Log: the EXCITE Trial. Neurorehabil Neural Repair. 2012;26(5):507-514.
※ MCID(急性期)の出典:Lang CE et al. Estimating minimal clinically important differences of upper-extremity measures early after stroke. Arch Phys Med Rehabil. 2008;89(9):1693-1700.
※ 慢性期判断目安の出典:Uswatte G et al. The Motor Activity Log-28: assessing daily use of the hemiparetic arm after stroke. Neurology. 2006;67(7):1189-1194.
※ 急性期使用の推奨度:Shirley Ryan AbilityLab StrokEDGE では急性期は推奨されません(床効果のため)。
MAL-AOU(平均値)またはMAL-QOM(平均値)の前回値と今回値を入力すると、Lang(2008)/Chen(2012)/Uswatte(2006)の閾値に基づき、変化が測定誤差・MDC・MCIDを超えたかを自動判定するツールです。臨床評価の参考にご活用ください。
※このツールは参考情報を提供するものであり、臨床判断を代替するものではありません。最終的な評価は患者個別の状況を踏まえてセラピストが行ってください。
ワークショップ:臨床判断トレーニング
以下の症例を読んで、MALの結果をどのように解釈すべきか考えてみましょう。「回答を見る」をクリックすると解説が表示されます。
慢性期:MDCを使った変化の解釈
慢性期脳卒中患者(65歳女性、発症後2年、左片麻痺・非利き手麻痺)に対して、4週間のCI療法(mCIMT)を実施しました。介入前後でMAL-14日本語版を測定したところ、MAL-AOU平均は 1.80点 → 2.30点(0.50点上昇)、MAL-QOM平均は 1.60点 → 2.45点(0.85点上昇)でした。これは「測定誤差ではない真の改善」と言えますか?また、臨床的に意味のある改善でしょうか?
回答:QOM 0.85点の上昇は慢性期MDCを上回る真の改善と判断できます。一方、AOU 0.50点の上昇は慢性期MDC(0.84点)に届いていないため、測定誤差と区別できません。
- Chen S et al.(2012, Neurorehabil Neural Repair)は、EXCITE試験対照群のデータからMALのMDC90を算出し、MAL-AOU 16.8%(≈ 0.84点)/MAL-QOM 15.4%(≈ 0.77点)と報告しています(0〜5点スケール換算)。慢性期では「AOUは約0.84点・QOMは約0.77点を超える変化」が測定誤差を超える真の変化の最低ラインです
- QOM 0.85点の上昇:MDC90(0.77点)を上回るため、「真の変化」と言えると判断できます。さらにUswatte et al.(2006, Neurology)の経験則「0.5点未満の変化は臨床的意味なし」も上回るため、「臨床的に意味のある改善」でもあります
- AOU 0.50点の上昇:Uswatte(2006)の経験則の閾値(0.5点)はギリギリ超えていますが、Chen(2012)のMDC90(0.84点)には届いていないため、「測定誤差の範囲と区別できない」と判断するのが正確です。改善傾向はあるが断定はできない段階です
- 意見:CI療法の介入効果は典型的に「先にQOM(動きの質)が改善し、後からAOU(使用頻度)が追従する」パターンを示します。これはまず「動かせるようになる」→「動かすようになる」という運動学習のプロセスを反映しており、今回の症例も典型例です。Cochrane(Corbetta et al., 2015)のメタ解析でもMAL-AOUのSMD = 0.79、MAL-QOMのSMD = 0.68とQOMの方が効果量が安定して大きく出ることが報告されています
- 臨床的アクション:QOMが確実に改善しているのでこの介入は方向性として正しい。次の4週間で同様のCI療法プログラム+Transfer Package(行動契約・自己管理日記)を継続すれば、AOUの追従改善が期待できる。次回評価ではAOUがMDC90(0.84点)を超えるかを必ず確認する
急性期:MALを使うべきか・代替指標は何か
急性期脳卒中患者(72歳男性、発症後10日、右片麻痺・利き手麻痺、FMA-UE 28点)の麻痺側上肢評価を担当することになりました。先輩セラピストから「将来CI療法に進めるかを判断したいので、ベースラインとしてMAL-14とWMFTを測ってほしい」と依頼されました。この依頼にどう応えるべきでしょうか?
回答:急性期ではMALの使用は推奨されません。WMFTは実施可能ですが、ベースラインとしてはFMA-UE・ARATを優先するのが妥当です。先輩には「MALは亜急性期に入ってから測定する」ことを提案してください。
- 事実:Shirley Ryan AbilityLab の StrokEDGE 推奨度では、MALは 「急性期(発症2か月未満):推奨せず(Not Recommended)」「亜急性期(2〜6か月):強く推奨」「慢性期(6か月以降):強く推奨」と明記されています。理由は急性期では多くの患者でMALが0〜1点に張り付き、床効果のため変化を捉えられないためです
- 事実:Lang CE et al.(2008, Arch Phys Med Rehabil)は、急性期脳卒中52名(発症平均9.5日→25.9日)でMAL-AOUのMCIDを算出しようとしましたが、「indeterminate(判定不能)」と報告しました。一方、QOMのMCIDは利き手1.0点・非利き手1.1点と算出できています。AOUは急性期では床効果が強く、変化幅が小さくて統計的にMCIDが定義できなかったと解釈されます
- 意見:急性期入院中の評価では以下の組み合わせが現実的です:
・「できるレベル」の評価 → FMA-UE、ARAT、WMFT(FAS)
・「しているレベル」の準備 → 加速度計(ActiGraph等)で実生活活動量を客観測定
・MAL → 回復期入棟後・発症2か月経過後に導入 - 事実:BRAINアカデミーの「麻痺側上肢リハビリ 3STEPフローチャート」では、CI療法導入の前提として FMA-UE 43-45点・BBT 30点以上の「できるレベル」獲得が必要とされています。この患者(FMA-UE 28点)はまだSTEP 1未満であり、ベースラインとしてはFMA-UEで「できるレベル」の経時変化を追うことが優先です
- 臨床的アクション:先輩への提案文例:「MALはStrokEDGEで急性期には推奨されておらず、Lang 2008でもAOUのMCIDが判定不能でした。代わりに今回はFMA-UE・ARAT・WMFTを測定し、回復期入棟後(発症2か月時点)に改めてMAL-14を導入する案でいかがでしょうか。CI療法の導入判断はFMA-UE 43点・BBT 30点を目安にしましょう」
AOUとQOMの食い違いをどう読むか
慢性期脳卒中患者(58歳男性、発症後4年、右片麻痺・利き手麻痺、FMA-UE 56点、ARAT 50点)の MAL-14日本語版を測定したところ、MAL-QOM平均 = 4.2点、MAL-AOU平均 = 2.3点という結果でした。「動きの質はほぼ正常レベル」なのに「使用頻度は半分以下」という大きな食い違いがあります。この患者にはどんな介入を提案すべきでしょうか?
回答:典型的な「学習された不使用(Learned Non-Use)」のパターンです。「できるレベル」と「しているレベル」のギャップが大きく、CI療法とTransfer Packageによる行動修正アプローチが第一選択になります。
- 事実:この患者はFMA-UE 56点・ARAT 50点で「できるレベル」がBRAINアカデミー3STEPフローチャートのSTEP 2〜3に到達しています。MAL-QOM 4.2点は「動きはほぼ正常だがスピードと正確さに劣る」というレベルであり、運動機能はかなり回復しています。一方でMAL-AOU 2.3点は「ほとんどの場合は非麻痺側のみを使用、時折麻痺側を使用」のレベルにとどまっており、「動かせるのに、動かしていない」状態です
- 事実:Taub et al.(1993)はこの状態を 「学習された不使用(Learned Non-Use)」と命名しました。脳卒中急性期に麻痺手で動作を試みて失敗した経験が「使えない」という条件付け学習を生み、機能が回復した後も麻痺手を使わない行動パターンが固定化される現象です
- 事実:CI療法はこの「学習された不使用」を解除する目的で開発された介入で、(1) 1on1での反復的な課題指向型訓練(Shaping・Task Practice)と (2) 日常生活における麻痺手の使用(Transfer Package)の2構成要素から成ります(Morris DM et al., 2006)。Transfer Packageには「毎日のMotor Activity Log自己管理日記」「行動契約」「介護者との行動契約」「ミットによる健側拘束」などが含まれます
- 事実:Cochraneレビュー(Corbetta et al., 2015)では、CI療法によるMAL-AOUの効果量は SMD = 0.79(95% CI 0.50-1.08)と中〜大の効果が報告されています。慢性期でもMcIntyre et al.(2012)が MAL-AOU MD 0.62点・MAL-QOM MD 0.53点の改善を報告しており、十分な効果が期待できます
- 意見:BRAINアカデミーの講義では、不使用に影響する要因として「①上肢の運動機能障害の重症度 ②運動パフォーマンスの重症度 ③課題のタイプ ④利き手 ⑤脳卒中発症からの経過 ⑥自己効力感」が挙げられています(Bayazeed et al., 2024のスコーピングレビュー)。この患者は④利き手麻痺・⑤発症4年のため、自己効力感の低下と行動の習慣化が主因と推定されます
- 臨床的アクション:mCIMT(修正型CI療法、1日2〜3時間×2週間)+ Transfer Package を提案。具体的には (1) ShapingとTask Practice の構造化された訓練、(2) 健側へのミット装着(自宅で1日4〜6時間)、(3) 毎日のMAL自己管理日記、(4) 家族への行動契約説明。介入後の評価では MAL-AOUがMDC90(0.84点)を超えて改善するかを主アウトカムとして測定します
MALを臨床で使いこなすための3問の臨床判断トレーニングです。慢性期のMDCを使った変化の解釈、急性期で使うべきかどうかの判断、AOU・QOMの食い違いの読み方について、エビデンスに基づいた回答とともに学べます。
記録用紙ダウンロード
MALの測定記録用紙(A4印刷対応)をご用意しています。MAL-14日本語版の14項目すべての記入欄、各項目のAOU・QOM記入欄、該当・非該当のチェック欄、合計点と平均値の自動算出欄、SEM・MDC・MCID参照値、BRAINアカデミー3STEPフローチャートが同じ用紙に印刷されているため、その場で「変化量がMDCを超えたか」「次のSTEPに進めるか」を判断できます。
この記事で引用した論文は、すべてPubMedから系統的に検索・選定しています。
「自分でも最新エビデンスを探せるようになりたい」セラピストの方には、BRAIN代表の針谷が金芳堂から出版した書籍『文献検索の超基本』をぜひお手に取っていただきたいです。

書籍|文献検索の超基本
「先輩に聞けばいい」から卒業しませんか?
本書は、PT・OT・STが最短で文献検索を身につけるための一冊です。172ページ+40本の動画で、PubMed検索からAI活用まで実践的に学べます。ChatGPT、Elicit、Semantic ScholarなどのAIツールを”なんとなく使う”のではなく、正しく臨床に活かす方法を体系的に解説。文献検索は、早く身につけた人が圧倒的に伸びます。エビデンスを自分で調べられるセラピストになりませんか?
MALを含む上肢評価指標を、実際の症例を通じて使いこなせるようになりたい方は、脳卒中専門リハビリ施設BRAINが運営する「BRAINアカデミー」アドバンスコース(上肢)をご検討ください。
評価から CI療法・課題指向型訓練までを体系的に学べます。

BRAINアカデミー
エビデンスに基づく脳卒中リハビリテーションを体系的・網羅的に学ぶ、3ヶ月間のオンライン学習プログラムです。①動画教材 ②課題 ③フィードバックを通じて、EBMを身に付けましょう!
詳細はこちら
参考文献
- Taub E, Miller NE, Novack TA, Cook EW 3rd, Fleming WC, Nepomuceno CS, Connell JS, Crago JE. Technique to improve chronic motor deficit after stroke. Arch Phys Med Rehabil. 1993;74(4):347-354. PMID: 8466415
- Uswatte G, Taub E, Morris D, Vignolo M, McCulloch K. Reliability and validity of the upper-extremity Motor Activity Log-14 for measuring real-world arm use. Stroke. 2005;36(11):2493-2496. PMID: 16224078
- Uswatte G, Taub E, Morris D, Light K, Thompson PA. The Motor Activity Log-28: assessing daily use of the hemiparetic arm after stroke. Neurology. 2006;67(7):1189-1194. PMID: 17030751
- van der Lee JH, Beckerman H, Knol DL, de Vet HC, Bouter LM. Clinimetric properties of the Motor Activity Log for the assessment of arm use in hemiparetic patients. Stroke. 2004;35(6):1410-1414. PMID: 15087552
- Lang CE, Edwards DF, Birkenmeier RL, Dromerick AW. Estimating minimal clinically important differences of upper-extremity measures early after stroke. Arch Phys Med Rehabil. 2008;89(9):1693-1700. PMID: 18760153
- Chen S, Wolf SL, Zhang Q, Thompson PA, Winstein CJ. Minimal detectable change of the actual amount of use test and the Motor Activity Log: the EXCITE Trial. Neurorehabil Neural Repair. 2012;26(5):507-514. PMID: 22275157
- Wolf SL, Winstein CJ, Miller JP, Thompson PA, Taub E, Uswatte G, Morris D, Blanton S, Nichols-Larsen D, Clark PC. Retention of upper limb function in stroke survivors who have received constraint-induced movement therapy: the EXCITE randomised trial. Lancet Neurol. 2008;7(1):33-40. PMID: 18077218
- Corbetta D, Sirtori V, Castellini G, Moja L, Gatti R. Constraint-induced movement therapy for upper extremities in people with stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2015;(10):CD004433. PMID: 26446577
- Uswatte G, Giuliani C, Winstein C, Zeringue A, Hobbs L, Wolf SL. Validity of accelerometry for monitoring real-world arm activity in patients with subacute stroke: evidence from the extremity constraint-induced therapy evaluation trial. Arch Phys Med Rehabil. 2006;87(10):1340-1345. PMID: 17023243
- 原寛美ほか. 麻痺側上肢使用状況の評価―Motor Activity Log-14の信頼性と妥当性. 総合リハビリテーション. 2010;38(5):485-489.
- Buxbaum LJ, Varghese R, Stoll H, Winstein CJ. Predictors of arm nonuse in chronic stroke: a preliminary investigation. Neurorehabil Neural Repair. 2020;34(6):512-522. PMID: 32476616
- Tashiro S, Kuroki M, Okuyama K, Oshima O, Ogura M, Hijikata N, Nakamura T, Oka A, Kawakami M, Tsuji T, Liu M. Factors related to daily use of the paretic upper limb in patients with chronic hemiparetic stroke—A retrospective cross-sectional study. PLoS One. 2021;16(3):e0247998. PMID: 33690690
- Bayazeed A, Almalki G, Alnuaim A, Klem M, Sethi A. Factors influencing real-world use of the more-affected upper limb after stroke: a scoping review. Am J Occup Ther. 2024;78(2):7802180250. PMID: 38634670
- Li YC, Liao WW, Hsieh YW, Lin KC, Chen CL. Predictors of clinically important changes in actual and perceived functional arm use of the affected upper limb after rehabilitative therapy in chronic stroke. Arch Phys Med Rehabil. 2020;101(3):442-449. PMID: 31563552
この記事の内容は、BRAINアカデミーの講義資料および査読付き学術論文に基づいています。
最終更新:2026年4月

