嚥下障害は言語聴覚士さんの担当領域になることが多いと思いますが、嚥下リハビリに電気刺激を併用されることはありますか?

一般的には嚥下の練習、食べるための姿勢への介入、嚥下アドバイスなどを行い、電気刺激を併用させることは少ないのではないかと思います。

こういった背景にはガイドラインで推奨されていない、ということや、そもそも電気刺激装置が施設にない
、など色々な理由があるのではないかと思います。

ただ、今回紹介させていただくように、電気刺激を組み合わせることは嚥下障害に対して有効である可能性も示唆されていますので、電気刺激の併用も検討してみていただけたらいいのではないかと思います。

今回は、嚥下障害に対する電気刺激の効果について調べたChen YW (2016)のシステマティックレビューを紹介します。

Chen YW (2016)のシステマティックレビューの概要

研究のリサーチクエスチョンは「脳卒中患者さんに対する表面神経筋電気刺激は、嚥下障害に対して有効か?」でした。

脳卒中患者さんの病期(急性期・回復期・慢性期)は問わず、また、電気刺激は単独で行われたものも含みますし、電気刺激と嚥下リハビリを組み合わせたものも含みます。

このシステマティックレビューでは、2014年12月31日までに出版されたランダム化比較試験や準ランダム化比較試験をPubMed、Scopusを使って調べています。

注意点としては、検索に使われたデータベースの数が少ないということと、英語で執筆された論文のみを対象にしているというところで、英語バイアスがあることです。

結果として、8件の研究が取り込まれました。

このうちランダム化比較試験が6件、準ランダム化比較試験が2件、でした。

また、詳細な記載がない研究もあったとのことですが、急性期の研究が2件、亜急性期の研究が1件、慢性期の研究が3件集まっています。

それではメタアナリシスの結果を紹介します。

電気刺激を組み合わせることは嚥下障害に対して効果的

この研究では大きく2つのメタアナリシスが行われています。

ひとつは「電気刺激+嚥下療法 vs 嚥下療法のみ」です。

つまり、嚥下療法に電気刺激を加えることで嚥下障害へより高い効果を期待できるか、という解析です。

もうひとつは「電気刺激 vs 嚥下療法」です。

こちらの解析では、電気刺激と嚥下療法のどちらが嚥下障害へ効果的か、ということを検証しています。

まず、「電気刺激+嚥下療法 vs 嚥下療法のみ」の結果ですが、こちらは電気刺激+嚥下療法を支持するという結果になりました。

【NMES+嚥下治療 vs 嚥下治療/全体】
SMD 1.27 95% CI = 0.51–2.02 I2 = 85%

また、病期別に解析がされていますが、いずれの病期においても有効であるということが報告されています。

【NMES+嚥下治療 vs 嚥下治療/急性期と亜急性期】
SMD 1.08 95%CI = 0.65–1.51
【NMES+嚥下治療 vs 嚥下治療/慢性期】
SMD 2.01 95%CI = 0.07-3.95

このことから、電気刺激を行うことができる環境なのであれば、基本的には電気刺激を嚥下療法に組み合わせて実施することが望ましい、と言えます。

一方、「電気刺激 vs 嚥下療法」の解析結果としては、電気刺激を支持するとも、嚥下療法を支持するとも言えない結果になっています。

つまり、どちらの方が効果が大きいとは言えない、ということです。

ここまでをまとめると、電気刺激は単独で実施するよりも嚥下療法に組み合わせて実施するのが望ましく、嚥下障害のより大きな改善を期待できる、と言えます。

電気刺激は有効といえるが、もっと広く見ると…

今回のシステマティックレビューの結果から、電気刺激の有効性が示唆されました。

一方、注意点もあります。

2018年に出版されたコクランレビューでは、神経筋電気刺激に対して否定的な結果を報告しています。

このようにシステマティックレビューの結果だけをみてしまうと混乱するのではないかと思います。

こういう時(こういう時に限らずですが)はシステマティックレビューの本文や取り込まれた研究を一つずつ読むことが大事です。

例えば、2018年のコクランレビューでは発症から6ヶ月以内の患者さんを対象にしているのに対し、今回のChenらのシステマティックレビューでは病期に問わず患者さんを対象にしています。

また、コクランレビューではランダム化比較試験のみを対象にしているのに対して、Chenらのシステマティックレビューでは準ランダム化比較試験も対象にしています。

その他にも英語バイアスの問題や検索に使用されたデータベースの数、最終検索日も違っています。

こういった諸々の違いにより、システマティックレビューの結果は変わります。

このラジオでもその点についてまとめ、また改めて紹介させていただきますので、楽しみにお待ちいただけたら嬉しいです!

本日は「脳卒中後の嚥下障害に対する電気刺激の有効性」というテーマでお話しさせていただきました。

BRAINでは脳卒中EBPプログラムというオンライン学習プログラムを運営しております。

2021年前期はおかげさまで満員御礼となりましたが、後期は10月から開始、募集は7月〜8月ごろから開始する予定です。

ご興味がある方はよかったらホームページを覗いてみてください。

それでは今日もリハビリ頑張っていきましょう!

参考文献

Chen YW, Chang KH, Chen HC, Liang WM, Wang YH, Lin YN. The effects of surface neuromuscular electrical stimulation on post-stroke dysphagia: a systemic review and meta-analysis. Clin Rehabil. 2016 Jan;30(1):24-35.

Bath PM, Lee HS, Everton LF. Swallowing therapy for dysphagia in acute and subacute stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2018 Oct 30;10(10):CD000323.