本記事では、脳卒中患者さんに対する下肢のミラーセラピーについて、システマティックレビュー論文をもとに大局的にみたときの効果を検証します。

最初に本記事のまとめです。

  • ミラーセラピーは鏡を使うリハビリのひとつで、下肢にも使われる
  • ミラーセラピーは下肢の運動機能向上に効果あり
  • 下肢の運動機能への効果は安定しているので導入の検討を!

ミラーセラピーは鏡を使うリハビリのひとつ

ミラーセラピーは、鏡を使って麻痺側の上肢や下肢をあたかも運動障害なく動かせているように錯覚をさせるリハビリ方法です。

錯覚によって運動障害や痛みなどの改善を期待します。

ミラーセラピーの手順は次の通りです。

①座ったまま左右の手の間に鏡を挟む(鏡面が非麻痺側になるようにする)
②左右の上肢が同じポジションになるようにする
③非麻痺側の上肢を動かす
④患者さんは鏡面を見ておき、麻痺側の上肢が動いているような錯覚を起こさせる

リハビリ室にある姿鏡(大きい鏡)を利用しても行えるので、すぐ実践できます。

ミラーセラピーの独自の効果(錯覚)は課題指向型訓練などの他の治療方法では再現できない、独特の要素です。

セラピストの治療オプションとしてミラーセラピーを提供できるようにしておくと、患者さんに大きなメリットがあるでしょう。

なお、脳卒中治療ガイドライン2015では、上肢の運動麻痺へのリハビリテーションにてグレードBとされています。

また、コクランレビューも定期的に公表されており、エビデンスが集積されているリハビリ方法です。

なお、ミラーセラピーは上肢に対して実施するイメージが強いかもしれませんが、下肢に対しても実施されます。

そして歩行や下肢の運動機能に対する効果も報告されています。

ミラーセラピーの下肢運動機能への効果

Thieme Hら(2018)、Li Yら(2018)、Broderick Pら(2018)、Louie DRら(2019)のシステマティックレビューにて、脳卒中患者さんに対する下肢のミラーセラピーが運動障害に有効であることが報告されています。

【下肢運動機能(パフォーマンス)】
SMD 0.56, 95% CI 0.19 to 0.92 I2 = 0%

Thieme H, 2018

【下肢運動機能】
SMD 0.83, 95% CI: 0.62 to 1.05 I2=42%

Li Y, 2018

【下肢運動機能】
SMD 0.59; 95% CI 0.24 to 0.93 I² = 0%

Broderick P, 2018

【下肢運動機能】
SMD 0.47 [95% CI = .21, .74], I2 = 0%

Louie DR, 2019

一方で、筋緊張(痙縮)への効果は否定的な報告が多いです。

ミラーセラピーの有効活用を!

リハビリは多くの方法が研究されています。

コントロール群と比べて効果があると報告している研究もあれば、効果があるとは言えないと報告している研究もあり、バラツキがあることがほとんどです。

一方、脳卒中患者さんに対する下肢のミラーセラピーはコントロール群(何もしない、プラセボなど)と比べたときに優位性があることが報告されているものが多いです(異質性が比較的低い)。

患者さんの価値観にもよりますが、一か八かで効果を期待するものよりは、安定して効果を期待できるリハビリを実施する方が喜ばれるのではないでしょうか。

下肢に対するミラーセラピーは、リハビリ室によく置いてある姿勢矯正用鏡を使用することで実施可能なので、手軽に導入できます。

是非導入を検討してみてください!

参考文献

Thieme H, Morkisch N, Mehrholz J, Pohl M, Behrens J, Borgetto B, Dohle C. Mirror therapy for improving motor function after stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2018 Jul 11;7:CD008449.

Li Y, Wei Q, Gou W, He C. Effects of mirror therapy on walking ability, balance and lower limb motor recovery after stroke: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Clin Rehabil. 2018 Aug;32(8):1007-1021

Broderick P, Horgan F, Blake C, Ehrensberger M, Simpson D, Monaghan K. Mirror therapy for improving lower limb motor function and mobility after stroke: A systematic review and meta-analysis. Gait Posture. 2018 Jun 63:208-220.

Louie DR, Lim SB, Eng JJ. The Efficacy of Lower Extremity Mirror Therapy for Improving Balance, Gait, and Motor Function Poststroke: A Systematic Review and Meta-Analysis. J Stroke Cerebrovasc Dis. 2019 Jan;28(1):107-120.