ミラーセラピーは上肢のリハビリというイメージが強いかもしれませんが、下肢のリハビリとしても使われます。

下肢に対して実施する場合は、姿勢鏡などの大きい鏡を使います。

患者さんに椅子やベッドに座っていただき、両脚の間に姿勢鏡を挟みます。

鏡の面を非麻痺側に向けておき、患者さんは鏡の面を見るようにします。

この状態で非麻痺側の下肢を動かすと、麻痺側下肢が動いているようにみえ、錯覚がおき、ミラーセラピーが成立します。

原理は上肢と同じです。

同じため、ミラーセラピーの課題も同じです。

例えば、視覚フィードバックと体性感覚フィードバックの不一致という問題があります。

ミラーセラピーでは運動錯覚というあたかも「麻痺側を動かしているような感じ」が大事です。

ミラーセラピー実施中はこの運動錯覚が生じる人もいれば生じない人もいます。

生じない原因の一つに、この視覚フィードバックと体性感覚フィードバックの不一致があります。

患者さんとしては麻痺側下肢が動いているように見えるのですが、実際は動いていないので、麻痺側下肢から体性感覚(つまり、脚が伸びてる・曲がっているという感覚)が起こりません。

本当に麻痺側の下肢が動いているのであれば体性感覚フィードバックも得られるはずなので、これによって本来の動きとは違う、と脳が認識し、「実際は動いてないんだ」と運動錯覚が解けてしまいます。

この問題を解決するために、電気刺激療法と併用させる方法があります。

電気刺激を使って強制的に麻痺側の筋肉を働かせることができれば、体性感覚フィードバックが得られるので、視覚と体性感覚フィードバックの不一致を押さえることが可能です。

このように、理論的にはミラーセラピーと電気刺激は併用したほうがいいのですが、実際はどうなのでしょうか?

今回は、これを検証したXu Q (2017)のランダム化比較試験と、研究で使われたリハビリプログラムを紹介します。

回復期のリハビリ病棟で働かれている先生に役立つ内容になっています。

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下肢へのミラーセラピーと電気刺激を組み合わせたリハビリは有効か?

結論から申し上げると、Xu Q (2017)の研究では、ミラーセラピーと電気刺激の組み合わせは、ミラーセラピーだけを行う場合よりも、歩行速度や運動障害の程度を改善させる効果が大きいと報告されています。

また、両側の足関節背屈運動を行う場合と比べると、足関節の関節可動域も拡大する、という報告がされています。

このことから、ミラーセラピーと電気刺激の組み合わせは脳卒中患者さんのリハビリにおいては有効であると言えます。

では、実際にどのようなプログラムでリハビリが行われたか紹介します。

下肢へのミラーセラピーと電気刺激を組み合わせたリハビリプログラム

この研究では回復期の脳卒中患者さん69人を対象にしています。

対象者を3つのグループに分けています。

ひとつ目のグループは「ミラーセラピー+電気刺激」グループ、二つ目は「ミラーセラピー」グループ、三つ目は「両側の足関節背屈運動」グループです。

各グループで、名前の通りのリハビリを行っています。

ミラーセラピー+電気刺激グループのプログラムは次の通りです。

電気刺激(神経筋電気刺激を実施)
・前脛骨筋を刺激
・周波数50Hz、刺激強度10mA、5秒でオンオフ切り替え

ミラーセラピー
・電気刺激に合わせて背屈運動を行う

時間・頻度・期間
30分、週5回、4週間

シンプルなプログラムですよね。

神経筋電気刺激が使える電気刺激装置と、姿勢鏡がある病院ならどこでも再現できそうなプログラムです。

4週間実施した結果、ミラーセラピーのみを行ったグループよりも歩行速度が大きく向上していました。

歩行速度が速い人(つまり速く歩ける人)は屋外歩行も自立する可能性が高いので、とてもポジティブな結果です。

電気刺激を付加しないという選択肢がもはやない

他の研究でもそうですが、何らかのリハビリに電気刺激を加えることによって、効果が大きくなると報告している研究が多いです。

電気刺激の装着時間は2回目以降は5分かからないでできるようになるので、禁忌に気をつけながら、積極的に活用していきたいところです。

電気刺激の装着1回目はどうしても刺激ポイントを探したり、周波数やパルス幅のセッティングをする関係で時間がかかってしまうのですが、1回目に見つけたポイントやパラメータ設定を記録しておけば、2回目以降は効果的な電気刺激を短時間でセッティングすることができます。

電気刺激が病院にある場合はぜひ活用を検討してください!

まとめます。

● ミラーセラピーは下肢にも使用されるが、視覚・体性感覚フィードバックの不一致という問題がある
● ミラーセラピー+電気刺激によりミラーセラピーのみを行うよりも良い結果に
● 電気刺激装置が病院にあるなら積極的に活用しよう

参考文献

Xu Q, Guo F, Salem HMA, Chen H, Huang X. Effects of mirror therapy combined with neuromuscular electrical stimulation on motor recovery of lower limbs and walking ability of patients with stroke: a randomized controlled study. Clin Rehabil. 2017 Dec;31(12):1583-1591.