嚥下障害に関するアプローチは鍼灸、行動性嚥下療法、反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)、など色々な方法が存在します。

日本国内の言語聴覚士の先生が主に扱っているのは行動性嚥下療法(嚥下の練習とか嚥下のためのポジショニングとか)になると思いますが、行動性嚥下療法はコクランレビューにて有効性が報告されています。

行動性嚥下療法のひとつに、マクニール嚥下障害治療プログラム(McNeill Dysphagia Therapy Program)というのがあります。

これは直接嚥下訓練の一種で、”成人の嚥下障害療法に対する体系的な運動ベースのアプローチ” とされています。

特定の手法というよりは成人患者に個別の治療を提供するためのフレームワークで、ボーラス(飲み込める状態になっている食物や液体のこと)の量や飲み込む速度、摂取量などを段階的に調整しながら練習するという方法です。

詳しい方法はフロリダ嚥下障害研究所が開催している勉強会のコースに参加する必要があって、修了するとMDTP認定プロバイダーになれます。

MDTPについてはCarnaby-Mann GD (2008) の原著を読んでも詳細な記載がないので、MDTPを扱えるようになるためにはコースに参加する必要があると思うのですが、知識として知っておいて損はないかなと思います。

コースを受講する必要がある、特定の方法ではなくフレームワークであるという点で、理学療法士、作業療法士でいうところのボバースや認知神経リハビリテーションに近いのかなと思います。

今回はこのMDTPの有効性について2020年のランダム化比較試験を紹介します。

Carnaby GD (2020) のランダム化比較試験の概要

研究のリサーチクエスチョンは「急性期の脳卒中患者に対するMDTPは、嚥下障害に対して有効か?」でした。

この研究はランダム化比較試験で、対象者を3グループに分けています。

1つ目のグループは “電気刺激+MDTPグループ” で、電気刺激を舌骨から輪状軟骨にかけて与えながらMDTPを実施します。

2つ目のグループは“偽電気刺激+MDTPグループ”で、偽の電気刺激を行ながら(電極は貼るけど実際に有効な電気刺激は与えない)MDTPを実施します。

3つ目のグループは “標準的な行動性嚥下療法グループ”で、一般的な嚥下リハビリを行います。

各グループともに60分、週7回、3週間実施しています。

日本国内でも再現可能な実施時間、頻度なのではないかと思います。

対象者の患者さんは発症から7日程度の急性期の患者さんで、各グループ17〜18人でした。

平均年齢はグループによって異なりますが、62〜70歳くらいの人たちです。

アウトカムとしてMann Assessment of swallowing Ability (MASA)、Functional Oral Intake Scale (FOIS)、嚥下障害患者(MASA >178点)の人数、総死亡数、などが採用されていました。

電気刺激を併用しないMDTPが最も優れた結果に

結果としては、グループ2の偽電気刺激+MDTPグループがMASAの変化、FOISの変化において最も大きな改善を示しました。

MASAにおいては154.62(18.87)→172(12.3)点、FOISにおいては2.1(1.4)レベルの変化(リハビリ開始前のFOISスコア:3.25(1.61)レベル)を報告しています。

図:FOISのレベル分け

また、標準的な行動性嚥下療法グループと比べ、電気刺激+MDTPグループにおいてはFOISの有意な向上が認められました。

一方、患者さんの主観的な改善の程度、嚥下障害完治者数についてはグループ間の差がありませんでした。

このことから、嚥下機能や嚥下障害の重症度を改善させる上では、電気刺激を併用したMDTPを実施したり、標準的な行動性嚥下療法を実施するよりは、MDTPを実施することが望ましい、ということが言えます。

MDTPは有効性が報告されているが…

一方で、注意点もあります。

症例減少バイアス

この研究では各グループで脱落者が存在しているのですが、ITT解析がなされていないようです。

また、脱落理由についても詳細が記載されておらず、なぜ脱落したのかがわからない状況です。

COI

MDTPを最初に報告したのはCarnaby-Mann GD (2008)ですが、今回のランダム化比較試験も同じ著者によって行われています。

また、MDTPはフロリダ嚥下障害研究所による認定コースが開催されており、Carnaby先生はフロリダ嚥下障害研究所に所属しています。

邪推になりますが、コース参加者を増やす意図の下、ランダム化比較試験で結果を出す必要があった、ということも考えられなくないです。

MDTPについてはPubMedで検索すると6件ヒットしますが(2021年6月現在)、いずれもフロリダ嚥下障害研究所の先生が関わっているようで、academic COI、finantial COIの懸念があります。

こういったバイアスリスクに注意して、MDTPの有効性については検討する必要がありそうです。

今後、別の著者の先生からランダム化比較試験が出版されたときにどのような結果になるか、今後の研究に期待がかかります。

本日は「脳卒中後の嚥下障害に対するMDTPの有効性」というテーマでお話しさせていただきました。

BRAINでは脳卒中EBPプログラムというオンライン学習プログラムを運営しております。

2021年前期はおかげさまで満員御礼となりましたが、後期は10月から開始、募集は7月〜8月ごろから開始する予定です。

ご興味がある方はよかったらホームページを覗いてみてください。

それでは今日もリハビリ頑張っていきましょう!

参考文献

Carnaby-Mann GD, Crary MA. Adjunctive neuromuscular electrical stimulation for treatment-refractory dysphagia. Ann Otol Rhinol Laryngol. 2008 Apr;117(4):279-87.

Carnaby GD, LaGorio L, Silliman S, Crary M. Exercise-based swallowing intervention (McNeill Dysphagia Therapy) with adjunctive NMES to treat dysphagia post-stroke: A double-blind placebo-controlled trial. J Oral Rehabil. 2020 Apr;47(4):501-510.