脳卒中で片麻痺になった方にとって、トイレは一日のなかで何度も直面する大きな壁です。

ズボンの上げ下ろしがうまくできない、便座への移乗が不安、手すりの位置が合わない、夜間にトイレで転びそうになる――。

2025年に公開された日本の研究(101名の調査)では、入院時に車椅子でトイレに行っていた方のうち、約70%が退院時までに何らかの形でトイレ動作の自立度を高めたと報告されていますMiyamoto, 2025)。

この記事では、片麻痺のトイレ動作がなぜ難しいのか、どのような練習や環境整備で自立に近づけるのかを、脳卒中専門リハビリ施設BRAINの代表で理学療法士の針谷が、臨床経験と研究論文に基づいて解説します。

情報の信頼性について
・本記事はBRAIN代表/理学療法士の針谷が執筆しています(執筆者情報は記事最下部)。
・本記事の情報は、信頼性の高い研究論文から得られたデータを中心に引用しています。

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⚠ トイレで以下の症状が出たらすぐに受診を
以下の症状が突然出た場合は、様子を見ずに救急要請(119番)を検討してください。
・顔のゆがみ(片側が下がる)/片腕の脱力/言葉のもつれ(脳卒中の再発サイン)
・トイレでの転倒後に頭を打った、意識が朦朧としている

また、以下の症状は早めにかかりつけ医にご相談ください。
・排尿時に強い痛みや発熱がある(尿路感染症の可能性)
・便意を我慢できず頻繁に漏れる/まったく便が出ない日が続く
・起立時に強くめまいがする(起立性低血圧による転倒リスク)
目次
  1. 片麻痺のトイレ動作とは?|まず知っておきたいこと
    1. なぜ片麻痺でトイレ動作が難しくなるのか
    2. どれくらいの方がトイレ自立するのか(予後データ)
    3. トイレ動作を構成する4つの要素
  2. こんな困りごとはありませんか?
  3. トイレ自立のための3つの練習ポイント
    1. ① 便座への移乗(立ち上がり・座り込み)
    2. ② 片手でのズボン・下着の上げ下ろし
    3. ③ 清拭(お尻を拭く)と水洗操作
  4. 手すり・ポータブルトイレ・住宅改修の環境整備
    1. 手すりの種類と設置位置
    2. ポータブルトイレの使い方と注意点
    3. 介護保険・住宅改修費で使える制度
  5. 尿失禁・便秘・夜間頻尿への対処
    1. 尿失禁(約4割が経験)
    2. 便秘(見落とされがちな合併症)
    3. 夜間頻尿と転倒リスク
  6. BRAINのトイレ自立リハビリの流れ
    1. ステップ1:工程別の評価
    2. ステップ2:エビデンスに基づく介入
    3. ステップ3:再評価と環境調整
    4. 実際にBRAINでリハビリに取り組まれた方の事例
  7. ご家族・介護者の方へ
    1. 家族ができる5つのこと
    2. 介助者が陥りやすい失敗
  8. 相談窓口・地域の支援先
  9. よくある質問(FAQ)
    1. Q. 車椅子からトイレに移るとき、健側と麻痺側のどちら側に便座を置くべきですか?
    2. Q. 尿失禁パッドは使ったほうがいいですか?
    3. Q. 便座のすぐ近くに縦型手すりを2本つけたいのですが、壁がない場合はどうすればいいですか?
    4. Q. 発症から1年以上経っていますが、今からトイレ自立を目指せますか?
  10. まとめ
  11. 参考文献

片麻痺のトイレ動作とは?|まず知っておきたいこと

片麻痺のトイレ動作は、「便器に座って用を足す」という1つの動作ではありません。

実はトイレ動作は10〜24もの小さな工程(サブタスク)に分けられることが、日本で開発された評価表(Toileting Tasks Assessment Form)で確認されています(Miyamoto, 2021)。

そのため、どこか1か所でもつまずくと「トイレが自立できない」状態になってしまいます。

なぜ片麻痺でトイレ動作が難しくなるのか

片麻痺のトイレ動作が難しくなる理由は、ひとつではなく複数の要因が同時に関わっているためです。

脳卒中では、片側の手足の筋力低下だけでなく、バランス能力の低下、感覚の鈍さ、注意力の低下、尿意・便意の感じ方の変化などが同時に起こります。

2022年に公開された日本の研究(51名の調査)では、「選択的注意」(必要な情報に集中する力)が、トイレ自立度と関連していたことが報告されています(Miyamoto, 2022)。

つまり、手足の麻痺だけでなく「ズボンに意識を向けながら便座に近づく」という複数同時処理が難しくなることも、トイレ動作を難しくする要因になります。

BRAINでも、歩行が自立した方でも「トイレだけは介助が必要」というケースは少なくありません。

どれくらいの方がトイレ自立するのか(予後データ)

2025年に公開された日本の研究では、回復期リハビリ病棟に入院した101名の脳卒中患者を対象に、トイレ動作の自立度の変化を追跡しています(Miyamoto, 2025)。

入院時には全員が車椅子でトイレに移動していた方々ですが、退院までの経過は大きく3つのグループに分かれました。

グループ人数経過
グループ130名(約30%)入院時から比較的自立度が高く、退院時にはほぼ全工程を自立
グループ241名(約41%)入院時は多くの工程で介助が必要だったが、退院時に約3〜7割の工程を自立
グループ330名(約30%)多くの工程で介助が必要な状態が続き、退院時も介助が多い

また、2021年に公開された日本のリハビリデータベース研究(重症脳卒中患者2,292名)では、トイレ自立を予測する最大の因子は「発症時の重症度(modified Rankin Scale)」と「年齢」だったと報告されています(Yoshimura, 2021)。

重要なのは、重症と判定された方のなかにも、トイレ自立に至る方が一定数いるという事実です。

「重症だからあきらめる」ではなく、「どの工程で困っているかを明確にし、そこに絞って練習する」ことが自立への近道になります。

トイレ動作を構成する4つの要素

トイレ動作は大きく4つの要素に分けられます。

どの要素でつまずいているかが明確になると、リハビリの的が絞れます。

要素内容片麻痺でつまずきやすい点
①トイレまでの移動居室・寝室からトイレまで歩く/車椅子で移動するドアの開閉、段差、夜間の暗さ、尿意を我慢する時間
②便座への移乗車椅子・歩行器から便座に座る/便座から立ち上がる麻痺側への方向転換、片足立ち、手すりをつかむ位置
③衣服の着脱ズボン・下着の上げ下ろし、ベルトの着脱片手での操作、立位バランスの保持、体幹のひねり
④清拭・水洗操作トイレットペーパーで拭く、水を流す、手洗い座位での体幹のひねり、片手でペーパーを切る動作

BRAINでは、初回評価の際に「どの要素でつまずいているか」を4つに分けて一つずつ確認しています。

全部を一気に練習するのではなく、つまずいている工程に絞って集中的にリハビリを組み立てる方が、自立までの道のりが短くなります

こんな困りごとはありませんか?

以下に当てはまるものがないか、チェックしてみてください。

ひとつでも当てはまる場合は、この記事の後半で紹介する練習や環境整備が参考になります。

  • 便座から立ち上がるときにふらつく、手すりがないと不安
  • ズボンや下着の上げ下ろしに時間がかかる、片手では難しい
  • 麻痺がある側にお尻を拭くのが難しく、清潔に保ちにくい
  • 夜間にトイレに行く際、転びそうになったことがある
  • 尿意や便意が間に合わず、衣服を汚してしまうことがある
  • 便秘が続いており、以前より排便のリズムが変わった
  • トイレの介助をしてもらう家族に負担をかけていると感じる

トイレ自立のための3つの練習ポイント

トイレ動作の練習は、「どこで困っているか」を特定してから始めるのが原則です。

ここでは、多くの方がつまずきやすい3つの場面について、ポイントを解説します。

① 便座への移乗(立ち上がり・座り込み)

便座への移乗でいちばん大切なのは「健側(麻痺がない側)を便座に近づけて回る」という基本動作です。

車椅子を便座の健側に斜めに寄せ、健側の足で軸を作りながら方向転換する流れが、多くの施設で標準的に指導されています。

2025年に公開された15本の研究をまとめた分析では、課題指向型訓練(実際の動作を繰り返し練習する方法)が、日常生活動作の改善に効果があることが確認されています(Modified Barthel Index で改善の度合いは中等度)(Zhang, 2025)。

つまり、トイレ動作の改善には「筋トレをしてから本番」ではなく、最初からトイレに似た場面で立ち上がり・座り込みを繰り返すほうが効率的です。

BRAINでは、便座の高さに近い椅子を使って、以下の3点を1セットにした練習を推奨しています。

  1. ゆっくり立ち上がる(膝がピンと伸びきるまで2〜3秒かける)
  2. その場で90度方向転換する(健側の足を軸に)
  3. ゆっくり座り込む(お尻が座面に触れるまで2〜3秒かける)

1日に10回×2〜3セットを、支えがある環境で行うだけで、便座への移乗は安定していきます。

② 片手でのズボン・下着の上げ下ろし

ズボンの上げ下ろしは、片麻痺の方がもっとも時間を取られる工程のひとつです。

コツは「立位でいきなり両側を上げ下げしようとしない」ことです。

以下の順番で行うと、バランスを崩さずに操作できます。

  1. 座位で麻痺側のズボンを太ももまで下げる(健側の手で麻痺側を先に下ろす)
  2. 次に健側のズボンを下げる
  3. 手すりにつかまりながら立ち上がり、太ももから膝下までゆっくり下ろす
  4. 座って用を足したあと、逆の順番で上げる(立位で太ももまで → 座位で腰まで)

ズボンはウエストがゴムで、裾が広めのものを選ぶと、片手操作がぐっと楽になります。

BRAINでは、入院中から自宅の衣服に近いものを使って練習することを推奨しています。

ジャージのような練習用の服だけで練習していると、退院後に普段着で困る方が多いためです。

③ 清拭(お尻を拭く)と水洗操作

清拭は「健側の手で麻痺側のお尻に届かない」という悩みが多い工程です。

対処法は以下の3つです。

  1. 健側に体重を少し乗せて、麻痺側のお尻を浮かせて拭く(座位での体重移動の練習)
  2. トイレットペーパーホルダーを健側に設置する(片手で切り取れる位置)
  3. 温水洗浄便座(ウォシュレット等)を活用する

2018年に公開された研究では、温水洗浄便座の使用が、脳卒中を含む高齢者の清拭の自立感(自信・適応感・自尊感)を高める傾向が報告されています(Jayawardena, 2018)。

一方で、清拭の清潔さ自体は「紙で拭く」場合と大きな差はなかったと報告されており、あくまで本人の自信や自尊心を支える補助として有効と位置づけられます。

BRAINでも、「麻痺側に届かない」という悩みに対しては、まず座位で体重移動の練習を行い、そのうえで温水洗浄便座の併用を検討しています。

手すり・ポータブルトイレ・住宅改修の環境整備

練習と同じくらい大切なのが、「環境を整える」ことです。

環境が合っていないと、せっかく身につけた動作が家で再現できません。

手すりの種類と設置位置

トイレの手すりには複数の形があり、どれを選ぶかで安定性と使いやすさが変わります。

2015年に公開された研究では、脳卒中を経験した方を含む高齢者を対象に、7種類の手すり配置を比較しています(Wretenberg, 2015)。

この研究では、「縦型の手すり2本」が最も好まれ、立ち上がりの重心のふらつきも最小だったと報告されています。

一方、「横型の手すり1本のみ」は安定性が低く、好まれない傾向もありました。

手すりの種類特徴おすすめ度
縦型手すり2本便座の両脇に縦に設置。立ち上がりが安定しやすい◎(第一選択)
縦型手すり1本健側に1本設置。スペースに制約がある場合
斜め型手すり立ち上がりの途中で握り替えがしやすい
横型手すり1本のみ立ち上がりの垂直方向の支えにならない
可動式・跳ね上げ式健側からの方向転換がしやすい。車椅子移乗にも便利

設置位置の目安は、便座の前縁から前方20〜30cm、高さは便座から60〜70cm程度です。

ただし個人差があるため、必ず本人に実際に座ってもらい、手の届きやすい位置を確認してから設置してください。

BRAINでも、退院前訪問で手すりの位置を本人の動作に合わせて微調整することを大切にしています。

ポータブルトイレの使い方と注意点

ポータブルトイレは、「夜間だけ」「発症早期だけ」と期間を区切って使うのがおすすめです。

上記の2015年の研究では、ポータブルトイレ(commode)での移乗は立ち上がり時の重心のふらつきがもっとも大きく、転倒のリスクがあると指摘されています(Wretenberg, 2015)。

使用する場合は以下の3点に注意してください。

  • ベッドの健側に平行に置き、ベッドの高さと座面の高さをそろえる(横に滑って移乗しやすい)
  • キャスター付きではなく、転倒防止の足が広いタイプを選ぶ
  • 最終的にはトイレ本体での排泄に移行することを目標にする(ポータブル依存の長期化を避ける)

BRAINでも、ポータブルトイレは「立ち上がり・方向転換が練習段階」の方には一時的に有用ですが、できる方は早めにトイレ本体で排泄する習慣に戻すことを目標にしています。

介護保険・住宅改修費で使える制度

介護保険を利用できる方は、以下の制度で手すりの設置や段差解消の費用が補助されます。

  • 住宅改修費(介護保険):20万円までの工事費に対して7〜9割が給付。手すり設置・段差解消・床材変更などが対象
  • 特定福祉用具購入費:ポータブルトイレ・便座の高さ調整用具などが年間10万円までの枠で補助
  • 福祉用具貸与:可動式手すり(据え置き型)などを月額でレンタル可能

詳しい手続きは、担当のケアマネジャーまたは地域包括支援センターにご相談ください。

尿失禁・便秘・夜間頻尿への対処

脳卒中のあとは、排泄のリズムそのものが変わる方が少なくありません。

ここでは、特に多い尿失禁・便秘・夜間頻尿について、研究データとともに対処法を紹介します。

尿失禁(約4割が経験)

2024年に公開された21本の研究をまとめた分析(7,327名)では、脳卒中後の尿失禁の発生率は約39%と報告されています(Xu, 2024)。

つまり、脳卒中を経験した方の2.5人に1人が尿失禁を経験することになります。

対処法として、エビデンスが確認されているアプローチは以下の通りです。

  • 骨盤底筋トレーニング:2023年に公開された8本の研究をまとめた分析では、日中の排尿回数を改善する効果が確認されている(Saylam, 2023
  • 経皮的電気刺激療法(TENS):2022年に公開された10本の研究をまとめた分析では、発症3か月以内に開始した場合に特に大きな効果(Monaghan, 2022
  • 排尿日誌:いつ・どのくらい尿が出ているかを記録することで、水分摂取やトイレのタイミングを調整しやすくなる

尿失禁のタイプ(切迫性・腹圧性・機能性など)によって対処法が異なります。

2024年に公開された研究では、「どの方法でタイプを見分けるか」の基準はまだ十分に確立されていないとされており(Thomas, 2024)、泌尿器科や専門のリハビリスタッフに相談することがすすめられます。

便秘(見落とされがちな合併症)

脳卒中後の便秘は、活動量の低下、水分摂取量の減少、薬の影響などが重なって起こります。

便秘を放置すると、排便時のいきみで頭の中の圧力が上がり、再発のリスクにつながることが指摘されています(Qiu, 2025)。

2025年に公開された研究(複数の方法を比較した分析)では、脳卒中後の便秘に対して、腹部マッサージ、鍼治療、運動療法、認知行動療法などが改善効果を示すと報告されています。

自宅でできる基本対策は以下の通りです。

  1. 毎朝決まった時間にトイレに座る(便意を習慣化する)
  2. 1日1.5L程度を目安に水分を摂る(心臓・腎臓の病気で制限がある方は医師に相談)
  3. 食物繊維のある食事・発酵食品を意識する
  4. 腹部マッサージ(「の」の字を描くように時計回り)を1日1回数分
  5. 可能な範囲で歩行・体操を行う(腸の動きが活発になる)

それでも改善しない場合は、薬の副作用で便秘になっている可能性があるため、必ずかかりつけ医にご相談ください。

夜間頻尿と転倒リスク

夜間にトイレに行くためにベッドから起き上がる際は、起立性低血圧(立ち上がったときに血圧が下がる現象)による転倒リスクが高まります。

以下の対策で夜間の安全を高められます。

  • 寝る前のトイレを習慣化する(就寝直前の水分摂取は控えめに)
  • ベッド脇にポータブルトイレを設置する(夜間のみの使用)
  • 廊下・トイレに人感センサーのライトを設置する
  • 起き上がったらベッドの縁で30秒座ってから立つ(めまい対策)

BRAINでは、夜間のトイレでの転倒経験がある方に対して、排尿のタイミングを30分単位で記録していただき、水分摂取のタイミングを一緒に見直すアプローチを取っています。

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BRAINのトイレ自立リハビリの流れ

BRAINでは、トイレ自立に向けて「評価→エビデンスに基づく介入→再評価」という3ステップでリハビリを組み立てています。

ステップ1:工程別の評価

トイレ動作を10〜20の工程に分けて、どの工程でつまずいているかを一つずつ確認します。

2019年に公開された日本の研究では、214名の脳卒中患者を対象にトイレ動作評価テストが開発され、その妥当性と信頼性が報告されています(Uchida, 2019)。

BRAINでも、こうした評価ツールを参考にしながら、ご本人の動きを動画で撮影して一緒に確認することがあります。

ステップ2:エビデンスに基づく介入

つまずいている工程に応じて、研究で効果が確認された方法を選びます。

便座への移乗が不安定なら課題指向型訓練、尿失禁があれば骨盤底筋トレーニングやTENS、便秘があれば腹部マッサージと生活習慣調整、といった具合に、症状別にエビデンスを踏まえた組み合わせを提案します。

ステップ3:再評価と環境調整

一定期間後に同じ評価表で再測定し、変化を数値で確認します。

加えて、ご自宅の手すり位置・便座の高さ・動線を写真や動画で確認し、環境側の調整も同時に進めます。

実際にBRAINでリハビリに取り組まれた方の事例

事例1:便座からの立ち上がりが不安だった方のケース
背景:70代の男性。脳梗塞の発症から7か月。歩行は短距離なら自立していたものの、便座からの立ち上がりで毎回ふらつき、尻もちをつきそうになることがありました。

初回評価:便座からの立ち上がり時に重心が後方に残る。麻痺側の足で踏ん張りにくく、健側の手すりだけでは不安定。トイレまでの距離5m、通路に手すりなし。

エビデンスに基づく介入: ・課題指向型訓練(Zhangら(2025)のメタ分析)に基づき、便座の高さに合わせた椅子での立ち上がり練習を1日30回×3セット
・退院前訪問で縦型手すりを2本、便座の両脇に設置
・通路に小型の手すりを1本追加
を3か月間実施しました。

再評価:便座からの立ち上がりが安定化。ふらつきの頻度が「毎回」→「週1回以下」に減少。夜間のトイレ利用時に付き添いが不要になりました。

※ これは個人の経験です。回復の経過には個人差があります。
事例2:ズボンの上げ下ろしで介助が必要だった方のケース
背景:60代の女性。脳出血の発症から10か月。歩行は自立していたものの、トイレでのズボンの上げ下ろしに毎回10分以上かかり、介助を頼んでいました。

初回評価:座位でのズボン操作は麻痺側から先に行えていたが、立位に移る段階でバランスを崩す。ウエストがゴムのズボンは使っていたが、硬めの素材でひっかかりやすい状況。

エビデンスに基づく介入: ・立位で片手操作する工程を分解し、手すりをつかんだ状態での体幹のひねり練習
・ズボンを柔らかい素材・少し大きめのサイズに変更するご提案
・座位→立位→座位を含む一連の流れを、時間を計測しながら繰り返し練習
を2か月間実施しました。

再評価:ズボンの上げ下ろし時間が10分 → 3分に短縮。介助なしで行えるようになり、外出時のトイレにも自信を持たれるようになりました。

※ これは個人の経験です。回復の経過には個人差があります。

ご家族・介護者の方へ

トイレ介助は、ご本人にとっても介助者にとっても負担が大きい場面です。

だからこそ、「できる工程はご本人に任せ、難しい工程だけ手助けする」という考え方が大切です。

家族ができる5つのこと

  1. 全介助ではなく「見守り」から始める
    危険がない範囲で、まずは自分でやってもらう時間を作ってください。
  2. 健側の方向から声をかける
    麻痺側からの声かけは聞こえにくいことがあります。健側に立って話しかけましょう。
  3. 「間に合わない」を減らすトイレのタイミングを共有する
    食事後30分以内、起床直後、就寝前など、排尿・排便のタイミングを生活リズムに組み込みます。
  4. 失敗しても責めない
    失禁や汚染で叱ると、本人が水分を控えて脱水を招くこともあります。
  5. 自分の介助負担も可視化する
    夜間の介助が続いて眠れない場合は、訪問介護・ショートステイの利用を検討してください。

介助者が陥りやすい失敗

  • 急がせてしまう:急かされると焦ってバランスを崩しやすくなります。10秒だけ待ってみてください。
  • 麻痺側の腕を引っ張る:肩関節の亜脱臼や痛みの原因になります。体幹を支えるようにしてください。
  • 全部を先回りしてやってしまう:できる動作まで介助してしまうと、残っている力も使われなくなります。

相談窓口・地域の支援先

トイレ動作や排泄の悩みは、以下の窓口に相談できます。

  • かかりつけ医・リハビリ科:トイレ動作の困難を伝えることで、リハビリ処方の見直しや訪問リハビリの検討につながります。
  • ケアマネジャー:住宅改修・福祉用具の申請窓口。退院後の生活動線も含めて相談できます。
  • 地域包括支援センター:介護保険の申請や、お住まいの地域のサービス情報を案内してもらえます。
  • 泌尿器科:尿失禁・頻尿・排尿困難が続く場合の専門窓口。骨盤底筋療法士がいる施設もあります。
  • 脳卒中相談窓口(一部の認定病院に設置):脳卒中に特化した相談ができます。

よくある質問(FAQ)

Q. 車椅子からトイレに移るとき、健側と麻痺側のどちら側に便座を置くべきですか?

一般的には健側(麻痺がない側)を便座に近づけて車椅子を停めるのが基本です。

健側の足を軸に方向転換しやすく、健側の手で手すりをつかめるためです。

ただし、トイレの間取りによっては難しい場合もあるため、必ず担当の理学療法士・作業療法士に相談して、ご自宅の構造に合わせた移乗方法を決めてください。

Q. 尿失禁パッドは使ったほうがいいですか?

外出時や夜間など、間に合わない不安がある場面では有効な選択肢です。

ただし、「パッドがあるから大丈夫」とトイレに行く習慣自体を減らすと、膀胱の機能がさらに低下する可能性があります。

パッドはあくまで保険として活用し、定期的にトイレに行く習慣を維持することが大切です。

Q. 便座のすぐ近くに縦型手すりを2本つけたいのですが、壁がない場合はどうすればいいですか?

壁がない場合は、据え置き型(床置き型)の可動式手すりを使う方法があります。

介護保険の福祉用具貸与で月額数百円〜でレンタルできるため、工事を伴わずに導入しやすい選択肢です。

ケアマネジャーに相談すると、複数のメーカーから比較検討できます。

Q. 発症から1年以上経っていますが、今からトイレ自立を目指せますか?

十分に目指せます。

2024年に公開された分析では、発症から時間が経った方でも、課題指向型訓練(実際の動作を繰り返し練習する方法)を続けることで日常生活動作が改善することが報告されています(Nascimento, 2024)。

「もう遅い」と決めつけず、今つまずいている工程に絞って練習を始めることが大切です。

まとめ

  • 片麻痺のトイレ動作は、10〜24の小さな工程に分けて考える
  • 自立を目指すうえで最大の予測因子は「発症時の重症度」と「年齢」。ただし重症でも自立に至る方はいる
  • 便座への移乗には、課題指向型訓練と縦型手すり2本の組み合わせが有効
  • 尿失禁は脳卒中後の約39%が経験。骨盤底筋トレーニングとTENSにエビデンスがある
  • 便秘はいきみによる血圧上昇につながるため、放置せず生活習慣と運動で対応
  • ポータブルトイレは夜間のみ・一時的な使用に留め、トイレ本体での排泄に移行する
  • 家族は「見守り」から始め、できる工程をご本人に任せる

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この記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療の代わりになるものではありません。症状や治療については、必ず担当の医師や療法士にご相談ください。

参考文献

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  3. Miyamoto S, et al. Association Between Toileting Independence and Higher Brain Functions in Post-Stroke Inpatients: A Cross-Sectional Study. Cureus. 2022;14(3):e23180. PMID: 35490469
  4. Yoshimura Y, et al. Clinical Features for Identifying the Possibility of Toileting Independence after Convalescent Inpatient Rehabilitation in Severe Stroke Patients: A Decision Tree Analysis Based on a Nationwide Japan Rehabilitation Database. J Stroke Cerebrovasc Dis. 2021;30(3):105584. PMID: 33253989
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この記事の内容は、臨床現場でのリハビリ経験および査読付き学術論文に基づいています。

最終更新:2026年4月