脳卒中患者さんへのリハビリテーションとして、電気刺激療法があります。

電気刺激療法は、電気刺激を身体に与える、物理療法の一種です。

脳卒中治療ガイドライン2021でも上肢機能障害や歩行障害、痙縮に対して推奨されています。

また、海外でも電気刺激療法が有効であると結論づけたシステマティックレビューが数多くあります。

システマティックレビューによって、上肢に対しては運動障害、運動パフォーマンス、肩の亜脱臼や肩の痛みなどに対して有効であると報告されています。

また、下肢に対しては歩行障害、痙縮に対して有効であることが報告されています。

このように各種アウトカムに対して有効性が報告されており、電気刺激はもはや脳卒中リハビリテーションにおいては必要不可欠と言っても過言ではありません。

とはいえ、”電気刺激は万能か?” と問われたらそうとも言えません。

今回は下肢への電気刺激療法のバランスへの効果について、3件のシステマティックレビューを中心に紹介します。

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脳卒中リハビリにおける下肢への電気刺激療法はバランス向上に有効か?

結論から言うと、回復期〜慢性期にかけて、重心動揺に対しては有効とされているものの、Berg Balance Scale(以下、BBS)に対しては病期によって効果が異なるとされています(Lin S, 2018; Busk H, 2020; Hong Z, 2018)。

重心動揺は、重心動揺計の上に立った状態で測定される、支持基底面内での重心移動の距離によって表されます。

つまり重心動揺が大きいというのは、立っているときにグラグラ、ふらふらしてしまう状況を指します。

健常者は立っているときにそれほど大きくふらつくことは無いですが、運動失調をお持ちの患者さんは立っているだけでぐらぐら揺れてしまいます。

こういう時に、重心動揺は大きくなります。

重心動揺に対し、Lin S (2018) のシステマティックレビューによると、回復期から慢性期の脳卒中患者さんに対する下肢へのTENSは、開眼・閉眼どちらの条件においても重心動揺を改善させる上で有効であると報告しています。

一方、BBSは立ち上がる、立ったまま振り返る、タンデム立位をとる、など立位での運動パフォーマンが安定して行えるかどうかを評価します。

このBBSでみたときのバランスに対しては、発症後の病期によって効果が異なるとされています。

Busk H (2020)は、発症6ヶ月未満、つまり急性期から回復期の脳卒中患者さんに対しては、BBSスコアの向上に対して有効であるとは言えない、と報告しています。

一方、Hong Z (2018)は、発症6ヶ月以降の慢性期の脳卒中患者さんに対しては、BBSスコアでみたときのバランスに対し有効である、と報告しています。

つまり、慢性期においてはBBSスコアを向上させる上で電気刺激は有効と言えますが、急性期・回復期においては有効とは言えない、ということです。

この辺りは病期に合わせて、分けて捉えておく必要があります。

これは電気刺激に限らず言えることですが、 ガイドラインで推奨されているリハビリだとしても、細かいレベルのエビデンスを理解しておかないと臨床ではちゃんと活用できない、という点には注意が必要です。

急性期・回復期でのバランス向上に対して何をすべきか?

残念ながら、急性期・回復期においてはBBSを向上させるとは言えない、という結果になっています。

脳卒中患者さんは自宅退院後6ヶ月以内に25〜40%の人が、1年以内に56%くらいの人が転倒すると知られています(Ng MM, 2017; Jalayondeja C, 2014; 川上, 2012)。

なので急性期・回復期の時点から、自宅退院後の安全な生活を考えて、なるべくバランス能力を高めておいていただく必要があります。

ちなみに、慢性期脳卒中患者さんのBBSスコアが52点未満の場合、6ヶ月以内に転倒する可能性が高いとされています(Alzayer L, 2009)。

なので、急性期・回復期のセラピストであれば、自宅退院後の転倒を防ぐために、BBSを52点以上に持っていくという視点も必要です。

BBSに対しては体幹トレーニングや立ち上がり動作練習が有効であるとされているので、そちらを併用して進めた方が良いと思います。

電気刺激は万能というわけではない

日本に限らず海外のガイドラインでも推奨されていたり、数多くのシステマティックレビューで有効性が報告されている電気刺激療法ですが、 “万能” というわけではありません。

そもそも電気刺激療法は、神経筋電気刺激(NMES)、経皮的電気刺激(TENS)、筋電トリガー式電気刺激などのタイプに分かれますし、周波数やパルス幅などのパラメータ設定をどうするか、電極をどこに貼るか、といった条件によって効果が左右されます。

また、電気刺激単独で行うか、それとも電気刺激と運動療法を組み合わせるか、という点も判断しないといけません。

加えて、バランスを保障する姿勢制御については、筋力、感覚、といった細かいレベルから、感覚の統合、予測的姿勢制御システム、反応的姿勢制御システムといった複雑なレベルまで、構成要素が存在します。

バランスを向上させる上ではこれらの要素のどこに問題があるのか判断し、問題点に合わせてリハビリを進めていかなければならないので、「とりあえず電気刺激をやっておけばいいや」で解決する問題ではないです。

電気刺激のことも理解しておかないといけないですし、バランスのことも理解しておかないと適切な判断ができません。

患者さん一人一人の状態に合わせてリハビリ内容をカスタマイズする必要があります。

ただ、大局的に見れば、システマティックレビューを通して今回紹介したような効果があるのは間違いないです。

電気刺激活用の役に立てれば嬉しいです。

まとめます。

● 電気刺激は回復期〜慢性期の重心動揺に対しては有効
● 電気刺激は慢性期のBBSスコア向上に対して有効だが急性期〜回復期のBBSスコアに対しては有効とは言えない
● 推奨されているリハビリだとしても細かいレベルのエビデンスを理解しておくことが大事

参考文献

Lin S, Sun Q, Wang H, Xie G. Influence of transcutaneous electrical nerve stimulation on spasticity, balance, and walking speed in stroke patients: A systematic review and meta-analysis. J Rehabil Med. 2018 Jan 10;50(1):3-7.

Busk H, Stausholm MB, Lykke L, Wienecke T. Electrical Stimulation in Lower Limb During Exercise to Improve Gait Speed and Functional Motor Ability 6 Months Poststroke. A Review with Meta-Analysis. J Stroke Cerebrovasc Dis. 2020 Mar;29(3):104565.

Hong Z, Sui M, Zhuang Z, Liu H, Zheng X, Cai C, Jin D. Effectiveness of Neuromuscular Electrical Stimulation on Lower Limbs of Patients With Hemiplegia After Chronic Stroke: A Systematic Review. Arch Phys Med Rehabil. 2018 May;99(5):1011-1022.e1.

Ng MM, Hill KD, Batchelor F, Burton E. Factors Predicting Falls and Mobility Outcomes in Patients With Stroke Returning Home After Rehabilitation Who Are at Risk of Falling. Arch Phys Med Rehabil. 2017 Dec;98(12):2433-2441.

Jalayondeja C, Sullivan PE, Pichaiyongwongdee S. Six-month prospective study of fall risk factors identification in patients post-stroke. Geriatr Gerontol Int. 2014 Oct;14(4):778-85.

川上 健司, 和田 陽介, 脳卒中患者の回復期リハビリテーション病棟退院後の転倒予測要因に関する研究, 理学療法学, 2012, 39 巻, 2号, p. 73-81

Alzayer L, Beninato M, Portney LG. The accuracy of individual Berg Balance Scale items compared with the total Berg score for classifying people with chronic stroke according to fall history. J Neurol Phys Ther. 2009 Sep;33(3):136-43.